神秘狩りの夜   作:猫又提督

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第24話

 後ろの教室の中に回りこんだというヘルメット団がいる。私は扉の取っ手に手をかけ、しかし躊躇した。具体的に何人回りこんだか分からない。加えて相手は全員が銃を持っているだろう。迂闊に入れば私の体はあっという間に蜂の巣だ。では相手が出てくるまで待つか。扉の前で待ち伏せすれば一人ずつ対処ができるだろう。だがしかしもう一方の扉から出てきたらどうする。途端に挟み撃ちだ。そもそも私が待ち伏せする扉から誰も出てこなかったらどうする。いずれにしろこの長い廊下で射線を斬るのは不可能に近いだろう。

 待て、私が聞いたのはガラスが割れる音だ。ここまでの思考は僅か一秒経つか経たないか。つまりまだ誰も教室に乗り込んでいない。

 私は再び取手に手をかけ、扉を開け放った。予想通り教室の中には誰もいない。丁度割れた窓から手が生えて窓を開けようとしていた。私は割れたガラスの前に立ち、外を覗いた。そこにいた六人のヘルメット団と目が合った。彼女たちはフルフェイスのヘルメットを被っているので目線は分からないが、恐らく合っている。

「やあ」と私は彼女たちに声をかけた。

「うわぁ!? だ、誰だお前!?」

 窓を開けようとしていた彼女が声を上げた。

「狩人。貴公らとは……敵対している」

 私がそう告げた途端、一斉に銃口が向けれれた。銃口と目が合うや否や私は後ろに倒れんばかりに体を反らした。直後大量の銃弾が鼻先を掠めて天井に着弾した。

「なるほど。良い反応だ」

 窓から何か投げ込まれた。黒のような緑のような色をしたそれの表面は凸凹していた。手で握れるほどのそれに私は本能的に危険を感じ、近くの机を引き倒して天板の後ろに隠れた。間もなく爆発が鳴り響き、机に何かが当たったような衝撃を受けた。

 天板から顔を出すと、ヘルメット団の一人が教室に乗り込もうと窓の上に立っていた。

「げ、まだ生きてやがる」

 彼女はそう言って窓から降りた。私も天板を飛び越えた。彼女は銃を構えるが、私の杖の方が早い。鞭のようにしなる無数の刃が彼女の腕を叩いた。切り落とすだとか銃を落とすことは出来なかったが、銃口を逸らすことは出来た。股を抜けて私の背後に穴が開いた。

「ちくしょ。このやろ!」

 彼女は銃を構えなおした。ここまで距離を詰められて尚銃に頼るとは愚かである。杖の刃を戻しつつ彼女の胸元を突いた。この距離で仕込み杖の変形はむしろ相手へのハンデとなる。

 彼女は呻いて倒れた。私は彼女に馬乗りになり銃口をヘルメットに押し付けた。そして銃口をヘルメットに擦り付けながら横にずらした。今銃口は教室に乗り込もうとしている二人目のヘルメット団に向けられた。引き金を引くといつも撃っている銃よりも大きな音と強烈な反動が襲い掛かった。私の腕は大きく跳ね上がった。

「ぐげぇ!?」

 まともに反動を制御できなかったがこんな近距離では関係ない。ガラスが割れるような音と共に乗り込もうとしていた彼女は窓から落ちた。

 私は空薬莢を排出するためにボルトを開けた。薬室から空薬莢が落ちる。

「あづっ!?」

 薬室の奥に前もって入れた弾が見えるが、果たして再装填はどうするのだろうと一先ずボルトを閉めると、薬室に弾がせりあがってくるのが僅かに見えた。

「なるほど。そういう構造か」

 私は杖を棒のように握りなおすと、馬乗りになった彼女の上で振りかざした。

「お、おい何する気だ」

「このまま貴公に突き立てる」

 外からヘルメットを割られただの恥ずかしいから帰るという声と呼び止める声が聞こえた。

「待て待て待て。それはシャレにならないって!?」

「銃よりこっちが確実だ。感触でちゃんと貫けたか分かる」

「ひぃ!? た、たた助けてー!?」

「この野郎!」

 窓から銃口が二つ覗く。窓ごと撃ち抜くつもりだ。下の奴を引き起こして盾にするか。そう思って少し引っ張り上げてみたが間に合わなそうだ。仕方ないので飛びのいた。銃弾が通り過ぎる。

