〈社説〉高市政権が発足 逆戻りの先に展望見えず

 自民党と日本維新の会の連立による高市早苗政権が発足した。

 女性首相は憲政史上初。自民の新総裁に就いて以降、多数派形成を巡って政党間で異例の駆け引きが展開された末の船出である。

 四半世紀にわたった自民と公明党の連立与党の枠組みが、公明の離脱により解消。野党側の立憲民主党、国民民主党、維新の3党が協力すれば自民の議席数を上回ることから、一時は政権交代の可能性も取り沙汰された。

 だが、自民と維新の急接近で状況は一転した。公明に替わるパートナーを得た自民が、引き続きかじ取りを担うことになった。

■信頼の回復は遠く

 駆け引きの最終局面では、維新が唐突に国会議員の定数削減を連立入りの「絶対条件」に持ち出し、自民が受け入れた。

 民主主義の根幹にもかかわる方針を拙速に決めた経緯から浮かぶのは、政権獲得が目的化し、政治の信頼回復にはほど遠いものとなった連立協議の現実だ。

 自民と維新の合意文書には、スパイ防止法制定、憲法改正の準備加速、皇室典範改正といった保守色の濃い内容が並んだ。

 一方、「政治とカネ」を巡っては企業・団体献金の議論を新設の協議会に委ねるなど、実質先送りされた。累積する財政赤字への対応など、構造的な課題への向き合い方も依然、見えてこない。

 政権運営は今後、どんな発想で進むのか。高市氏のこれまでの主張を振り返ると、財政規律をはじめ、安全保障などの分野で懸念が募る。「強硬保守」と受け取れる考え方が、排外的な外国人管理を助長する恐れもある。

 故安倍晋三首相に重用され、党内右派の論客として高い知名度を持つ高市氏。その姿勢に見て取れるのは、かつて安倍政権が目指した政策への回帰である。

 金融緩和と積極財政を重視する経済政策がその一つ。2012年発足の第2次安倍政権が始めた「アベノミクス」の継承だ。

 だが10年以上を経て、経済を取り巻く情勢は大きく変わった。同じ手法はもはや通用しまい。

■積極財政の「責任」

 以前はデフレ。現在はインフレだ。円高から円安に変わり輸入物価の上昇に苦しむようになった。注目すべきはむしろ、アベノミクスが残した負の側面である。

 最たるものが、野放図に重ねた財政出動に伴う政府の借金だ。政府債務の膨張は国債の信認低下を招き、長期金利を押し上げる。盛り上がる株価上昇の陰で、その傾向は既に金融市場に現れ始めている。利払いが増加し、財政はますます硬直化していく。

 高市氏は「責任ある積極財政」を目指すと言う。物価高対策を進める上でも、アベノミクスの功罪を改めて整理し、財政破綻を防ぐ道筋を説明する責任がある。

 経済と防衛戦略を結びつける傾向は、安倍氏よりも強い。防衛や宇宙といった分野で政府の「危機管理投資」を増やせば、それが経済の好循環と成長をもたらし、税収増にもつながると訴える。

 財源もままならず、そんな楽観が実現する保証はない。何より、兵器の開発や輸出の推進は平和憲法の理念・原則に反する。一定のブレーキ役を果たした公明も連立を去った。逸脱の加速こそ大きな問題となるだろう。

 「日本を前に進める」。高市氏は強調する。その実相は、国民不在で突き進む先の見えない逆戻りの加速ではないか。

■連立は安定するか

 国民の信頼を失い、少数与党に陥った主因は「政治とカネ」を巡る不信だった。再出発に本来あるべきは政治献金の改革だろう。高市氏は党人事で、派閥裏金事件の震源地となった旧安倍派の有力議員を要職に据えた。問題は「決着済み」との考えのようだ。

 今月4日の総裁選。高市氏が選ばれた背景には、岸田文雄氏と石破茂氏が政権を担っていた間に自民から遠ざかり、参政党などに流れた安倍氏支持の「岩盤保守層」奪還への期待があった。

 「国民政党」を掲げて幅広い層をカバーしてきた党の性格を、大きく変える総裁選だったと見ることもできるだろう。政権に維新が参加したことで、タカ派的な色彩はさらに強まった印象だ。

 閣僚人事では、総裁選で争った陣営からも要職に充てるなど党内の結束に一定の配慮を示した。だが党の変質に違和感を覚える議員も少なくない。路線の隔たりはいずれ、何らかの形で表面化してくるのではないか。

 維新は今回、連立への参加を強調しつつ、閣僚は出さない「閣外協力」にこだわった。行き詰まった際に全面的な責任を負うリスクを避けたのだろう。安定した体制が続くかは見通せない。

 安倍政権の時代と大きく異なるのは、自民に「1強」と呼ばれたような力強さは既になく、少数与党の状況が続いている点だ。

 暴走や居直りを許さず、国会での「熟議」を厳しく迫る。その覚悟を、各野党に求めたい。

有料会員登録がおススメ!

  • 会員記事が読み放題

  • 気になる記事を保存

  • 新聞紙面(紙面ビューアー)の閲覧

  • 信毎ポイントで商品交換

継続利用で初月無料

※適用条件がございます

会員サービスの詳細はこちら