傍に立つ君は完璧で究極のアイドル   作:カミキヒカラナイ

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原作者・アビ子先生を説得するRTA、はーじまーるよー。
アビ子先生が視察のためスタジオ入りしたところからタイマースタート。しばらくしてアビ子先生が毎度おなじみ暴走モードに入るぐらいのタイミングを見計らい、世界のバグである野生のゲッターにオーラをお漏らしさせることで大幅なタイム短縮を図ります。
だから、今日までの間に大輝お兄ちゃんの興味を引いておく必要があったんですね(無敗)


あ、推しの子15巻発売おめでとうございます。
後書きに感想とも言えない思いの丈をぶちまけるので、単行本組でまだ最新巻買ってないという方は非表示にするなどしてネタバレにはご注意下さい。ただの雑談といえばそれまでの内容ですが。



22.【舞台「東京ブレイド〜血鬼の恩讐編〜」攻略RTA】原作者説得チャート any% バグあり(IGT:45:51:0)

 土地の支配権と伝説の刀を巡り、各勢力間での争いの絶えぬ地、東京。その中でも特に力ある二つの勢力、新宿クラスタと渋谷クラスタ間の抗争は日々激化の一途を辿っていた。

 その最中に突如として現れた謎の女剣士「鍔姫(つばき)」。その矮躯に計り知れぬ戦気を宿す捻くれた片角を持つ鬼族の少女は、戦場に乱入するや恐るべき戦闘力で新宿・渋谷の剣士達を一蹴する。

 

 瞬く間に積み上がった屍の山の上に立ち、困惑するブレイド達を傲然と見下ろす少女。血色の双眼に狂気が熾火のように燃え上がる。

 その瞳。燃え立つ憎悪の奥に氷のような冷たさを宿した昏い眼差しを目にした鞘姫(さやひめ)は、幼き日に見た憧憬を思い出す。

 

「鍔姫姉さま……?」

 

 死に別れたと思っていた姉の変わり果てた姿に呆然とする鞘姫。しかし鍔姫はそれを一瞥しただけで興味を失くしたように目を逸らすと、手にする身の丈ほどもある巨大な刀を持ち上げ、その切っ先を差し向けた。

 

 それこそは始まりの大業物。二十一本あるという伝説の刀、その一本目。古い神話に謳われる神喰らいの大百足の頭蓋を射貫いたという古英雄が放った一矢、その(やじり)の破片を加工したものであるというそれは血に染まってなお美々しく輝き、その刀身に白光を煌めかせている。

 最初の一振りにして最強の神秘殺し。百年前に担い手の命と引き換えに三度振るわれ、その三振りのみで当時の日の本を揺るがした大戦を終結させたという記録を最後に行方の知れなかった伝説の刀。

 

「私を貶めた恥知らずの血族共。私を辱めた憎き忌み角共。我が憎悪でその全てを浄化し、以て私は東京の覇者となる」

 

「来るがいい、東京に集いし強者(つわもの)共。その全てを打ち砕き、私はこの地に地獄を作る……真に強き者のための楽土、修羅の殿堂を!」

 

「証明してみせよう。私と──“神喰(かみは)み”の力でな」

 

 始まりの一刀“神喰(かみは)み”──伝説の刀の中にあってなお伝説と謳われた究極の一振りは今、尽きせぬ憎悪を滾らせる復讐者の手の内にあった。

 かくして、二十一本の伝説の刀を巡る戦いは加熱していく。まるで始まりの一刀に引き寄せられるようにして伝説は集い、その力は更に戦争を激化させていった。

 

 炎の海に沈む東京の中心にてブレイド達を待ち受ける少女、鍔姫。強く美しく、そして優しかった姉の変わり果てた姿に涙する鞘姫。複雑に絡み合う血族の因縁。この戦いの行き着く先とは、果たして──

 

 

 

 

 

 

 

 

 稽古どころではないとして、憔悴した金田一の指示によって撤収(バラシ)となったスタジオにて。

 役者陣が去ったことで広くなったスタジオ内に、興奮した女性の声が響き渡った。

 

「渋谷クラスタを支配する鞘姫の家は古い血を継ぐ貴種の末裔なんですけどかつては神と交わったこともあるという由緒ある血統でその血を濃くするために近親相姦を繰り返した忌むべき歴史があってそれは現代ではなくなってるんですけどだからこそ今の血族にとってその過去はタブー視されててそれで奇形の忌み子として生まれてしまった鍔姫はタブーの象徴として謀略紛いの奸計で暗殺されかけるんですちなみに忌み子というのは実は先祖返りのようなものでより古い鬼族の血筋が表出した結果捻くれた巨大な角が生えるんですが鍔姫の場合はこれが後天的に生えてきてしまった結果純粋な忌み子ではないとして同じ忌み角の勢力からも迫害される羽目になってしまいそれで全てを憎んだ鍔姫は伝説の刀の一つ“神喰み”と出会ったことを切っ掛けに自らを貶め排斥した全ての存在への復讐を誓うんですでも本当の目的はそれだけじゃなくておっとここから先はネタバレになってしまうのでまた後でところでこの神喰みなんですけど実は本誌の方とは若干設定が違ってて古い神の血に連なる者にしか扱えないという制約があるんですだから先祖返りで古い血が色濃く表れた鍔姫はこれを十全に振るうことができるんですところが同時に表れてしまっている古い鬼族の血つまり忌み角の血が神喰みにこびり付いていた大百足の怨念を呼び覚ましてしまい終盤で暴走状態になってしまうんですそこで伝説の刀を手にしたことで覚醒した鬼族の刀鬼と神の血統である鞘姫が鬼の血と神の血を融合させ一時的に神喰みをも上回る神秘の力を振るいこれを撃破二人は幸せなキスをして終了って予定だったのに編集が鍔姫関連の設定全部ボツにしやがったせいで鞘姫のキャラが深掘りできなくて影が薄くなっちゃったんですよお陰で今じゃすっかりカップリング人気は刀鬼×つるぎが鉄板になっちゃってホントは刀鬼×鞘姫が本命だったのにいや別につるぎがダメってわけじゃないし刀つるも好きなんですけど個人的にはですね」

