神秘狩りの夜   作:猫又提督

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セイアがついに実装ですか。思ったより活発な子でしたね。おかげでセイアという生徒の性格が良く分かります。イベントを途中までやりましたが……セイアは可愛いですね。


第8話

 トリニティの自治区は非常に広く、数時間歩いてもゲヘナの町は見えてこない。アリウス自治区からトリニティに移動するときはそれほど時間がかかっていなかったので、トリニティからゲヘナに向かうのにも小一時間程度だと思っていたのだが、完全に予想を外したらしい。

「困ったな。ゲヘナまでどれくらいか聞いておくべきだった」

 夢に戻ればまたセイアと出会えるだろうが、セイアの部屋を後にしてからこれまで新しい灯りは見かけていない。このままだとゲヘナにたどり着く前に夜が明けてしまいそうだ。

 途方に暮れながら歩いていると、私に声をかける者がいた。

「おや、昨日ぶりですね」

 後ろから声をかけてきたのはゲマトリアの黒服だった。

「貴公か」

「こんなトリニティの外れでどうされたのですか」

「ゲヘナに向かう所だ」

「ゲヘナへ? 私が紹介したものはお気に召しませんでしたか?」

「いや、十分興味を惹かれた。しかしあの者の神秘はとうに手放した後だった」

「なんと、それは全く知りませんでした。まさか予知夢の神秘が」

「その様子だと貴公はやはり知らなかったようだな? あの神秘は手放した後に誰かの手に渡ったようだ。貴公、何か知らないだろうか」

「申し訳ありません。狩人さんがおっしゃった通り、私は予知夢の神秘が手放されたことを知りませんでした。ましてや誰かの手に渡ったという事も。残念ながら心当たりもありません」

「ならいい。地道に探そう」

「私も協力しましょう。神秘の行き先は私も気になるところです」

「なら助かる。では教えてほしいのだが、ゲヘナまでどれくらいあるのだ?」

「お言葉ですが、今のあなたを見る限り、まさか徒歩で向かおうと?」

「そのつもりだが」

「それでは夜が明けてもトリニティを出ることは出来ませんよ」

「そんなに遠いのか。困ったな、夜明けまでには到着したいのだが」

「私が車で送りましょう。近くに止めてありますから、徒歩よりかはよっぽど早いです」

「助かる。そういえば協力してもらう代わりに私の研究が必要だったな。初めて会った時も何かよこせばよかった。それのお詫びも兼ねてだが……ひとまずこれでよいだろうか」

 私は輸血液を一瓶取り出し、黒服に差し出した。彼はそれを受け取り注意深く観察する。興味深そうに瓶を揺らしながら私に尋ねた。

「これは……血液ですか」

「そうだ」

「あなたの?」

「いや誰のか分からない。だがヤーナムで広く普及しているものだ」

「ヤーナム。あなたの故郷でしょうか」

「いや違う。私はよそ者だからな」

「なるほど。因みになぜあなたは誰のか分からない血液を持っているのでしょう」

「狩りによく使うのだ。傷を負ったらすぐにそれを太ももに刺す」

「輸血液という事でしょうか」

「ああ、傷がすぐに塞がるから重宝している」

「具体的にはどれほどの期間ですか?」

「期間? すぐだ。見せた方が早いか?」

 私は懐からメスを取り出し、左手に突き立てた。メスは貫通し、傷口から血が流れ落ちる。メスを引き抜くと、一緒に大量の血が流れ出てきた。

「な、なにを」

 黒服は慌てた様子で私に近寄るが、私は無視して輸血液を一本太ももに突き刺した。すると、流血は止まり、傷が塞がる。跡すらも残らなかった。

「ほら、すぐだ」

「これは……クックック、素晴らしい。一体この血液の成分は何でしょうか。瞬時に傷を治す血液は古代のキヴォトスにおいても存在しておりません。あなたは先ほどこれが普及していると言っていましたが、まさかこんなものが出回っているのですか? 下手すれば、いや間違いなくこれは世界を変えてしまうような代物ですよ」

「ヤーナムは血の医療で有名な町だ。血の医療を求めて様々な人がヤーナムに訪れる。私もその一人だ」

「持病があるのですか」

「さあ。血の医療を求めてヤーナムにやってきたことは覚えている。それ以外はさっぱりだ。なぜ血の医療を求めたのか、そもそも私は誰なのか。全く覚えていない。だがもうそんなことはどうでもいい。私はただ狩りをするだけの狩人だ」

