いつの間にか風車の街になっていた、秋田
先月、秋田市に行ってきた。
JALの「どこかにマイル」という、格安のかわりに行き先はお任せ……候補地が4つ出て、その中のどこかに自動で決まるという、ガチャみたいなサービスで決まったのだ。
目的あっての旅ではないため、美味しいものを食べたり、アクセスのいい観光地を回ったりして、のんびり過ごそうと思っていた。
市内の観光スポットといえば、歴史ある地方都市らしく、領主が住んでいた久保田城がある。まずはその展望台に登ってみた。
たいへん景色がよい。そして、ビュービューとめちゃくちゃ風が強い。
これが日本海側か。
そして、遠くのほうに見慣れぬ白い巨大な隊列が。
おお、すごい。
同じ方向をむいて、皆一生懸命に首をふっている。
何やら、運動部の子たちが、並んで筋トレをさせられているみたいだ。頑張っているなあ、と勝手に応援したい気持ちになる。
巨大なはずなのだが、ずいぶん遠くにあるため、こぢんまりとして見える。
日本の海沿いって、今こんなことになっているのか。
壮観だ。
これは、旅の予定を変更しても、現地へ見に行きたいと思った。
日本を代表する風力発電の現場、秋田港へ
どちらかといえば内陸部で暮らしてきたため、風力発電の風車って、ちゃんと見たことがなかった。
小学校の社会科で習ったのは2000年頃だったか、当時はまだまだこれから、21世紀に普及するエネルギーという感じだったと思う。
それ以来、あまり意識したことがなかった。
風力発電についてすこし調べてみると、日本では80年代から実証事業が始められ、90年代には実用化がすすんだ。00年代以降は、北海道や東北を中心に大型のウインドファームが普及し、特に東日本大震災後の2012年以降、再生可能エネルギー固定価格買取制度という仕組みが制定され、急拡大が進んでいるという。
とはいえ、さまざまな地理的・制度的・社会的制約があり、他の先進国に比べると普及は遅れている。
全発電量における風力発電のシェアは1%程度しかなく、例えば世界一のデンマークは60%近く、隣の中国も9%程度というから、まだまだこれから、といった状況である。
ということで、風力発電導入に関する議論は今も続いているけれど、この記事で注目したいのは、そこではない。
感嘆したのは、なによりその巨人感と佇まいである。
風車ビギナーからすると、ぶっちぎりで非日常を感じる光景だ。
リアリティのない巨大さである。
しかし、風車の方はそんな小さな人間の思いなど気にもとめずに、ゆったりと回り続けている。
また、地元の人たちは全く意に介している様子はない。
本当だったら地域のシンボルにならざるを得ない存在感なのに、これが日常風景なのだ。
街中に急にフィクションの巨大ロボットがあらわれても、案外これくらいの非日常感かもしれないな、と思った。
圧巻!秋田港からのぞむ洋上風力発電と無数の風車たち
1994年に竣工したこの展望タワーは、平成の空気感を今に伝えるスポットとして、また風車を観賞するための絶好のスポットとして有名だ。
北側には、秋田潟上ウインドファームの風車がズラーッと並んでいる。手前にはソーラーパネルの海。二刀流だ。
すっごく人工的だけど、これがいまの日本のクリーンエネルギーの素顔なのかもしれない。
秋田は風力発電量で北海道、青森とともに日本トップ3に入るという。
高さは100mもある風車が、日本海の強風を受けてめいめい気だるげに首を振っている。そっぽを向いているやつもいる。
意外と揃っていない感じが、夏休みの朝の寝ぼけたラジオ体操みたいでよい。
海辺に立つ巨人たち。
最近読んだ『ぼくらの』という00年代のSF漫画を思い出した。
夏休みの自然学校で田舎の海沿いを訪れた少年たちが、巨大ロボットバトルに巻き込まれる話だ。エヴァンゲリオン以降のデザインなので、ロボットなのにどこか生き物っぽい。
目の前の風車たちも、ちょっと似ている。
圧倒的なスケールで、鋭利なブレードを静かに回し続ける。
これぞ“平成が想像した未来”といった光景だ。



