神秘狩りの夜   作:猫又提督

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セリカは会話させやすいですね。ついつい彼女だけ喋らせてしまいます。


第26話

 写真を見ていると、外に立つ柱、彼女たち曰く電柱というものに住所が書かれているのを発見したようだ。そこから導き出された場所に行くことになった訳だが、今はまだ昼であり外を出歩くには危険だった。よって日が落ちるまで待つことになった。

「その格好では大変でしょう?」と、ノノミが着替えを貸そうとしてくれたがどう見てもサイズが合わないだろう。セリカやシロコもそう言っていた。ホシノの服であれば合うかもしれないが断った。私は着替えがあるからといって教室を一度出た。もちろんそんなものは無い。夢に戻ればどうせ服ももとに戻るだろう。それだけのことだった。

 

 夢に戻ると案の定ボロボロだった服は新品同然になった。

 人形が頭を下げる。彼は人形の腕に納まっているようだ。今日は珍しく大人しい。挨拶でもするかのように触手を振った。私はすぐに戻るから、と花園へ向かった。すると人形は私の背中に向かって「いってらっしゃい」と言った。私は背を向けたまま腕を上げて「行ってくる」と言った。

 

 教室に戻ると、彼女たちは埋まっているであろう宝が何なのか話し合っていた。宝石や、お金、古代の遺物など根拠の無い憶測が飛び交っていた。

「狩人さんは何だと思う?」

 セリカが尋ねた。

「そうだな……まあ何が埋まっててもいいが、武器とか昔のことが知れる何かでもいいな」

「後者はともかく前者は何」

「新しい武器はいいものだ。見つけると興奮する。昔の武器というのは往々にして何かしらの浪漫が宿っているのだ」

「へー」

 残念ながら私の言葉はセリカの心には響かなかったらしい。二百年も経てば浪漫の感じ方にも変化があるのかもしれない。

 外をまともに出歩けるであろう日没まで私たちは他愛もない世間話をしていた。

 日が傾いてきた頃、そろそろ出発できるだろうと誰かが言った。その声に全員が支度を始めた。私は既に準備は出来ているのは他の皆が準備するのを待っていた。ふとホシノが鞄のようなものを持つのを見た。鞄のようとは表現するものの、チャックやボタンは見当たらず、もはやただの持てる塊だった。

「それは?」

 私はホシノに近づき、尋ねた。

「ん、何?」

「その持っているものだ。鞄か?」

「これ? これは盾だよ」

「盾? 貴公は盾など持たずとも攻撃が最大の防御だろう」

「これは……ある人から……そう、譲り受けたものだから。それに私だって盾は使うよ。前線張るし、そっちの方が確実に被弾は抑えられるから」

「なるほど……少し見せてもらっても?」

「いいよ」

 ホシノは盾を持って広げた。どうやら折りたたんでいたらしい。広げた盾は彼女の半身を覆い隠し、もちろん私が持てば私の半身が覆い隠される。

「この盾は攻撃を防げるのか」

「え、まあ盾だし。銃弾ぐらいなら全然防げるよ」

 私は盾の表面を指で小突いた。硬い金属音が鳴った。私の知る盾よりもずいぶん堅そうだ。なるほどこれなら攻撃が防げると言われても信用できる。

「因みに……そうだな、例えば大砲も防げるのか?」

 私は冗談半分、希望半分に聞いた。しかしホシノは「試したことないけど多分出来るんじゃないかな」と、とんでもない回答をした。

「本当か?」

「耐えきれるかは本人の腕次第だと思うけど、こう砲弾に対して斜めに構えたら」

 ホシノは自分で構えて見せながら説明した。

 なるほど……盾か。使い物にならないと思っていたが……大砲を防げる……欲しいな。

 誰かが私たちを呼んだ。どうやら私たち以外は準備が終わったらしい。数分後に私たちは学校を後にした。

 日が落ちかけていてもまだ暑い。すっかり気温が落ちるのは完全に日が落ちて月が昇った頃になるだろう。

 今回はアヤネも一緒に向かうことになった。彼女によれば目的地はここから数十分歩いた所にあるそうだ。自然と彼女が先頭に立った。

 昨日は日差しの強さばかりに気を取られて気づかなかったが、アビドス高校周辺は静かだ。時間帯のせいかもしれないが、砂が積もった家々は一見して人が住んでいるようには見えない。それを伝えるとホシノは「ああ」と前置きをして言った。

