福岡県田川市の私立保育園で、園児をたたくなど複数の虐待が認められたとして、県と田川市は20日、保育園側に改善勧告を出しました。虐待に関わった保育士は10人に上り、そのうち2人はすでに懲戒解雇されています。

改善勧告を受けたのは、福岡県田川市の松原保育園を運営する社会福祉法人です。県と市によりますと、ことし8月に保育士が園児をたたく様子を園長が防犯カメラで見つけて、市に通報し発覚しました。

その後、県と市が10月17日まで特別指導監査を行い、7月18日から8月6日までの防犯カメラの映像を確認したところ、園に勤める保育士14人のうち10人が、園児を殴る、たたく、つねるといった虐待などに関わっていたことが確認されたということです。

保育士10人の行為は

発表によりますと、保育士10人の具体的な虐待は次の通りです。

保育士A
①運動会の練習中や昼食の時間などで、園児が指示に従わないことや、うまくできないことを理由に、殴る・たたく・頬をつねる・服を強く引っ張るなどの行為を繰り返し行っていた(身体的虐待)
②昼食やおやつの時間で、食べるのが遅い園児に対し、園児が嫌がっているにもかかわらず、強引に食べ物を口に押し込んだ(身体的虐待)
③運動会の練習中、上着の服のポケットに手を入れていた園児の手をたたき、園児の上着を脱がし、園児の上半身は下着姿のまま、その後も練習を続行した(身体的虐待・心理的虐待)
④園児の服や髪を引っ張り、保育室に隣接する物置に入れた(身体的虐待・ネグレクト)
⑤園児に対し「頭悪いんか」など、子どもの心を傷つける発言を繰り返し言っていた(心理的虐待)
⑥園児に対し威圧的に大声で叱責する行為を繰り返し行っていた(心理的虐待)

保育士B
①運動会の練習中や昼食の時間などで、園児が指示に従わないことや、うまくできないことを理由に、殴る・たたく・頬をつねる・服を強く引っ張るなどの行為を繰り返し行っていた(身体的虐待)
②昼食の時間、食べるのが遅い園児に対し、園児が嫌がっているにもかかわらず、強引に食べ物を口に押し込む行為を繰り返し行っていた。園児は食べきれず、口に入った食べ物を嘔吐(おうと)する場面もあったが、嘔吐したことに対しても激しく叱責していた(身体的虐待)
③園児に対し威圧的に大声で叱責する行為を繰り返し行っていた(心理的虐待)
④昼食の時間、食事を1つのトングで複数の園児の口に直接与えた(不適切保育)

保育士C
保育士Aと保育士Bが行った身体的虐待を確認しながら、これを放置していた(ネグレクト)

保育士D
保育士Bが行った身体的虐待を面前で確認しながら、これを放置していた(ネグレクト)
②昼食の時間、園児の背後から食べさせるという食事介助を繰り返し行っていた(不適切保育)

保育士E
保育士Bが行った身体的虐待を面前で確認しながら、これを放置していた(ネグレクト)
②昼食の時間、食事を1つのトングで複数の園児の口に直接与えるという食事介助を繰り返し行っていた(不適切保育)
③昼食の時間、園児の背後から食べさせるという食事介助を繰り返し行っていた(不適切保育)

保育士F
①昼食の時間、食べ物をこぼした園児に対し、威圧的に問いかけした結果、泣き出した園児の腕を引っ張り床に倒した。その後、ほかの園児のところに行き、後ろから頬をたたいた(身体的虐待)
②言うことを聞かなかった園児を別の保育室に連れていき、ベビーゲート内に乱暴に放り、お尻から落とした。園児はその後、激しく泣き出した(身体的虐待)

保育士G
①昼食の時間、隣に座っている園児にちょっかいを出している園児に対し、側頭部をたたき髪を引っ張った。園児はその後、泣き出した(身体的虐待)
②ほかの園児の頭を踏んだ園児の頬を後ろからたたき、さらに太ももを2回たたいた(身体的虐待)

保育士H
①ほかの園児の頭を踏んだ園児に対し、背中やお尻をたたいた。園児は反省の態度を示したが、さらに胸を小突き、背中をたたき、腰を小突いた(身体的虐待)
②言うことを聞かない園児のお尻をたたいた。その後、別の園児に対しても、園児が倒れる程度の強さでお尻をたたいた(身体的虐待)
③昼食の時間、食事を1つのスプーンで複数の園児の口に直接与えたほか、おやつの時間、保育士が食べているバナナを園児に直接与えた(不適切保育)

保育士I
保育士Jと関係者の不満を言っている中で、八つ当たりのように園児の頬をたたいた。その後、園児が舌を出したのか「ベーとかしません」と言いながら、頬をつねり、園児は後ろに大きくのけぞり泣き出した(身体的虐待)
②昼食の時間、食事を1つのスプーンで複数の園児の口に直接与えた(不適切保育)

保育士J
①おやつの時間、園児が保育士の方を向いてくしゃみをした際、「汚い」と大声で言った後、園児の頬を強く押し、園児は後ろに大きくのけぞった(身体的虐待)

園長は8月まで「気がつかなかった」

園長はことし8月の発覚まで、虐待や不適切保育には気がつかなかったと話しているということです。

関わった保育士のうち2人はすでに懲戒解雇されています。

県と市は11月20日までに、保育園に改善報告を求めています。

また、県と市は、年に1度行われている保育園の監査で虐待を見抜けるよう、方法の改善を検討したいとしています。

県・市の条例と国の指針に抵触

県や市の条例と国の指針に抵触するとして、指摘されたのは以下の内容です。

■虐待の禁止(県条例・市条例)
保育士10人が、以下の行為を行った。
△殴る・たたく・頬をつねる・服を強く引っ張る
△昼食やおやつの時間に、食べるのが遅い園児に対し、嫌がっているにもかかわらず強引に食べ物を口に押し込む
△園児に対し「頭悪いんか」など、子どもの心を傷つける発言を繰り返す
△園児に対し、威圧的に大声で叱責する行為を繰り返す
△ほかの保育士が行った身体的虐待を面前で確認しながら、これを放置
△食事の際、1つのトングやスプーンで複数の園児の口に直接与える
△食事の際、園児の背後から食べさせるという食事介助を繰り返す

■職員の一般的要件(県条例)保育所職員に求められる専門性(保育指針)
虐待を職員が把握していたにもかかわらず、当該保育士への注意や助言が行われず、施設長に報告・相談も行われなかった。

■保育所の社会的責任(保育指針)
子どもに対する威圧的な態度など、子どもの人権に配慮した保育が行われておらず、子どもの人格を傷つける行為が行われていた。

■職場における研修(保育指針)
「子どもの人権・人格の尊重に関する保育」の観点での保育の振り返りが不十分で、自己評価結果が職員間で共有されていないなど、子どもの人権に配慮した保育を行う組織的な取り組みが十分でなかった。

■保護者との相互理解(保育指針)
連絡帳や保育参観、定期的な保護者会がないため、保育所内での子どもの様子が分からず、保育所の保育内容が不透明だと感じている保護者が複数いた。一部の保育士から日頃のあいさつがないなど、保護者とのコミュニケーション不足が指摘されていて、保護者との相互理解への取り組みが十分でなかった。