傍に立つ君は完璧で究極のアイドル   作:カミキヒカラナイ

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復ッ活ッ

ニコニコ動画復活ッッ

ニコニコ動画復活ッッ

ニコニコ動画復活ッッ

してェ……

皆と一緒に(コメント付きで)推しの子二期見てェ〜〜〜……



23.本領発揮

【近日公開予定】舞台「東京ブレイド〜渋谷抗争編〜」について語るスレ Part.12【緊急速報】

 

1:推し活の名無し

急遽内容が変更になった模様

それに伴いタイトルも変更、キャストに関する情報も一新されました

 

3:推し活の名無し

こマ?

 

4:推し活の名無し

うわホントだマジか

 

6:推し活の名無し

今公式HP見に行ったらガチだった

渋谷抗争編改め「東京ブレイド〜血鬼の恩讐編〜」だそう

 

7:推し活の名無し

何だそれ、そんなもん原作にあったか?

 

8:推し活の名無し

舞台オリジナルの脚本だそうです……

 

10:推し活の名無し

ファッ!?

 

11:推し活の名無し

うーんこの

 

13:推し活の名無し

あれほどアニオリはやめろと言ったのに……

 

15:推し活の名無し

なぜ歴史から学ぶことをしないのか

 

16:推し活の名無し

今回はアニオリではなく舞台オリと言うべきだが

 

18:推し活の名無し

なお悪いわ

やはり実写はクソ、ハッキリわかんだね

 

20:推し活の名無し

せっかく最高の素材を使わせてもらってるのに、どうしてわざわざゲテモノを作ろうとするのか

 

22:推し活の名無し

上等な料理にハチミツをブチまけるがごとき所業!

 

23:推し活の名無し

しかしこんな土壇場での変更は珍しい……というか前代未聞じゃね? 公演まであと半月ぐらいだろ?

 

24:推し活の名無し

注目を集めるためとか?

 

25:推し活の名無し

いやコスパ悪すぎんだろ、広告を打ち直すのだってタダじゃねーんだぞ

 

26:推し活の名無し

しかし結構気合い入った広告だよな

 

27:推し活の名無し

どんな感じのやつ? 今仕事中だから流石に動画は流せないんだわ

 

29:推し活の名無し

サボるなサボるなw

 

31:推し活の名無し

渋谷抗争編のタイトルロゴが切り刻まれて、新しいタイトルがバーンって感じのやつ

文字にすると陳腐に感じるかもだけど、エフェクトとか派手で割と金掛かってそうなPVだったよ

 

33:推し活の名無し

急なオリジナル展開とか、鮫先生キレ散らかしてそうだな

あの人そういうのいっちゃん嫌いだろ

 

35:推し活の名無し

ところがどっこい、告知文をよく見るとこんなことが書いてある

「巨匠・鮫島アビ子書き下ろしの新規オリジナルストーリー!」

 

36:推し活の名無し

なん……だと……

 

37:推し活の名無し

何やってんすか先生

 

39:推し活の名無し

この急な脚本変更……てっきり制作側の暴走かと思っていたが、もしや鮫先生の方がやらかしていたのか

 

40:推し活の名無し

性欲が抑えきれなかったか…

 

42:推し活の名無し

元々の脚本が問題だらけでやむなくって可能性もあるぞ

 

43:推し活の名無し

言うてGOAさんの脚本だろ? ちょっと考えにくいな

 

44:推し活の名無し

誰それ?

 

45:推し活の名無し

お前GOAさん知らんのか

 

47:推し活の名無し

すまんな、原作から入った演劇素人なんや

 

49:推し活の名無し

まあ2.5なら珍しくもないわな

 

51:推し活の名無し

GOAさんは今人気の売れっ子脚本家や

2.5に関わることも多いんやが、どれも原作の魅力を引き出す脚本で評判が良いんや

 

53:推し活の名無し

ほーん、サンガツ

 

54:推し活の名無し

ほなやっぱ鮫先生が性欲を抑えられなかっただけか……

 

56:推し活の名無し

性欲言うなやw

 

58:推し活の名無し

この「鍔姫」ってオリキャラがメインヒロインみたいだな

 

59:推し活の名無し

なかなか可愛い名前じゃないの、どんなキャラ?