「あっぶね!? どこ狙ってんだよ!」

「頭貫かれるよりかマシだろ!」

 二人、いや三人乗り込んだ。同時に乗り込まれたら阻止でもできん。大人しく待つしかなかった。しまったせめて馬乗りにしたあいつも仕留めておけばよかった。

「死に晒せこの殺人鬼が!」

 弾幕が襲い掛かる。どうやったら四人まとめて倒せるか考えていたらもう撃たれていた。四人分ともなればまるでガトリングのよう。まるで避けられない。何とかローリングで抜け出したが追いかけてくる。無理だ、四人もまとめて相手できない。これだから多数相手は嫌いなのだ。そのまま教室を抜け出した。

「さてどうしたものかな」

 相手は良くも悪くも行動が早い。おちおち考えてもいられん。こっちも突発的に行動するしかない。だが杖はどっちがいいだろう。変形前か、変形後か。多人数相手なら変形させた方が巻き込める。いやでも変形させたら攻撃速度が落ちるから変形させない方が臨機応変に動ける。隙が少ないなら一つ一つに大きなダメージを与えるか、むしろ隙が少ないからこそその隙を確実にとらえられるように速度を大事にするか――

「待てこの野郎逃げんな!」

 タイムアップだ。私の出した答えは、今変形させてないからこのままやる。

 私をそのまま追いかけたらしい。教室の扉から一人だけ姿を見せた。すかさず杖で横っ面を殴った。ヘルメットが僅かに歪み、扉に押し付けられた。扉は衝撃に耐えきれず二枚とも外れて倒れた。カイザーのロボットより硬い。中身は無事だな。せめて気絶してくれると助かる。とどめを刺す時間は無い。既に彼女の後ろから残り三人出てきた。

 隣の教室に逃げ込んで扉を閉めた。頭が出てきたらヘルメットに杖を突きさしてやろう。

 突きの構えをして待ち伏せしていたら少しだけ扉があいた。刹那扉に向かって杖を突き刺すとそのまま扉に突き刺してしまった。扉の向こうで「ぬおぉ!?」という悲鳴が聞こえた。そして教室の中に何か転がった。さっき投げ込まれた爆弾だ。

「流石に学習しやがったか」

 爆発した熱と破片が大量に襲い掛かった。右半身に激痛が走り、しかし感覚も消えた。

 扉が開き彼女たちが姿を現すと、何故かたじろいだ。何か恐ろしいものでも見たようだ。

「お、お前なんだよその姿」

 隙だ。殺れる。だが右腕が動かない。回復を優先するしかあるまい。相手も立ったまま動かないから途中で襲われもしないだろう。左腕で注射器を持ち右足に刺した。だんだん感覚が戻っていく。右足が動くようになり、右腕の感覚が戻りだした。右目はまだ見えないが動けるなら十分。一番右の奴のヘルメットに杖を突き刺した。ヘルメットのガラスが割れて、彼女の一緒に私も倒れた。割れたガラスの隙間から彼女の目が見えた。

 顔を上げると残った二人が私を見て体を震わせている。

「なんだよそれ何だよそれ何だよそれ!?」

「ば、化け物……化け物だー!?」

 二人は銃を投げ出して逃げ出してしまった。私の下敷きになっているやつや教室の前で倒れている奴など目にくれず逃げて行ってしまった。まだ聖徒会の方が仲間意識があったな。

「た、たすけ……た、たす」

 下から声がする。見ればヘルメットを貫いた彼女がまだ生きていた。杖を引き抜くと血が付いていない。あれでも駄目か。一体どれだけ力がいるんだ。全くキヴォトス人の丈夫さには辟易する。

