神秘狩りの夜   作:猫又提督

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私は教室棟の攻略を動画を見ながらしたので、残念ながら学徒の初見トラップには引っかかりませんでした。多分見ずに進んだら引っかかって絶叫上げてましたね。


第27話

 サイトに載っていた写真を巡るように歩いた。六人分の明かりがビルの中を照らす。組織の手が入ったせいなのか、写真のような荒れ具合は見えず、どの部屋にも物が無かった。

「何も物がないですね。写真では廃材とかたくさんあったはずですけど」

 ノノミが私と同じ感想を抱く。

「カイザーが調査のために運び出したのかもね」と、流石にホシノは頭が回るようだ。

「あいつらが掃除をしてる所思い浮かべるとちょっと笑えるわね」

「でも調査の割には物が無さ過ぎる。あいつらの発掘拠点にはもっと色んな機材があったはず」

「まだ準備中ってことですね。買い取ってから時間が経っていないということですから、地下のお宝もまだ手付かずなはずです」

 アヤネの言葉に一同の足取りは僅かに軽くなった。

 サイトに載っていた写真は多かったが、その間に繋がりは見えない。あのバリケードの場所が何処にあるのか分からないため、手分けして一階をしらみつぶしに探した。六人もいれば全ての部屋を回るのにそう時間はかからなかった。

 何もない、同じ部屋を見回っていると、後ろからノノミに声を掛けられた。

「あ、狩人さん。見つかったみたいですよ!」

「む、そうか」

 ノノミの後をついて行くと、既に私以外の全員がそこにいた。

 そこにあったのは写真で見た通りのバリケードだ。だが、少しだけ退かされているらしい。人一人なら通れるだろうか。

「もしかしてこれもう下に行かれてるのかな」

「バリケードが退かされてるってことは、そういうことかも」

 バリケードの奥が照らされる。下に続く階段の先には昨日見た木製のドアがあった。

「何も持っていかれてないといいな」

 私とホシノを先頭にして階段を下りる。ドアノブに手をかけて捻ると、何ら抵抗も無く開いた。少しだけ開けて中を覗くが真っ暗で何も見えない。松明では明かりが届かないため、ホシノのライトに照らしてもらった。右から左へ動かすだけでも部屋の様子はある程度分かる。間違いなく教室棟の教室であるのと、昨日言った部屋よりも数倍広いことが分かった。

「ど、どう。化け物いる?」

 背中からセリカの僅かに震えた声が聞こえる。私はホシノのライトに合わせて中を確認するが一先ず化け物の姿は無さそうだ。

「そうだな……化け物は恐らくいない」

「そ、そう」

 セリカの安堵する声が聞こえた。

 中は無人のようだったので、扉を開け放ち全員が部屋に入る。扉を開ける風圧で埃が舞ったのか酷く埃臭かった。シロコが何食わぬ顔で鼻の前を手で扇いでいた。

「何……ここ」

「ビルの地下にこんな所があったなんて」

「なんか……不自然。あと埃臭い」

「まるで教室ですね。教壇に、机でしょうか」

「ビルの地下に教室ですか? こんなオフィスビルの地下に?」

「ああ、ここは教室棟だ」

 私は背を向けながらとある机の上に置かれていた書類を持ちながら言った。

「知ってるの?」

「ああ、なんとなく最初から予想はしていたが、いざこの眼で見ると改めて驚くよ」

「知ってたんなら教えなさいよ」

「教えても良かったのだが……ホシノが特に話しそうになかったからな。私もそれに合わせただけだ」

「え、どういうことですか」

 四人の目線がホシノに移った。

「別に話す必要は無いと思っただけだよ。でもこの状況じゃ話した方が良いかもね。おじさん実は昨日狩人ちゃんとカイザーの発掘拠点跡に行ったんだよね。そしたら地下にさ、ここと同じような建物があったんだよね。まあそこは全部カイザーが持って行っちゃったけど」

「じゃあつまりカイザーはここを探してたってこと?」

「でもなんでこんな場所を探しているのでしょう?」

「それは狩人ちゃんが知ってるかもしれないね」

 ホシノが私の顔を、否、手元の書類を見た。彼女に合わせて四人の目線は私に移った。

「隠すつもりは無かったさ」

 私は四人の方に向いた。彼女たちの目が持っていた書類に向いた。

「それは?」とアヤネが聞く。

「ざっと読んだ感じ何らかの報告書の様だ」

 私は近くの机に書類を置いた。ホシノたちが集まって書類を見るが一様に顔を顰める。

「え、これ英語?」

「んー……何が書かれているか分からない」

「文字が……読みにくいですね」

「筆記体だね。ちょっと読めないかなこれは」

「狩人さんは読めるんですか?」

「英語だから読めるに決まっているだろう」

 私は書類に目を通した。数は五枚。文字はびっしりと書かれている。ざっと斜め読みをした感じ恐らく何かの報告書だろうか。筆記体の少し癖のある字で焦っていたのか急いでいたのか文字が汚い。専門用語も多数見受けられる。いくつか分かる文字もあるがほとんど分からない。