 

61:推し活の名無し

あらすじよく見ろ、そいつ多分この章のラスボスやぞ

 

62:推し活の名無し

ひょ?

 

63:推し活の名無し

なんか東京を地獄に変えるとか言ってる……

 

65:推し活の名無し

可愛い名前からの物騒すぎる発言で草生える

 

67:推し活の名無し

その場にいた新宿と渋谷の剣士を皆殺しにした上でブレイド達に宣戦布告するらしい

 

68:推し活の名無し

怖ぁ……

 

70:推し活の名無し

しかも鞘姫の姉らしい

 

71:推し活の名無し

唐突に生えてきた実の姉に困惑不可避

 

72:推し活の名無し

姉 な る も の

 

73:推し活の名無し

お 前 も 家 族 だ

 

75:推し活の名無し

そして最初に造られた伝説の刀「神喰み」の使い手らしいゾ

 

76:推し活の名無し

うーん香ばしい

 

77:推し活の名無し

そんな重要なものを本誌より先に出すのか……(困惑)

 

78:推し活の名無し

設定なんざどうでもいい、問題は役者だ

誰が担当するんだ?

 

79:推し活の名無し

「【鍔姫】キャスト:シオン」って書いてあるな……

 

81:推し活の名無し

アイエエエ!? シオン!? シオンナンデ!?

 

82:推し活の名無し

お前こづか役だっただろ! こづかはどうしたこづかは!?

 

84:推し活の名無し

こづかならもう荼毘に付したよ

 

86:推し活の名無し

ホントだ登場人物一覧からこづかの名前消えてるwww

 

88:推し活の名無し

ファーwww

 

89:推し活の名無し

結局こづかは鮫空間送りになる定めなのか……

 

90:推し活の名無し

ある意味原作再現で笑う

 

91:推し活の名無し

こづか推しワイ、泣く

 

92:推し活の名無し

推しキャラに超絶美形の俳優が割り当てられたことで活気づいていたこづか推し界隈に悲嘆の声が響き渡る……

 

93:推し活の名無し

原作でこづかが最後に登場したのいつだっけ

 

94:推し活の名無し

品川八傑衆にフルボッコにされて病院送りになったってキザミの口から語られて以降音沙汰なし

 

95:推し活の名無し

だいぶ前じゃねぇか……

 

96:推し活の名無し

卑劣な闇討ちで深手を負った弟分の仇を討つために奮い立つキザミ……そしてそのまま静かにフェードアウトしていくこづか……

 

98:推し活の名無し

もうかれこれ単行本三巻分ぐらいは出番ないわね

 

100:推し活の名無し

ウ……ウソやろ こ……こんなことが こ……こんなことが許されていいのか

 

101:推し活の名無し

鮫先生の中ではこづかはもうオワコンなんだ 悔しいだろうが仕方ないんだ

 

102:推し活の名無し

群像劇は登場人物が多くなってくるとどうしてもね……

 

103:推し活の名無し

だからこそまだ存在感のあった渋谷抗争編の舞台化企画には期待してたんだが……

 

104:推し活の名無し

まあちょっと顔が強すぎたな、あのビジュアルで脇役やるのは無理がある

 

106:推し活の名無し

流石は街を彼女と練り歩くだけで話題を呼んだカリスマ読モ

 

108:推し活の名無し

まさかいきなり主演級とは……読めなかった……! この海のリハクの目をもってしても……!

 

110:推し活の名無し

おはリハク、今日も節穴やね

 

111:推し活の名無し

とはいえ顔だけ良くてもねぇ

脇役ならともかく、主演級やるならやっぱり相応の演技力は必要よ

 

112:推し活の名無し

シオンって演技経験あったっけ

 

113:推し活の名無し

多分ない

 

114:推し活の名無し

元々モデルだし代表作品は恋愛リアリティショーだし

 

115:推し活の名無し

これは……アカンやつでは?

 

117:推し活の名無し

今日あまの悪夢再びか?

