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プロに愛されるライター「トルー」 照れずにやり切る凄み

トルーさんは、“ライターオブライター”だ。絵本作家のヨシタケシンスケさんをはじめとした業界の名だたるプロが「デイリーで一番好きなライター」に挙げる人気者なのだ。

レゴ踏み比べ」「桃は皮ごと丸かじりしてもおいしい」といった身近なテーマで共感を誘いつつ、河原の花に次々に話しかける「花としゃべる」や、動物の威嚇を人間がやってみるなど、常人には思いつかない企画を真顔でやり切る力もある。

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花と真剣にしゃべるトルー

Webマスターの林雄司も「デイリーの定番記事とは方向性が違うけれど、確実に愛されている」と感じるトルー。彼の記事の何が、人を惹きつけるのだろうか。本人にいろいろ聞いてみた。(取材:林雄司・橋田玲子・岡田有花/構成:岡田有花)

トルーの記事は“林メソッド”ではない?


 トルーは「天才肌」「みんなが分からないことをやる」みたいに評価されることが多い。絵本作家のヨシタケシンスケさんが、デイリーの記事で一番気になるのはトルーの作品だって言ってて。あのヨシタケさんですよ。悔しい!

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ヨシタケさんがインタビュー記事で挙げた「テイクアウトのコーヒーのフタがなんだか良い形」

この前、日本大学芸術学部の学生に、デイリーで好きな記事を挙げてもらったら、トルーの「花としゃべる」だって人が2人いて。別の人からも「花としゃべる」が良かったと聞いて、僕、「あれですか?」って言っちゃったんです。

トルーの記事は、林のデイリー記事メソッドから外れてる気がするんですよね。林メソッドは、目の前の現実のおかしさや違和感を見つけるのが基本。でも「花としゃべる」は、違和感のありかがわからない、構造から違うんですよね。

ヒトとイカぐらい、違う生き物っていう感じ。

トルー ヒトとイカ。

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イカ記事

與座さんの記事でも似たものを感じていて。でも與座さんは、まだ脊椎があるんです。林メソッドと脊椎動物同士の共感はある。「骨の配置は同じだけど、栄養を取るところは、口じゃないんだ?」ぐらいの違い。でもトルーの「花としゃべる」は「これ、どうなってんの?」っていうぐらい離れてる。

橋田(トルーの担当編集者)  この企画は、「漫画でよく花と話す女の子がいるから、試してみたい」っていうのがきっかけですよね。

「ガラスの靴を履いてみたい」みたいな。そこは素直なんだ。デイリーポータル的な違和感がきっかけだから、他の記事と同じなのか。じゃあ、いいのか……。

照れない凄み


岡田  「花としゃべる」では、次々に種類の違う花に話しかけています。自分だったら、最初の花で照れてしまって、1行で終わっちゃいそう。

トルー  照れます?

岡田 照れますよ! トルーさんは流暢に喋ってますよね。

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いろいろな花に話しかけ、「一番しゃべりやすい花」を発見したトルー

トルー  そうですね。堂々としている面白さがあるんですかね? 「 花と話しました!」って言いながら、ちゃんとした人みたいに出てくる。

橋田  トルーは素、というか平坦。「当たり前でしょ?」みたいな顔して。

岡田  それって、ちょっと気合いを入れているんですか? ナチュラルに当たり前に話せちゃう感じですか?

トルー うーん……花と話すって時に、「花と話すぞ!」(ガッツポーズ)みたいにするのは、違うなっていうのはちょっとわかります。

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花と話すぞ!(ガッツポーズ)

橋田  あえて静かな感じで進めていく。

トルー スマホのボイスメモをオンにして、話すぞ、って思ってる花に近づいて、至近距離まで来たら、もう話すしかないじゃないですか。もじもじしたら、変な人なんで。

岡田 花を完全に擬人化していますね。入り込む力がすごい。

トルー そうかな……そうですね。

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自然に花と話すトルー

「そういうのあるね」が好き

岡田  企画を立てる時は、思いついたことをノートにずっとメモしてるんですよね?