 中々説明を始めない私にセリカがどうかした、と顔を覗き込む。

「読めないかもしれない」

「えー! 読めるって言ったじゃない!?」

「貴公は全く知らない業界の報告書を読めるというのか。それこそカイザーの報告書を理解して何もわからない人に分かりやすく説明しろと言われてすぐにできるのか?」

「う、なんかごめん」

「まあまあそんなしかめっ面しないで、とりあえず書いてることをそのまま読んでくれればいいからさ」

 ホシノに窘められて眉間に触れると、皺があった。私は落ち着くために軽く息を吐いて書類に書かれている文字をそのまま読み聞かせた。

 

 書類に書かれていたのはアビドスで行われた神秘に関する研究、実験についてだった。

 キヴォトスに存在する学校の生徒には神秘が存在している。神秘は人によって種類や程度があるものの共通して身体の異常な耐性が存在していた。メンシス学派はキヴォトスに人を送りキヴォトスの生徒の耐久性の実験や獣との関連性、そしてキヴォトスに存在すると言われる姿無き上位者「色彩」の研究を行っていた様だ。その際トリニティのユスティナ聖徒会に協力を要請して共同で研究を行っていたらしい。そのことを示唆する文章が書かれている。

 私はトリニティで見たあの聖職者の獣のことを思い出した。ヤーナムにしかいない獣、それとメンシス学派。黒服はここを私にとっての異世界だと言ったが、この書類を見るにどうやらつながった世界らしい。約二百年経ったこの世界のどこかにもヤーナムが存在するのだ。

「もういい。もう読まなくていいから」

 書類に書かれた実験の内容を音読していると、急にセリカがストップをかけた。顔色が悪そうだ。

「どうした」

「それ、ずっと実験の内容が続いているの?」

「まあ……そうだな」

 私は先の書類を斜め読みして答える。改めて彼女たちを見ると皆顔色が悪そうだ。

「もういいわ。何が書かれているのか十分理解したから」

 セリカがそう言うと、皆黙って視線を外してしまった。私は一人で書類の残りを読んだ。

 実験の内容は次のページまで及んでいる。だが実験の目的は生徒の神秘を獲得することらしい。様々な方法を試したがどれも失敗している。最終的に彼らが取ろうとした方法は――

「あ、あの。この先に別の部屋があるようですしちょっと見てみませんか?」

 ノノミが声を上げる。彼女が指さす先は、目が暗闇になれたおかげでうっすらとドアがあるのが見えた。皆がこの状況を変えたいと思っていたのか、積極的な様子でドアに近づいた。私は書類を懐にしまい、彼女たちの後ろをついて行った。

 ドアを開くと、そこには大量のフラスコや何かしらの実験に使うであろう器具が散乱していた。先ほどの教室に比べて、こちらは見た目通り実験室と言った様相だ。

「実験室?」

 セリカが先ほどの話を思い出してあからさまに顔を青くした。

「でも綺麗だし元々使われていなかったのかもね」

 嫌な想像をしたのであろうセリカを慰めるために咄嗟にホシノが言葉を付け加えた。それを聞いて少しは安心したのだろう。表情が多少曇っているが、顔色は少し戻った。

「あ、また何か」

 アヤネが机の上に紙片を見つけた。私が近づきそれを読むと、拙い字で『姿無き上位者』と書かれていた。

「上位者? 何のこと?」

「上位者というのは、つまり私たちの上位の次元に棲まう者。宇宙からやってくる者たちだ。メンシス学派、元はビルゲンワースだが、奴らは上位者にまつわる研究をしていた。どういう研究かは詳しく知らん。知っていたとしても、先ほどの貴公らの反応を見るにあまり話すべきでは無いだろう」

「じゃ、じゃあいい」

「でも姿無きってどういうこと?」

「シロコ先輩! いいって言ったのに!」

「私は気になるから」

「上位者というのは勿論だが姿形がある。まあ全て化け物の見た目をしているがな。姿無きというのはつまりそういうことだ。私が知っているのはオドン、もしくはメルゴー、ゴースは……どうだろうか。一先ずそんなところだろう」

