神秘狩りの夜   作:猫又提督

20 / 34
アビドス編です。元々の計画には無かったパートなので苦労しそうですね。


第20話

 あのピンク髪の少女は随分強いらしい。彼女が加わってから前線がどんどん進んでいる。彼女の戦い方に注目してみるに、近距離戦が得意なようだ。他の三人に比べればというだけで、狩人の立場から見れば中距離ぐらいにはなるが、一歩二歩踏み込めば届きそうな距離感で戦われるのは厄介だ。私はああいう間合いで戦わせられるのは嫌いだ。中途半端だ。攻撃に一歩遅れる。回復する時に相手に隙を与える。だから嫌いだ。あの少女とはまだ戦いたくない。

 ふと先生の方を見て見ると、彼の後ろから一人のロボットが息を潜めているのが見えた。先生を始め、少女たちもロボットの存在に気づく様子はない。あのロボットが一瞬仲間なのかとも思ったが、そんな考えはすぐに消えた。ロボットが銃口を向けたからだ。あのままでは先生は撃たれる。一発なら大丈夫だろうと思ったが、キヴォトスの銃はガトリングのように連射できるのだ。流石に何発も耐えられないだろう。

 私はロボットに向けて一発撃った。こんな遠距離を狙ったことが無いので、弾は当たらなかった。しかし近くには着弾した。ロボットは引き金を引くのを躊躇し、射撃元を探し出した。私はその瞬間に路地裏を飛び出した。再びロボットが銃口を先生に向けるまでに十分間に合う。

 私が飛び出したことにピンクの少女が気づいたのを横目に確認した。どんな表情をしていたのかは分からない。ただいい顔は絶対にしていないだろう。

 先生の横を通り過ぎると、彼も私の存在に気づいた。

「き、君!?」

 先生は私に手を伸ばすが、私には届かない。あっという間に彼の姿は見えなくなった。

 ようやく私の接近に気づいたロボットは慌てて私に銃口を向けるがもう遅い。勢いそのまま私はロボットの懐に入り込み杖を突き立てた。

 生身のキヴォトス人には獣と化した私の右手でも貫くことは出来なかった。しかし金属でできているであろうロボットの体が杖で貫けるというのはどういうことだろう。キヴォトス人の肉は鉄よりも硬いのだろうか。

 腹を貫いたので十分致命傷になったと思ったが、ロボットはまだ生きていた。杖を引き抜き、頭を水平に殴ると、顔の半分までめり込んだ。ロボットは完全に静止し、力なく倒れた。その直後後ろから押し倒された。両手を後ろで掴まれ、背中を強く抑えられている。後頭部に何かを向けられている気配がした。

「あそこから動かないでって言ったよね」

 声でピンク髪の少女だと分かった。

「このロボットが先生に銃口を向けているのを見た。あのままでは撃たれると思った」

 私は地面に押しつぶされながら、しかし冷静に弁明した。少しして背中の圧迫感が消え、両手も自由になった。ゆっくりと立ち上がり、後ろを振り向くと彼女が立っていた。銃口は向けられていない。