「わかった! わかりました! 先生の熱い想いはよく伝わりましたから一旦落ち着いて下さい!」

 

 マシンガンの如く息継ぎもなしに垂れ流される膨大な設定の数々。これだけ凝った設定を温めていたのなら熱くなるのも理解できるが、だからといってハイそうですかと安易に頷くわけにはいかなかった。

 興奮したように捲し立てる彼女……鮫島(さめじま)アビ子の言葉を要訳すると、「鍔姫というキャラを主軸とした新しい脚本で舞台化してほしい」ということになるのだろう。それは様々な要因から難しいと言わざるを得ない。雷田(らいだ)澄彰(すみあき)はアビ子を刺激しないよう言葉を選びつつ、何とか穏便な方向に持っていこうと説得を開始した。

 

「先生のお気持ちは理解できますが、既に公演まで一ヶ月を切ってしまっているんです。ここから新たに脚本を作り直して、となると稽古期間は下手をすれば一週間程度しか確保できなくなってしまうでしょう。如何にララライが一流の役者の集いといえど、流石にそのスケジュールは現実的ではありません」

「問題ありません、既にストーリーは一から十まで私の頭の中にあります。これからすぐに脚本作りに取り掛かれば数日で用意できるはずです」

 

 その言葉を聞いて血相を変えたのは吉祥寺(きちじょうじ)と共に同行していたアビ子の担当編集者だった。さもあろう、何せアビ子が持っている連載は週刊誌だ。常にギリギリのスケジュールの中でやり繰りしているというのに、舞台用の脚本作りなどに費やせる時間など一秒たりとも存在しない。今回の視察とて殺人的スケジュールを更に切り詰めてやっとの思いで捻出されたものなのだ。

 

「ダメですよアビ子先生! 次の連載までもうあまり日数がないんですから!」

「舞台化企画のためということでしばらく休載します。これまで一度として休載したことないんだから偶には良いでしょう?」

「良いわけないです! 先生は今や日本で最も売れてる漫画家なんですよ!? それが休載だなんて、かかる損失は目を覆うほど──」

「……あなたが鍔姫関連の設定を没にしてなければこんなことにはならなかったんですけどね」

「え゛ん゛っ゛!゛」

 

 轟沈した担当編集を足蹴にしたアビ子は再び雷田に向き直る。その眼差しを正面から受けた雷田は息を呑んだ。

 

(な……なんて真っ直ぐな目だッ! 自らの選択に一片の迷いも抱いていない、透徹として曇りない眼差しッ! 本気だ……アビ子先生は本気で脚本を丸々作り直そうとしている……ッ!)

 

 アビ子の本気の眼差しを受けた雷田は覚悟を決める。無論、完全に説得を諦めたわけではない。冗談でも何でもなく、公演までもう日数もないこの状況で完全新規の脚本など狂気の沙汰だ。

 それでも最悪を想定して動かなければならないだろう。雷田にその覚悟を抱かせるだけの凄味が彼女にはあった。

 

「アビ子先生。先ほどあなたは数日もあれば脚本は作れると仰いましたが、演劇の脚本とはそう簡単にできるものではありません。今の脚本だって、既に原作というストーリーがあった上で完成には相応の日数がかかっています。いくらGOA(ゴア)先生が優れた脚本家とはいえ、僅か数日でというのはあまりにも……」

「いいえ、誰かに作ってもらうつもりはありません。()()()()()()

「……今、何と?」

「私が脚本を作る、と言ったんです。そのために休載するんですよ。私が直接脚本作りに関われば、あんな伝言ゲーム紛いの面倒な手順を踏まずに済むでしょう?」

 

 ジロリと既存の脚本を睨むアビ子。その目には隠しようがないほど明確な怒りがこもっている。

 

「そもそも何なんですかこの脚本? このキャラはこんなこと言わないし、こんなことしないってのばっかり……! ()()()()()はこんな馬鹿じゃないんですけど!」

「……!」

 

 その言葉にサッと顔を青褪めさせるGOA。自らの脚本がこれ程までに原作者の怒りを買っていたとは思っていなかったのだ。

 脚本作りの過程で幾度も細かな改稿作業(リライティング)を要求されたため、草案の時点では問題も多かったのだということは理解していた。しかしそこから丁寧に改稿を重ね、GOサインが出たことで一先ず原作者も納得したものと思っていたのだ。

 

 しかし現実はそうではなかった。怒りの目で脚本を睨むアビ子からは憤懣遣る方ないといった様子が如実に感じられる。

 原作者の意図を上手く汲めなかった自身の責任だ。そう感じたGOAは腹を括ると、アビ子の前に進み出て頭を下げた。

 

「先生……ご希望に沿わない脚本を上げてしまったことをまず謝らせて下さい。ご指摘頂ければ今からでも直すところは直すつもりです」

「あなたがこの脚本書いた人なんですね……直すところは直す? 直すところだらけですよ! 全部です全部! 別に展開を変えるのは良いですけど、キャラを変えるのは許せない! こんなものは私の東京ブレイドじゃありません!」

 

 何もアビ子は過去に没となったネタを使いたいがためだけに新規の脚本を要求しているわけではない。そもそも今の脚本に不満が多く、端からそれについての抗議をするためにここまで赴いたのだ。

 そんな折にシオンの異常なオーラを目の当たりにしたことで、アビ子の考えは完全に定まってしまった。どうせ全てを作り直すのなら、全く新しいシナリオで脚本を作ろうがかかる労力は同じであると。

 

 そんなわけがない。原作者が直々に脚本制作に携われば傑作が出来上がるというのであれば、脚本家などという存在が必要の下に生まれるわけがない。

 漫画と演劇では媒体(メディア)としての性質がまるで異なる。表現技法から何まで全てが別物なのだ。今回のように漫画を原作とした演劇を行うのであれば、漫画的表現を演劇専用のものに最適化してやる必要がある。そこに求められる表現的翻訳、取捨選択の是非は脚本家だからこそなし得るものなのだ。

 

(だけど、そんな正論を説いたところで先生が納得してくれるとは思えない……)

 

