温暖化は人間のせいじゃない?「気候変動の解説のおじさん」に懐疑論をぶつけてみた

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東京大学未来ビジョン研究センター教授/江守正多

シリーズ・気候変動と脱炭素の「ホント」を探る① 気候科学者・江守正多さん(前編)

記録的な猛暑だった今年の夏。やはり気候変動は現実なのかと実感した人も多いのではないでしょうか。それでも、「自然のサイクルだからジタバタしても仕方ない」「実は地球は寒冷化に向かっているらしい」といった情報に、あちこちで行き当たります。

ちまたで情報が錯綜(さくそう)しているこういった話の本当のところはどうなのか、科学者や専門家へのインタビューを通して、シリーズで探っていきます。

1回目は、地球温暖化について研究し「気候変動の解説のおじさん」として情報発信にも取り組む気候科学者の江守正多・東京大学未来ビジョン研究センター教授に聞きました。(聞き手 ライター・編集者/小泉耕平

Q1:地球温暖化は本当に人間のせい? 太陽の活動周期によるものでは?

──今年の日本の記録的な猛暑もそうですが、近年は世界のあちこちでこれまでにない高温が観測されています。地球が温暖化していること自体は多くの人が否定しなくなってきましたが、「人間が出した二酸化炭素(CO2)によるものかは分からない」「気候の変化は自然変動によるもの」という意見があるようです。

温暖化が人間活動による温室効果ガスの増加により引き起こされたということについて、科学界ではもうはっきり結論が出ています。

世界の平均気温は産業革命以前と比較して、すでに約1.3度上昇しています。これだけの気温上昇効果をもたらすエネルギーがどこから来たかと考えると、太陽によってもたらされた熱が、大気中にCO2などの温室効果ガスが増えたことで宇宙に逃げにくくなったせいだとしか考えられません。エネルギーの大きさから計算して、他の理由では説明がつかないんです。

ではどうして温室効果ガスが増えているかと言ったら、もう、人間が化石燃料を燃やすことなどにより増やしたという以外に説明のしようがない、というわけです。

世界中の科学者や専門家が参画してまとめられたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の最新の報告書(第6次評価報告書)でも、地球が人間の活動の影響で温暖化していることは「疑う余地がない」と断言しています。

1850~1900年を基準とした世界平均気温の変化を示したグラフ
1850~1900年を基準とした世界平均気温の変化。黒色は実際に観測された値、茶色は人類起源の要因を考慮したシミュレーション、青色は自然起源の要因のみを考慮したシミュレーション(IPCC第6次評価報告書・第1作業部会報告書の気象庁暫定訳より)

──太陽の活動が周期的に活発になる影響で温暖化している、という説もあるようですが。

確かに、太陽活動の自然変動が気温に影響することはあります。300年ほど前には「マウンダー極小期」といわれる太陽活動が非常に弱まった時期があり、観測される黒点の数がゼロだった時期が70年ほど続いて、その間、地球も寒冷化しました。

しかしその変化は、世界の平均気温が大きく見積もっても0.5度下がった程度。しかもその原因には太陽活動だけでなく火山噴火も含まれます。一方、人間の起こしている温暖化はすでに1度以上気温を上げており、今後も対策を怠れば2度、3度と上昇していきます。

皆さんの中には「地球は大きいんだから人間の活動なんてたいした影響を与えないだろう」と考える人もいるかもしれませんが、実はそんなことはなく、その影響の大きさは太陽活動の変動を優に超えているのです。

Q2:実は、地球は寒冷化に向かっている?

──寒冷化の話で言うと、「そもそも地球は寒冷化に向かっているから、温暖化の心配なんかしても意味がない」という話も耳にします。これは本当?

氷河期がくるという話ですね。間違いとも言えないのですが、ただし、それは5万年後のことです。

地球はこれまでも、寒冷な氷期と温暖な間氷期をおよそ10万年の間隔で繰り返してきました。「ミランコビッチサイクル」というもので、木星などの重力などの影響による地球の公転軌道や自転軸の変化によって、地球に入ってくる太陽のエネルギー量と分布が変化し、それが引き金になって氷が増えたり減ったりする現象です。

現在は、温暖で氷が少ない間氷期が1万2000年ほど続いていますが、天文学的な計算で、次に氷期が来るのはおよそ5万年後だということが科学的に認識されています。それまで人類の文明が続いていたら心配すべきことでしょうが、少なくとも今は、温暖化を止めることが先決です。

Q3:温暖化の主要因はヒートアイランド現象?

──「温暖化の原因はCO2というよりもヒートアイランド現象だ」という説もありますが、これはどうでしょう。世界の科学者が使っている気温のデータも、都市化の影響を受けた環境で測っているから実際よりも高くなっている、という主張もあります。

日本など局所に限定した話ならば、データの中にどれくらい都市化の影響が含まれているかについて議論の余地があるケースがあるかもしれません。ただ、地球全体の温暖化についての話になると、都市化の影響が大きいという証拠はまったくありません。

気温の観測データというのは世界中のさまざまな場所で測られていて、その中には、人があまり住んでおらず都市化の影響がまったくない地点も多数含まれています。さらに、海上を航行する船の上でも、昔から気温や海表面の水温が測られています。海の上でヒートアイランド現象の影響が出るはずがありませんよね。

データを分析する際に科学者はさまざまな補正をかけますが、少なくとも都市化の影響を過大評価するようなバイアスがかかっていることはありません。現在進行している温暖化について、都市化の影響があったとしてもそれは都市とその周辺などに限定されたものだという見解は、IPCCの報告書にも書かれています。

Q4:温暖化の原因については専門家の間でも諸説あるから、結局わからない?