「ああそうだ。丁度いい。貴公に聞きたいことがある」

「たす、たすけ……たすけ」

「落ち着きたまえよ。素直に教えてくれれば逃がしてやろう」

「ほ、本当か。本当に逃がしてくれるか?」

「ああ、もちろん。嘘をつけば殺る。いいな?」

「わ、わわかった。なんでも答える!」

「なあ、アビドス砂漠に宝が埋まっているだろう。場所を教えてくれたまえ」

「は、はあ。宝? いや、あんな場所に宝なんて埋まってる訳ないだろ」

「杖では頭を貫けなかったからな。貴公らは銃で戦うのが基本だろう。銃ならきっと頭を貫ける」

「いやいやいや。待て、待てって! 埋まってるわけないって! 聞いたことねえんだから。宝の場所とか寧ろこっちの方が知りてえって!」

「貴公はカイザーの使いだろう。カイザーは宝探しをしている。なら貴公だって知ってるだろう?」

「おいおい。確かにカイザーに言われて来たがよ、私らはただの雇われだぜ? 本当にあったとしても私らに話すわけねえだろ」

「何でもいいから聞いていないのか。些細なことでもいいから教えてくれ。じゃなければ私はこの引き金を引かなければならない」

「まーてまてまて! おかしいだろ。悲しそうな顔で言うセリフじゃねえって! ダー! 分かった、分かったから、思い出してみるから銃口向けるの止めてくれ!」

 彼女はえーと、えーとと目をぐるぐる回している。あまり長い時間待ちたくない。一分数えて何も言わないなら引いてしまおう。一分も待つなんて私は優しいな。ヤーナムなら出会った時点でどっちも生きてるなんてありえないからな。どっちも生きる道を用意するなんて私は人道的だ。私は人間だ。

 

 そろそろ一分経つ。残念ながら彼女は答えることが出来なかった。私は引き金に力を入れ――

「あー! そうだ、思い出した!」

 私は引き金から指を離した。

「言ってた。なんか言ってたわ。えーといつだっけか。ここ襲い掛かるように依頼されて、リーダーとカイザーの奴が話してるのを壁越しに聞いてたんだよ。んで、話し終わってリーダーがどっか行った後に動くの面倒だったからそのままいたんだよ。そしたらカイザーの奴らがなんか話してんのが聞こえてきてさ」

「話が長い。経緯はどうでもいいから結論だけ話したまえ」

「わ、分かったから。銃口向けんなって! えっとあんまりはっきりは聞こえなかったんだけどよ。廃墟ビルの地下に何かあるっぽいからどうのこうの……って言ってた」

「ほう。そのビルはどこにある」

「いや、そこまでは知らねえ……だから知らねえって。銃口向けるのやめろ!」

「しかし砂漠は広大だ。そのビルが何処にあるか探すのには時間がかかる」

「知るわけねえだろ。さっきのだってたまたまだ聞こえて来ただけだ。普通私らみてえな奴に漏らさねえんだよ」

「ふむ、では仕方がないな。始末するほかない」

「なんでそうなるんだよ。些細なことでも教えろって言うから教えてやっただろうが!」

「貴公の情報はただ疑惑を確信に変えただけ。それは私の期待する情報ではない」

「くそが! 待て待て、他に何か言ってなかったか教えるから……あー、何つってたか。なんか変なもんが出てくるとか言ってたな」

「変なものとは?」

「白い溶けた人間が出てくるとか? 私は幽霊とか信じねえからよく分からん。興味ねえからそれ以上は聞き耳立てなかった。これが私の知ってる情報全部だ。いい加減離せ!」

 私が期待したような情報では無かったが、これ以上叩いても埃すら出ないのだろう。私は彼女の体から退いた。その瞬間彼女は飛び起きて私に殴り掛かって来た。私は引き金を引いた。彼女はひっくり返って倒れ、ヘイローを消した。

「愚かだ。素直に逃げていればいいものを」

 私は排莢しながら呟いた。出て来た薬莢が床を転がった。

 後ろからバタバタと慌ただしい足音が聞こえた。振り返るとホシノたちが駆けて来ていた。

「大丈夫?」

「ああ。見ての通り何ら問題は無い」

「その格好で言われても無事とは思えないんだけど」

 指摘されて初めて見た私の体は、右半身の服が酷く破けていた。きっとあの小さな爆弾に吹き飛ばされたのだろう。

「でもまあ、怪我も無いようで良かった。アヤネちゃんから君と連絡が取れないって聞いた時は驚いたよ」

 私は右耳を触った。通信機は確か右耳に付けていたはずだからだ。しかし右耳には何の感触も無かった。

「ああ、さっきの爆弾で吹き飛ばされたのだな」

「え、爆弾!? よく無事だったわね」

「小さかったからそこまで破壊力は無かった。だが逆にあの小ささであれほどの破壊力があるとは驚きだったが」

「それグレネードじゃない?」

「なんにせよ、通信機を壊してしまった。彼女には申し訳ないことをした」

「狩人さんが無事なら何でもいいですよ。通信機ぐらいまた買えばいいんですから」

「さてじゃあ定例会の続きでもしようか。まだ途中だった気がするし」

 私に背を向けて去ろうとする四人に私は思い出したように声をかけた。

「そうだ……貴公らに一つ教えることがある。宝の場所が分かったかもしれん」

 四人の動きが止まった。




一話丸ごと戦闘で使ってしまいました……
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