トルー 思いついたらスマホのアプリにまず入れるんですが、考える時にはノートに書き写しています。

今ノートを見ると……「アイスに付いてる小さい食器を十徳ナイフにする」(取材後、記事になった)。ピノの楊枝とか雪見だいふくの楊枝とか、サーティワンのスプーンとか、かわいいから、洗って取っておくと、たまるんですよね。「これは十徳ナイフにしたい」と。

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岡田  かわいいスプーンと十徳ナイフの間、めっちゃ飛んだ気がしますが……。そこはナチュラルにつながるんですね。

トルー ちっちゃい「そういうのあるね」みたいなのが好きなんだと思います。

岡田  レゴを踏み比べたり。

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「レゴ踏み比べ」

トルー そうそう、ちっちゃいモノとか現象とか。

 レゴ踏み比べは、世の中の「よくあるけど語られないことを見つけてくる」っていうデイリー王道的なものですね。

貴族の親子のようにコンビニ弁当を食べる」とか、「スーパーの歌をちゃんと聞く」あたりも、みんなが言語化していなかった「あ、それってあるよね」を見つけてきて実際にやってみせている。

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ヒト記事

岡田 「パンを球にする」「顔をパンにして回したい。アンパンマンのように」とか パンもよく出てきますよね。

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トルー  パン、好きです。パンっていう物体が好き。みんなパンだけ、遊んでないですか?

食べ物で遊んじゃいけないのに、パンでだけみんな遊んでる気がする。あと「パン」っていう響きが。パンて!。

岡田 パンの概念的なものが、面白い、いじりがいがある。

トルー
 そうですね。

 ライターってみんな得意技があって、棒の人もいるし、バネの人もいる。トルーはパン。

岡田 もの作りに手をかけている記事が多いですよね。ブラックレターの文字を一つ一つパンで焼いていた記事には驚きました。

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トルー 自分で焼いちゃった方が面白いですよね。焼きたてのパンって、余計に面白い。オーブンをカパッて開けて、出てくる瞬間がめっちゃ楽しいんですよね。

橋田 料理をそつなくこなせるんですよね。ホットケーキにラーメンの絵を描いたり

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岡田  「「もうおいしそー」と思ったら料理は途中でやめてもいい」では、カレーを作る途中で玉ねぎを炒めて食べちゃうとか。

トルー  料理番組で、アシスタントの方が「この状態で食べちゃいたいですね」って。なんでだよ! もう食べちゃいたいなら食べちゃいなよ! って。

読む人を不安にさせる

岡田 でも「豆腐の水切りをする重しの気持ちを分かりたい」は分からなかった。重しの気持ちは分からなくていいと思いました。

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トルー  豆腐の水切りってみんな、お皿を豆腐の上に置くじゃないですか。でも「お皿置くなよ!」って思って。お皿はお皿として使わないとお皿がかわいそうだから。でも「お皿として使えよ!」って他人に怒るのも違うから、気持ちを分かろうと思って。

岡田 いろんな日常の、普通の人はスルーしてしまうとこで、立ち止まってる感じがしますね。

 違和感ですよね。「よく見ると変だよね」っていうのはすごく分かる。「変だよね」って正面切って言う代わりに、「じゃあ俺がやる」にして、小さな違和感を拡大して面白くする。

そういう展開はわかる。すごくいい。 いい企画なのに、記事を読んだ時になんか不安な気持ちになる。人を不安にさせたまま終わっていく。

デイリーのほかの記事とやっていることは変わらないんだけど、不安になる。写真の背景に映るトルーの家もすごく片付いてて、それも不安になる。

岡田 ツッコミがいないから?

 あと、平熱だから。

トルー そうすると、不安になっちゃうってことですね。

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真顔で1時間、豆腐の水切りをしていた

岡田 それがリアルなんでしょうね。読者が「不安だから」とオチを求める視点が、リアルから外れていて、実は良くないのかも?

そういえばいつも、家のリビングで撮影していますよね。

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家族が寝ている午前4時のリビングで

トルー そうですね。だから「早起きして夜更かししたみたいに過ごす」を書いた時は、「明日朝4時に起きるんで」って家族に言って、なるべく静かにしてやったりしてます。

 トルーの家がきれいすぎて、不安が増幅するんだよね。

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片付いたリビングで、今川焼きをよく見たり
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床を食べたりするので、読んだ人が不安になる

PVは高くないが、愛さされ方がすごい

 トルーの記事は、正直に言うと、PV(閲覧数)はそんなに高くないんです。だから数字だけを見ていると「愛されてないのでは」と勘違いする。でも確実にファンがいるんです。

岡田 1PVの深みがすごい。

 そう。初対面の学生が「この記事が好きです」ってわざわざ言ってくれるって、相当ですよ。最近だけでも3人に「花と話す」が好きって言われたんですが、PVにすると3なんです。3PV。

