オルツの社長はなぜ100億円を集めて逮捕されたのか
2025年10月9日に株式会社オルツの元社長である米倉千貴氏が、逮捕されました。罪状は金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)であり、架空売上による粉飾決算の疑いです。オルツは2024年10月11日に株式上場しましたが、2025年8月31日に上場廃止となりました。なぜ100億円の資金調達を実現して、パーソナルAIの実現を目指し、メディアに多数出演して話題になったAIスタートアップの社長が、逮捕されたのでしょうか。その裏側には数々の問題が潜んでいました。
調べた内容は記事にまとめましたが、長いので(約41,000文字)最初にまとめておくと
・オルツはパーソナルAIの実現を掲げて、社長が投資家から100億円の資金を集めた。
・社長は起業家(資金調達屋)としては優秀だが、人間(経営者)としてはクズ。
・そもそもオルツを起業する前から問題があった。
・オルツの起業後は、社長の人間性と会社の問題がさらに酷くなった。
・AIブームに便乗して株式上場を果たす。
・売上の最大9割に及ぶ119億円の不正計上がバレて、株式上場から10ヶ月で上場廃止。
・集めた資金は広告費の循環取引に回しており、研究開発の成果も怪しい。
・100億円の資金と10年の時間をかけて完成したのは、売れない議事録ソフトだけ。
・プレスリリースがムダに大げさで話題作りに必死だったが、最後は「社長が逮捕」という不名誉すぎる話題を提供した。
・社長は逮捕されて、「捕まってない詐欺師」から「捕まった詐欺師」になった(詐欺師とは言ってない)。
・AIとスタートアップに対する風評被害を与えて、オルツは表舞台から消え去る。
・そして第2第3のオルツになりかねない「AI驚き屋」が、生成AIブームで登場した。
という話です。ここから詳細について解説します。
米倉千貴氏とはどんな人物なのか?
オルツの創業者であり社長である米倉千貴氏(よねくら かずたか・以下:米倉氏)について、生い立ちから紹介します。
なお、米倉氏は売上における不正行為について第三者委員会の調査報告書が公表された後の2025年7月28日付けで、オルツの社長を辞任しています。2025年10月時点では「元社長」ですが、記事中においては創業から不正に至った時期を考慮して「社長」という当時の役職で表記します。
1977年に名古屋で生まれた米倉氏(本名:姜千貴〈カン・チョンキィ〉)は、小学生時代の1980年代にゲームを自作していました。当時は雑誌の「マイコンBASICマガジン(ベーマガ)」や個人向けのコンピュータが登場して、個人でもゲーム開発やプログラミングができるようになった頃です。しかしゲームやプログラミングは小学生時代で飽きたのか、中学・高校時代は美術を熱心に取り組んでいます。大学は愛知大学文学部の哲学専攻に推薦合格しました。名前から公立大学のような印象ですが、実際は私立大学で文学部の偏差値は45.0~52.5です(2025年時点)。大学時代は哲学よりも麻雀に夢中になったことをインタビューで回想しています。こうした学生時代の経験が、オルツ起業後に悪い方向で活躍します。大学3年生になると実家の事業が不振となり、兄と家出します。一緒に家出するほどの仲だった兄とは、学生時代のアルバイトから最初の起業、後のオルツに至るまで功労者となるのですが、悲しい結末を迎えます。
2000年(23歳)でアルバイト先の携帯電話販売店であるメディアドゥにおいて、転機が訪れます。社長の発案で新規事業の参加希望者を募るメールがバイトを含めた全員に届きました(当時はメールアドレスの管理に手間や費用がかかるため、末端であるバイトにメールが来た点は違和感があります。「社長がバイトを含む全従業員に呼びかけた」という意味でしょうか?)。ここで携帯電話向け(ガラケー)ホームページやコンテンツ制作に関わり、100万人規模がアクセスする人気となります。米倉氏は当時において「ネットを利用して労力を効率化する面白さに出会い、個人の可能性を引き出すことを自分が体現したい」と考えるようになります。これが後のオルツにおけるパーソナルAIの構想につながったのでしょう。
当時の携帯電話はiモードが登場した頃で、通信速度は遅く、通信量が多いと時間がかかったり、利用料金が高額になる問題がありました。そこでメディアドゥでは通信量を削減する技術として「パケ割!」を展開します。このパケ割の技術を開発したのが、兄である米倉豪志氏です。兄は同じくメディアドゥに勤務しており、ソフトウェアエンジニアとして活躍していました。後に起業する未来少年やオルツにおいて、CTO(最高技術責任者)として、米倉氏を技術面から支えています。
2001年(24歳)にアルバイト出身ながらメディアドゥの役員に就任します。同社が株式上場に向けて組織体制を強化しますが、「自身の目指す場所と食い違いが出てきた」という理由で退職します。そもそも株式上場には、組織全体における規律の強化や法令遵守が求められます。2001年当時は現在よりもコンプライアンスが緩かったでしょうが、それでも株式上場においては社内ルールの強化が必要です。後に米倉氏は他人の意見を聞かない典型的なワンマン社長となっており、上場において自分の融通が効かなくなったことに嫌気が差したのかもしれません。
退職後の2002年(25歳)に個人会社として有限会社STARBUGを立ち上げて、コンテンツの企画開発から立ち上げや運営までを請け負う事業を始めます。中小規模の開発会社に営業をかけて、企画やプロデュースを受け持ち、技術開発を委託する形でビジネスを展開します。米倉氏の技術力がわかる経歴は小学生時代のゲーム開発であり、自身も「企画が一番強い」と語っているので、技術開発を他社に依頼するのは自然な形でしょう。後の起業においても、技術面は兄がCTOとなって役割分担しています。
既にコンテンツビジネスがパソコンからモバイルに移行するという彗眼も持ち合わせており、後のAIブームに便乗するのも納得です。オルツ起業後における2016年8月のインタビューでは、当時について「携帯電話のコンテンツで初めて『萌え』を導入したのは僕です」と語っています(根拠は不明ですが)。ちなみにスマホゲームや引越サービスを手掛けるエイチームは2000年に名古屋市に移転しており、創業初期には米倉氏が関わっていました。こうして米倉氏は個人事業ながら、売上3億円を達成します(こちらも証拠はありませんが)
2006年(29歳)に「インターネットとプログラミングは国を選ばない」という考えから、兄がいるカナダのバンクーバーに移住します。しかし「自分の中のオタク魂が弱まっていく」「自分はもっと挑戦したい」と感じて、半年後に帰国します。そこで2006年に株式会社未来少年を起業します。
最初の起業である「未来少年」から問題ばかり
未来少年では当時急成長していた電子書籍事業を中心として、創業から8年間で従業員100名の売上15億円という規模に成長しました。当時のインタビューも残されており、「モノづくりと人生が一体化している」「モノづくりに命をかけていると胸をはって言える」など、創作におけるこだわりが見て取れます。また、「自分自身がずっとクリエイターとしてやってきた」「クリエイターにとっていい会社でありたい」と、クリエイターへの敬意を示しています。
しかし、未来少年の時点で、オルツの不正につながる前兆が見えてきます。既に未来少年のWebサイトは存在していませんが、電子書籍以外の事業が確認できました。一例として下記のような展開を掲げています。
・世界中のゲーム開発会社とデザイナーを結びつける壮大なクラウドソーシングサイトの発表
・開発チームに著名人を招聘
・ネット接続不要のチャットアプリの開発
・シリコンバレーオフィスの設立
既に未来少年の頃からオルツにおける「やたら新製品や新規事業を立ち上げ」「大げさな表現で発表する」「著名人を組織に採用する」という特徴が現れています。さらに言えば、シリコンバレーオフィスを設置した直後に会社を売却しており、意味がわかりません。別の発表ではソーシャルゲームの開発・運営パッケージサービスがありますが、ここでも「開発体制を根底から刷新する」と過大な表現を用いています。また、KDDI社とソーシャルゲーム業界向けグラフィック制作ソリューションで提携しており、大手企業との協業を実現しています。こうした人脈作りは、オルツにおける投資家からの資金調達、大手企業との提携、有名大学との共同研究につながっていきます。
社長の言動と会社の実体がかけ離れている問題も、未来少年の頃から発生しています。前述のインタビューで「クリエイターを大切にする」と語ったものの、漫画家やイラストレーターに対する報酬の未払いが複数件発生していました。大事にすべきクリエイターからは「絵師の使い捨て」と揶揄されています。当時は現在ほどSNSによる影響力がなかったので大きな話題にならなかったものの、オルツにおける不正発覚をきっかけに当時の問題が改めて浮き彫りとなりました。