 

118:推し活の名無し

今日あまとは環境が違うだろ

素人ばかり起用してた今日あまと違って、東ブレは主体がララライだからな

 

119:推し活の名無し

ララライが半端な仕事をするとは思えん

仮にシオンが演技素人だとしても、本番までには仕上げてくるだろ

 

121:推し活の名無し

そう信じたいところだが……

 

122:推し活の名無し

おい公式HP見ろ、ヤベーぞ

 

124:推し活の名無し

なんや藪から棒に

 

126:推し活の名無し

さっきから見とるわい

 

128:推し活の名無し

あれ、なんか新しいPVがアップされてる

 

129:推し活の名無し

ホンマやいつの間に

 

131:推し活の名無し

これは……

 

132:推し活の名無し

やば

 

134:推し活の名無し

いやいやいやエグいて

 

136:推し活の名無し

これマジか、初めてのカメラ撮影でゲボ吐きそうになってた奴と同一人物とは思えんぞ

 

137:推し活の名無し

なんだなんだ、なんのPVだったんだ

仕事中のワイにも分かるように説明してくれや

 

139:推し活の名無し

だからサボるなw

 

141:推し活の名無し

新キャラ鍔姫の紹介映像

鍔姫の格好をしたシオンが劇中のワンシーンを演じる様子を撮影したらしい

 

143:推し活の名無し

ほーん、ええやん

どんな感じだったん?

 

144:推し活の名無し

ヤバい

 

146:推し活の名無し

画面越しなのに震えがきやがった

 

147:推し活の名無し

これは紛れもないラスボスのオーラ

 

148:推し活の名無し

いやシオン様演技力ヤバすぎでしょ

 

150:推し活の名無し

これで演技の仕事やったことないってマジ?

 

151:推し活の名無し

オリキャラオリ展開とかクソだと思ってたけど、ここまでのものをお出しされたら期待しちゃうわ

 

152:推し活の名無し

一応公式から急な内容変更の謝罪文と返金対応に関する告知も来てるけど

 

154:推し活の名無し

いやこんなん見せられて返金はないわ、見ます

 

155:推し活の名無し

俺も

 

157:推し活の名無し

あれ? そういやシオンって女の子だったっけ?

 

159:推し活の名無し

いいえ男の子です

 

161:推し活の名無し

公式がそう言ってるだけの女の子だぞ

 

163:推し活の名無し

完璧で究極の男の娘やぞ

 

164:推し活の名無し

どっちやねん

 

166:推し活の名無し

でもこのPV見てると女の子にしか見えん……

 

168:推し活の名無し

ところでこの衣装……ちょっと、いやかなりエッ

 

169:推し活の名無し

しーっ!

 

 

 


 

 

 

 月が出ていた。

 

 その滑らかな光が照らす世界で、何十という死体が辺りに散らばっていた。それらは兵士の格好をしていた。地面が黒ずみ僅かに月光を照り返しているが、それは鉄錆の臭気と共に噎せ返るような禍々しさを立ち昇らせている。

 

 (ひざまず)く男達がいた。その格好は肉塊と化した兵士達と比べてもなお見窄らしい。ボロ布を編んだ装束に、歪んだ鉄板を貼り付けただけの胴当て。彼らは等しく粗末な鉄剣を()いており、また例外なくその頭から捻くれた歪な角を生やしていた。

 

 その震える背中には兵士の悲哀が滲んでいた。元より兵士とは悲しいものである。その生死は余りにも儚い。味方の将に左右され、敵の兵に左右され、まるで川の水面に揺られる落ち葉のように揺ら揺らとして人生を試される。誰もが同じで特別なことなどない。戦場とは己の生死を賭す場所である。

 

 だが、その見窄らしい有様は兵士のそれですらない。まるで礫だ。ただ放るがままにされた石礫である。その成果には何の期待もなかった。当たれば幸いといった程度の無関心さで放たれた彼ら角の兵士達は、震える背中に恐怖と諦観とを張り付け、地面に蟠った敵の血と臓物に塗れながら跪き、一心不乱に頭を垂れていた。

 

 そして震えながら跪く彼らの先に、()()はいた。

 