──「結局のところ、何が温暖化の原因かは専門家の間でも諸説あるんだから、真相は分からないってことだよね」という意見を耳にすることもあります。科学者の実感として、このあたりはどうなんでしょうか。

科学者の間では諸説はないですが、世間では諸説あるというところでしょうか。実際、アメリカでは進化論が正しいかについてさえ今も「諸説ある」状態ですから、世間の人々の認識が100%一致する、ということは難しいのだと思います。

一方で、科学者の大部分、少なくともほぼすべての気候科学者の間では、主に人間活動の影響で地球温暖化が起きているという見解は一致しています。

──江守さんが報告書の主執筆者として関わっているIPCCの第1作業部会でも、見解は一致している?

その通りです。第1作業部会は「温暖化の自然科学的根拠」というテーマを担当しているのですが、その最新の報告書は、人間の活動が地球温暖化を引き起こしたことについて「疑う余地がない」と断言しました。

地球温暖化が人間の影響であることは「疑う余地がない」と記述された報告書のキャプチャー
IPCCの最新の報告書には、地球温暖化が人間の影響であることは「疑う余地がない」と記述された(IPCC第6次評価報告書・第1作業部会報告書の気象庁暫定訳より)

第1作業部会では、気候変動の第一線の研究者が世界中から集められ、共同で報告書の作成作業を行います。最新の第6次報告書では、世界66カ国から200人以上の執筆者が選ばれました。

そうして作成された報告書の草案には、世界中の専門家がコメントを送ることができ、作業部会はそれらすべてに応答しています。さらに、まとまった報告書の要旨部分はIPCCに加盟する各国の政府代表が1行1行確認して、すべての国が承認したうえで、ようやくIPCCの報告書になります。

つまり、IPCCの報告書は最新の科学的知見の集大成であると同時に、とても透明性が高く厳密な方法で作られています。そこに「疑う余地がない」と書かれたことの意味はとても重いのです。

Q5:気候科学者によるシミュレーションは当てにならない?

──IPCCの報告書では、将来、どれくらい温暖化が進むかについて様々なシミュレーションをしていますね。このまま人類がCO2を非常に多く出し続ける最悪のシナリオでは、2081~2100年にかけて世界の平均気温が4.4度上昇するという予測が示されています。こうした将来予測についても「どこまで正確なのか信用できない」という見方をする人もいるようです。

将来のシミュレーションはスーパーコンピューターで行っていますが、その計算の元になっているのが、「気候モデル」です。

「気候モデル」は地球の大気や海流の動き方、熱の循環などを物理的な法則に基づいて再現した数値モデル。2021年にノーベル物理学賞を受賞した米プリンストン大学の真鍋淑郎博士をはじめ、多くの気候科学者が開発に携わってきました。

現在も世界のさまざまな科学者がシミュレーションの信頼性を上げようと「気候モデル」の研究を続けていますが、基本的な部分はすでに確立されています。少なくとも、今後世界が寒冷化するといった予測には、どう転んでもなり得ません。

もちろんまだ完璧ではないので、同じ条件で計算しても、どのモデルを使うかによって、予測される将来の温度は変わってきます。IPCCの報告書もそうした幅を考慮に入れたうえで評価していて、たとえば、大気中のCO2濃度が産業革命前から2倍になって十分時間が経ったときに世界の平均気温が何度上昇するかを示す「平衡気候感度」は、「最良推定値」が3度、「可能性が非常に高い範囲」は2~5度と、幅を持って記述しています。

将来予測も、たとえば最悪のシナリオでの2081~2100年の温度上昇は「最良推定値」が4.4度、「可能性が非常に高い範囲」が3.3~5.7度と、やはり幅があります。

温室効果ガス排出シナリオごとの将来の世界平均気温の上昇予測の表
IPCCの報告書に掲載された、温室効果ガス排出シナリオごとの将来の世界平均気温の上昇予測。排出が非常に少ないSSP1-1.9から非常に多いSSP5-8.5までのシナリオごとの予測は、それぞれ「可能性が非常に高い範囲」で幅を持って記述されている(IPCC第6次評価報告書・第1作業部会報告書の気象庁暫定訳より)

仮に、この「可能性が非常に高い範囲」のうち最小の3.3度の気温上昇だったとしても、私たちの生活には大きな悪影響があるでしょう。シミュレーションの結果に幅があるという前提で考えても、やはり、CO2の排出を減らす対策が必要だという結論は変わらないのです。

(10月27日公開予定の〈後編〉に続く)

江守正多(えもり・せいた)
1970年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。1997年より国立環境研究所に勤務。国立環境研究所気候変動リスク評価研究室長、地球システム領域副領域長等を経て、2022年より東京大学未来ビジョン研究センター教授。総合文化研究科教授を兼務。IPCC第5次、第6次評価報告書主執筆者、第7次評価報告書査読編集者。

小泉耕平
小泉耕平 ( こいずみ ・こうへい )
ライター・編集者
雑誌「週刊朝日」やweb媒体「telling,」などで記者や編集者として約20年間活動し、2023年にフリーランスに転身。気候変動問題をはじめとした社会課題、時事問題、ビジネスなど様々なテーマを取材する。

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