いやらしい話をすると、デイリーは(閲覧数ベースで広告収益を得る)PVモデルじゃなくて、「はげます会」の有料会員に支えてもらうサブスクモデルだから、愛が大事。同じ1PVでもその重みを見誤ると、デイリーのビジネスを間違えてしまう。

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 僕が迷っているのはのは、トルーの表現に対して「わかりづらいよ」とツッコミを入れる人がいた方がいいのかどうか。いたほうがいいと思っていたけど、実際は、いなくても受け入れられてるし、いない方がいいのかもしれない。

「ファクトフルネス」みたいな字が多い本が100万部売れているってことは、それぐらいの読解力のある人がいっぱいいるってことだから。

最後まで誰もツッコまない

トルー  「これ何だよ!」ってツッコむ人を説得する面白さって絶対あると思うんですけど、僕の場合はあんまりそういう友達がいないっていうか……。人を連れてくると、やんわりやってくれる。

みんな、分かってるのか分かってないのか、やんわり付き合ってくれて、「ああ、楽しかったね」って、スーって終わる感じになるので、そのパターンができないんですよ。

ハナウタさんがトルーと一緒に「動物の威嚇」をやってみる、っていう企画も、ハナウタさんが最初から「やろう、やろう」って。

トルー  ちゃんと乗ってくれるので。

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だいぶおかしなことを言ってるのに、ハナウタさんは一言もツッコまず、むしろ超前向きだ

 これはトルーのネタをハナウタさんが一緒にやって、ハナウタさんが記事を書いたんですが、僕がハナウタさんに「トルーにちょっと厳しく書くこと、できる?」って聞いたら、しばらく考えてから「無理です、できません」って。「何ていう愛だ!」と思いました。トルーの人柄かもしれない。

こういう企画は、ペアの人選も大事ですね。あんまり仲良くない人を怖がらせるのもねえ。

トルー 初めての人怖がらせるのは違うと思って。「初めまして。じゃあ威嚇しますんで」って言って仲良くない人を威嚇して本当に怖がられたら、それは違うじゃないですか。

ボケ切る力

岡田  トルーさんは前から、「動物のマネで人を威嚇したいな」って思ってたんですね。

トルー  そうなんです。ずっと威嚇したかった

岡田  威嚇する姿の写真はスゴすぎましたね。迷いとか照れはなかったんですか?

トルー ないですね。

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レッサーパンダの威嚇。照れが一切ない

岡田 ないんだ!

トルー  照れてるほうが恥ずかしくないですか?

岡田  そうかもしれない。でもどうしても恥ずかしいから、自分でツッコミ入れちゃいたくなりそうですが、そこをぐっと押していける。才能ですね。

 そう! それがPVに現れない。

橋田  でも、ある一定の人には響いてる。

林 その響き方を可視化できないかなと思って、スタンプ機能を作りたいんですよね。mixi2みたいに、「面白かった」とか感想を押すだけで伝えられるような。トルーの記事ってデイリーにしか載ってない記事だから宝ですよ。

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mixi2の絵文字はこんな感じ

はしゃぐと疲れる

林 客観的に見て伝わりにくい企画でも、やってて楽しい時って、その楽しさを振り切って書くことで「よく分からないけど、この人はすごく楽しんだから何かあるんだろう」って思わせる書き方がある。でもトルーはそういうタイプじゃないもんね。

トルー 僕がそれをやると逆に嘘になっちゃうから。

 記事だけ演じていたらバレるもんね。


岡田  ガッツポーズとかハイタッチとか……例えば集団スポーツをしていると、張り切ってポーズしたりしますが、そういう経験はありますか?

トルー  ないですね。

岡田  憧れたりは?

トルー  ガッツポーズとか、ぜんぜん持たないと思います。3分で疲れちゃう。 体力がないのか、だいぶ消耗しちゃう。

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ガッツポーズ、やってみた

岡田  はしゃぎたい気持ちはない。

トルー ないですね。やるとめちゃくちゃ疲れる気がする。

林  踊りたい気持ちもない?