未来少年の社長時代における米倉氏の評判を調べたところ、転職口コミサイトで多数確認できました。内容はほとんどが否定的なものです。「社長は人としてまったく魅力がない」「『IT業界の有名人』や『ゲームクリエイター』を自称している」「自称天才なので、自己中心的かつ感情的であり、論理的な面はない」「社員を含めて他人に対する敬意がまったくない」「異常に細かい指示が多すぎる」「残念な意味で天才肌で芸術家タイプ」「わがままで自分勝手でナルシルト」「ヒステリーとパワハラばかりの感情的な人物」「人間不信で他人の意見を聞かず、誰も信用しない」「深夜や早朝でも社長からのスカイプに反応しないと怒りの電話が来る」などが挙げられました。起業家としての才能はあるものの、人間性は褒められたものではないようです。なお、仕事に対する熱意を評価する意見もありましたが、ごく一部でした。転職口コミサイトは不満がある人の投稿がが多くなりがちですが、ここまで悪い評価は珍しいです。後にオルツでもパワハラや暴言が指摘されており、人間性は改善せずに不正による株式上場でさらに悪質になっています。
気になる口コミとして、「会社が注目されなくなったら、周りは敵だらけになるのではないか」というものがありました。これは将来の不正を見越したものです。後にオルツでは注目を集めるために派手なプレスリリースを繰り返し行っており、「〇〇について大学教授と共同研究を開始(開始するだけで成果はない)」「自社製品の利用者が〇〇人突破(実際は架空の数字)」という行為が繰り返されています。注目されなくなるのを防ぐため、明らかに過大な表現を用いて自社をアピールすることが止められなかったのでしょう。
会社としての未来少年も同様に評価が悪く、転職口コミサイトの「転職会議」における評価点2.23は非常に低い数値です。会社の雰囲気については「仕事量が異常に多く、深夜までの残業が当たり前」「人格否定や罵声が飛び交うパワハラ体質」「実力がある人もない人も短期間で退職する」「長時間労働に対して給料が安い」「電子書籍の利益を、社長がやりたいゲーム事業に注ぎ込むが失敗」というものでした。当時(2006年〜2014年)は働き方改革やワーク・ライフ・バランスが提唱される以前であり、特にクリエイティブ職では長時間労働が常態化していました。しかし当時の時代背景を考慮しても、典型的なブラック企業だったと推測されます。外部のクリエイターからの評判も散々で、「イラストを発注したが進捗報告を誤魔化された」「他社の納品物をトレースしたものが納品された」「漫画連載が決まったが社長の一言で12回の連載が1話が完成した時点で中止になった。その後は別の会社で連載して、12巻まで続く人気作になった」などの声が挙がっています。既に未来少年から分社化してキラリト社になっていますが、現時点の転職口コミサイトを見る限り、キラリト社でもブラック企業の体質は改善されておらず、評価は低いままです。また、オルツの評判は転職口コミサイトなどを調べても投稿件数が少ないです(転職会議では5件で評価ポイントなし)。もっともグループ全体の社員数207人に対して、オルツの社員は23人です。業務委託による外注が多い組織なので、元々関わる人数が少なく口コミが少ないと推測されます。2020年からリモートワークの勤務体制となっており、エンジニアや研究者にとっては働きやすかったかもしれません。もっとも口コミサイトで不正を告発する人はおらず、すぐに削除されるでしょう。
ここまで未来少年の実績について調べたものの、会社の売却によってWebサイトは削除されており、限られた情報にとどまります。実績としては電子書籍事業は受託業務のため目立った成果が出にくいものの、自社が発表したマンガにおいて話題性や人気作は確認できませんでした。会社が発表したプレスリリースが一部残されており、「あぁ~ン 萌電GIRL♀メルメルちゃん」というお色気コメディ漫画がランキング上位で快挙達成とありました。調べたところ、3巻で253ページの作品においてAmazonレビューは3件だけでした。ゲーム事業では、携帯電話で女性向け恋愛ゲームを発表しており、「伯爵LOVERS」「伯爵Kiss ~約束のあの丘で~」「恋人はアイドル」「空咲きの花」などがあります。しかし人気や話題になっていません。天才(自称)ゲームクリエイター(30年前の小学生時代にゲーム自作)である社長が関わっていなかったのかもしれませんが。
このように、オルツを設立する以前の未来少年においても社内では問題が山積しており、社長自身の勝手な都合を押し通す組織体質になっていました。これはオルツでも改善されておらず、ガバナンス(統制)が機能せずに社長の権限が極端に強かった点が指摘されています。また、未来少年でも株式上場を目指していました。しかし売上の多くをアダルトコンテンツに依存しており、上場できなかったと指摘もあります。さらに2014年の会社の売却と分社化においても、2013年頃からは事業の低迷と退職者が多すぎて組織運営が困難だった点も指摘されています。このように表向きのイメージと内部の実情が大きく乖離していたのは、オルツでも同様です。
オルツ創業のきっかけ
そして未来少年を経営していた頃に、オルツを創業するきっかけが起きます。当時の米倉氏は1日に8人(記事によっては10人)ほど採用応募者を面接していました(退職者が多かったのでしょう)。米倉氏はチャットで応募者と面接していましたが、決められたやり取りが発生ので社員に内緒でチャットボットを導入します。ここで応募者からチャットボットが人間だと気付かれずに成功した事が、オルツの創業につながったと語っています。もっとも、当時(2014年ごろ)のチャットボットが、人間と誤解するほどの性能だったかは疑問です。そもそも採用面談をテキストチャットで行うのは不自然です。当時は既に光回線が普及しており、ノートパソコンにもカメラが付属しており、別売りのWebカメラは安価で入手可能で、ソフトもSkypeなどがありました。iPhoneのテレビ通話機能(FaceTime)は、2010年6月24日に発表されており、既にスマホは普及しています。あえてテキストチャットで面談する背景がわかりません。また、別の記事では「スタッフとのコミュニケーションで毎回同じこと聞かれるのでチャットボットにやらせたら、騙される人が多くて楽しかったのがきっかけ」とも説明しています。どちらか、あるいは両方がきっかけでしょうか。米倉氏はインタビュー記事が多数あるので、掲載元によって食い違いが出たのかもしれません。
他に未来少年における興味深い点として「天才育成計画」という社内研修があります。これは社長が直接指導する研修で、インタビューにおいて社長自身が個人の能力を伸ばすことの重要性を語っています。こちらもオルツを起業したきっかけである、パーソナルAIにつながったのではないでしょうか。そもそも米倉氏は未来少年における失敗と売却理由について、「自分1人で起業した時は、1人で3億円の売上を達成した。そこで組織化して従業員を100人集めれば売上も100倍になると思ったが、結果的には5倍の15億円にしかならなかった。自分のノウハウを従業員にきちんと伝播すれば、100倍になるはずだった」と述べています。組織運営や事業拡大について根本的に間違っている気もしますし、社員の口コミを見る限り他に原因があると思いますが、その点は認識していないのでしょうか。このような反省からパーソナルAIによって、自分のノウハウを持ったデジタルクローンを量産して大きな成果につなげたいと考えたのでしょう。起業前のメディアドゥにおいても、「ネットを利用して労力を効率化する面白さに出会い、個人の可能性を引き出すためにネットを活用しながら、自分がそれを体現することで周囲に伝えたい」と感じていたので、自然な流れとも言えます。
未来少年とオルツに挟まれた連続起業の謎「ウェアラブル」
こうしてオルツの起業に至りますが、その前後で不可解な行動もあります。2014年2月に未来少年の子会社として、株式会社ウェアラブルを立ち上げました。設立記念イベントを行うなど、ある意味予想通りとも言える派手な発表で注目を集めました。しかし、ウェアラブル社はその後において活動実体がありません。そもそもチャットボットがオルツの創業につながったのに、なぜオルツを創業する9ヶ月前にウェアラブルの会社を起業したのでしょうか。オルツを創業前における人材集めや投資家への相談などの準備期間についても語っており、このタイミングは不自然です。推測ですが、当時(2014年2月)は第三次AIブームやディープラーニングが話題になっていました。一方でウェアラブルは、過去に話題になったものの沈静化しています。そこで米倉氏は世間の話題性を見定めて、より注目を集めて投資家からの資金調達に有利となるAIスタートアップとして、オルツを起業したのではないでしょうか。時流を見極める能力は、大学時代の麻雀で鍛えられたかもしれません。こうして未来少年を売却して、2014年11月にオルツを起業します。