「あのロボット、君がやったの?」

「ああ。貴公は先生の味方であろう。ならば寧ろ感謝するべきだ。あのまま私が待っていたら先生は撃たれていたぞ」

「そう……なら、いいよ」

「ホシノ!」

 そう呼ばれた少女の後ろから先生他少女三人がぞろぞろとやって来た。さっきまで戦っていたロボットたちはほとんど変わり、遠くで残りが逃げ去っていく様子が見えた。

「ホシノ先輩、急にどっか行っちゃってどうしたの!?」

「えっと、そちらの方は一体?」

「この人は先生の後を付けてたみたい」

 そう言ってホシノは先生の方を向いた。当の本人はまるで気付かなかったと驚いた様子を見せた。

「じゃあこの人もカイザーの仲間?」

 そう言って銀髪の少女が私に銃口を向けようとした。私は身構えたが、それと同時にホシノが彼女を制した。

「いや、私も最初はそう思ったけど、この人はカイザーのロボットを倒したし、先生のことを守ってた。少なくとも敵じゃないよ」

「ああ、僕もそう思うな。僕を守ってくれたわけだし」

「でもじゃあなんで先生について来たんでしょう?」

「それは折角だから本人の口から聞いたほうがいいかもね」

 ホシノが目線を私に向けた。すると他の四人も私に目線を向けた。

「いかにも、私はそこの先生に用がある。とは言ってもただ道を聞きたいだけだ。貴公らが警戒するようなことではない」

「何処に行こうとしてるのよ」

「百鬼夜行連合学院という所だ」

「百鬼夜行か……遠いね。なるほど、だからあの電車に乗ってたんだね」

「でもアビドスから百鬼夜行に行く電車ってあったかしら」

「いえ無かったと思います。一度別の自治区に移動しないと」

「ん、でも先生と同じ電車に乗ってたんだからそれが百鬼夜行に行ったんじゃないの?」

「それはどう言うことだ?」

「あはは、じつは僕も百鬼夜行に用があってね。たまたま君と同じ電車に乗ってたんだよ」

「ですが、その電車は恐らく普段アビドスを通過していますね」

「ふむ、では結局のところアビドスから出にゃならんのか?」

「そういうことになりますね――」

「すみません」

 金髪の少女の言葉に被せるように別の声が聞こえた。そしてそれはこの場にいる誰のでもない声だった。すると彼女たちの後ろから一つの機械が飛んできて、私と少女たちの間に下りた。さっきの声はこの声から発せられているようだ。

「電車の件なんですけど、どうやら数日後に臨時の路線が用意されるみたいです。それに合わせてアビドス中央駅から百鬼夜行連合学院まで行く電車もいくつか用意されるみたいです」

「どうする? 僕は用事があるからこの後すぐに百鬼夜行にいくけども」

「ふむ……あいにく持ち合わせが無いし、急いでいるわけでも無い。数日ぐらいなら待とう」

「分かった。それじゃあ僕は行くよ。皆も今度また会おう」

「うん。先生またね」

 先生は少女たちに別れを告げてその場を去っていった。彼と話をする彼女たちの顔は非常に優しいものだった。一方で私に向ける顔は、仕方が無いのであろうが幾分か不信感が見えた。特にホシノという少女は、あれだけ弁明をして先生のことも助けたというのに、彼女たちの中で一番私を信用していない目をしていた。

「あんた名前は?」

 黒髪の少女が私に話しかけた。この中では一番私を警戒していないのだろうか。

「狩人だ」

「狩人? え、それ名前?」

「申し訳ないが訳あって名前が無いのでな。これで勘弁してくれないだろうか」

 私がそう言うとホシノの顔はより一層厳しくなった。もはや睨みつける勢いだ。刺されそうだ。

「私は黒見セリカ。こっちが――」

「ん、砂狼シロコ」

「初めまして十六夜ノノミです♧」

「直接の挨拶じゃなくてすみません。奥空アヤネと申します」

 そのままの流れでホシノも自己紹介をするものだと思っていたが、彼女は私を睨みつけたまま一切喋ろうとしない。彼女たちも物言わないホシノを疑問に思ったのか、セリカが声をかけた。

「ホシノ先輩?」

「ん、ああ。ごめんね。おじさんは小鳥遊ホシノ。アビドス高校の三年生だよ~」

 セリカに声を掛けられたホシノはまるで人が変わったかのように態度が軟化した。その脱力した態度からは先ほどの厳しい視線は一切感じられない。

「おじさん? 貴公は見た所若いし、性別も女であるようだが?」

「あー、ホシノ先輩はそういう所あるのよね。無視していいわよ」

「ふむ、そう言うならまあ良い」

「えっと……私たちは学校に戻りますけど、狩人さんはどうされますか?」

「臨時の路線が用意されるのは数日後と言っていたが具体的には何日だ」

「現時点ではまだ発表されていないようです」

 機械からアヤネがそう言った。

「ふむ……まあ数日ぐらいどうってことは無い。だが、そうだな私はアビドスに来たことが無い……もし可能であれば私もその学校に連れて行ってくれないだろうか」

 私がそう言った途端、ホシノの顔が再び険しくなった。だがその顔は私にしか見えていないのだろう。ホシノがこの提案に難色を示すのは分かっていた。だが面白そうではないか。折角できた縁だ。大事にしようではないか。

「いいんじゃない? 数日ぐらい」

「私も構わないと思います」

「ええ、折角ですからアビドスを紹介しましょう」

「ん、三人が良いなら私も構わない。ホシノ先輩は?」

「そうだね……シロコちゃんたちが言うなら私も別にいいかな」

「それじゃ早速行きましょう!」

 ノノミが先頭を立って路地から抜けていく。彼女に続いて機械とセリカがついて行った。ホシノは彼女達には続かず、私に「先に行っていいよ」と目配せをした。私はそれに従ってセリカの後ろに続いた。私の後ろからホシノが続いた。そして彼女が誰にも聞こえないように小声で「いざという時は私が――」と呟くのを私ははっきりと聞いた。