 月光の申し子のようにして、黒髪紅眼の少女が一人、男達に(かしず)かれている。夜の風も彼女の周りにあっては畏まるものなのか、そこだけは何もかもが静寂に包まれて、幽玄な山河の中の風景のように孤影を佇ませていた。

 

 だが、その優美な佇まいとは裏腹に、総身より立ち昇る戦気たるや天をも焼き焦がさんばかりだった。

 

 彼女の背後にうず高く積み上げられたるは、その全てがそこらの兵士などとは比べ物にもならない上等な戦装束に身を包んだ剣士達……それは東京の地にて覇を競う二大派閥、新宿・渋谷クラスタが誇る精鋭部隊、その成れの果てだった。

 丈のある雑草に覆われていた街外れの原野は、今この場限りにおいて、平たく微塵に踏み潰された肉の原だった。それがかつては人の形をしていたなど、まるで想像もつかないような血油の絨毯の上に、更に折り重なるようにして無惨に切り刻まれた人体の破片が散りばめられている。

 

 この地獄絵図を作り上げた者こそが彼女。

 跪く角の兵士の一人が、震える声で「鍔姫(つばき)様」とその名を呼んだ。

 

「我々は十分に働き申した」

「粗末な鎧と粗末な剣だけを与えられ、こうして貴女の敵を散々に討ち払いました」

「故にどうか命ばかりは……これ以上の無体に、我々の身体は耐えられませぬ」

 

 それは悲鳴のような懇願だった。

 さもあろう。彼らは碌な食料も与えられず、碌な武器も与えられず、ただ死に追い立てられるようにして東京の民と戦わされていたのだ。まるで枯れ枝のような体躯に恐怖を漲らせて、この世の何ものよりも恐ろしい女から逃げるようにして剣を振るっていたのだ。

 だが、そんな無茶な強行軍には限度がある。口々に慈悲を請う兵士達を、しかし鍔姫は静かに一瞥した。

 

「──家畜が鳴いている」

 

 形としては笑みに似ていた。

 

 目は細められ、口は上弦に弧を描き、やや伏し目がちではあったが肩は脱力もしていなければ力みもしていなかった。ここが戦場でなければ深窓の令嬢もかくやという風情の少女であった。

 

 しかし、そうであったにもかかわらず──誰もが戦慄に息を呑んだ。

 

 それは人の形をした刃だった。

 それは刃の形をした破滅だった。

 

 月下に鬼を従える恐ろしの姿。微笑みの向こうに殺戮を滲ませる鬼気。ただでさえ天を衝かんばかりだった存在感が更に膨れ上がり、天地を震撼させる。

 

「餌を貪り、益体もない音を撒き散らす家畜共。ああ、酷く耳障りだ。厩舎ごと焼き捨てたくなる」

 

 深く刻まれたスリットから覗く細い足が持ち上がる。禍々しく黒ずんだ戦場には似つかわしくない程に白く艶めかしい足が白刃のように閃き、最も手近なところにいた角の兵士を蹴り上げた。

 まるで水の詰まった風船が破裂したかのような轟音が炸裂し、身体をくの字に折り曲げられた兵士が嘘のように撥ね飛ばされた。それは天高く打ち上げられ、重力に従い地面に落ちる。そこから五メートルほど転がったところで動きを止めた兵士は、その後二度と起き上がることはなかった。

 

「さて──いい夜だな、東京にて覇を競う強者(つわもの)達よ」

 

 血と臓物に泥濘(ぬかる)んだ地面に額を押し付け、恐怖のあまり(おこり)のように震えながら口を噤み平伏した兵士達から視線を外す。そこでようやく鍔姫は彼らに目を向けた。鈴を転がすような美声が向けられる先にいたのは、一連の殺戮劇を呆然と眺めるしかできなかったブレイド達である。

 

 あまりに突然のことだった。新宿と渋谷の趨勢を決する会戦の最中に突如として乱入してきた、奇怪に捻くれた角を生やす謎の鬼族の兵士達。そして、己の兵ごと新宿と渋谷の戦力を壊滅させた謎の女剣士。各陣営の主戦力としてそれぞれの陣幕にて控えていたブレイドや刀鬼達が現場に急行した時には、既に戦場には地獄が形成されていた。