オルツの創業 〜伝説のはじまり〜
オルツを起業した目的は「パーソナルAIの研究開発」です。テーマとして「真のイノベーションを起こしましょう」を掲げています。もっともオルツは過度に大げさな印象を与えるプレスリリース、ドヤ顔で非現実的な理想ばかり語るインタビュー、素人は騙せそうなそれっぽいデモ映像、有名人を集めて未来を語るイベントなどを繰り返し行っています。今となっては大言壮語によるハッタリであり、実現性のない夢物語とわかります。ここでオルツが”発表”した製品やサービスの一覧をまとめました。
およそ30個ほどありますが、発表だけで実体がない製品やサービスばかりです。一部はデモや試作版があったものの、「事前に決められた動作だけ設定してデモを行った」などの証言もあります。
創業当初の資金調達と研究開発
資金面において未来少年では投資家などから出資を受けず、自己資金で運営していました。当時から出資の相談はあったものの、断っています。これは電子書籍における受託業務は、継続的に仕事を受注しながら安定した売上が見込めるためです。しかしオルツではすぐ売上になる製品やサービスはなく、1から研究開発を行わなければいけません。そのため資金調達が必要ですが、苦労もありました。そもそも銀行はリスクの高い事業に融資しないため、投資家に出資を募るのが一般的です。未来少年の頃から面識があった投資家(ベンチャーキャピタル)に相談するものの、ファイナンスに携わる方々との付き合いがなかったため「文脈の違いに戸惑った」「ビジネスにおける言葉や感覚、リズム感のすべてが違っていた」と当時の組織作りと研究開発における苦労を以下のように語っています。
「社員のエンジニア以外にも、研究に賛同して参加する研究者が国内外を含めて集めました。関係者の多くは普通の企業勤めではなく、自ら選んで自宅を仕事場としている人です。そこで関係者が東京に来た時に、私がサンフランシスコにいた時と同じように気軽に立ち寄りたいと思える、感動できるオフィスを作りたかった。交通の利便性二の次だったので、お台場を選んだ理由を『海がキレイだから』と表現しても投資家には通じず、『なぜこんな辺境の地に?』『仕事をするのに不便では?』という質問に対して、これまで自由にやってきた私は説明責任を果たせませんでした」
このように研究開発と投資家との付き合い方は手探りでした。また、オルツの創業当初から自分の好きなようにやりたいという願望が見え隠れしています。
パーソナルAIは完成するまで売上になりませんが、研究開発を行うには会社の運転資金が必要です。そのためには1回ではなく複数回に渡って資金調達を行わなければいけません。あるいは、売上が見込める製品やサービスの開発が必要となります。一般的な方法としては受託開発などで運転資金を稼ぎながら研究開発を進めるパターンが該当しますが、両方を実行しながら成功させるのは難しいです。オルツはどのような道を辿ったのでしょうか。
2014年11月の創業から2019年までの状況について、プレスリリースから辿ってみます。プレスリリースの多くは「共同研究の開始」「メディア出演や受賞や登壇の告知」「役職者や顧問の就任」であり、「資金調達」の発表も複数回ありました。2014年から2019年における研究開発と実績は以下となります。
不正のきっかけとなる議事録ソフト「AI GIJIROKU」の誕生
そして2020年1月13日に議事録ソフトである「AI GIJIROKU」が発売されます。これが後の不正につながります。
逮捕の原因となった、売上の最大9割に及ぶ119億円の不正計上について、第三者委員による調査報告書を元に時系列に沿って解説します。既に2014年の創業から5年ほど経った時期ですが、まだまだパーソナルAIを実現する目処は立っていません。そのため直近で売上につながる製品やサービスの開発を求めたのでしょうか。この頃は業務委託先とのやり取りから、後の循環取引(古典的な手法だが社長は「サブスク2.0」と命名)を構想しています。2019年に米倉氏は展示会「AI・人工知能EXPO」の反響からAIによる議事録作成に魅力があると感じて、開発を進めます。そして2020年にAI議事録ソフトの「AI GIJIROKU」が完成して販売を開始するものの、売上は計画を下回り続けました。その結果預金残高が1,000 万円を切るという経営危機に陥ります。そこで目標である売上10億円を達成するために、以前から構想していた広告代理店と議事録ソフトにおける循環取引を開始しました。さらに2021年10月頃には中途入社したCFO(最高財務責任者)に対して、米倉氏が自らが「サブスク2.0 説明MTG」と題するWeb会議を行っています。その後、監査法人や社員による告発があったものの、一向に改善されません。監査法人は監査を降りて、告発した社員も入社から1ヶ月で退職しています。そして新たな監査法人と契約して、投資家や証券会社や証券取引所には虚偽報告を提出し、株式上場となりました。
不正における注目点は、「売上と広告費の規模感がおかしいこと」です。取引先である小規模な広告代理店が議事録ソフトを32億円も販売しており、定期的にプレスリリースで「契約数が〇〇社を突破」と実体にない虚偽の発表を行っています。実際には売上高119億円と広告宣伝費115億円の虚偽であり、議事録ソフトの有料アカウント数も表向きが28,699件でしたが、実体は5,170件で、直近の利用は2,236件でした。過去に従業員から議事録ソフトのみに注力して事業を縮小してでも経営を安定させるべきと進言があったものの、米倉氏は聞き入れていません。
さらにさらに、研究開発費においても、広告費や売上や資金調達に対して少ない金額であり、デジタルツインエンジン構築及びブロックチェーン管理という名目で循環取引が行われていました。実際に研究開発は行われておらず、架空の取引でした。さらにさらにさらに、議事録ソフト以外の取引や日本国外でも循環取引が行われており、AIオペレーター支援システム業務やベトナムの取引先が対象となります。さらにさらにさらにさらに個人の業務委託者に対しても売上や費用を過大に計上しています。結果として、議事録ソフト以外でも様々な不正行為があったのです。
不正行為の主犯は社長だが……
一連の不正行為について、調査報告書では主犯である社長に責任があると結論付けています。一方で循環取引を発見して止める責任がある監査法人については、「不正に関する取引の外観が整えられていたため、監査法人が疑問を抱く点はなかった」としています。投資家であるVC(ベンチャーキャピタル)や証券会社、東京証券取引所においても「オルツによる虚偽報告で隠蔽されており、不正に気付かなかった」という判断が下されています。それでも金額が高すぎる広告費に対して、疑問を抱かないのは不自然です。この疑問に対しては、社長及びCFOが「将来を見据えた投資が必要」と説明しており、循環取引を指摘した監査法人が降りた点も「極めてコンサバなスタンスが原因」「AIスタートアップに対する理解が不足しており、教科書的な指導が当社にそぐわなかった」という説明で押し通しています。
このように調査報告書では、「不正行為における最も大きな原因は社長である」と結論付けています。スタートアップにおいて社長が組織に与える影響力は絶大です。一連の不正行為は社長による指示で行われたことは、Slack上の記録からも判明しています。この背景には社長が売上優先主義を掲げており、未達であれば上場ができず、従業員に対しても数字による実績が唯一の評価軸であると明言しています。さらにオルツは多数の事業展開やサービスを発表していたものの、売上につながり循環取引が可能な製品が議事録ソフトのみだったため、これで売上を不正計上するしかなかった事情もあります。さらにさらに経営トップに求められる「誠実性」の欠如が指摘されており、株式上場のために関係者を欺いたとしています。さらにさらにさらに内部統制(ガバナンス)が構築されず、経営トップの誠実性に著しく問題があったためにコンプライアンスを軽視する意識が醸成されたと指摘しています。これらの問題において、中途入社であるCFOの日置氏(米倉氏と同時に逮捕)も止めることなく同調しており、責任が追求されています。さらにさらにさらにさらに内部監査に加えて、社外役員並びに監査役も組織上の問題から機能不全に陥り、関係者への虚偽報告がまかり通ったとの結論です。
米倉氏とCFO(日置氏)以外の逮捕者
今回の逮捕者は4名で、米倉氏とCFOの日置氏以外では営業部門長の浅井勝也氏と経理部門長の有泉隆行氏となります。両名について、調査報告書で経緯が説明されています。
浅井氏は2019年10月に米倉氏から循環取引に関する方針について共有しており、その後循環取引を行う広告代理店への連絡窓口として具体的な手法の指示などを行いました。さらに発覚を防ぐために取引を複雑化して隠蔽工作を進めました。