 

 アビドスに砂漠が無いというのは全くの勘違いであった。ひとたびアビドスの郊外に足を踏み入れれば町には大量の砂が入り込んでいる。もはや住める環境とは言い難いが、このような状況でも住み続ける住民はいるらしい。ホシノたちもその住民の内だとか。さらに奥地に行けば、話に聞いていた通り一面の砂漠があるそうだ。

「本当に砂に覆われていたとはな」

「ええ、あちらの方はまだ砂が侵食していませんから」

「まだということはいずれ?」

「うん。そのいつかはまだわからないけどね」

「なるほど。それにしても日差しが強いな。日傘でもあまり防げない」

「今の時期はちょっと厳しいからね。まあ、砂漠に比べればまだマシよ」

「砂漠を見てみるのが楽しみだったのだが……考え直す必要がありそうだな」

 日差しもそうだが、砂が増えるにつれ気温も高くなっている。ふと地獄の番犬の存在を思い出したのはこの気温の奴の姿を重ねたからだろう。あいつの攻撃を喰らった時の痛みは打撲だとか裂傷とは違ったものだ。とはいえあれとはまた違った苦しみに今は襲われている。暑い、とにかく暑いのだ。じわじわと命を削り取られているような感覚だ。自分でも気づけないほどに。

 不意に足元がもつれた。バランスを崩し、私は前に崩れそうになる。その時咄嗟に誰かが私の体を支えてくれた。日傘からはみ出る髪の色は銀色だった。だからシロコだ。

「大丈夫?」

「申し訳ない。日差しに弱くてな。日傘を差していてもどうも厳しい」

「一度どこかで休憩しましょうか?」

「大丈夫……と言いたいところだが、無理をして迷惑をかけるのも本望ではない。そうしてもらえると助かる」

「あそこにコンビニがある。一先ずあそこに行こう」

「そうですね。涼しい場所の方がいいと思います」

 コンビニという名には聞き覚えがある。私はシロコに体を支えてもらいながらコンビニへ向かった。

 コンビニに入ると、外の暑さから一転して全身を冷風が駆け巡った。ロボットの店員が「いらっしゃいませー」と声をかけるのが聞こえた。

「あー涼しい」

「生き返りますねえ」

「ん、折角入ったし何か買うべき」

 私は体を支えてもらったよしみでシロコについて行った。

 店内を巡っていると、とある棚が目についた。この棚に乗っている商品は、箱に描かれたマークをそのまま捉えるならば銃の弾である。

「それ買うの?」

 弾丸をじっと見つめていると、シロコがそう話しかけてきた。

「実はこの銃の弾が無くてな。コンビニにあると言われたがコンビニが何処にあるのか分からなかった」

 私はそう言って聖杯ダンジョンで拾った短銃を見せた。するとノノミも近寄って私の短銃を見た。

「変わった銃ですね」

「多分ボルトアクションライフルの銃身が短い奴」

「じゃあ七ミリでいいんじゃないですか?」

 ノノミはそう言いながら一つの商品を指さした。

「これか……しかし生憎円を持ち合わせてないのだ」

「そういえばさっきも言ってたね。お金持ってないの?」

 いつの間にかホシノが私の後ろに立っていた。コンビニに入ってから一度距離を取っていたはずだが、また接近に気づかなかった。

「金はある。ただ円ではない」

 私は懐から輝く硬貨を取り出した。その場にいる全員の目が変わった。シロコたちが集まっているのを見てやって来たセリカも感嘆の声を上げる。

「え、え、こ、これって金貨銀貨っていう奴じゃないの。ほ、本物?」

「材料はよく知らないがおそらく貴金属の類だろうな。しかしキヴォトスでは使えないだろう?」

「換金所があれば使えるでしょうけどありましたっけ?」

「さあ、そこらへんは疎いから分からない」

「さて、この流れで言うのはおこがましいかもしれないが、私は言った通りキヴォトスの通貨を持ち合わせていない。だが、この弾丸が欲しい。この輝く硬貨と引き換えで買ってもらえると嬉しいのだが」

「いいわよいいわよ! 弾薬パック一つで金貨と交換してくれるならいくらでも!」

 ノノミとホシノが何か言いたげだったがセリカは二人が言う前に弾薬パックを一つどころか数個手に取り、店員の元へ行ってしまった。

 私はセリカから弾を受け取り、代わりに硬貨を差し出した。そして再び厳しい日差しの中彼女たちの学校へ向かった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。