「じゃあこの姿無き上位者っていうのはその?」

「かもしれないが、キヴォトスにもいるのかもしれないな。姿無き上位者が」

「さっき読んだ書類にあった『色彩』?」

「可能性はある。貴公らに聞き覚えはあるだろうか」

「いや、無い。ホシノ先輩は何か知ってる?」

「さあね。聞いたことも無いよ。因みに狩人ちゃんは知ってるのかな?」

「生憎、何も知らない。さっきの書類にはその色彩を使って実験をしようとしていた痕跡があったがそれ以外には特に情報が無かったからな」

 その時、部屋中にセリカの悲鳴が響いた。全員が慌てて彼女に近づくと、セリカは部屋に置いてあった椅子の前に座り込み震えていた。

「セリカちゃん、どうかしましたか!?」

「な、なんか気持ち悪いのが!」

 セリカの訴えにノノミとアヤネが椅子を覗き込んだ。その瞬間セリカほどではないが、うわっと呟いて一歩引いた。私も椅子を覗きこんだ。座面にピンク色のぶよぶよしたものが置いてあった。

「なんだ、レッドゼリーか」

「え、レッドゼリー?」

 私は彼女たちの間を通り、レッドゼリーを一つ拾い上げた。握るとぬるいスライムのような感触がした。表面は粘液のせいかぬめぬめとしており、僅かに掌から垂れそうになる。

「ねえ、それまさか人じゃないよね」

 シロコがぽつりとつぶやいた。私は失笑にも似た声でまさか、と答えた。しかし改めて観察してみると確かに人のような姿をしているかもしれない。ここが頭で、ここが足……大きさも相まって胎児のように見えなくもない。私はもう一度まさか、と呟いた。

「そ、そうですよ。狩人さんが言うんですからきっとシロコちゃんの勘違いですよ!」と、ノノミが引きつった笑顔で言った。アヤネも彼女に同調した。

 私は残りのレッドゼリーを全て懐にしまった。するとセリカが訝しむような、信じられない物を見たような顔で私に言った。

「ねえ、なんで拾ってるの」

「使うからだが」

「そんなもの何に使う訳」

「儀式」

「儀式?」

「そう、儀式。聖杯ダンジョンを作るのには必要だ。これはそこまで使う機会が無いのだが、その分中々入手できなくてな。拾える時に拾っておいた方が良い」

「え、ごめん。私がまだ混乱しているせいなのか話が理解できないんだけど。え、儀式? 聖杯ダンジョン?」

 セリカは周りに説明を求めるかのようにきょろきょろしている。しかし誰も答えようとしない。誰もが引きつった顔をして私を見ている。

「どうした。もしかして貴公らもこれがいるのか? まあある程度数は持っているから一つ二つぐらいならあげてもいいが」

「い、いいいらない! いらないから!」

「ん、遠慮する」

 レッドゼリーを差し出すとシロコとセリカに全力で拒否されてしまった。ノノミとアヤネも引きつった顔でいらないというジェスチャーをしているし、ホシノは彼女たちの後方から苦笑いしていた。

 するとその時、実験室の外、教室の方から物音が聞こえたような気がした。何かが落ちてきたような音だ。音が聞こえた瞬間私はドアを見た。気づいたのは私とホシノだけ。他の四人は気づかなかったようだ。

 セリカが銃を抜いたホシノに声を掛けようとした。

「しっ。物音がした。誰か来たかも」

 その言葉に場が凍り付く。ホシノがドアを少しだけ開けて教室を覗いた。

「な、何かいたホシノ先輩?」

「いや……何もいない。気のせいだったのかな」

「私も聞こえた。確かに何かが落ちてきたような音だ」

「私には聞こえませんでしたけど、お二人が聞こえたのなら気のせいではないのでは」

「ん、もしかして噂の化け物?」

「し、シロコ先輩!?」

 私もドアの隙間から覗いてみたが、やはり姿が無い。シロコの発言に化け物か、と呟きつつふと上を覗いた。

 天井に白い人のようなものがいた。学生のような服と帽子を被っている。しかし全身は白く、下半身は液体のようにドロドロとしている。逆さになって張り付いているので人では無いというのは一目で分かる。しかしそれでも人のように見えたのは、私がソレに見覚えがあって、かつ初めて見た時も人みたいだと思ったからだ。

 メンシス学派の学徒と目が合った瞬間、奴は天井から落ちて来た。

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