有泉氏は資金繰りが行き詰まった2020年6月頃から、経理担当マネージャーとして米倉氏の方針に従って循環取引における帳簿の操作を行い、その後も循環取引に加担しました。さらに上場前には業務執行役員兼内部監査担当者の役職でありながら、証券会社への虚偽資料の作成して送付しています。
このように浅井氏と有泉氏の両名は広告代理店への連絡窓口となり循環取引を実行した主担当であり、監査法人や証券会社に対して虚偽の報告を行ったことが理由で逮捕されたと推測されます。もっとも循環取引の発案と実行指示は米倉氏であり、CFOの日置氏が加担した点は変わりません。浅井氏と有泉氏は米倉氏の指示に従っていたことは調査報告でも明記されており、会社員として上司の命令に従うのは当然とも言えます。なお逮捕時(2025年10月)の役職は浅井氏が「執行役員 AX Research&Solutions事業部長」、有泉氏が「執行役員 コーポレート本部長 兼 財務経理部部長 兼 経営管理部部長」なので、それぞれ循環取引前の営業担当(2019年10月)並びに経理マネージャー(2020年6月)から出世しています。不正行為の見返りだったのか、あるいは米倉氏が自分に従順な人物だけを幹部に引き上げたのかのでしょうか。米倉氏は循環取引について前向きな意見を出せる者以外は情報を閲覧できないように管理を指示しており、米倉氏に提言(批判)する人物は排除しています。そのため自分に都合の良い人物だけで周りを固めたと言えるでしょう。
ムダに豪華な経歴の数々
2010年代の第三次AIブームから現在の生成AIブームに至るまで、スタートアップや投資家や株式市場においてAIが常に話題になっています。いわばオルツもAIブームに便乗して注目と資金を集めており、実際に100億円の資金調達を行いました。では、オルツはどうやって資金調達したのでしょうか。オルツは将来の展望として、「パーソナルAIの開発」「デジタルクローンをプログラミング不要で開発」「対話可能なデジタル人格再現プラットフォーム」「大規模言語モデル(LLM)の独自開発」「会話AI導入プラットフォーム」「ブロックチェーンによるGPUの計算基盤の需要と供給マッチング」などを”発表”だけしています。
報告書でも「最先端の事業に対するバイアス等の可能性」が挙げられており、いわば「AIブームに便乗した」という意味です。議事録ソフトを含めたAI・生成AIは最先端の事業であり、監査法人や投資家や証券会社は理解が及ばない分野であり、そのために広告展開や研究開発において必要な費用や取り組みが正確に把握できず、AIに対する過度な期待によって妥当性や合理性の判断ができなかったという指摘がなされています。加えてオルツがAIスタートアップとして華々しい受賞歴やメディア出演があり、著名なVC(ベンチャーキャピタル)であるジャフコが出資しており、上場企業との資本業務提携があります。特に2024年10月に経済産業省およびNEDOによる国内生成AIの開発力強化プロジェクト「GENIAC」に採択されており、総費用約7.9億円分のGPU計算リソースの活用と、データセット構築のための助成を受けています。こうした高い社会的信用力があると見せかけて、不正が見抜けなかった要因としています。
さらに米倉氏は多数のメディア出演があります。未来少年というスタートアップを成功させた実績があり、話題性のあるパーソナルAIやデジタルクローンの実現を目指す野心的な起業家として、未来を語ってデモ映像を提供できる人物です。話題性になりやすく、メディアとしても重宝したのでしょう。
有名企業の出身者がメンバーとして参画しており、外国の有名IT企業やスタートアップ、外国政府とのつながりもあり、名前だけは非常に豪華です。
一方で、報告書で指摘された「最先端の事業に対するバイアス等の可能性」という問題があります。このように受賞歴やメディア出演や連続起業家というキラキラな経歴を利用して、AIという未知の技術における将来の展望を語るハッタリを用いて、投資家の資金や大手企業との提携を集めたのでしょう。前述の通り、オルツが目指した理想や発表した事業及び製品は多数あるものの、ほとんどが発表だけでデモや試作品や実証実験まで進んだものは一部です。過去にオルツを取り上げたメディアや賞を授与した企業は、本当にAIによって社長が語る理想を実現できると思ったのでしょうか。「掲載すれば閲覧数が稼げそう」「話題性があるから視聴率取れそう」「今のうちに賞を与えれば将来成功した権威がつく」など、都合の良い想像だけで思考停止していたかもしれません。この点は豪華な経歴に目を取られて、権威があると信じ込む現象(社会心理学におけるハロー効果)による影響も考慮されます。こうして様々な関係者によって豪華な経歴を与えられたオルツは、虚像によってさらに成長して株式上場を果たしました。
バレる前に売り抜けろ!上場ゴール大作戦!
では株式上場から10ヶ月で上場廃止になった点について、関係者における処罰はどうなるでしょうか。過去に起こった同様の事例を見ると、有罪や訴訟につながっています。
既に米倉氏をはじめとして、CFOの日置友輔氏、営業部門長の浅井勝也氏、経理部門長の有泉隆行氏の4名が逮捕されており、証拠も残っているので裁判で有罪となる可能性が高いです。また、株式上場の主幹事となった大和証券と投資家も賠償金を求めて訴訟を起こしており、個人投資家による民事訴訟も予想されます。
一方でオルツの株価は、不正における調査が発表される前の2025年4月27日まで大きな変動がありません。ここで気になるのは、「上場ゴール」です。「上場ゴール」とは、株式上場において関係者による利益獲得を目的とした上場を揶揄したものです。例としてAIやスマホゲームなど高い成長が見込める企業が上場するものの、半年から1年ほど経過すると当初の成長見込みを裏切るような業績の下方修正を発表して、株価が暴落します。株式上場直後に期待して高値で株を購入した個人株主は大損しますが、創業者や投資家は既に株を売り抜けて利益を確定している構図です。また、株式上場の前に「ストックオプション(新株予約権)」を付与します。「ストックオプション」とは、会社の株式を事前に決められた値段で購入できる権利です。例として1株100円のストックオプションを持っていれば、株式上場後に株価が100円以上なら株を購入して売却すれば利益が出ます。スタートアップでは成長への期待感から株式上場後に株価が高くなる傾向があり、ストックオプションで安く株を買って市場で高く売れば大儲けができるわけです(実際には売却可能期間などの規定があり、短期間で大量に売却ができない場合もあります)。
ストックオプションは創業者や役員に付与されるのが通例で、米倉氏以外にはCFOであり不正に加担した日置氏や、常勤監査役の中野誠二氏などが該当します。他にストックオプションを保有するのは、投資家や従業員となります。有価証券報告書によるとオルツは上場前に大量のストックオプションを発行しており、不正発覚直前の2024年3月で従業員と外部の協力者に2名に対してストックオプションを付与しました。さらに2024年4月に取締役1名にもストックオプションが発行されています。さらにさらにオルツは株式上場後も定期的に「株価が上がりそうな派手な話題だが、実際には何をやるのかよくわからないプレスリリース」を繰り返し行っています。こうした株価対策は、不正発覚前の株価が高いうちに売却しておく時間稼ぎという印象もあります。
なお、米倉氏の兄である米倉豪志氏は、ストックオプションを保有していますが不正発覚前にすべて株式を売却したとのことです。豪志氏は米倉氏による社員へのパワハラを是正するように提言したものの、反発にあって体調不良に陥り2022年8月31日で退職しました。現在はメタリアルのCTOです。オルツの不正行為は、早いものでは2020年頃から行われています。不正が行われた時期に在籍はあるものの、CTOという技術責任者なので詳細な資金の流れは把握していないかもしれません。しかし、社長の掲げる展望を実現できる技術力があるかどうかは、判断できたのではないでしょうか。
投資家はオルツに対して合計で100億円を出資しました。投資家がリスクのあるスタートアップに出資する理由は、株式上場で大きな利益を得るためです。逆に言えば、株式上場できなければ損失を被ります。極論ですが投資家にとっては、パーソナルAIの実現よりも株式上場の方が重要です。株式上場ができれば、議事録ソフトでもパーソナルAIでも関係ありません。そのために投資家が米倉氏に圧力をかける事も想定されます。米倉氏にとっても、100億円の資金を集めて10年の時間をかけたオルツにおいて、未来少年では実現できなかった株式上場上場を果たしたかった面があるでしょう。
もっとも上場ゴールを揶揄された事例は複数存在しています。さらに上場できた会社は一部であり、永遠に株式上場を目指し続ける忘れられたスタートアップも数多く残されています。
投資家や監査法人や証券会社は被害者なのか?
