日本初の女性首相誕生。その陰でLGBTQの権利に暗雲か
21日に行われた首相指名選挙で、高市早苗氏が内閣総理大臣に選出された。日本初の女性首相の誕生は、それ自体として画期的である一方、ジェンダー平等や性的マイノリティの権利保障の歩みに暗雲が立ち込めることになった。
同性婚への明確な「反対」
政治的な立場を問わず、女性リーダーの姿が社会の認識を変える側面は一定あるだろう。だが、高市首相のジェンダーやセクシュアリティに関する考え方は非常に保守的であり、特に性的マイノリティの権利保障は厳しい局面を迎える可能性が高い。
高市首相はかねてより「同性婚」に明確に反対を表明している。
自民党総裁選の際、性的マイノリティ当事者の高校生からの質問に対し、「私は基本的には同性婚には反対の立場だ」と回答し、「同性パートナーならいいけど」ともコメントした。
婚姻の平等をめぐっては、2026年に最高裁が判断を下す見通しだ。もし明確な違憲判断が出れば、国会は婚姻の平等の実現に向けて動かざるを得ない。しかし、違憲としながらも「別制度」を容認する判断となった場合、高市首相は同性パートナーシップ法などの限定的な制度に着地させ、異性カップルと同性カップルの間の差別を温存させようとする可能性がある。
政府は現在、33の法令について同性カップルも事実婚に該当し得ると発表しているが、社会保障を含む120の法令からはいまだ排除されたままだ。さらなる拡大について「引き続き、政府は検討を進めるべきである」と高市氏は回答しているようだが、場合によっては、この「事実婚への適用」をもって権利保障を済ませたとする形で、不平等を放置する恐れもある。
トランスジェンダーの法律上の性別変更について、最高裁は2023年10月に生殖不能要件を違憲と判断した。実務上はすでにこの要件は問われなくなっているが、法改正はいまだ行われず、もうすぐ2年が経過する。
戦後、最高裁で違憲と判断された13の法律のうち、最初の刑法尊属殺重罰規定を除くすべてが、判決から1年以内に改正されている。このままでは、最高裁の判断を立法府が放置するという、法治国家の根幹を揺るがす状態が続いてしまう。
人事から見る暗雲
高市政権の人事を見ても、法改正ではなく「法改悪」の可能性が見え隠れする。
高市首相は片山さつき議員を閣僚として起用した。片山議員は、LGBT理解増進法の成立後に発足した「女性を守る議連」の共同代表を務めている。同議連はトランスジェンダー排除の趣旨で設立された。最高裁の違憲判断を受けて、性別変更要件の「緩和」ではなく、むしろ「厳格化」を求める提言を出している。
自民党内の主要ポストにも、性的マイノリティの権利保障に否定的な議員が並ぶ。
総務会長に就任した有村治子議員は、「同性愛は精神疾患で依存症」と記したLGBT差別冊子を配布した神道政治連盟の支援を受けている。
選対委員長の古屋圭司議員は、保守系政治団体「日本会議」の国会議員懇談会の会長であり、自民党LGBT特命委員会の初代会長でもある。
LGBT理解増進法の制定過程では、「攻撃こそ最大の防御」とブログに綴っており、権利保障を抑制するために「理解増進」という骨抜きの法案を推進した中心人物のひとりだ。法制定後も自身のブログで「この法案はむしろ自治体による行き過ぎた条例を制限する抑止力として働く」と述べている。
また、政調会長の小林鷹之議員も選択的夫婦別姓や同性婚に反対の立場をとっている。
公明の離脱、維新との協力の影響
高市内閣の人事は極めて保守色が強く、「保守色を強めないように」と求めた公明党を「コケにしている」との声もあるという。
これまで性的マイノリティの権利保障をめぐり、政権の中では比較的推進役となってきた公明党が政権から離脱した影響も少なくないだろう。
代わって閣外協力を組むことになった日本維新の会は同性婚には賛成の立場をとるが、LGBT理解増進法の制定時には、自民党案をさらに後退させる修正案を国民民主党とともに提出した経緯がある。選択的夫婦別姓に関しても、今回、自民党と結んだ合意書では旧姓使用の拡大で着地させようとしている点からも、今後の展開は楽観できない。
これまでの自民党政権に引き続き、高市氏も女性活躍や女性の健康支援など、経済合理性や少子化対策の文脈での政策は一定進めていく可能性はある。一方で、女性が首相となったことで、もはやジェンダー平等は達成したかのようなイメージが広げられる懸念もある。政権にとって都合の良い部分だけでない「権利」や「平等」を進めるかどうか、今後の動きを注視する必要がある。