 

 戦場に死という死を現出すること、まるで枯野に放たれた火炎の如し。吹き荒ぶ剣風は瞬く間に命という命を駆逐した。時間にして四半刻と掛からなかっただろう、刹那の殺戮劇であった。

 いや、仮に間に合ったところでその凶行を止められたかは怪しい。それだけ鍔姫と名乗る女剣士から放たれる戦気は常軌を逸していた。両クラスタの精鋭を草を刈り取るが如くに薙ぎ払った剣の冴えは怖気立つほどだった。

 

「熱病だ。好戦の病だ。勝利を予断し暴力を望み、正義を確信し蹂躙を夢見る、懐かしき戦場の酔い病だ」

 

 側頭部から伸びる異様に捻くれた片角が天を衝き、少女は諧謔を滲ませて語り掛ける。まだ幼さの残る高い声で。大人の苦味に舌を浸した低い声で。

 

「私は帰ってきたぞ。憎悪の刃を携えて。懐かしの戦場、鉄風雷火の武人の原に。今こそ私は旗を掲げ、ここに覇を唱えよう。血よりも赤く、炎よりも煌びやかに。立ち塞がる全てを焼き尽くし、悉くを黒く殺し尽くそう。この地を私の望む地獄に変えるために」

 

 腕が伸ばされた。手の平を上にして指が開き、そしてそれが緩やかに曲がる。誘っているのだ。掛かって来いと。抗ってみせろと。細められた目の奥で熾火のように燃え上がる紅蓮がそう告げていた。

 

 その様が刃のようだと、刀鬼(アクア)は思った。戦場に死をばら撒き、血を啜り肉を貪る狂いの刃だ。

 だが、その恐るべき狂気は強靭極まる鋼の如き理性によって律されている。恐らくは己という刃を納める心の鞘を持っているのだろう、と刀鬼(アクア)は理解した。そしてそれはこの人物が暴力に生きる人間ではなく、武力に生きる人間であることを示している。その強靭な意思によって正しく管理された力を有する……即ち武人の在り様である。それが鍔姫という女が内に秘める狂気に指向性を持たせ、より鋭利な形に研ぎ上げているのだ。

 

(なんつー解像度と情報量だよ……)

 

 天地を裂く激震が如き威風と刃の形をした狂気とが恐るべき生々しさで以て押し寄せてくる。まるで戦場に吹き荒ぶ黒い風の中心に立っているかのようだ。今にも鉄錆の臭気が鼻を突かんばかりの、恐るべき確度と硬度の演技力である。戦争など無縁の人生を生きてきた刀鬼(アクア)をしてそう思わせるほどの、圧倒的なまでの“説得力”が鍔姫(シオン)の一挙一動に滲んでいた。

 

「雷火に洗われた死の原野こそ我が楽土──強者のみが息衝く修羅の巷に、家畜の居場所はない。来い、強者達よ。我が覇道に異を唱えるならば、見事抗ってみせるがいい」

 

 来る好敵手との闘争を言祝ぐように、鉄火の戦場の中心で鍔姫(シオン)は微笑んでみせる。まるで百万の祝福を受けたかのようにして蕩ける愉悦をその顔に浮かべ、瞬間、妖しいまでの色気が溶け零れて香を放った。

 

 

「──カット! OKです!」

「よし来たすぐに編集して! 一分一秒でも早く公式HPにアップするんだ!」

「り、了解です!」

 

 撮影スタッフの震え声が撮影の終了を告げる。緊迫した声色で指示を飛ばす雷田(らいだ)の声に急かされるようにして、スタッフ達は慌ただしく動き出した。

 

 そう、これは新たな脚本に生まれ変わった舞台「東京ブレイド」のPV撮影であった。

 事前に告知していたものとは内容がガラッと変わってしまうため、その宣伝にはとにかく拙速が求められた。まず何よりも急な内容変更に関する謝罪文の掲載や返金対応に関する告知が為されたが、より重要なのは新しい脚本の魅力を一刻も早くファンに知ってもらうことだった。