 正論はどこまでいっても正論でしかない。アビ子は論理(ロジック)とは別のところで不満を感じているのだ。そうである以上、根本的に彼女の最大の不満点、漫画を演劇に落とし込む上で切り捨てた部分をどうにかしないことには真の意味で理解を得ることはできないだろう。

 

 そして原作者の理解が得られない限り、公演を行うことは()()()できない。

 

「一から脚本を仕上げるとなれば流石の先生でも一日二日で終わるとは思えません。休載も一度で済めばいいですが二度三度と続けば方々に影響が……編集部的にもアレでしょう? ねっ?」

「いやもう本当に……」

「絶対やります。じゃなきゃこの劇の許諾取り下げます

「え゛ん゛っ゛!゛」

 

 そう、原作者には「著作者人格権」というものがある。著作者の人格的利益が侵害されることがないよう保護する権利の総称であるが、その中に存在する「同一性保持権」によって著作者の意に反した内容や題号の無断改変は行えない決まりになっている。

 つまり“演劇に落とし込むためのやむを得ない改変”であっても、原作者の意に沿わない以上は“同一性保持権を侵害する改変に当たる”として公演を行うことができなくなってしまうのだ。この権利を行使するかどうかは権利を有する著作者次第ではあるが、この様子を見る限りアビ子はその行使を躊躇わないだろう。

 

 原作を使()()()()()()立場にある以上、他ならぬ原作者の著作物に関する権利を侵害することだけは絶対にできない。

 さりとて今からアビ子に脚本作りの一切を任せることはあらゆる面から憚られる。稽古期間の確保もそうだが、何よりG()O()A()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 

 何故ならアビ子には舞台用の脚本を作った経験がない……否、もっと言えば演劇がどういうものか全く理解していない可能性が高い。彼女は確かに日本有数の素晴らしいクリエイターだが、どこまでいっても漫画家でしかないのだ。同じ歌唱という分野であっても演歌とオペラでは求められる技術が全く異なるように、演劇というステージにおいて“漫画家鮫島アビ子”の技術は高確率で無用の長物と化すだろう。「原作との齟齬はあれど、舞台化に当たって最適化された演出」の脚本と、「原作との齟齬はないが、演劇としては不適格な演出」の脚本とでは、果たしてどちらが良いものか。

 

「…………わかり、ました。先生の仰るようにしましょう」

 

 苦渋の決断である。それでも雷田は、原作者の意思を尊重することを選択した。既に広告まで打ってしまった公演の中止だけは絶対に阻止しなければならないからだ。

 

(けど、タダで折れるつもりはないぜGOAちゃん!!)

 

 無念そうに、だが仕方がないといった様子で目を伏せるGOAに向かって内心で声を上げる雷田。アビ子の要求は一部においては正当なものだが、一つだけ彼女自身のエゴが存在している。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……こればかりは元々の契約にはない、アビ子の我儘でしかない要求なのだ。交わされた契約はあくまで「原作における渋谷抗争編を題材とした舞台化企画の許諾」であって、「原作者しか知り得ない物語の舞台化要求」は明確なアビ子側の契約違反に当たる。

 

 であれば付け入る隙はある。向こうの無茶な要求を飲む以上はこちらの要求も飲んでもらわなければ道理が合わない。雷田は汗ばむ額を服の袖で拭いながら、不敵な笑みを浮かべてアビ子を見据えた。

 

「ただし条件があります。それはGOA先生を脚本作成のメインに据えることです。アビ子先生には原作者視点からのアドバイザーをお願いしたい」

「ら、雷田さん……?」

「……この人を、ですか?」

 

 アビ子は不満顔でGOAの横顔を睨む。

 だがアビ子は知らないのだろう。GOAという若き脚本家が如何に優れた()()()であるか。

 

 ゼロから物語を生み出す作家と、既存の物語を舞台脚本に書き換える脚本家。確かに創作者(クリエイター)としての格を争うのであれば前者に軍配が上がることだろう。しかし何度も言うように漫画と演劇ではメディアとしての性質が大きく異なる。漫画という二次元上に展開される現時性と線上性の複合芸術を、演劇という三次元上に背景と音を以て織り成す複合芸術に置換するのには、想像を絶する知識量と繊細なセンスが要求されるのだ。

 

 その点において、GOAは雷田の知る限り五指に数えられる程の優れた脚本家だった。演劇とは舞台装置や照明、音楽、音響などを有効且つ複雑に組み合わせた総合芸術であり()()()()である。今回GOAが仕上げた東京ブレイドの脚本は舞台装置とシナリオが高レベルに噛み合ったプロの仕事だった。確かに原作視点に立てば指摘事項も多かったことだろうが、演劇として見れば文句なしの仕上がりだったのだ。

 

「アビ子先生、お言葉ですがGOA先生は紛れもないプロの脚本家ですよ。演劇というコンテンツに用いられる芸術分野は多岐に渡ります。音楽や舞台音響、舞台照明や舞台美術、舞台機構、時には観客席側も含めた劇場内空間のデザインまで考慮した上でシナリオを作る必要があります。GOA先生はこれら全てに精通したプロの舞台脚本家なんです。今回彼が上げた脚本はそれら演劇の性質に最適化した結果のものであって、断じて原作を蔑ろにしたものではないんです。そこだけは信じて頂きたい」

「プロ……」

 

 アビ子とてプロの一人だ。故にこそプロの仕事に素人が口を挟むことの愚は承知している。

 確かにアビ子は演劇に関しては素人同然である。自著を原作としているため無意識に漫画の延長に考えていたが、雷田の言う通り舞台装置の特性や演出に関する知識についてアビ子は全くの無知だ。

 

(……怒りに任せて「創作者としてのセンスがない」とか口走らなくて良かった……)

 

 雷田の熱い説得を受けて少し冷静さを取り戻したアビ子は、無意識の内に相手を格下のクリエイターだと見下していた己を恥じた。

 

 無論、アビ子は文句なしに超一流のクリエイターである。売上部数5000万部突破というのは紛れ当たりで出せるような数字ではない。そんな彼女と比べれば世のクリエイターの九割は格下になるだろう。雷田やGOAの態度も、彼女が権利者だから下手に出ているのではない。本気でアビ子が尊敬に値する超一流の作家だからこそ彼女を上位者として扱っているのだ。