トルー  音楽が鳴ると、こう……体が揺れるぐらいが自然ですかね。

  小躍りする記事(小躍りワークショップで小躍りが分かった)はあったね。

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自分にぴったりの小躍りをみつけたトルー

トルー それぐらいなんだと思います。 それ以上だと疲れちゃう。

ベタが恥ずかしい

 「花と話す」みたいにデイリーメソッドから離れた記事も多いけど、「無印のイカスミパスタソースが黒すぎる」「桃は皮ごと丸かじりしていい」とか、既にあるものを、消費者・受け手として「いいね」っていう素直な記事も意外にあるんだよね。

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トルー  そうですね……その区別がよくわかってないんですよ。

 「コメダ珈琲のゼリーが大きすぎて嬉しい時間が長い」とか。

トルー コメダまで行くと僕もちょっとわかります。「ベタな領域だな」っていうのは。そういうのがすっごい恥ずかしくて。

コメダのコーヒーゼリーはずっと気になっていたんですが、「食べて記事を書きたい」って、しばらく(担当編集の)橋田さんに言えずにいたんですよ。

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大きいコーヒーゼリーって面白いと思ったんですよね。でも、ただ大きくておいしいっていうのは恥ずかしいなってずっと思ってて。コーヒーゼリーが大きいってピュアすぎる喜びが。

  僕も企画を聞いたとき「なんだそれ」って思ってました。

トルー  分かります。あまりにもベタなので。でも「人がいっぱい喜んでる絵を描こう」って決めたら、「これは書きたいな」と。

 表現をずらして目新しさを出せれば記事になる

トルー そうですね。それで実際に食べに行ったら、見た瞬間から大きいし、ちゃんとおいしかった。

岡田  絵の表現がすごいです。食べたら犬がやってきて、祭りになって、運動会になる。

トルー  喜びが“犬的”だったんです。大型犬的だったんですよ。もふもふの大きいの。

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犬的な喜び

橋田  子犬がキャンキャンするんじゃなくて、猫がすり寄ってくる感じでもなく。

トルー  ピュアに喜ぶもの、というイメージで。初めてのドリンクバー、みたいな。

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ピュアな喜びの表現

岡田  美味しいものを食べて「美味しい」までは誰でも思うけど、大型犬が寄ってくるイメージがわくのはすごい。

トルー  漫画にすると文字より飲み込みやすいと思って。めちゃくちゃなことをやっても「この人はそうなんだ」って飲み込めちゃうんじゃないか、納得させなくてもいいんだって。

「絵でしか進まないこと」をやりたくて

 漫画を描き始めたのってここ2カ月ぐらいですよね。以前にもやっていたけど一度やめて、また漫画に戻ってきた。

トルー 以前は、テキスト原稿をラフに書いてから絵を当てていました。でも、ラフ原稿を書くと文字を読ませたくなっちゃって、漫画にする良さがあんま出ないなってずっと思っていて。

それで漫画を描かなくなったんです。その後、橋田さんと話していた時、「絵でしか進まないようなことをやっちゃえばいいんじゃないか」と思って。

それが「鍋を洗うと星空になる」という記事です。鍋を洗っている最中の泡が、星空みたいでアートっぽくて。それは漫画なら描ける。

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 文字では言いようがないね。文字で書いたら相当弱々しいし、ちょっとポエムになっちゃう。

トルー です。でも漫画だと「へえ」って読めるので。

 内面の話であっても、絵にすると目に見えるものになり一般性が出る。
トルー そうなんですよね。

岡田  「星に見える」は、目の前に見えている事実っちゃ事実で、内面ではないかも。

 そうか。すごくちっちゃい事実に注目している。時間にすると1秒未満の。

トルー  一瞬のきっかけですね。

漫画だと、めちゃくちゃになってもいい

橋田 トルーの漫画、いろんなキャラが出てきますよね。「要する犬」(ようするいぬ)とか、信楽焼のたぬきとか。記事を書く前から考えているキャラなんですか? それとも、書きながら、構成上必要になって登場させた?

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「要する犬」
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商業施設の駐車場フロアに突如、信楽焼きのタヌキが現れる

トルー  記事だから……ですかねえ。うーん。なんか、出てきます。

岡田  「この場面にはいてくれた方がいいな」と。

トルー そうですね。自分だけがずっといるより、何かがいた方がいいかなっていうぐらいですかね。

橋田 信楽焼のたぬきは、私の脳内にはいない。トルーの頭の中を覗いてるなっていう感じがすごいするんですよね。

トルー 漫画になったからですかね。

橋田  確かに。活字だと、急に信楽焼のタヌキを出せないですね。

トルー  漫画だと、めちゃくちゃになってもいいんだって思って。

 このタヌキに至っては、話を拡散させてますよね。これは何?