「ここら辺は砂漠化も結構進んじゃってるから、もうほとんど引っ越しちゃっていないんだよ。お店も全部移っちゃったし、せいぜいコンビニが一軒だけ。正直私たちだって意地で残ってるようなものだから」

「ここもいずれ砂漠になるのか」

「うん。いつになるかは分からないけど、いつかは必ず」

「それは……いずれキヴォトス全体に広がるのでは?」

「どうだろうね。今はまだアビドス自治区にしか広がってないけど、他の自治区まで広がるようならまあ何かしらの対策はするでしょ。今はアビドスにしかないし、対策もどうせ無いんだろうけど」

「難儀な土地だな」

「そうだね、全く」

 砂の積もった道路は、私たちが歩くたびにサクサクと音を立てた。ただそれ以上に彼女たちの会話は賑やかだった。

 

 日はより沈み、空の色は紺色に近づいた。一軒家ばかりだった町並みは、だんだん背の高い建物が増えて来た。ただどれも古く、人の気配がしない。かつて人がいたであろう痕跡が残るばかりだ。

 アヤネが立ち止まる。板……そういえばさっきタブレットだと言っていた。タブレットと前を見比べて、やがて後ろを振り向いた。

「ここです。あの先が例のオフィスビル街になります」

 彼女の見る方向には背の高いビルが立ち並んでいる。遠目からでも異様な雰囲気は伝わってくる。

「雰囲気ありますねえ。本当に何か出てきそうです」

「ち、ちょっとやめてよノノミ先輩!」

「セリカは幽霊怖い?」

「へ、ま、まさか! 幽霊なんか全然怖くないわ!」

 セリカは腕を組んで強がるが、声色から無理をしているのが分かるし、顔は引きつっているようだ。

「出てくるのは幽霊じゃなくて化け物だけどね」

「ホシノ先輩まで!?」

「化け物なら幽霊より実体はあるだろう。安心しろ確実に殴れる」

「それは慰めなの?」

 慰めのつもりだった。

 アヤネの案内で私たちは例のあのビルに向かってオフィスビル街の中に足を踏み入れた。

 ビルの入り口付近にはどれもフェンスが立ち並び、中に入れないようになっている。ビルの窓であろう所はどれもガラスが外れているか割れているかしている。道にはごみと砂が散乱しており、この場所が放置されて長い年月が経っているのが容易に想像できた。

 アヤネやホシノたちは観察するかのように辺りを見回しているが、セリカだけは明らかに警戒するような素振りを見せている。無意識だろうか、両腕はノノミの腕に回されていた。ノノミはそれに気づきながらも優しい笑みを見せていた。

 セリカの気持ちは分かる。私も初めてヤーナムを駆け回った時を思い出した。あの時はヤーナムの全てに恐怖を覚えていたものだ。あの時の私はセリカのように警戒などしていなかったが。おかげで隠れていた敵に驚いて情けない声を上げたものだ……嫌な記憶だ。

 

「ここですね」

 アヤネが突然立ち止まった。そこは一見他の廃ビルと違いは無いように思えたが、まるで周囲から隔離するようにフェンスが置かれている。それにフェンス自体も新しく、高い。恐らく二メートルはあるだろう。隙間なく置かれたフェンスはもはや壁の様だった。

「フェンスのロゴ、これってカイザー?」

「げ、本当じゃない」

「まあ噂自体カイザーのロボットが話していましたし、既に買い取られていたとしても不思議ではありませんけどね」

「貴公らはカイザーと表立って対立はしたくないのだろう。もし不都合なら私だけで中に入ろう」

「対立自体はもうしているんですけどね。立場上これ以上カイザーの権利を侵害するのはまずいんですけど――」

「んー、誰もいなさそうだしいいんじゃないかな」

 ホシノが一部分だけ低くなっていたフェンスの隙間から中を伺って言った。

 アヤネがドローンという機械を使って中を偵察してみた所、誰もいないようだったので全員で中に入ることになった。

「でもどうやって入りましょう。フェンスが高すぎて飛び越えられそうにもありませんし」

 フェンスは隣のビルとの間にまで張り巡らされており、どこからも入れそうにない。強いて言えばホシノが覗いたところぐらいだ。薄そうだしとりあえず殴ってみるか。

「隣からなら飛び移れるんじゃないかな」

 ホシノがそう提案した直後、辺りに硬い音が響いた。残念、弾かれてしまった。

「えっと、狩人さん何を?」

「ちょっと試してみただけだ。壁が壊れるかもしれないと思って」

「いや壊れたらバレるじゃない!」

「ん……そうか。そういえばそうだな。すまない、癖だ」

「えぇ……どういう癖よ」

 隣も入り口がフェンスで防がれているが入りたいビルに比べれば低い。足を引っかければ十分飛び越えることが出来た。中は荒れ放題でとても暗い。廊下はゴミや塵が散らかり、足を踏み出せば必ず何かを踏んだ感触がした。