「あなたの出自にも秘密がありそうですね。しかし本当にこれを頂いてよろしかったのですか?」

「やはりそれでは足らないか」

「いえ、むしろこんなものを貰えるとは思ってもいませんでした。クックック、やはりあなたと仲間になったのは正解だったようですね。さあこちらへ、ゲヘナへお送りしましょう」

 私は黒服の案内でトリニティの郊外を歩いた。彼は道中何かしゃべるわけでも無く、私が差し出した輸血液を揺らしては満足そうに笑っている。

「貴公は何をしていた」

 黒服は一度歩みを止めるが、すぐにまた歩き出す。そして前を向いたまま言った。

「少し調査をしていました」

「一体何の」

「今後キヴォトスに訪れるかもしれない厄災です。詳しいことは車内でお話ししましょう」

 黒服が案内したのは、見たことない馬車の客車のようなものがたくさん並んだ場所だった。彼はその中の一台に近づき、ドアを開けた。

「どうぞ」

「馬もいないのに走るのか?」

「馬? ああ、これは馬車ではありませんよ。狩人さんは自動車をご存じないのですか?」

「自動車……噂程度だ。ヤーナムには無かった」

「そうですか……恐らく狩人さんの世界とキヴォトスの間には百年、いや二百年ほどの差があるかもしれません」

「二百年……ここがそんな未来の世界だと?」

「ええ、ですからキヴォトスには狩人さんの知らない物ばかりかもしれませんね。さあ、どうぞお座りください」

 私は黒服に勧められるがまま、席に座った。今まで座った中で間違いなく一番座り心地のいい椅子だ。

「いい座り心地だ。流石二百年先の未来だ」

 黒服は反対の席に座り、何か手元を動かした。すると爆音が鳴り、車内が揺れだす。私は静かに慌てるが、その内に車が動き出した。

 

 景色が見たことのない速度で動いている。窓に映るものが何なのか、それを認識した時にはとうに後ろへ見えなくなってしまう。

「早いな。目が回りそうだ」

「気分が悪くなるようでしたら、出来るだけ遠くを見つめると良いでしょう」

 私は椅子に深く座り、目線を前に向けた。遠くには町のであろう光が沢山見える。電気がエネルギーの主体となったこの世界では、人々は夜更けまで活動することが当たり前になったらしい。

「さっきの厄災というのは?」

 幾分か気分がマシになって、私は先ほど黒服が言いかけたことを尋ねた。

「はい、実はキヴォトスに厄災が、色彩が近づいている気配があるのです」

「色彩?」

「狩人さんの世界には無い概念、存在でしょうか。一言で表すならばキヴォトスを破壊しかねない存在です。私としては探求の場が破壊されるのは望ましいことではありません。ですから何とか対策を、と思っていたのです」

「都市一つ破壊しかねない厄災、色彩、全く想像もつかないな」

「実のところ、私も色彩がどれほどの被害をキヴォトスに及ぼすのかよく分かっていません。ですからこうして調査を行っているわけです。しかし色彩が神秘に及ぼす作用は分かっています」

「何が起こる」

「色彩と神秘が接触した時、神秘は反転し恐怖(テラー)に成ります。恐怖(テラー)と化した神秘は暴走し、誰にも止められなくなるでしょう。それが一人や二人ではなくキヴォトス全域で広がったのだとしたら……その被害は計り知れません」

「私でもそれはなるのか」

「ヘイローがあるのでしたら、間違いなくあなたは神秘を持っています。当然色彩に触れれば恐怖(テラー)を引き起こすでしょうね」

「それは……厄介だな」

「ええ、ですがあくまで近づいている気配があるというだけのこと。楽観視できるほどではありませんが、逆にそこまで不安に感じる必要もありません。狩人さんはご自身の調査を進めてください」

「話を聞く限り協力をした方がよさそうだが、大丈夫なのか?」

「ゲマトリアは神秘を探求し、崇高へと至ることを共通理念としていますが、そこに至るまでの道は各々違う方法で歩んでいきます。もとよりそこまで密接に共に何かすることはありませんから。結局のところ、この調査もキヴォトス全体の為というよりは自分の為と言ったところです。ですから狩人さんも自身の道を歩むことです」