 

 しかし、アビ子がプロの漫画家ならGOAもまたプロの脚本家である。

 アビ子には己こそが真のクリエイターであるという強烈な自負があった。この世の創作物の九割は駄作であり、従ってこの世のクリエイターの九割は三流。信じられるのは己の才覚だけであると。だが同時に、その論理が通用するのは漫画の世界だけであるという自覚もあった。どこまでいっても自分は漫画家でしかないのだと。であれば、漫画家でしかないアビ子が演劇脚本のプロの仕事を全否定するのはおかしな話だ。

 

「……お話はわかりました。でもやっぱり、私はこの脚本をそのまま認めることはできません。この脚本にはうちの子達の“柱”がない」

「分かっています。ですが今回の一件に関しては脚本家ではなく、むしろ僕ら仲介役にこそ責任がある。アビ子先生とGOA先生の間に立ち両者の意思の伝達を担っていた僕らが至らなかったからこそ起きた事態であると言えるでしょう」

「雷田さん、それは……!」

 

 声を上げようとしたGOAを雷田は目線で制す。

 そう、原作者と脚本家の間には多くの人間が仲介する。原作者の意思を受け取る担当編集がまず存在し、担当編集から原作者の意思を伝達される権利管理者(ライツ事業者)がいる。そしてライツを通して原作者の意思は制作側に伝わり、そこから更に脚本家側の担当マネージャーを介してようやく脚本家本人に原作者の言葉は届くのだ。だがこれだけ多くの人間が間に入れば、脚本家の下に届く頃には原作者の意思は元の形を保っていないことが多い。まるきり伝言ゲームの様相を呈していると言っていいだろう。

 

 無論のこと彼らは不必要に介在しているわけではなく、その誰もが必要によって存在している人間であり、それぞれがメディアミックスにおいて重要な役割を担っている。

 故にこれから雷田が提案しようとしていることは下策中の下策。自身を含む仲介役の仕事を蔑ろにするに等しい暴挙である。

 

 それでもこれしかないと。その確信のもと、雷田はその提案を口にした。

 

「アビ子先生、ここに都合よく現在公開中の舞台『SMASH HEAVEN』のチケットがあります」

「本当に都合がいいですね」

「これを差し上げますので、明日の公演を是非ご覧になってみて下さい。その上で新・東京ブレイドの舞台脚本の制作に入りましょう」

 

 

「クラウド上のテキストデータをリアルタイムで共有し、それを通話しながらその場で作成・修正していく──」

 

「プロデューサーとして許可できるギリギリの暴挙──オンライン脚本作り(シナリオライティング)を実行します!」

 

 

「……良いでしょう。私もプロの仕事を信じます」

 

「それで今より良い脚本になるというのならやりましょう。ただし、そうでないならこの人には即刻降りてもらいます!」

 

 

「え?」

 

「…………え?」

 

 

 不敵な笑みと共にチケットをチラつかせる雷田。不遜な眼差しでそれを受け取るアビ子。ひたすら困惑するGOA。

 結局この日は明確な解決を見ることなく、されど決定的に破綻することもない曖昧な状態で解散の運びとなる。

 

 決戦は後日に持ち越された。オンラインミーティングアプリを使用した、原作者と脚本家の対面でのシナリオライティング。これは雷田にとっても賭けであり、両者の相性次第では完全な断絶を引き起こす恐れもある危険な一手であった。

 だが、このままGOAを降ろし演劇素人の漫画家に脚本作成の全てを託すという最悪の事態を迎えるよりはマシなはずだ。下手に時間を置いて役者達の稽古期間が更に短くなってしまうのを防ぐという狙いもあった。本当に完全新規の脚本になるのであれば役者にかかる負担は馬鹿にならない。できる限りの時間は確保しておきたかった。

 

「それでは……早速始めましょうか」

 

 ごくりと唾を飲み込み、雷田は開始の音頭を取る。

 そして、前代未聞の脚本作りが幕を開けた。

 

「昨日送った資料は読んでいただけましたか?」

「勿論です。お陰で鍔姫というキャラクターについてそれなりに理解を深められたと思います。ただやはり作品として触れたわけではないので、完璧にキャラの骨子を掴めたとは言い難いですが……」

「それはこちらで適宜修正していきます」

「お願いします。差し当たってはストーリーラインですね。本誌における渋谷抗争編のイフ……いえ、本来であればこちらが本筋になる予定だったんでしたか」

「ええ。編集から没食らったお陰で見事にお蔵入りになりましたが……」

「あはは、まあこの時点でこういう設定のキャラを持ってくるのは連載を長続きさせたい編集的には受け入れ難いでしょうね。中盤の盛り上がりとしては過剰ですし、これを終盤とするには早すぎる。恐らくアビ子先生の想定では東京ブレイドの完結はもっと早かったのでは?」

「……すごい、よく分かりますね」

 

 意外にも両者の打ち合わせは穏やかな雰囲気で始まった。

 GOAがお世辞でも何でもなく、本心から東京ブレイドという作品が好きだという気持ちが言動から伝わってくるからだろう。事実としてGOAは連載初期から物語を追いかけている原作ファンだった。そんな彼は今、本来であれば一生日の目を見ることがなかったであろう原作者秘蔵のお蔵入りストーリーを目の当たりにしているのである。ファンならばこれで興奮しないはずがなかった。

 確かに魂を込めて書き上げた脚本を否定されたのは悲しかったし悔しかった。だがこうして汚名返上の機会はやって来てくれた。ならば雑念は捨て、尊敬する作家の物語を最高の脚本に仕上げるべく全霊を賭すだけである。

 

(ありがとうございます、雷田さん)

 

 雷田の熱い説得がなければ、かような千載一遇の機会が巡ってくることはなかっただろう。怒り心頭だったアビ子を宥めるのみならず、こんな場まで用意してくれた彼にGOAは心からの感謝を告げた。

 

(……この人、ホントにプロの脚本家なんだ)