 二階から目的のビル方面に向いた部屋に入った。窓にガラスははめ込まれておらず、向かいのビルの壁が見えていた。

「思ってたより窓が小さい。これ通れる?」

 シロコの言う通り、目の前にある窓はビルの正面の半分ほどの大きさしかいない。とはいえ彼女が心配する程小さいわけでもない。これぐらいなら十分通り抜けられるはずだ。だからシロコは全員に向かって心配したのではない。特定の一人に向かって言ったのだ。シロコの視線にいたのはノノミだ。彼女は私たちの中で一番体格が大きい。そう、彼女は色々とでかいのだ。別にどこがとは明確に言わないがでかい。

 私は窓から身を乗り出してみた。下にはあのフェンスが見える。私の目線から少し上の位置に窓がある。手を伸ばせば届きそうであるが、実際に手を伸ばしてみても届かない。一度フェンスに脚を掛ければ届くだろうが、足場にするにはいささか不安だ。それこそノノミのことを思うと猶更に。

 身を戻してノノミの様子を見てみれば、彼女は笑みを浮かべていたが内面に複雑なものを抱えているのが見て取れた。

 話し合いの結果、先に一人渡って、その次にノノミが渡ることになった。突っかかりそうだったら先に渡った人に引っ張ってもらえばいいし、動けなくなったら後ろにいる人たちに引っ張ってもらえばいい。

「なら私が先に行こう。筋力と技術には自信がある」

「それが私に向けられた文言だとすればなんか嫌ですね」

 私は上半身を乗り出してフェンスの位置を確認すると、全身を乗り出した。片足をフェンスに乗せると、もう一方の足も乗せた。手で窓枠を押すと、勢いで向かいのビルまで体が傾くので、そのまま向かいのビルの窓枠を掴んだ。頭の位置ぐらいだ。腕に力を籠め、足を蹴り、窓によじ登った。

 中はさっきいたビルと変わらない印象を受けた。

 私は振り向いて、向かいのビルにいる五人にいいぞ、と声をかける。上半身と腕を出していつでも受け止める準備は出来た。

 いよいよノノミが体を出した。当初の懸念通り体躯の大きい彼女は窓を通るのに苦労している。やはりあの胸が多少引っ掛かるらしい。無理やり押し込んで何とか上半身を出すことが出来た。しかし私のようにそこから足まで出すことは出来なさそうだ。互いに手を伸ばせば届きそうだが、その状態で手を繋げたとして引っ張り上げることは出来ない。

「無理だ。一回戻ってくれ」

 その指示でノノミは引っ込み、再び作戦会議が行われた。話し合いの結果もう一人先に渡って、二人でノノミを引っ張り上げることにした。そしてそのもう一人はホシノに決まった。

 ホシノが私と同じようにビルを渡ると、私は先ほどよりも身を乗り出し、後ろからホシノが私に抱き着いて固定した。

 ノノミが再び身を乗り出す。今度は余裕をもって彼女と手をつないだ。そして彼女が足を窓から出して、フェンスにかける間、全体重が私に圧し掛かった。腕だけなのと体勢のせいで見かけ以上の負担がかかる。歯を食いしばり、苦痛の声を漏らしながらノノミが足をフェンスにかけるのを待った。

 まるで数分間のような数秒の後、ノノミは窓から降りてフェンスに乗り、私がいるビルに上った。思ったより息が切れた。人間は思ったより重いものだ。筋力には自信があったが……思い返してみれば私が使うのはどれもこれも技術重視。単純に重いものを振り回すことはしてこなかった。

「人を担いでそんなに疲れられると嫌ですね」

 ノノミは不満げに言った。

「人は誰でも重いさ。特にあんな体勢だとな」

「そういうものでしょうか」

「そういうものだ」

 ノノミに続いてセリカ、シロコ、アヤネもビルを渡った。全員が渡り切り、早速一階に下りて探索を始めた。

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