調査報告書において「一連の行為の責任は社長である」とされており、様々な隠蔽工作を行ったことが解説されています。一方で投資家や監査法人や証券会社や証券取引所は、不正行為を見抜けなかったのでしょうか。隠蔽工作においてはCFO(最高財務責任者)も中心となって加担していると記載があり、「深夜に作成したPDFファイルを送信」「会社規模と取引金額が乖離しないように説明」など具体的な指示が行われていました。また、広告費を指摘した監査法人に対して、社長とCFOが「将来を見据えた投資である」「戦略的に赤字を計上している」などの説明を行って、納得させていた背景があります。投資家も投資契約に基づき取締役会に参加することが可能で、実際にほとんどの株主が参加していました。この取締役会で事業の進捗や資金繰りの説明について、経営状況を理解して納得していたとのことです。
しかし、多額の広告費に対して実体がない点は違和感を感じるでしょう。過去の議事録で「タクシー広告を配信で取引社数が急激に成長」「ニュース番組(注:TBSのNEWS23)で2022年7〜9月にテレビCM を流すことが記載」「テレビCM、タクシーCM、デジタルマーケティングツール全般、イベント企画、ポップアップ企画、ウェビナー企画、販売パートナーとの共同マーケティング等のプロモーションを行うと説明」といった文言があります。ネット広告は利用者によって表示される内容が異なるので確認しにくいですが、タクシー広告やテレビCMは見かける機会もあったでしょう。そもそも多額の広告費に対して、露出が少ない点に気付かないのは不自然です。
研究開発費の少なさについて、違和感は感じなかったのでしょうか。パーソナルAIという未知の技術を実現するには、多額の費用がかかります。しかし研究開発費は3年間で約13億円であり、この金額も循環取引で水増しされています。いくら投資家がAIに関する技術に関する知見がなくとも、年間数億円の研究開発費でアメリカの大手IT企業すら実現していないパーソナルAIが完成するとは思わないでしょう。
2022年9月に監査法人が循環取引を指摘したものの、米倉氏はこの指摘に対して「極めてコンサバなスタンスが原因である」と主張して、監査法人を変更しました。変更後の監査法人が引き継いだ議事録には「循環取引の疑念が生じた」と記載があります。つまり上場に関わった監査法人は、この時点では循環取引という不正行為における疑いを認識しています。2024年10月末頃には、循環取引を行っていた取引先が社会保険料の滞納分(2200万円)で差押えを受けると連絡がありました。そこで融資申込みを行ったところ、金融機関の担当者から循環取引等の疑いを持たれているという状況を認識しています。取引先の金融機関が循環取引を疑っており、監査法人が気づかないのは違和感があります。また、2024年当時は循環取引の手法も巧妙化していますが、それでも取引先の金融機関は疑っているのです。
2025年10月に、不正告発について新たな証言が発表されました。2022年9月にオルツへ経営企画部長として中途入社した塩川晃平氏の記事です。塩川氏は公認会計士でPwCあらた監査法人に新卒入社しており、同社のフォレンジック部門で不正調査を担当していました。オルツでは日置氏の下で業務を担当しており、すぐに売上に関する違和感に気付きました。社内の共有フォルダから循環取引の管理をまとめたデータが保管されており、議事録ソフトの契約者にあるメールアドレスを確認したところ、大半は@マークより以前の部分が適当な数字やアルファベットの組み合わせたフリーメールになっていたためです。そこで塩川氏は異変を日置氏に伝えるものの、「自分が入社前からやっている。グレーだが、対外的にはクロではないという見せ方をしている」と、説明していました。さらに日置氏の個人的な考えとして、「(同じような取引を)米国や日本の大手企業もやっていると思う。ただどう見せるかが大事である。対外的に見せ方を整えることができるかを、しっかりと塩川さんの知識を加えてハンドルしてもらえるとありがたい」などと答えていました。
社長に回答を求めても「これは『サブスク2.0』という仕組みだ」にとどまり、監査役に提言しても、「けしからん事態ですね」という反応だけで何ら動きはありませんでした。チャットツールで日置氏から「最悪のケースだとオルツはどうなるのか?」と聞かれて、塩川氏は「循環取引はやめるべきです。最悪の場合、当局の調査が入って刑事事件になり、経営陣が処罰されます。その後、株主代表訴訟に発展して、賠償責任も発生します」と、現在の状況そのままに答えています。これに対して日置氏からの返信はありませんでした。退職後、塩川氏は2023年の初めにに警視庁の情報提供に通報して、経済犯罪の捜査員に不正に関する資料を提供しました。しかし「被害届も出ておらず、被害者もいないので動けない」という回答にとどまり、個人での限界も感じてそれ以上の行動はあきらめました。
当時を振り返る塩川氏は「採用面接では循環取引問題の調査経験を伝えて米倉氏や日置氏は認識しており、今となっては循環取引を隠すことを期待したのでは」と、述懐しています。現在の塩川氏は、企業における不正を発見する会社に転職してCOO(最高執行責任者)兼CFOとして活躍されています。
別の視点としては第三者委員会の調査において、「デジタルフォレンジック」と呼ばれるパソコンやスマホに残されたデータを解析する手法が使われました。循環取引に関するやり取りはメール、Slack、Googleカレンダーなどに残っており、社内メールを検索キーワードで「ぐるぐる」「ぐるっと」「循環取引(サブスク2.0)」などで調べて発覚してました。さらにSlack上には書類の改ざんに関するやり取りが残されています。社内でここまで隠す気がないのに、隠蔽されて発見できなかったのは違和感があります。
投資家や証券会社において多少なりともAIに関する知識を備えており、長い文章の日本語が読めるならば、プレスリリースの内容に違和感を抱くはずです。さらに多数の競合製品がありながら、市場規模も限定される議事録ソフトが、短期間で大量に売れるはずがないと気付かないのもおかしいです。さらに議事録ソフトの利用実体も見抜いていません。「〇〇社突破」というプレスリリースが発表されても、ビジネスの現場で使っている人はほとんどいません。そもそもオルツ社内ですら使われていなかったという証言もあります。さらに多数発表された多数の新規事業や製品やサービスにおいても、まったく進展がありません。これをどうやって誤魔化したのでしょうか?投資家は納得したのでしょうか?そもそも説明を求めたのでしょうか?投資家に問いたい、問い詰めたい、小一時間では済まないほど問い詰めたいです。投資家は「理想」と「詐欺」の判別ができなかったのでしょうか。
様々な疑念はあるものの、調査報告書では「広告宣伝費と売上高がオルツによって取引の外観が整えられていたため、結果的に当社の決算数値に疑念を抱くことはなかった」とされています。同様に不正の監視役となる社外取締役と監査役においても、循環取引の計画に関わってないため気づかなかったと報告書は結論付けています。なお、2025年10月8日に投資家と証券会社はオルツに対して10億円の損害賠償請求を行っており、被害者の立場であることを強調しています。
不正金額や会社の規模感が近い事例として、FOI(エフオーアイ)の粉飾が挙げられます。こちらも同様に主幹事であったみずほ証券は発見できなかったとしています。両社は手口も似ており、粉飾にまつわる情報を社長やCFOなど一部の幹部のみに集約させて、発見を免れました。さらに業界における特殊な事情(FOIが販売する半導体製造装置は海外取引先が多いため入金まで時間がかかり売掛金が積み増しされやすい)を使って隠蔽したのも、オルツがAIスタートアップに特殊な事情があるという言い分と同様です。しかし、FOIでも株式上場後において会計上の違和感として材料費が異常に高く、買掛金が異常に低い点から問題が発覚しました。
このように循環取引は疑いがあっても、発覚するのは上場後になりやすいという指摘があります。監査法人では上場前に明確な証拠を発見する徹底的を調査を行うことが難しいためです。監査法人としても小規模なので顧客が少なく、問題を指摘して売上を失うことは避けたかったのでしょうか。また、米倉氏のパワハラ気質を考慮すると、指摘自体に精神的な負担が大きかったとも想定できます。循環取引は株式上場後に発覚する事が多く、今回も第三者委員会による過去のメールやSlackなどのあらゆる情報を徹底的に調査することで初めて明確な証拠が出てきました。そのため上場前で疑いがある段階では、そこまで調査はできないという主張もあります。
広告代理店と取引先の責任
循環取引は複数社を通じて発注と資金の移動を行って、最終的にオルツに金額の大部分が戻る流れを作る必要があります。この取引には複数社が関わっており、大手広告代理店のADKの関与も指摘されますが、調査報告書では社名が伏せられています。調査報告書では循環取引に関わった社名が伏せられているものの、個人的に過去の発表資料と業務内容や住所を照らし合わせた結果として社名が判明しました(本記事では意図的に伏せています)。さらに取引先はオルツから循環取引について具体的な指示があったと明記されています。違和感のある取引であっても、同時に自社の利益なることは認識しているはずです。循環取引そのものは違法ではありませんが、取引先にも相応の責任があるのではないでしょうか。
驚きすぎるプレスリリースの怪
怪しい点を見抜けない問題として、プレスリリースが挙げられます。最初のプレスリリースは創業から2ヶ月後の2015年1月28における「世界初のパーソナル人工知能(P.A.I.)iOS向けアプリ「al+(オルツ)」の開発着手」です。その後、2025年10月9日の「弊社元役員等逮捕の報道について」まで、10年10ヶ月で343本のプレスリリースがあります(削除されたものは除く)。オルツを象徴する特徴的なプレスリリースについて、以下にまとめました。
上記を含めたプレスリリースはどれも派手な表現が並ぶだけで、何度読み返しても「どんなサービスなのか?」「役に立つのか?」「いつごろ完成するのか?」「売上につながるのか?」がわかりません。実体としては売上の大半を議事録ソフトが占めており、これらは話題性だけです。プレスリリースは月平均で2.63本発表しており、広報担当は作業量だけでなく明らかな虚偽を発表する精神的な負担も苦労があったと思われます。匿名ブログにおいて、オルツとおぼしき広報担当者の苦労が語られた「広報としてスタートアップに転職したけどもう辞めたい」という記事があります。
内容は「ユーザー数が実際は500人でも「ユーザー数5万人突破」というプレスリリースの発表を強制される。 (指摘しても社長は聞き入れない)」「ユーザー数が○○人になった」 「流通額が○○円になった」というプレスリリースを出す。 (スケジュールは社長の中で3年先までに決まっている)」「営業部からクレームがあっても、社長が広報担当のせいにする」「社長は事業の進捗が悪い時ほどプレスリリースを出すことにこだわる。 (ユーザーと売上が増えなくても、プレスリリースは自分主導でごまかせるから)」というものです。オルツである証拠はありませんが、状況は酷似しています。
米倉氏の類稀なるコミュ力とハッタリが大活躍?