 

 一方、GOAから向けられる尊敬の念に毒気を抜かれたアビ子は、脚本作りを開始してすぐに彼の実力を見直し始めていた。

 

「……なので、鍔姫という強大な、そして共通の敵が現れたことで新宿と渋谷の勢力は一時的に手を組むことになるんです」

「なるほど。しかし鞘姫は良いとして、刀鬼がそう簡単に同盟に賛同するでしょうか? 確かに素直に同盟が成立してくれるのは劇のテンポ的にありがたいですが、それでキャラの柱が損なわれるのは先生の本意ではないのでは?」

「構いません。刀鬼は鍔姫が迫害される切っ掛けとなった忌み角を祖とする鬼族の出自ですから、この場面では私情より彼女を止めることを優先する方が自然だと思います」

 

 GOAはアビ子が想像していたより遥かに東京ブレイドのキャラクターについて深く理解していた。多少の解釈の食い違いはあれど、概ねアビ子が描いた通りのキャラクター像そのままの姿をイメージしてくれていることは話していてすぐに理解できた。故に初めて目にするストーリーであるにもかかわらず、話し合いは驚くほどスムーズに進んでいった。

 

「そういう背景があるのであれば、刀鬼のこのセリフはこの場面に持ってきた方が良いかもしれませんね」

「えっ? でもここで長々と心情を語るのは冗長に感じられませんか?」

「ちょっと舞台の仕組み分からないとイメージし辛いかもしれないですが、ここ暗転からのスクリーン移動が心情とマッチすると思うんですよ」

「なるほど……」

 

 そう言われ、アビ子は舞台上で刀鬼が自らの痛切な心情を吐露するシーンを想像してみる。

 

 己が一族の祖とそれに纏わる血に濡れた歴史。戦いに生きる刀鬼は鬼族の血を誇りとしていたが、明かされた負の側面に彼は動揺を隠せない。

 暗く陰惨な血の歴史に苦悩する若き剣士の独白は、暗転するスクリーンとそれに合わせて移り変わる舞台装置の演出とこの上なくマッチすることだろう。アビ子はその様を容易に想像することができた。何故なら……

 

「そういえば、『SMASH HEAVEN』の舞台観ました。雷田さんに勧められたやつ。あれ、GOAさんが書いた脚本の劇なんですよね?」

「あー、そうです。どうでした?」

「その……大分好き、でした」

 

 先日観劇した舞台はアビ子が抱いていた従来の演劇観を破壊するものだった。

 ステージアラウンド……それは周囲を取り囲む360度全てに展開されるステージと、その中心に巨大な円形の観客席を配置した全く新しい形の劇場である。観客席そのものが回転するという驚くべき仕掛けの施されたその劇場は、舞台、映像、音楽、照明を画期的な方法で融合させた“体感型”シアターとでも言うべき代物で、アビ子が想像していた高校の体育館でやるような劇の延長にあるものとは明確に一線を画していた。

 

 従来の演劇とはあまりに違いすぎて、実際に見ないことには劇の様子を想像することすら難しいだろう。今し方アビ子がGOAの説明を受けてその様を思い浮かべることができたのは、直にステージアラウンドの舞台を体感したからだ。

 体感したことでようやく雷田の言っていたことがアビ子にも理解できた。ステージアラウンドという舞台機構に精通するGOAは紛れもない一流の脚本家だ。ちょっと演出を齧っただけの素人にあの劇場は扱いきれまい。無論のことそれはアビ子も例外ではなく、きっと自分一人で脚本作りを行っていれば目も当てられないことになっていただろう。

 

「……はは! 普段はああいうの書いてるんですよ! お気に召して良かった!」

 

 尊敬するクリエイターから自分の脚本を認められたGOAは会心の笑みを浮かべる。自分の作品は我が子のようなもの。それを褒められて嬉しくない人間などいない。

 同様に、我が子同然の作品を汚されて怒りを覚えないクリエイターもまた存在しない。だから自身が上げた脚本を見てアビ子が怒りを露わにした時は心臓が凍りつくような心地だったのだ。

 

 だが、それはディスコミュニケーションに端を発する些細な行き違いに過ぎなかった。こうして対面し互いの価値観を分かち合い、その実力を認め合った今、両者の間に存在していた(わだかま)りは完全に過去のものとなった。

 

「『東ブレ』の舞台も是非あの感じ出して下さい」

「良いんですか? 大分雰囲気変わっちゃいますよ?」

「良いです良いです、得意なことはどんどんやりましょう。その方がきっと素敵な作品になると思うんです」

 

 今自分達は同じ方向を向いている。

 その確信が、二人のクリエイターの創作意欲に火を点けた。

 

「じゃあココも舞台効果で済ましちゃって……」

「ここの台詞もカットでいいですよね」

 

「ここも要らない」

 

「ここも演技でどうにかなりますよね!」

「あはは、攻めてますね!」

 

「ここもカット!」

「カットカットカット!」

 

「あははは!」

「あはははは!」

 

 アビ子が書いた脚本の草案を、GOAが脚本家として演劇用のものに修正する。演出に偏りすぎてキャラの柱がぶれそうなら、アビ子がそれを原作者視点から修正する。そしてノリにノった二人はどんどん余分な台詞を省いていく。

 

 それはクリエイターとしての信頼故だった。アビ子は舞台演出に知悉したGOAの腕前を信頼するが故にどんどん台詞を省く。GOAもまた原作の魅力を信じるが故に、説明台詞よりも原作の雰囲気を再現する演出に重きを置いて少しでも冗長に感じる台詞があればどんどん省く。

 そして何よりも役者達を信頼していた。彼らの実力ならば、説明台詞に頼ることなく、演技によって過不足なく原作の魅力を再現してくれるであろうと。

 

「鍔姫というキャラクターを再現するに当たって重視してほしいのは、怒りと哀しみ、憎悪を煮詰めたような暗く底知れないオーラです。彼女はこれまで出会ったどの敵とも一線を画す強敵としてブレイド達の前に立ちはだかるんです」

「なるほど、それなら確かに桐生さんは適役ですね。では尚のこと台詞は省き、彼の存在感を活かす方向で進めていきましょう!」

「はい! ……ん? 彼?」

 

 キラキラとした純粋な目で地獄への片道切符を切る二人。

 その様子を、雷田は口を挟む隙すら見出せぬまま戦慄と共に見守っていた。

 

(やっぱりこうなった! 何となくこうなるんじゃないかなーって思ってたんだよねチクショウ!)