「崇高への道か。私はただの狩人で崇高を目指すなんて高尚なことはしたことが無いが、それが貴公たちの目的なのであれば、ゲマトリアの一員として考えておこう」

「ええ、ぜひとも」

「ところで話は変わるが、貴公が紹介した百合園セイアだが、私がゲマトリアだと知った瞬間、態度が冷たくなったのだが、ゲマトリアはキヴォトスに歓迎されていないのか?」

「それは私が以前先生と対話をした時に、先生の機嫌を損ねてしまったからでしょう」

「先生とは誰のことだ」

「狩人さんはまだ先生に出会ったことがありませんでしたか。彼は私と同じキヴォトスの外からやってきた者です。その名の通り生徒たちを導く存在、そして生徒の神秘をより引き出す存在です。彼が指揮をした生徒は普段より戦闘能力が上がります。たとえ普段は勝てない相手でも先生が加わった瞬間その結果はひっくり返る、いわばゲームチェンジャーのようなものです。彼は重要視していませんが、その特質には目を見張るものがあります」

「貴公やけに饒舌だな。その先生という男を気に入っているのか」

「ええいかにも。彼は私と同じ、共に神秘を探求し、崇高へと至る。その道を競い合える良い友だと。ですから以前ゲマトリアへ勧誘したのですが虚しくも断られてしまいました」

「それで機嫌を損ねたと」

「はい。キヴォトスの生徒は彼に同調したのでしょう。彼を慕っている生徒はキヴォトスに数多くいます。三大校のトップまでもが彼を気に入っているほどです。彼が一度指示を出せば間違いなく動くでしょう」

「それほどの相手を敵に回したと。つまりキヴォトス全域が私たちの敵か」

「そこまでではありませんが、おおむねそういった解釈でよろしいかと。おかげで我々は表立った行動をとることができません」

「今更ながら後悔してきた。ゲマトリアの立場を利用しての探索ができない」

「クックック、どの勢力に立とうが必ず敵はできるものです」

「規模がおかしい。場合によっては貴公らを狩って釈明しなければならないかもな」

「クックック、それではそうならないように努めなければなりませんね。幸か不幸かゲマトリアの名はそれほど広がっておりません。あなたが自分から話さない限りバレることは無いでしょう」

「ならまだいい、のだろうか。全くここの人間とは相手をしたくない。未来の人間は銃だけで戦うのか」

「技術が発展し、銃器の性能も上がりました。今や剣は銃に置き換わっているのです。ですがあなたが持っている銃は今でも通用すると思いますよ」

 黒服が言っているのはこのガトリングのことだろう。車に乗ったとき、置くスペースがなかったので、足元に寝かせている。

「じゃないと困る。距離を取られてばかりでは全く手出しが出来ん。それに私の攻撃もまるで効かない。モツを抜こうとしたら手が貫かなかった」

「それはヘイローを持つ生徒の特性です。彼女たちには銃があまり効きません。当たってもちょっと痛い程度で済むでしょう」

「頑丈なものだな。もはや不死身ではないか」

「流石にそこまでではありません。銃弾を浴び続けたり、より大きな火力であれば傷はつきますし、病気にもなります。キヴォトス外の人より頑丈なだけで、死なないことはありません」

「そうか、そうだな。私も普段より頑丈になったと思うし、既に二回死んだしな」

 途端に車内が激しく揺れ、外の景色も荒々しく動く。私は近くのものを掴み、耐えた。数秒後、黒服は車を止めて私を見る。

「し、死んだ? 今死んだと言いましたか?」

「一度目はキヴォトスに来てすぐ、何だったか……バル何とかと言うやつに。二回目はとある少女たちに」

「えっと、それでは今のあなたは幽霊ということですか」

「まさか。私は生きている。体は透けていないだろう」

「でも死んだと先ほど」

「すべては悪い夢のようなものだ。気にする事じゃない。私はまだ死ねないという事だ」

「あ、ああ、なるほど。死にかけたという事ですか。驚きました。まさか生き返ったのかと」

「それより早く行かないと夜が明けてしまう」

「まだ夜が明けるには早いですよ」

 そう言って黒服は車を出した。彼は何か勘違いしている様だったが、説明が面倒くさそうだったので止めた。

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