神秘狩りの夜   作:猫又提督

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遅れました。


第16話

 私はセイアとマリーを例の教会まで案内した。セイアに提示された教会跡を過ぎた辺りから二人はキョロキョロとあたりを見回していた。

「まるで初めて来たような素振りだ。ここは貴公らの土地だろう?」

 私が尋ねるとマリーは困ったような笑顔で答えた。

「私はトリニティに入学してからまだ一年も経っていませんから。知らない場所はたくさんあります」

 するとセイアもマリーに同調するかのように答えた。

「トリニティは広いからな。加えて私は病弱の身だったし、外出する機会はあまり無かったからな。まあトリニティの全てを知っていれど、赴いた人はいないだろう」

「そうか。教会の数が多いのもそれが原因なのか」

「昔のトリニティは様々な分派がいたからね。派閥の数だけ学校が存在した。それぞれの学校が好きに建てたからな。君が気付いたか分からないが、資料のスケッチを見る限り教会のデザインにも多少違いがあった」

 昨日今日の調査を思い出してみたがあまりピンとこなかった。内装はどこもかしこも違った気がする。

「はて、あっただろうか。あったとしても外観だろう? 私が赴いた場所はどこもかしこも崩れていたからな」

「そうだったか。いやね、マリーと一緒に資料を読んでいた時にふと気づいたのだが……そうか、君に提示したものはどれも崩れ切っていたか」

 

 やがてあの教会につながる一本道に着いた。道と行っても獣道のようなもので、街灯などあるはずも無い。数刻前に訪れた時よりも暗く不気味で恐ろしかった。

「本当にこの先にあったのか?」

「とてもではありませんがこの先に教会があるとは思えませんが」

「第一こんな雑木林の中に建てたって不便だろうに」

「そこまで文句を言われても、あったものはあったのだ。行くぞ」

 私はこのくらい獣道を進むために松明を取り出した。セイアとマリーの二人は懐中電灯、ではなくあのスマホとやらを取り出した。背面から強い光がある。セイアが色々と出来るとは言っていたが明かりにまでなるとは、便利なものだ。

 真っ暗の獣道の中、セイアはただ黙って私の後を追い続けた。マリーは恐怖を感じているのか時折周りを見回していた。

 しばらく歩いていると目印代わりの石のアーチが現れた。私はアーチの前で止まり、二人に場所を譲った。

「あそこだ」

「どれどれ、暗くて見えないな」

 セイアはスマホのライトをアーチの奥に向けた。無機質な光に照らされて教会の一部が映しだされた。

「見えるか?」

「あれだな。確かに教会の様だ。まさか本当にあるなんて」

「え、え……どこにあるんですか?」

「今セイアが照らしているだろう。あの建物だよ」

「で、ですがセイア様が照らしているのは何もない空き地ですが」

「何?」

 マリーの言葉に私は教会を見返した。しかしセイアのライトは間違いなく教会を照らし出している。セイアもあの教会が見えているようだし、私が幻覚を見ているわけでは無さそうだ。