 

 通話越しに聞こえる程の激しいタイピング音が絶え間なく連続し、凄まじい勢いで脚本が形を成していく。

 それを必死に目で追う雷田は、出来上がっていく脚本のあまりの尖り具合いに戦慄を隠せなかった。

 

(クリエイターが団結するとトガッた作品になりがちなんだよなぁ! 革新的な設定や展開を見事にストーリーとして成り立たせる鬼才・鮫島アビ子は言わずもがなだけど、GOAちゃんもあれでかなり癖の強い脚本が持ち味のセンス型クリエイター! この二人の才能が悪魔合体してタダで済むわけがなかった!)

 

 編集のスピードが速すぎて全てのシナリオを詳細に精査できたわけではなかったが、当初の脚本と比較して圧倒的に説明台詞が削られまくっているのは見て取れた。ただでさえ本来の公演内容とはストーリーからして別物なのに、これではあまりに役者にかかる負担が大きすぎる。

 

(でも折角意気投合してるのに、ここで口出すのもなぁ……そもそもこれ以上脚本作りに割ける時間なんてないし、それならこのままさっさと完成してもらって一日でも多く稽古期間を確保した方が総合的にはプラスかなぁ……)

 

 暴走しているようにも見えるが、決して悪い作品ではないのだ。むしろこれが上手くいけば既存のどの舞台にも見劣りしない素晴らしい劇になることは目に見えている。一流の漫画家と一流の脚本家による合作だ。悪い作品になるわけがなかった。

 問題は、一躍劇の中心人物に抜擢されてしまった役者が、過去類を見ないレベルの特級の劇物であることにある。

 

 大丈夫かなぁ? 死人とか出ないよな……と不安に苛まれる雷田。

 それでももうこの脚本で行くしかないわけで。どうにか無事に公演を終えられることを天に祈りつつ、雷田は稽古に関する一切を金田一に丸投げすることを決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはまた……とんでもない脚本が上がってきたわね……」

 

 満を持して渡された脚本を流し読んだ有馬かなは、様変わりした内容を見て冷や汗を流す。

 演劇の()の字も知らないような人間が脚本を手掛けると聞いて戦々恐々としていたが、蓋を開けてみればその仕上がりは想像の遥か上を行くものだった。上は上でも斜め上とでも言うべきものだったが。

 

「制作段階でお蔵入りになった秘蔵シナリオを原作者監修の下演劇用に書き下ろした新規ストーリー……と言えば聞こえはいいけど、こっちは全く新しい背景と物語を一から伝える必要があるわけで……なのに説明台詞はゴリゴリ削られてて、やたら“動き”だけでどうにかしなきゃいけないシーンが多い」

 

 原作にない物語ということは、“原作”という共通認識による観客側の補整に期待できないということ。世界観は変わらないため、主人公ブレイドを筆頭に既出のキャラクターや伝説の刀などの設定周りに対する改めての詳細な説明は不要だろうが、新キャラの鍔姫やそれに関連した新しい設定については劇の中で説明する必要がある。

 しかし演劇はその性質上、漫画やアニメと比較し短時間に伝えられる情報量には限度がある。かと言って長々と説明に台詞や尺を使えばテンポが悪くなるため推奨されない。説明台詞や原作知識という共通認識に頼ることなく、演技のみを以て観客の()()()()()()()()()──そんな高レベルの芝居が要求されるということだ。

 

「要するに、役者の演技に全投げのとんでもないキラーパス脚本じゃない。失敗したら責任は全部こっちのせいってワケね。大分無茶振りが過ぎるんじゃないかしら?」

 

 しかしながら、そう苦言を呈すかなの口許は不敵に吊り上がり、頬は興奮によるものか仄かに上気していた。

 何故ならこれは制作側が役者の実力を信頼していなければあり得ぬ脚本だからだ。君達ならばその身一つで余すところなく物語を伝えることができるだろう──そう言われているに等しい、役者にとってはこの上なく名誉な脚本である。

 

「私はこっちの方が得意!」

「やっぱり演技は身体で語ってナンボでしょ!」

「これは劇団ララライの真のトップが誰か証明する機会が来たな……!」

 

 培った技術を求められて喜ばぬプロなど存在しない。かなだけでなく、ララライの役者達も好意的に新しい脚本を受け入れた。

 一方、ララライの役者陣ほど演技の実力がないことを自覚する面々は彼らのように素直に喜ぶことができないでいた。特に鳴嶋(なるしま)メルトの反応はそれが顕著で、彼は顔色を真っ青にして項垂れていた。

 

「マジかぁ……こんなんできる気しねぇ……。本番まであと半月だろ? 間に合う気がしねぇよ……」

「……確かに、これはかなりキツいな」

 

 当初の「渋谷抗争編」の脚本を修正したシナリオであれば前のものから流用できる部分もあっただろうが、これはストーリーから登場人物の台詞まで全てが完全な別物である。当然全て覚え直す必要があるため、役者歴の短いメルトにとってこれはかなりの苦境であると言える。

 メルトより経験のあるアクアにしても、そもそもの地力がララライの面子と比較し一段劣る自覚のある彼にとっては純粋に要求される演技レベルが高いという点において苦戦が予想される脚本だった。

 既存の物語をなぞる脚本であれば、多少説明不足でも観客は原作知識を元にそのシーンを補完してくれるだろう。しかしこれは原作にはない物語。原作ファンである観客にとっても未知の脚本となる。その上でこれが確かに「東京ブレイドである」と観客に納得させるためには、相応の“説得力”を持った演技が役者には求められるだろう。

 

(これは一筋縄ではいかないな……)

 

 自身の実力が一流には及ばないことを知るアクアは、これから待ち受ける困難を思いため息を吐く。

 その一方、メルトやアクアとは異なる理由で苦悩を露わにする人物もいた。

 