 

 どう綺麗事を並べ立てようとこれは商売である。まず金にならなければ話にならない。故に急な内容変更により生じるであろう客離れを防ぐべく、一人でも多くのファンを繋ぎ止めるための魅力的なPVを撮ることが求められた。

 

 そこで白羽の矢が立ったのがシオンだった。新しい脚本の目玉となるのが新キャラである「鍔姫」なのだから、それを演じる彼に役目が回ってくるのは必然である。

 多くの不安がある中でPV撮影は敢行された。何せシオンは演技経験のない素人である。当初与えられていた「こづか」の役とて満足にこなせていたとは言い難いのだ。より難易度の高い主演級の役となれば、果たして撮影には何テイクを要するのか想像もつかない。

 

 しかしいざ蓋を開けてみれば、シオンは彼らの不安を鼻で笑うかのような演技と恐るべき威風で以てスタジオを呑み込んだのだ。

 

「……まさか一発撮りで撮影を完了させるとはね。いやあ、恐れ入ったよ」

 

 口の端に戦慄を滲ませてそう呟いた雷田の言葉に、その場にいた誰もが同意と共に深く頷いた。

 

 それだけ枷から解き放たれたシオンの演技は凄まじかった。オーラを抑える必要がなくなったからだろうか。余分に割いていたリソースを思う存分演技に費やした結果として、彼の演じる鍔姫は文句の付けようがない、まさにラスボスに相応しい貫禄を発揮したのである。

 

「あの、大丈夫でしたか? 痛くないように気を付けはしたんですけど」

「大丈夫です。我々の業界ではご褒美なので」

「え?」

「いえ、何でも。しかし本当に超能力者なんですね……蹴られるどころか触られてもいないのに、ああも容易く宙に飛ばされるとは思いませんでした。落下の衝撃も全然感じませんでしたし……」

 

 視線の先では、鍔姫に蹴り殺される兵士役を務めた役者の下に駆け寄るシオンの姿があった。撮影終了と同時に怖気立つような威圧感は一瞬で鳴りを潜め、すっかりいつも通りの穏やかな様子に立ち戻っている。

 ちなみに件の役者の視線はスリットから覗くシオンの白く眩しい太股(ふともも)に釘付けとなっていた。その様子を遠目に眺めていたアクアとあかねの視線が一瞬で氷点下にまで冷え込む。

 

「……同性同士でもセクハラって成立するよな?」

「人の彼氏を視姦するの止めてくれないかなぁ……」

「おいコラそこの二人、今にも人殺しそうな目をするのは止めなさい」

 

 両者とも今にも手にした模造刀を鞘から引き抜きかねない剣幕だった。かなが制止しなければどうなっていたことか。

 

 しかし冷え込む二人の視線の温度とは対照的に、スタジオの空気は一様に冷淡の対極にあった。

 熱気が渦巻いている。音としては(どよ)めきだ。神聖な撮影スタジオは格式の整然を逸脱して沸いていた。ララライといえども今ばかりは騒然とすることを抑えられずにいる。

 

「──ヤベェことになったな。こりゃ呑気してると主演を取って代わられそうだ」

 

 瞬間、アクアの背後で炎のような気配が生じた。まるで焚き火の照度と熱量とを背中に受けたかのような感触に、三人は一斉に背後を振り返る。

 

 そこにいたのは姫川大輝だった。PV撮影のため他の者らと同様に(ブレイド)の格好をした姫川は、普段の仏頂面とは対照的な感情を満面に浮かべていた。それこそブレイドその人であるかのように好戦的な笑みの形に口端を捻じ曲げており、普段の彼の様子を知るあかねは驚いたように目を丸くする。

 

 アクア達が感じた熱の正体とは、姫川の心胆より発される闘志の熱量であった。それは演技によるものではない。間欠泉のように沸き起こる闘志は真実自前の代物だった。手足には力が漲り、腹から飛び出して来ようとする笑いの衝動をあやすのに難儀する程である。

 

「姫川さん……?」

「あいつの演技に当てられて、その気もないのについ昂っちまった。こんな感覚はいつ以来かな……」

 