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駐車場フロアに現れた信楽焼きのタヌキが、トルーに話しかけてくる

橋田 急に「マリンバの練習をしたい」って。

トルー これは、駐車場フロアのスペースが、ひとけのない、どこでもない感じの変な場所なので、こんなことぐらいありそうだなって。

岡田 発想がすごい。大型店舗に突然信楽焼のタヌキが出てきてマリンバを練習するって、本当に飛躍ですよね。大ジャンプしてます。

 これは飛躍が激しすぎる。でもこれぐらいハードル上げてていいのかな。迷う。

突拍子もない比喩が天才的

岡田 無印のイカスミパスタソースが黒すぎる」も、ほぼ比喩だけでやり切った記事ですね。

トルー  「ソースの黒さをいっぱい例えよう」って決めたら、照れずに書けました。

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黒の黒さを比喩だけで表現している

橋田 最初は無印のソースだけでやりたいと言われたんですが、編集部から「違うパスタソースと比べて」とお願いしたんです。

トルー 数値的な黒さじゃなくて「うわっ! 黒っ!」ってのが大事で、それを書いたつもりです。

岡田 「黒い」だけで普通、ここまで書けないですよ。黒がどれぐらい黒いかという話しかしてない。

トルー 測りもせずに。

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「このいかすみパスタはホタルの見え川だ」

岡田「ホタルの見える川だ」って断言したり。比喩で成り立ってますもんね。

林 コメダのゼリーが大きくて、喜びが大型犬みたいとか、鍋を洗っていたら星に見えるとか、比喩の距離感がすごい。

比喩では、いかに距離を稼げるかが天才感を出すのかもしれません。「コーヒーゼリーがコーヒーぐらい黒い!」とか例えてたらダメだけど、大型犬みたい、とか、遠ければ文学的になるのかも。

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すべての比喩が、コーヒーゼリーと遠すぎる。でも漫画だと読めてしまう

トルー 漫画にすると、距離をのばしてしまっても、「ああ、この人はこう思ったんだ」って分からせちゃえる気がします。

林 今すごい大事なこと言ったんじゃないですか?

トルー 言ったと思います!

岡田 比喩は飛躍があればあるほどインパクトがあって、絵にするとそのインパクトが納得させられる。

トルー そうですね。遠くても大丈夫。

岡田 その飛躍、常人には思いつかないんですよね。比喩はするする出てくる感じですか?

トルー うーん。書きながら……そうですね。

岡田  出てくるんでしょうね。林さんも比喩がうまいですよね。

林 例えば、「バイト長みたいなコーヒーゼリー」とか言えるよね。

トルー うん、うん

岡田 えっと……ちょっと分からない。

林  バイトリーダーみたいなコーヒーゼリーは、味が強い、しっかりしてる。本格的なんだけどそこまでじゃない。 

トルー 親密だけど仕事もできる。社員ではない。

岡田 比喩がうまい2人だけで、すごく通じていましたね。私と橋田さんは分かんなかった。

思いついた順に描く

岡田 漫画のコマ割りもいいですよね。コマがほとんどなくて、流れるように縦に進んでいく。

トルー  書く前に縦スクロールの漫画を読んでみたんですが、「コマにあまりこだわんなくていいんだ」と思って。 吹き出しの順番で読むから、毎回コマを書かなくてもいい。こういう感じなのかなってちょっとだけ分かって。

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流れるように進むトルーさんの縦漫画

 トルーの縦漫画、 読みやすすぎるよね。あっという間に読んじゃう。

岡田 これ、1枚のデータで描いているんですか?

トルー そうですね。細長いデータを作って、細長すぎたら次のデータにして……。

岡田
地上15mでアスレチックをしてきた」も日常的なテーマを漫画にしていますね。

トルー そうですね。記事にするつもりはなく、普通に家族と行ったんですけど、後から「あれ、良かったな」と思って。

岡田  地上15mの、怖い感じの長い表現はすごく伝わる。

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橋田  コマにとらわれず、自由に伸び伸び描いてる気がし
ます。大きい絵は感情が動いていて、小さく描いてる時は淡々とした気持ちなんだろうな。

トルー そうかもしれないですね。

岡田 上から下までネームを作って設計して描くのではなく、思いついた順に描いていく感じですか?

トルー はい。あまり計画を立てない方がやりやすいですね。

岡田 それが伸び伸びっていう感じにつながっているし、リアルな感情がすごく伝わる気がしますね。

デザインの再現がうまい

岡田スタバの紙袋になる」も良かった。器用ですよね。

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  紙もの、得意だよね。レイアウトのコピーがうまい。

岡田本の帯を本以外に」も、本物みたいでした。

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テレビに帯をつけた

 模写うまいよね。デザインの再現が下手だと、記事が壊れちゃうから。

トルー 見て、真似してるだけで……。どうやったらそれっぽいかとか、あんまりわかんないですよね。

面白いって思われたい

岡田 トルーさんって、記事書く時の思いや目的って、ありますか? ただ面白く読んでほしい?