「な……ななな、何コレ!?」

 

 一枚の用紙を握り締めワナワナと震える黒川あかね。彼女が手にするのは、今回の脚本を上げるに当たって原作者アビ子が直々に描いた、新キャラ「鍔姫」のキャラビジュアルだった。

 原作には存在しない全く新しいキャラである。設定だけでなくキャラビジュもあった方が役作りの助けになるだろうという、純粋な親切心によるものだった。

 

 しかし、問題はイラストそのものにあった。一体何事かとあかねの後ろから用紙を覗き込んだ鴨志田(かもしだ)朔夜(さくや)は、そこに描かれたキャラビジュを見て目を丸くした。

 

「エッッッ」

「何なのこれ何なのこれ!! 服装が巫女服だか中華装束だか分からない謎デザインなのはまあフィクションだから良いとして、何なのこの用途不明の胸部の穴!! あと鼠径部(そけいぶ)が見えるレベルのエグいスリット!! こんなのもうただの痴女じゃない! フィクションの人間とはいえやり過ぎ! 人の彼氏を何だと思ってるの!?」

「女だと思ってるんじゃねぇかな」

 

 憤慨するあかねに冷静にそう返す姫川大輝。「教唆犯」と書かれたプレートを首から吊り下げている彼の言う通り、アビ子は普通にシオンのことを女の子だと思っていた。

 とはいえ、鍔姫という人物は新キャラは新キャラでもプロットの段階ではアビ子の構想の中にあった、原作者視点では既存のキャラである。別にシオンにドエロい格好をさせたいがためにこういうデザインにしたのではなく、元々がこういう服装の人物であるというだけだった。

 

 そして公衆の面前でドエロい格好をすることが確定した、現在「私がやりました」と書かれたプレートを首から吊り下げているシオンは密かに安堵していた。

 別にドエロい格好に安堵していたわけではなく、出演者の大半が新しい脚本を好意的に受け入れていたことに安心したのだ。何せこの事態はほぼ自分のせいで起きてしまったようなものである。脚本が上がるまでの数日間をしわしわピカ○ュウのような表情で過ごしていたシオンだったが、蓋を開けてみれば脚本の内容は至ってまともなものだった。要求される演技レベルは跳ね上がってしまったが、それがむしろ役者達のプロ意識を刺激したようで、誰もが怒るどころか楽しげに笑っているほどである。

 

 差し当たっての問題は跳ね上がってしまった脚本難易度についてだが、ラスボス的立ち位置の配役となったことで悩みの種だったオーラ暴発の心配をする必要がなくなり、シオンにとっては追い風となっていた。ラスボスという立場上怖いぐらいの方が都合が良く、これはむしろ彼のオーラありきの配役であるとさえ言える。これならばオーラを抑える必要はなく、匙加減にだけ気を配っておけば問題ない。存分に感情演技に傾注することができるだろう。

 

「頭が痛ぇ……」

 

 他方、演技指導を担当する金田一は顔色をメルトと大差ない蒼白に染め、重いため息を吐いて頭を抱えていた。

 

 脚本が新しくなったのは良い。完全新規であるため全てが一からのスタートとなってしまうが、脚本の内容自体は極めてまともである。金田一とてララライの役者、これならばむしろやり甲斐を感じるぐらいだ。

 しかし、新シナリオの目玉であるラスボス・鍔姫……これが唯一にして最大の頭痛の種だった。シオンのオーラを存分に活かす役柄となっているこのキャラは、それはもう編集が没にするのも納得の滅茶苦茶さだった。

 

 下手をすれば連載最新話の主要な敵キャラよりも強いのではないかという盛りに盛られた設定。それを裏付けるかのように舞台上を縦横無尽に躍動させる脚本。所々「これは劇で表現できるレベルじゃねぇだろ」と言いたくなるような動きが指示されている部分もある。何だよ「ステージの端から端まで一瞬で移動し軌道上の剣士を薙ぎ倒す」って。あのクソ広いステアラの板をドタバタ走らせろってか?

 何より金田一を悩ませたのは、シオンのオーラを有効活用する意図の細かな指示の数々だった。台本を見ると鍔姫の台詞の後には必ずアビ子によるものであろう但し書きが付いており、「ここでオーラを出して」とか「ここはオーラを控えめに」とか「ここでオーラを最大に!」とかの指示が書き込まれている。

 

(何が「オーラを最大に!」だよふざけんじゃねぇ! それやったらもれなく劇場が阿鼻叫喚だよ! 観客からクレーム来るわ!)

 

 当然、オーラの強弱を指導するのは金田一の役割となる。それはつまり、稽古の中であの身も凍るようなオーラを何度も浴びる必要があるということ。ストレスで禿げるわ。

 

(帰りてェ……)

 

 早くもキリキリと鋭い痛みを発し始めた胃を押さえ、金田一は台本の表紙を睨む。

 そこに記されていたのは「東京ブレイド」の表題。しかしタイトルを飾る炎のエフェクトは原作の明るい色調のものから変更され、どこか暗い印象を抱かせる赤と黒で配色されたものに変わっている。そしてタイトルロゴの下部に配された副題もまた、どこか禍々しさを感じさせるフォントで記されていた。

 

 その題号は「渋谷抗争編」改め──「血鬼の恩讐編」。

 演技経験が皆無に等しい新人タレントを主演級に据えた、異色の舞台が幕を開ける。

 

 


 

雷田(らいだ)澄彰(すみあき)

 アビ子先生がチケットを受け取り、条件付きでオンライン脚本作り(シナリオライティング)を受諾した時点でタイマーストップ。記録は45分51秒0……世界最速記録です! 私しかこのレギュを走ってる走者がいないため私が世界一(隙間産業)

 

 茶番はさて置き、この東京ブレイド編におけるMVPが誰かと問われれば満場一致でその名が挙がるだろうレベルの大立ち回りを披露した敏腕プロデューサーが彼である。新規脚本の要求という隙を見せたアビ子の手落ちはあったが、怒れる彼女に要求を飲ませ、殆どタイムロスを発生させることなくアビ子とGOAのディスコミュニケーションを解決し、僅か数日で脚本を完成に導いたその手腕は並外れている。まさに一流のRTA走者の貫禄であると言えるだろう。お前がナンバーワンだ。