 姫川が感じたのは高揚感だった。絶大な闘志と極大の恐怖とを喚起する鍔姫(シオン)の放つ空気に触れたことで、強制的にブレイドとしての感情を引き摺り出されたのだ。

 強敵と刃を交わすことを楽しみ、鍔迫り合いの中に闘志を研ぎ澄ます。それが「東京ブレイド」のタイトル・ロールたる剣客の在り様である。少なくとも姫川の解釈としてはそうだった。

 

 優れた演者同士の共鳴は、尋常の枠を逸脱してその演技に極彩の色を付与せしめるという。放たれる感情と感情の鬩ぎ合いが、演者本人の意図すら超えた感情の色彩を出力するのだ。

 

 いま姫川の身に起きたのがまさにそれだった。ごく短いPVの撮影の中で、ブレイドにはこれといった役割は与えられていなかった。あくまでPVの主役は鍔姫であり、脇役たるブレイドはその凶猛たる有様を前に驚きを露わにすることだけが仕事だった。

 姫川はそのことを重々承知していた。しかし姫川(ブレイド)はそうではなかった。かつてない強敵を前に高揚感を覚えずにはいられない。鍔姫(シオン)より滲み出る戦場の風に当てられたことで無意識の内に役に埋没し、気付けば彼は姫川大輝ではなくブレイドとしてその場に立っていたのである。

 

 ララライの看板役者、姫川大輝をして思わず役に入り込まされる程の演技を披露したシオン。元より演技初心者とは思えぬ素質の片鱗を見せていた人物だったが、新たな配役によって露わになった本来の実力を目の当たりにしたことで、姫川のシオンを見る目は明確に変化した。

 

 期待の新人を見る目から、己と対等の役者を見る目へと。

 

「けど、見る限りまだ舞台演技に最適化できてないみたいだな。元モデルだって聞くし、やっぱあいつの本領はカメラ演技なんだろう。PV撮影ではたった一つのカメラによく見えればそれで良かったが、演劇にそのやり方は通用しないぞ」

 

 空間そのものを押し潰さんばかりのオーラは確かに唯一無二の武器だが、それ一本で突き崩されるほど姫川大輝の演技は甘くない。舞台上の表現力において、先達としてそう易々と後塵を拝するつもりは姫川にはなかった。

 

「……あ、すまん。長々とクサい独り言聞かせちまったな。撮影も終わったし、ちょっと外出て涼んでくるわ」

 

 常にない熱量を発する姫川の様子に呆然とする三人。その視線を受けて我に返った姫川は、そう言うと踵を返してスタジオの外へと去っていった。

 

「……あんなに生き生きとしてる姫川さん、初めて見たかも」

「まあ、役者なんてどいつもこいつも負けず嫌いばかりだしね。あんなの見せられて何も思わないなんてそれこそ嘘でしょ。私は流石にあれに勝とうとは思わないけど……一方的に呑まれるばかりじゃ気に食わないのは事実ね」

 

 思わず「有馬かな(おまえ)がそれを言うのか……」という視線を向けてしまうアクア。負けず嫌いな役者の筆頭みたいな奴が何を言っているのだと胡乱な目をする彼だったが、しかしその一方で彼女の気持ちを理解できてしまう己がいることもまた自覚するところだった。

 やはりそれこそが役者という生き物の(さが)なのかもしれなかった。畢竟(ひっきょう)、今この場に渦を巻く熱量の正体とはそれである。誰もがシオンの見せた演技に興奮を露わにし、如何なる手管を以てそれを凌駕するかに全神経を傾けている。

 

(……けど、俺は違う)

 

 星野アクアにとって役者であることは手段に過ぎない。かなやあかねのような生粋の役者とは立っている舞台が違う。

 アクアは己の器を知り、心の取り扱い方を知る。どのような種類のものにせよ感情の昂りは禁物だ。平静を欠いては容易に判断を誤る。動揺を理で抑え込むこともまた不毛である。

 

「もうこの脚本で行くことは決定事項だ。なら……嫌でも何でも、やらなきゃな」

 