「貴公にはあの教会が見えないのか?」

「教会なんてどこにもありません」

「おかしいな。狩人と私には見えているのだが……二人とも幻覚を見ているのか?」

「まさか。私は確かにあの教会に入り地下まで下りたのだ。幻覚と言うには具体的過ぎるだろう」

「それならあの教会に近づいてみればいい。そうすれば幻覚かどうかすぐにわかる」

「それもそうだ」

 私たちは順番にアーチをくぐった。最初に私、次にセイア、最後にマリーがアーチをくぐる。マリーがアーチをくぐった瞬間、彼女は悲鳴に近い声を上げた。

「ひゃ!?」

「どうかしたか?」

「た、建物が急に!?」

「見えたのか。一体どういうことだ」

「さあな。見えたのならそれでいいだろう」

「私にも分かりません……突然現れたんです」

「ふむ、何か特別なことが……アーチか?」

「アーチをくぐった瞬間に見えるようになったか。隠されていたのだろう」

「だが私と君には最初から見えていたじゃないか」

「見当はつくが……ここで話すことではなかろう。どうせ理解できん」

 私はマリーを見ながら言った。それで彼女も事情を察したのかそれ以上追及することは無かった。

「えっと……お二人とも何の話を?」

「いや、何でもない気にしないでくれ」

「ああ、重要なのはこっちだ。さっさと中に入るぞ」

 教会の中は数刻前と変わらない。ただ真っ暗だ。松明やスマホのライト、そして入り口近くにある灯りで何とか様子が分かる。存外明るいものだ。

「ん、これは確か灯りだったな」

「ああ、目的地はあそこだ」

 三人はエレベーターに乗る。最後に私が中央に立って作動させる。エレベーターは音を立てながら地下へ下り始めた。

「危ないな。柵も無しか」

「落ちることは無いから構わないだろう」

「床だけが下りるエレベーターってなんだか怖いですね」

「見慣れたものだがな」

 地下に下りるとすぐに開け放たれた扉が出迎える。辺りを観察する二人をよそに私は先に中へ入った。

 変わらず地下は広い。三人分の明かりでも中々全容は捕らえられない。

「広いな。確かに日記の情報通りだ」

「こ、この先に本当にあの獣と呼ばれるものがいるんですか?」

「ああ、確かにいた」

 それ以上は言葉を発さず、足音だけを響かせて遂に空間の最奥にやって来た。私が松明を掲げるのに合わせて、二人もライトを上げた。その瞬間二人が驚愕の声を上げるのを聞いた。

「ひっ!?」

「こ、これは」

 とにかく巨大な体躯に発達した右腕。大きな鹿の角が生えた頭。聖職者の獣に違いない。

「恐らくこれが昔ゲヘナの侵入者が見つけた獣だろうな」

「まさか本当に存在していたなんて」

「さあ、約束は果たした。例の情報を聞かせてもらうからな」

「待て待て。わざわざここで話さなくてもいいだろう。まずはこれをどうするか決めないと。ひとまずナギサに報告だな」

「私もサクラコ様に報告しなければなりません。構いませんね?」

 マリーはセイアに尋ねた。

「ああ。実在したなら報告した方がいいだろう。すまないが例の件は少し待ってくれないだろうか」

「しょうがあるまい。事が落ち着くまで待とうじゃないか」

 今日はここで引き返すことになった。

 翌日からセイアは部屋を一日中空ける日が続いた。私はというとそう簡単に外を出歩けないので一日中留守番である。外ではマリーと同じ格好をしたシスターフッドが四六時中歩き回っているのが見えた。

 最初は律儀に待っていたのだが、すぐに飽きた。だから夢に帰った。その際坂に連なる祭壇を見て思い出した。そういえばキヴォトスにやってすぐベアトリーチェとかいう上位者もどきを狩った。その時に抉りだした目玉がポケットに入ったままだ。聖杯ダンジョンを作ろうとしていたがすっかり忘れていた。折角だから試してみようではないか。

 私は祭壇の前に跪き目玉を取り出す。あの時と変わらない血に深く染まったような赤い目玉だ。聖杯は適当にトゥメルの汎聖杯でいいだろう。そこまで熱心に聖杯に潜るわけじゃないからこだわりなどはない。

 聖杯の中に目玉をいくつか入れた。これだけでは足りないだろうか。適当に懐を探ると瓶に入った血が手に当たった、輸血液とは違う儀式用の血だ。瓶のふたを開け、聖杯になみなみと注ぐ。僅かにあふれた血が聖杯をつたって祭壇を濡らした。

「できた……だろうか」

 祭壇から使者が現れ血に濡れた聖杯を崇めだした。聖杯ダンジョンは無事に作成された。正直できるとは思っていなかった。ヤーナムとキヴォトスの素材で作られた聖杯ダンジョン、果たして中身がどうなっているのか楽しみだ。

 聖杯に触れるとたちまち目覚めの感覚が襲い掛かって来た。目を閉じてしばらく、次に目を開ければそこは見慣れない場所だった。聖杯ダンジョン。かつてヤーナムに存在した王朝の墓のはずなのだが、どこか様子がおかしい。最後に聖杯ダンジョンに潜ったのは結構前だが様相は覚えている。全体的に石造りで、数々のトラップがあり、墓であるがゆえに人工物はあまりなかったはずだ。しかし今私がいる部屋は石というよりも石レンガのような質感の部屋だ。しかもあるはずのないベッドが置かれている。これではまるで初めてキヴォトスに来た時と同じではないか。