循環取引が発覚しなかった以外の疑問として、大企業や著名投資ファンドや有名大学における数多くの提携があります。
さらに米倉氏の呼びかけによって、大企業の役員クラスや有力政治家が一同に集まったラウンドテーブル(様々な立場の人が集まって役職や立場に関係なく意見交換を行う会合)も開催されました。これだけの経歴を持つ多くの人物が、米倉氏の呼びかけで一同に会すのは驚きです。
他にも大手広告代理店との関係が深く、設立間もない時期に電通との共同プロジェクトでアイドルの篠崎愛さんを人工知能で再現したり、電通デジタルやADKとは共同でCEOのデジタルクローンを開発しています。さらに大広とは資本業務提携を締結しました。その他には、大塚商会(議事録ソフトの販売パートナーシップ)、キーエンス、JR西日本、SMBC日興証券、エムスリーキャリア、三信電気、ビデオリサーチ、NSW(日本システムウエア)などの提携があります。毎年行っていた主催イベントでも著名人が登壇しており、落合陽一氏、成田悠輔氏、伊藤穰一氏、竹中平蔵氏などが登壇しています(もっともイベントは出演料を払えば済むので、登壇者がどこまで本気でオルツを信用していたかは定かではありませんが)。脳科学者の茂木健一郎氏はデジタルクローンを作成しており、自民党のデジタル社会推進本部長を務める平井卓也氏、官公庁では経済産業省商務情報政策局情報産業課情報処理基盤産業室長の渡邉正峰氏といった政官財におけるつながりを見せています。
こうした背景には、米倉氏の個人的な資質が影響しています。米倉氏は良くも悪くも自信に満ち溢れた言動を繰り返しており、創業者による行動力や発言力で目立ったことが、人脈作りやメディア出演や資金調達にも影響したと推測できます。ここで米倉氏におけるハッタリ・イキリ発言をまとめてみました。
これだけ自信満々に語る人物が「パーソナルAIで素晴らしい未来を実現する」と華麗にプレゼンを行えば、AIに詳しくない投資家は「言葉の意味はわからんが、とにかくすごい自信だ」と納得したのでしょう。もっともAIに詳しいエンジニアや研究者であれば、「実現性も根拠もなく、流行語を並べただけのポエム」と冷静で的確な判断力を発揮しますが。このように本人のコミュ力(コミュニケーション能力)や行動力が、よくも悪くも影響しています。オルツ以前の未来少年の頃からメディア出演が多いので顔は売れており、大手企業との提携があり、投資家からの出資依頼もありました。そこでオルツ後には投資家や取引先に向けて「パーソナルAIで未来を実現する」という理想を掲げて、卓越したストーリーテリングと人心掌握術を駆使して、人心を引き付けたのでしょう。もっともその能力が悪い方向に作用して、逮捕という結末に至っていますが。
米倉氏は小学生時代からゲームを自作して、中高では美術にのめり込んだクリエイター・芸術家気質を持っています。さらに大学時代は、麻雀で勝負勘を磨きました。こうした経験から人間を相手にした見せ方や心理的な誘導を身に着けたのではないでしょうか。比較するのは大変失礼ですが、サイバーエージェントグループの藤田晋社長は、麻雀における勝負勘を事業に活かしています。実際に米倉氏はアルバイトからの携帯電話販売からコンテンツ制作、独立して自分個人の能力を企画・プロデュースを手掛けるローリスク・ハイリターンの個人事業、2007年から2014年は急成長した電子書籍で事業を成功させて、2014年にはAIブームに目をつけてオルツを起業しました。こうした商才と嗅覚の鋭さは否定できません。
さらに多額の広告宣伝費を人脈やコネ作りや政治家へのロビー活動に回していたという証言もあり、これが投資家からの出資、メディア出演、企業との提携などにつながったのではないでしょうか。また、有名大学との共同研究においても、交際費の使い込みが指摘されています(もっとも共同研究の成果はありませんが)。そうなれば米倉氏における大量のメディア露出も辻褄が合います。一般的にメディアから企業へ取材依頼が来た場合は金銭の支払いはありません。逆に企業がメディアに取材と掲載を依頼する場合は、広告出稿扱いなので費用を払い、「PR」「広告記事」などを表記します。米倉氏とオルツのメディア出演はほとんどがメディア側からの依頼でしたが、そうなるように費用を投じて関係性を構築したのではないでしょうか。
なぜ投資家は米倉氏に100億円を出したのか
米倉氏はオルツを創業した2014年から10年間に渡って継続して資金調達を行っており、累計で100億円を集めました。この金額はスタートアップにおいては極めて大きく、直近で比較すると衛星打ち上げロケットのインターステラテクノロジズ(89億円)や空飛ぶクルマを開発するSkyDrive(83億円)を上回ります。100億円以上を調達したスタートアップは、LayerX(150億円)、SmartHR(214億円)、カケハシ(140億円)、SakanaAI(300億円)、newmo(199億円)などに限られています。不正発覚で逮捕された現在において、どう考えても米倉氏は100億円を託す人物には思えません。一体なぜ、資金調達を実現したのでしょうか。
しかし資金調達の背景について調べたものの、大量に存在する米倉氏の露出に対して、投資家と資金調達について言及されたものは非常に少ないです。投資家からの出資理由も定型的なもので、詳細は語られていません。出資時における投資家のコメントをまとめてみます。
投資家が出資したコメントをまとめると、「オルツが掲げるビジョンに共感した」「高い技術力と開発力がある」「議事録ソフトの製品及び市場の成長が魅力的」という点が挙げられます。そして米倉氏に対する強い信頼が伝わってきます。
現時点から見返すと投資家における人と会社を見る目のなさに呆れ返りますが、後出しで責めるのは不公平です。とはいえ当時はオルツと米倉氏を信用しており、億単位の資金を提供しました。では、どうして投資家は米倉氏とオルツを信用するに至ったのでしょうか。米倉氏については大量のインタビューや発言はあるものの、投資家における出資の背景や米倉氏との出会い、決定に至るまでの経緯などは表に出ていません。やむを得ず推測すると、下記のような背景があったのではないでしょうか。
・創業当初に著名な投資ファンドであるジャフコから出資を受けて、他の投資家が信用した。
・メディア出演の多さや、経済産業省「J-Startup企業」などの受賞で信頼があった。
・米倉氏は投資家や提携先などの金と権力持ってるオッサンにだけは、抜群にウケが良かった。
・米倉氏における問題のある経歴や人間性について、調べていなかった(気付かなかった)。
・投資家がAIブームに話題性を利用して簡単に上場できそうと判断した。
・米倉氏のプレゼン(ハッタリを含む)やセルフブランディングが異常に上手だった。
・詐欺師によくある異常に口が上手いタイプだった(米倉氏を詐欺師とは言ってません)。
・投資家がパーソナルAIなどの非現実的な理想について、技術的な実現性を考慮できなかった。
・周囲の人間(特に兄)が技術開発を含めて支援していた。
・投資家向け資料の時点で、売上の不正計上などを行っていた。
こうした背景がなければ、投資家が出資する理由が見当たりません。注目すべきは2016年2月(オルツ設立から1年3ヶ月)に、著名なVC(ベンチャーキャピタル)であるジャフコをリード投資家として、約6億円の資金調達を行ったことです。後に米倉氏は「ジャフコのおかげで会社の価値を1桁も2桁も上げられた」と語っています。審査が厳しいだけに投資を受ければ信頼が集まるジャフコからの出資は、影響が大きいでしょう。なお、ジャフコの藤田豪氏は2019年5月からオルツの取締役として参画しています。
もっとも上場廃止で逮捕された今となっては、投資家は出資した理由や当時の事情は明かさないでしょう。
「投資家が技術に関する知見があれば、オルツの違和感を見抜いて投資しなかった」という意見もあります。投資家としては実現の可能性が低くとも、技術的な困難を乗り越えるための支援として出資する側面もあります。さらにリスクが伴う困難な課題であるほど、実現すればリターンも大きくなります。こうした背景があり、投資家が技術的な知見があっても一定の資金調達は可能だったのではないでしょうか。もっともこの点を指摘した生成AIの起業家は技術力は一応あるものの、それ以外の一般常識や人間性が欠落しており、痛々しい厨二病をこじらせた発言をSNSで繰り返す人物であり、自分が投資家から出資されなかったのでオルツに嫉妬しているだけだと思います。
資金調達を実現できた背景として、米倉氏の特異な人間性と資質を推察できます。米倉氏はゲームやマンガなどのコンテンツが好きで制作側も経験しています。つまり他人が求めて喜ぶストーリーを提供して、感情を操作しながら人心掌握する能力があったのではないでしょうか。投資家に反応が良いシナリオを並べながら、見栄えの良いビジュアルを組み込んで流暢に語ることで、技術力と実現性の懸念を払拭させたのではないでしょうか。投資家へのプレゼンはゲーム感覚でありながらデモとシナリオ展開が非常に巧妙で、決まった動作しかできないパーソナルAIのデモであっても相手を信じ込ませるほどだったと証言があります。
