「くぁ〜〜〜•••っはぁ•••」
指揮官室に、間抜けな大あくびの音が響いた。
久しぶりに休みが入ったので、どこかに出かけようかとも思ったが、疲れが溜まっているせいかどうにもそんな気分にはなれなかった。
最近は書類仕事が随分と重なっていた。ラピに手伝ってもらっていたものの、流石に彼女1人に任せ切るわけにもいかなかった。なので私も頑張ったのだが、その結果が強烈な寝不足だった。
───決めた、今日はもうずっと寝ていよう。そうしないと、明日からの業務に支障が出そうだ。
ソファに飛び込んで仰向けに寝そべると、強烈な眠気が襲いかかってきた。瞼がどんどんと重くなり、私の視界に黒い幕を下ろしていく。
その心地よい感覚に浸かりながら、私の意識も闇へと飲み込まれていき、やがて私は眠りについた───
「やあ。お休みのところ失礼するよ、ぼっちゃん。」
───と思ったのも束の間、突如として現れた紅蓮に、私の入眠は妨害されてしまった。
「•••紅蓮か。いつからいたんだ?」
目をこすりながら問うと、紅蓮がからからと笑いながら答える。
「少し前からいたぞ。声を掛けようかと思ったのだが、ぼっちゃんの寝顔があまりにかわいかったものでな。ついつい見入ってしまったのだ」
「男の寝顔など、見ても嬉しくないだろう」
「そんなことはないぞ、ぼっちゃん。特にぼっちゃんのようなかわいらしい顔をした男の顔なら、誰でも見入ってしまうであろうからな」
「お世辞はいいから、本題を言ってくれ」
「はは、お世辞か。ぼっちゃんには、そう聞こえたのだな」
少し寂しそうな顔で、紅蓮が呟いた。しかしすぐにいつもの酔っ払いの顔に戻り、私の前に座り込んだ。
「1人で飲むのは寂しかったもので、ぼっちゃんと一緒に飲もうと誘いに来たのさ。」
やはり、そんな事だろうと思った。私が立ち上がって棚からグラスを取り出すと、紅蓮がきょとんとした顔で問うてきた。
「ぼっちゃん?何をしておるのだ?」
「何って•••酒を飲みに来たんだろう。グラスが無いと飲めんだろうが」
「?私はここで飲もうなどと言った覚えはないぞ。」
「え?」
まさかと思って紅蓮の顔を見ると、その通りだと言わんばかりの視線が返ってきた。
「うむ、今ぼっちゃんが考えている通りだ。私と共に地上に出て、2人きりで飲み明かそうということよ。」
「•••危険じゃないか?」
私が問うと、紅蓮が不満そうな顔で答えた。
「何を言うておるのだ。今までも、地上で私と飲んだ事があるだろう。その時のことを忘れたのか?それとも、私の強さが信用ならぬとでも?」
どうやら、機嫌を損ねてしまったようだ。
「•••すまん、そんなつもりはなかったんだ」
「ほう?」
紅蓮の顔が、焦れったそうに険しくなっている。彼女を宥めるには、もはや選択肢は1つしかないのだろう。
「•••わかった、行くよ。行くから、機嫌を直してくれ」
「よかろう。最初から、そう言っておればよかったのだ」
良かった、なんとか機嫌を直してくれた。せっかくの休日がまたも潰れてしまったが、もはやそんな事はどうでもよかった。この飲んだくれは、どれだけ説明したって聞かないだろうから。
「それじゃあ、参ろうか、ぼっちゃん。」
「ああ、ちょっと待ってくれ」
急かす紅蓮を抑えて、私はBlaBlaを開いた。
「•••?何をしておるのだ?」
「何って•••仲間たちへの連絡だよ。いきなり私が消えていたら、彼女たちもびっくりするだろう。」
そう言って、私はスマホの画面と向き合った。そのせいで、何故かまた不機嫌になった紅蓮の動きを見逃してしまう。
紅蓮が、いきなり私のスマホを取り上げた。
「ちょっ、紅蓮!?何を•••!」
「こんなもの、酒を楽しむのに必要ないであろう?」
「いや、そんなことは•••!」
「つべこべ言わず、さっさとついて来んか。そんな事では、男が廃るぞ、ぼっちゃん。」
それとこれとは話が違うだろ•••
そんな事を思ったが、もはや今の紅蓮に何を言っても無駄だろう。
私は差し伸べられた紅蓮の手を握って、共に地上へと向かった。
ああ見えて紅蓮って結構湿度高いと思うんですよ。そんな私の妄想をそのまま書き出しました。
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