 アクアは誰にともなく呟いた。区切りを口にしなければ意識が未来へと向かなかった。

 この脚本にはとあるシーンが存在する。それは物語の終盤、最強の刀“神喰(かみは)み”を打ち破るために鞘姫(さやひめ)刀鬼(とうき)が力を合わせ、鍔姫を一突きに刺し貫く場面である。

 

 やらねばならないのだ。その手に必殺の刃を持って。悲愴の決意とあらん限りの殺意を以て。

 

 紫紺の瞳に星の輝きを湛えたあの人を──アクアは、刺し殺さなければならない。

 

 




【桐生紫音】
 大体コイツのせい。「虎を千里の野に放つ」という(ことわざ)があるが、今回の一件は「虎をゲットマシンに乗せて人里に放つ」が如き行いとして後世に語り継がれることとなる。ある者はこれをとてつもない暴挙であると悲嘆を叫び、またある者は素晴らしい壮挙であると歓呼した。ちなみに誰とは言わないが前者は某演出家で後者は某大手プロデューサーである。誰だろうね。

【星野アイ】
 やられ役の兵士を空高くぶっ飛ばしたのは実は彼女。シオンが蹴ると人間など冗談抜きで汚ぇ花火と化すため、インパクトの瞬間に役者を掴んで放り投げた。アイはスタープラチナと同等の動体視力とスピードを持つため、シオンの蹴り足が相手に触れるか触れないかの刹那を見切るのは容易い。落下の瞬間にもそのスピードを遺憾なく発揮し、床に激突するスレスレを見切って受け止めて転がした。
 ちなみに蹴り上げた際の轟音はシオンの蹴り足が空気の壁を突き破る音で、落下時の音はアイが引き起こしたラップ音。完璧なコンビネーションに加え音響も完備と、まさに無敵のコンビである(ホルホル並感)

雷田(らいだ)澄彰(すみあき)
 原作者による許諾取り消し未遂を乗り越えた彼を待ち受けていたのは、ファンと関係者への謝罪行脚、そして広告の打ち直しという更なる仕事の山であった。行くぞ、予算の貯蔵は十分か──あっ、ダメみたいですね……
 シオンのせいで新規脚本騒動に発展したが、そのお陰でアビ子から譲歩を引き出すことができたので実質プラマイゼロ。結果的に良い脚本に仕上がったし、終わり良ければ全て良し──悪い、やっぱ辛えわ……
 そりゃ辛えでしょ。
 ちゃんと言えたじゃねえか。
 聞けてよかった。
 ここまでテンプレ。
 ちくわ大明神。

【姫川大輝】
 遂に対等と認めるライバルまで出来てしまい、今最も良い空気を吸っている完璧で究極の教唆犯。
 実際のところはオーラを十分に活かせる配役、チート級の身体能力、超能力(アイによるフォロー)が揃って初めて対等なのだが、近い年齢で、条件付きとはいえ自身を凌駕しかねない演技をする役者と遭遇したのはこれが初めてなためテンション振り切れた。大輝お兄ちゃんマジお兄ちゃん。

【黒川あかね】
 彼ピの絶対領域を凝視して鼻の下伸ばす野郎の背中に猿叫と共に斬り掛かる寸前だった。かなちゃんの制止があと少し遅ければ、うさみちゃんみてぇな顔して薩摩藩士ばりのチェストをするあかねちゃんが降臨していたかもしれない。

【有馬かな】
 本日のMVP。あかねちゃん薩摩藩士概念の誕生を見事に阻止する働きをした。

【星野アクア】
 アイに似た雰囲気の男の娘の絶対領域を凝視して鼻の下伸ばす野郎の背中に猿叫と共に斬り掛かる寸前だった。これがルビーであればとっくに斬り掛かっていたことだろう。俺は長男だから耐えられたが長女であれば耐えられなかった。
 原作では怒りと悲しみの感情演技を行うためにアイを失った瞬間の情景を想起するという自傷行為を行ったが、こっちの脚本では自分の手でアイ(に似た雰囲気の男の娘)を刺し殺すことになる。

 人の心とかないんか? そこになければないですね……
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