仮に技術的な問題を指摘されても、それらしい単語と表現を言いくるめることができるでしょう。米倉氏の経歴からAIに関する知見があるとは言い難く、技術面は小学生時代にゲームを自作したことぐらいです。中学高校は美術、大学は文学部の哲学専攻を中退しています。アルバイトのメディアドゥと個人事業における実績についても、企画者としての役割です。その一方でオルツ起業後の2019年3月の記事で「先端研究は5年先にやる必要があると考えてる。そして今は5年前の研究が時代にハマっている感覚がある」と自信満々に語るインタビュー記事もあります。
ビジョンを語るだけの社長がいるものの、ビジョンを実現できる可能性は極めて低い状況でした。しかも過去の起業における未来少年では多数の問題を抱えていた人物です。ここまで紹介した通り人間性はクズですが、起業家としても問題があります。場合によっては米倉氏のパワハラ気質な性格であえて投資家に圧力をかけて、納得させる場面があったかもしれません。スタートアップの創業者が人間性に問題があることは珍しくなく、成功すれば人間性は問われません。いずれにせよ、100億円の資金調達は事実なのですから。
なぜオルツと米倉氏における資金調達と人脈集めが成功した背景は不明瞭です。前述の通り投資家から100億円集めた理由も推測しかできず、大手企業との提携や官公庁とのつながりもわかりません。人脈においてはオルツの関係者は優秀な人材という証言もあり、CFOの米倉氏や不正を告発した塩川氏はエリートと言える経歴です。人間性がまったく褒められない米倉氏が人を惹きつける理由がわかりません(CTOである兄のおかげかもしれませんが)。そのため「米倉氏の人間性がクズだが、なぜか100億円と優秀な人材が集まったのは事実。しかし要因は推測するしかない」という状況です。この点は投資関係者からの証言を求めるしかありませんが、逮捕された現状を考慮すると絶望的でしょう。
表に出ない人物像
ここまで米倉氏について解説したものの、あくまで一面的なものに過ぎません。なぜなら米倉氏本人が自分自身や事業について語るインタビューなどは多数あるものの、第三者が米倉氏について語るものはありません。スタートアップによくある情報発信として、社員インタビューがあります。入社の経緯を語るものですが、オルツでも未来少年でも社員の露出は社員数の少なさもあって非常に少ないです。一般的にスタートアップでは社長の人間的な魅力や掲げるビジョンに共感して入社する人が多く、インタビューで「社長と一緒に理想を実現したいと思って入社した」など答えるのが定番です。そもそもスタートアップは知名度が低くリスクもあるので、人材採用の入口としてこうしたコンテンツを制作するのは効果的なのですが、見当たりません(正確には記事と動画が2本ずつありましたが、既に削除されていました)。同様に役員や責任者クラスにおいても、米倉氏の人柄や入社の理由などを語る記事やインタビューはありません。一方でオルツは社員の前職として有名企業の名前とロゴを多数並べており、優秀な社員と一緒に仕事ができるというアピールをしています(オルツ特有の盛った発表である可能性も残りますが)。なおのこと社員を紹介する情報発信がないことに違和感が残ります。
結果としてオルツの関係者として表にでるのは大半が米倉氏で、イベントなどで部長や役員が登壇する程度です。結果として「オルツ=米倉千貴」であり、オルツの顔は米倉氏というワンマン体制の象徴になっています。もっとも米倉氏は人の意見を聞かず他人を信用しないので、第三者が自分やオルツについて語ることが嫌だったのかもしれませんが。
100億円と10年をかけてオルツが成し遂げたこと
オルツは調達した100億円を使い、設立から10年をかけて何を成し遂げたのでしょうか。活動実績について、様々な方面から調べてみます。
広告宣伝について
多額の広告費が投じられたものの、循環取引のため金額の大部分(調査報告書では概ね9割程度)をオルツに戻す必要があります。そのため実行できる施策は限られていました。金額の小さい取引先では、LP・ランディングページ制作(恐らく10万程度)しかできなかったと調査報告書で解説されています。自社開催のイベントは年1回の豪華ゲストを呼ぶカンファレンスがベルサール東京日本橋で行われており、こちらは場所代だけで平日2,970,000円〜6,300,000円となります。ゲストの登壇料やブースの設置を考慮するともっと費用がかかります。その他のイベントは小規模であり、例として文藝春秋本社ホールのギャラリーで行われたイベントなら、利用料は平日で5万円です。展示会への出展は「AI・人工知能EXPO」「ITトレンドEXPO」「EDIX(教育総合展)」があり、ブースの広さや展示物にもよりますが、概ね数百万円〜1,000万円程度と推測できます。エンジニア向け勉強会も行われていますが、これらは自社オフィスでの開催なので、大きな費用はかかりません。メディア露出は多いものの、依頼があって取材を受ければ費用はかかりません(テレビや雑誌やニュースサイトに限らず同様)。メディアに費用を払って掲載する記事広告は数十~数百万円かかりますが、オルツではほとんど行われていません。例外的に費用がかかるTCVMは2022年の3ヶ月間だけTBSのNEWS23で放送されましたが、費用計上された4,290万円のうち実際にかかった費用は1,430万円で、残りの2860万円はCMには使われず議事録ソフトの循環取引に充てられていました。広告費の実態としては、数千万円から高くても1億円に届かないと推定されます。
売上の実体
売上の9割を締める議事録ソフトにおいて、2020年から2025年7月における有料会員のアカウント数は5,170件でした。循環取引が行われたパートナーによる営業活動でも一応は有料会員の契約があります。実際の売上金額は6億円程度と推測されます。また、議事録ソフト以外の売上は、「LLMの技術を活用したカスタマイズされたAIソリューションの提供」が2億8600万円(架空売上含む)です。こちらも循環取引が行われており、氾濫被害予測のためのデジタルツインエンジン構築及びブロックチェーン管理の試行に関する検証に関する業務における1870万円が該当します。調査報告書には議事録ソフト以外の循環取引について調査が行われておらず、実際の売上金額は不明です。詳しい調査は行われていないものの、業績に大きな影響を及ぼす金額ではないでしょう。
大規模言語モデルに関する謎
自社開発とされる大規模言語モデル(LLM)の「LHTM-2」が存在しますが、こちらも不明瞭な部分があります。「大規模言語モデル(LLM)」とは、大量の情報を学習して人間のように自然な文章を生成したり、質問の内容を理解することができるAIモデルです。これはChatGPTで根幹として利用される技術です。以下、オルツによる「LHTM-2」の特徴を紹介します。
・「LHTM-2」は「(ChatGPTを開発したOpenAIが2020年に発表した)GPT-3」等と同水準のパラメータ数で構成されている。
・「LHTM-2」と「ChatGPT」はアプローチが全く異なる。「ChatGPT」はあらゆる質問に自然に回答できるものだが、「LHTM-2」はお客様向けにカスタマイズして、ハルシネーション(ウソや間違い)を防いで正しい情報だけを提供することを目指す。
・「ChatGPT」は利用者が入力した情報も知識として蓄積するため問題がある。そこで「LHTM-2」では、利用者が入力した情報を運営者が把握できない保護機能がある。そのためビジネス利用でも信頼できる仕組みとなっている。また、「LHTM-2」は専門用語や企業独自のFAQなどを追加するカスタマイズ性が高く、カスタマイズや情報保護が難しい「ChatGPT」に比べて優位性がある。
・軽量型大規模言語モデル「LHTM-OPT」では、日本語LLMを評価する「Rakuda」のベンチマークで最高スコアを記録して、国産商用プライベートLLMとして国内最高を記録した。 ※自社調べ
・「LHTM-OPT2」では日本語RAG(検索拡張生成)で軽量型LLMとして、世界最高の精度と推論速度を実現した。 ※自社調べ
・1750億パラメータ規模(GPT-3と同程度)の各社個別向け大規模言語モデルの受託開発を開始した。価格は約20億円。