 

 ちなみにここで都合良くテニプリのパチモンみてぇな劇のチケットを持っていないと大幅なロスとなってしまいます(n敗)

 

鮫島(さめじま)アビ子】

 契約外の要求をしてしまったことで原作ほど強く出られず、雷田の熱い説得もあり一先ず矛を収めチケットを受け取ることに。「見るだけ見てやるか……べ、別にアンタの言葉を信じたわけじゃないんだからねっ!」とテニプリのパチモンみてぇな劇を見に行ったら普通に面白くてドハマりした。素直可愛い。

 原作よりGOAを見直すまでが早かったため、大幅なタイム短縮となり早期に脚本作成に取り掛かれた。そしてGOAの才能と悪魔合体を果たしたことで原作に負けず劣らぬ見事なキラーパス脚本が完成した。「役者さんが演じてるシーンが目に浮かぶようです!」じゃねンだわ。

 

GOA(ゴア)

 フウウウウウウ〜〜〜……

 わたしは……今放送中のアニメの「推しの子二期」ってありますよね……

 あの第十三話……リアタイで見た時ですね……

 あのGOAさんがアビ子先生に「クリエイターとしての才能を全否定された」シーンの彼の「絶望した表情」……

 あれ……初めて見た時……

 なんていうか……その……下品なんですが……フフ……下品なんで言うのやめときますね……

 

 というわけで当初の予定では原作のように曇らせることなく、されど胃をダイレクトアタックする方向でアビ子に振り回される感じで行こうと思っていたのですが、尺というか話のTNPの問題でさっさと意気投合させちゃいました。アビ山にグ○シャされるGOA山みたいな展開も面白いと思ったのですが、それやると公演まで何話使うんだよってことになりかねないため没にしました。メンゴ☆

 

吉祥寺(きちじょうじ)頼子(よりこ)

 

「……あれ私の出番は!?」

 

 RTA走者雷田Pの隙のないチャートによりスキップされた可哀想な人。言うてこの人出しても原作と同じように〆切に追われながらアビ子と乳繰り合うだけで「じゃあ原作と何も変わんねぇじゃん」となるのが目に見えていたため敢えなくフヨウラ! となった。メンゴ☆

 

金田一(きんだいち)敏郎(としろう)

 吸引力の変わらないただ一つのシオンのお世話係。私は何故こうもこの人をイジメているんだろう……? 金田一さんイジメは程々にしてさっさと話を進めないといけないのは分かってるんだけど、俺はイケおじをイジメるのが大好きなんだ! このおじがイケおじだからチクショウ!

 

【姫川大輝】

 教唆犯。私が(そそのか)しました。

 

【桐生紫音】

 主犯。私がやりました。公衆の面前でドエロい格好をすることで(みそぎ)とする。

 

【星野アイ】

 

『ウォ────ッ!! セェ────ックス!! 私はセックスをするんじゃない!! 私が私自身が真のセックスになるんだァ────ッッッ!!!』

 

 推しの彼ピのドエロい格好が見れることが判明しテンション爆アゲの完璧(?)で究極(?)のアイドル。本編中では一言も出番がなかったがその裏では存在しないはずの性欲を爆発させてドッタンバッタン大騒ぎしていた。寝ろ。

 

鍔姫(つばき)

 原作者(わたし)のかんがえたさいきょうのオリキャラ。原作者が言ってるんだからこれは公式キャラです。イイネ?

 

 名前の由来は「“(さや)”姫の姉なんだから“(つば)”姫で。(つか)の方はこづか(小柄)で使っちゃったし」という安直なもの。姉妹揃って刀の刃部分とは関わりのない部位が由来となっている。妹と違いその胸は平坦であった。

 

 第一形態は「復讐者、鍔姫(つばき)」という名前で身の丈ほどもある大刀“神喰(かみは)み”を振るい接近戦を仕掛けてくる。本人は小柄だが得物が長いためかなりリーチがあり、半端な距離にいると容赦なく切り刻まれる。

 体力が五割を切るとムービーと共に「最後の末裔、鍔鬼(つばき)」に名前が変わり、何と“神喰み”を捨て肉弾戦を仕掛けてくるようになる。しかし行儀のよい振りをやめたこのどこかで見たような第二形態は第一形態の比ではないレベルで強く、伝説の刀を装備したブレイド達を散々に蹴散らしてしまう。

 それでも何とか力を合わせてこれを打倒するブレイド達。しかし完全に力尽きたと思われた鍔姫の身体に突如として異変が……?(ここで更にBGMが変わる)

 

 こづか? ああ、奴はもう荼毘に付したよ……修行はしたがハッキリいってこの戦い(ノリ)にはついていけない……

 ああ、そのほうがいい(無慈悲)

 






※微量のネタバレ注意です※



 いやぁ……15巻は衝撃でしたね……濃厚なゴロさなとアクかなとあかかなを原液でお出しされてひっくり返るかと思いました。カプ厨を悦ばせて食うメシは美味いか? 美味いだろうなぁ!?

 あとアイがナチュラルに人の心がなくて草生えた。そりゃカミキ君には嘘が通じないわけだからそう答えるしかなかったんだろうけど……もう少しこうなんというか、手心というか……って気持ちになりましたね。この世には優しい嘘というものもあるんやで?

 そして遂にアクアとカミキが真っ向対決……!? 何かもうカミキ君は以前のように純粋な悪役としては見れなくなってしまったのですが、かと言ってやってきた事が事ですし、果たしてどのような決着となるのか……座して12月を待つばかりです。まあその頃はシーズン的にそれどころじゃない可能性もありますが。





 あと何か……ニノが不穏すぎひん? ワンチャン真の黒幕の可能性を考えていた鏑木Pが映画監督志望のただのカワイイおじさんになってしまいましたし、ニノお前カミキとつるんで何しとん……? もしかしてアイにリョースケ君(けしか)けたのって……いや考えすぎかな……?
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