トルー うーん。共感……面白い、面白い人って思われたい、みたいなのは、あるんですかね。だから、普通のことを言うと照れるんです。

岡田 「コーヒーゼリーがでかくてうまい」とか、素直なことは言いづらい。

トルー 面白いって思われなくなっちゃう。

 分かる。すごく歩きやすい靴を買ったけど、それだけでは記事が書けなくて「目玉とか付ければ書ける」と思って目玉を買っちゃった。今持ってる半透明のリュックもすごくいいんだけど、書けない。使いにくくて、かっこいいだけのものって記事にしづらくて。

トルー 書けないですよね。

岡田 照れを外して普通のことを書く1週間とか1ヶ月とか、あってもいいかもしれないですね。

橋田 1ヶ月は耐えられないかもしれない。

 「普通の記事ウィーク」を作ろうかな。普通すぎて照れちゃうようなことを書く。

トルー いいですね。

みんなで何かをやりたくて

 トルーは千葉大卒。

トルー  デザイン工学科です。大学でIllustratorとか覚えました。

岡田  新卒で印刷会社に就職された。会社員兼ライターだったんですよね。

トルー はい。デザインとか企画の部署でした。

岡田  デイリーポータルの「みんなで家を作る」企画を見て、「やってみたい」とライター募集に応募したそうですね。

トルー はい。それとか、みんなでロボを作ったりする企画を読んでいて「こういう人たちなんだ」って思って。

橋田  今は大勢で何か作ったりしてないけど

  やってないね。

トルー そう。意外とそういうことではなかった。

橋田  でも、「一緒にやろうよ! わー」って、肩を組まれたら嫌なんですよね?

トルー  そんな感じはしなかったんで、デイリーポータル。

 「ほら、やれよ、トルー君」みたいな人いないもんね。全体的にみんなローテンションだから。

岡田 「一緒にやろうよ! わー」で今、すごい照れましたね。

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照れるトルー

  目が閉じてる。

岡田 照れのあまり。

デイリーはいつから読んでたんですか?

トルー  会社に入ってから、なんか、調べ物してたら検索に出てきて、会社でずっと読んでた。2010年ごろからです。

 トルーの最初の記事は公園の遊具を磨く。公園の遊具を勝手に磨きに行っていたんですが、その時トルーが職場の作業着を着てて。胸の会社ロゴを隠さなきゃいけないから、ずっと進撃の巨人みたいなポーズしていて、本編と全然関係ないところで笑っちゃった。

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面白くない人と思われたくないから名前を変えた

 本名が「北村真一」なんだけど、苗字がライターの北村ヂンさんとかぶって分かりにくいという理由で、トルーが変えたいって言い出した。代田橋あたりの飲み屋で。

トルー あれ面白かったです。ライターのスミマサノリさんが「真一だからトゥルーにしろよ」って言ったんですが、林さんが「トゥルーはだめだ。トルーだ」って。

 「トゥルー」だとかっこよすぎるじゃん。

トルー 僕もトゥルーよりは良かった。トゥルーは恥ずかしい。

 面白いことを書けなくなっちゃう。

トルー ふざけなさそう。

ペンネームを断ると、面白くない人だと思われるなと思って、「わかりました」って言ったら、その場で林さんがデイリーのCMSをいじって、僕の名前を変えたんです。

   トルーが名前を変えると言うから「逆におれも、ここで断ったら面白さを理解してない人間だと思われる。おお、変えてやる、変えてやる。今すぐ変えてやる」ってCMSにログインして変えちゃったんだ。

トルーって敬称なしでトルーって言ってたんだけど、若いライターが「トルーさん」って呼んでるよね。でもトルー「さん」っておかしくない?

トルー 確かに、「なかやまきんに君さん」みたいな。

「さかなクン」みたいなに敬称込みでトルーだから。若い人から「トルー」って呼ばれたいですよね?

トルー  そうですね。

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トルーって呼んで下さい
独特な喜びをしっかり伝えるウェブメディア デイリーポータルZの編集部です。 デイリーポータルZではなぜか書きにくい裏話を書いていく所存です。 https://dailyportalz.jp/
プロに愛されるライター「トルー」 照れずにやり切る凄み|デイリーポータルZ編集部
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