 寝室を抜けて細い一本道の先に灯りが立っていた。灯りに火をつけて、扉に手を掛ける。力いっぱい持ち上げると徐々に扉が持ち上がり、勢いそのまま天井まで持ち上がった。

 扉の先は一変して見覚えのある光景になった。暗く不気味で、しかし好奇心くすぐられる遺跡だ。

「あ、爆発金槌のままだな」

 仕込み杖と交換し忘れた。すぐ後ろに灯りがあるので一度戻ろうかと思ったが、ちょうどいいので試しに使ってみることにした。トゥメル遺跡の一層目だから大丈夫だろう。

 扉の先に大きな道が見える。向かい側には鉄格子が見えるが、あの奥にボスがいる。

 廊下に出てすぐに暗がりの中に佇む敵の姿が見えた。体格の良くない守り人と人さらいだ。近づいてみると、更にその奥に別の敵が見えた。ヘイローがある姿にいよいよ驚かなくなってきた。

 ユスティナ聖徒会は人さらい達よりも早く私に気づき、すぐに銃を撃ってきた。間一髪避けたものの、人さらい達にも気づかれてしまった。守り人が剣を振りながら走って来たので、ステップで避けて爆発金槌を振りかざしたが奥から銃弾が飛んでくる。偶然か必然かタイミングが悪く、中々手が出せない。だが、ユスティナ聖徒会が放つ銃弾は守り人たちにも当たっている。少し誘導すれば肉壁になった。どうやらタイミングは偶然で、奴らに仲間意識はないようだ。だからと言って敵対するわけでも無いらしいが。

 人さらいも楽に処理できたので、近くの障害物に身を隠して射線を切った。爆発金槌の撃鉄を肩で起こす。障害物から飛び出し、二人へ走ると、当然彼女たちは撃ってくる。斜め前に全力で走れば銃の照準が重なるよりもこちらの移動速度の方が早い。

 間合いに入ったと同時に力強く爆発金槌を地面に振り下ろした。地面と接した瞬間、その周囲が爆発し、ユスティナ聖徒会の二人は吹き飛んだ。

「すばらしい!」

 私は思わず呟いた。ただ二人はまだ立ち上がる。私は武器を反転させ床に擦り付けて撃鉄を起こした。もう一度力強く振り下ろそうとしたが、今度は相手の銃撃の方が早かった。二人は後ろに下がり、私も銃弾を受けて後ろに下がった。互いの間が数メートル空いた。一瞬銃撃が止み、私は間髪入れずステップし、また爆発金槌を振り上げた。しかしまた銃弾で距離を空けられた。また私は距離を詰め性懲りも無く爆発金槌を振り上げたが、やはり銃弾が私の腹を打った。

 三回目でようやく私は凝りた。一度二度ステップするとユスティナ聖徒会の横顔が見えた。右から左へぶん回すと、火花を出しながら一人に接触し、その瞬間軽い爆発が起こった。叩きつけるほどではないが、体勢を崩すには十分だったようで、彼女は軽く吹き飛んだ。

 一対一にするため、まだ立っているもう一人など無視して吹き飛んだ方へ行った。近づいた勢いで叩きつけたが爆発は起こらない。一度振ったら撃鉄を起こし直さなければならないらしい。不便さを感じながらも起こし直した。残念ながらその間に立ち上がってしまった。

 地面を擦り、火花を散らしながら爆発金槌をかち上げると、幸運にも相手の銃を吹き飛ばすことに成功した。勢いそのまま今度は地面に叩きつけようとしたが、横目にもう一人のユスティナ聖徒会が銃口を私に向けているのが見えた。まずい、と思ったが体が追い付かなかった。回避を取らず、爆発金槌を叩きつけた。相手は地面に伏し、そのまま動かなかった。ヘイローも消えている。

 あわててもう一人の方へ向いた。彼女は一瞬戸惑う素振りを見せたが、すぐに引き金を引いた。一対一であれば苦戦することは無い。私はステップで左右に避け続け、容易に距離を詰めた。撃鉄を起こし、右から左へぶん回す。爆発が起こり、彼女は体勢を崩した。私は手を止めずに今度は左から右へぶん回す。それを繰り返すと、やがて彼女は一層派手に吹き飛び、起き上がらなかった。

 振り返ってみれば、一人目の姿は無い。もう一度振り返ってみれば、二人目の伏した体が霧散し始めている。

 決着はついた。爆発金槌は火力はあるが、取り回しにはやはり難がある。今まで仕込み杖を使ってきた分、慣れるのには時間がかかるだろう。

「しかし楽しいな、こいつは」

 爆発で二人を吹き飛ばしたときの快感をまだ覚えている。あの一撃に爆発金槌の素晴らしさが詰まっていた。私はまたあんな快感を味わえたら、とワクワクしながら遺跡の奥へ進んでいった。




これでストックが切れてしまったので、以降は不定期になるかと思います。なるべく週一で出せるようには頑張ります。
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