このように自社開発による大規模言語モデルと主張するものの、性能などは自社発表以外の根拠がありません。大規模言語モデルの開発には時間も費用も人材も必要で、日本で独自開発を行っているのは通信会社や電機メーカーなどに限定されます。そもそもオルツが独自に大規模言語モデルを完成させた経緯や背景も不明瞭です。社員数が少なく、エンジニアの人数も限られており、エンジニアもクラウドソーシングで募集していました。さらに外部への研究開発費も循環取引なので実体がありません。大規模モデルの性能について、学習データの時期(カットオフ)がChatGPT(GPT-3.5)と同時期である点も違和感があります。自社開発にもかかわらず、ChatGPTと同じ時期なのは偶然でしょうか。このような背景があるにかかわらず、個別に大規模言語モデルの開発を20億円で請け負う発表を行っています(本当に開発できるのでしょうか)。なお、関係者からは「中身はChatGPTである」「2024年に一部だけ自社開発になった」などの情報があります。SNSを通しての告発なので信憑性は疑わしい点を付記します。もっとも機密保持契約(NDA)によって、口外できない背景も考慮すべきでしょう。
議事録ソフト以外に完成した製品やサービス
オルツが開発して実際に利用できる数少ない製品・サービスとして、ノーコード生成AIプラットフォーム「alt BRAIN」があります。実物はよくあるチャットボットです。特定分野に詳しいものや、キャラクターになりきったものを作成したり、LINE、Slack、Discordなど、多様なプラットフォーム上で自動生成できるとされています。
実際に試してみましたが、2023年9月の正式リリースである点を考慮しても、目新しさや優位性は感じにくいです。商用展開されており、評価試験として野村証券やJR西日本など100社を突破したという発表はあります。実際に製品を発表したのは2社で、教科書の制作を手掛ける東京書籍では、自分専用のAIで楽しく効率よく学ぶ 「教科書AIワカル」が提供されています。2025年4月から一部機能を利用できる体験版を公開しており、2025年秋から本サービス(有料版)がリリースされる予定でした。もう1社は2024年7月に軽井沢観光協会で、観光情報提供サービスの「軽井沢 AI Navi」による実証実験が開始されましたが、続報はありません。なお、alt BRAINも循環取引によって売上が不正計上されています。
本記事の読者はIT業界で働く人や、エンジニアもいると思われます。こうした業種としてオルツに近い立場であっても、一体どれだけの人が不正発覚で話題になる前から製品やサービス、大規模言語モデルの「LHTM-2」や試用可能な「altBRAIN」の存在を認知していたでしょうか。実際に体験した人となれば、更に少なくなると思われます。
研究開発費の実体
多数発表された製品やサービスの研究開発において、前述の通り社員数が少なく、研究開発は外注に委託されています。しかも研究開発費でも循環取引が行われており、実質的な業務は行われていません。取引先はアノテーション(データに注釈やタグ付を行ってAIの学習データを作成する作業)を主な業務としており、AI開発に関連のある企業です。もう1社は個人会社で移動体通信向けの研究開発を行っており、以前からオルツと取引がありました。さらにもう1社はアプリのUI/UX開発会社の候補として紹介されて、取引が開始された企業です。広告費と比較して金額は少ないものの、研究開発の実体はありません。
そもそも、多数の新規事業や製品の発表に対して、明らかに研究開発費とエンジニアの人員がが足りていません。決算資料では「外部の優秀な人材を業務委託により活用する」と説明があるものの、外部への委託費も広告費と比較して圧倒的に少ないです。そのため、研究や製品開発、運用や保守、サポート、既存製品のアップデートなど、対応に限界があります。
オルツがどこまで研究開発を行っていたかは不明瞭な部分が多く、自社発表が信用できない点を考慮すると、転職サイトの口コミやSNSの投稿や関係者における情報提供などの情報源に限られます。研究者やエンジニアの勤務体制はリモートワークが前提で、社員同士の交流も少なかったようです。社長の兄であるCTOはデジタルクローンの開発に携わっていたものの、退職しています。後任のCTOは、Web3やブロックチェーンの経験者が就任しています。少ないもののインタビューや登壇の記事がありましたが、語っている内容は米倉氏と同じくデジタルクローンの凄さを根拠なく強調するだけでした。別の技術責任者は大規模言語モデルの開発に必要な自然言語処理の専門家が2022年4月に入社したものの、1年半ほどで退職しています(自身のプロフィールからオルツの社名を削除しています)。また、研究開発に言及した米倉氏の発言は少ないものの、「創業当初(注:2014〜2015年頃)はみなとみらい21のシェアオフィスにマシンラーニング用の大型コンピュータが設置できず、お台場のthe SOHOというコワーキングスペースに移転しました」とあります。一方で2020年1月には六本木のシェアオフィスに移転して、リモートワーク中心の体制になっています。既に研究開発に必要な設備はクラウド上に展開していたのでしょう。研究開発の体制においては第三者委員会の調査報告書でも言及されておらず、既に真相解明は難しいでしょう。
研究開発の成果
研究開発の成果として、特許申請があります。下記が特許の出願公開件数となり、カッコ内は受理された特許件数です。
2017年3件(0件)、2018年3件(1件)、2019年2件(1件)、2020年3件(3件)、2021年2件(0件)、2022年4件(1件)、2024年2件(0件)、2024年1件(1件)
また、学会発表は2017年に自然言語処理における学会であるACLにおいて、拡張固有表現抽出について発表しています。また、計算言語学の国際会議であるCOLING2018にて、拡張固有表現認識の研究成果を発表しました。受賞歴としては2018年にVLSP固有表現認識コンテストで優勝しています。言語処理学会ではスポンサーとして、第23回年次大会、第31回年次大会、第19回言語処理若手シンポジウムに参画しています。
企業買収
大きな費用がかかった事業として、企業買収があります。2024年12月にSES(技術者の派遣)事業とDXコンサルティング事業を展開する株式会社わさび及び株式会社Green&Digital Partnersを7.6億円で取得しました。2023年6月に国内シェアNo.2の人力文字起こし事業の株式会社IPパートナーズを買収しましたが、こちらの取得金額は不明です。そもそもオルツがSESとDXコンサルを買収する相乗効果が見えにくく、自社開発のAIで文字起こしできるなら人力文字起こし事業を買収する必要はない気もしますが。なお、不正発覚後の2025年9月19日には買収した2社(わさび・Green&Digital Partners)をシステムソフト社に2億3500万円で売却しています。余談ですが、わさびの社長は米倉氏から「お前は上場企業グループとしての品位が無い」と言われたそうです。逮捕される人間に言われたくないでしょう。
ここまでオルツが手掛けた実績について、まとめてみました。100億円を集めたものの、形になったのは「売れない議事録ソフト」と「決められたパターンでAIっぽく動くデジタルクローン」と「よくあるチャットボット」が関の山です。そもそもオルツにおいては売上を含めて信用できないため、研究の成果においても疑問が残ります。しかし今から外部からエンジニアや研究者が検証するのも難しく、実態は闇の中です。また、再建のために外部の会社が支援するという提案もなく、他社が魅力を感じる研究開発の資産もないのでしょう。
議事録ソフトは売れるのか?
オルツは議事録ソフトを開発して販売すべきだったのでしょうか。「AI GIJIROKU」の発売は2020年1月13日で、新型コロナウイルスの感染が徐々に広まった頃です(クルーズ船のダイヤモンドプリンセス号における集団感染が2020年1月下旬)。そもそも当時から音声の文字起こしを行う議事録ソフトは他社製品が多数あった差別化は難しいです。時期的にコロナ禍におけるオンライン会議の需要やAIの進化などで市場規模は拡大するものの、爆発的に利用が増加したのはZoomなどでした。さらにオンライン会議ツール自体に文字起こしや文書化などの機能が追加されており、議事録のために専用ソフトを買う人はそこまで多くありません。さらにさらにtl;dvやNottaやCirclebackなどの新興勢力も登場しており、市場は激化します。もっともコロナ禍における需要急増と注目を集める追い風があり、大塚商会という日本全国に強力な営業網を持つ企業との提携を活かせず、真っ当な営業や広報に注力せず広告代理店と循環取引を始めていた始末です。成功するわけがありません。
議事録ソフトは「利用実態が把握されにくいので契約数の偽装が簡単」「広告費の循環取引の材料として利用しやすい」という特徴を備えています。議事録ソフトと循環取引が存在しなくても、パーソナルAIという理想だけで上場していた可能性はあります。さらなる資金調達と投資家からのプレッシャー、そして米倉氏が株式上場を望んでいたからです。東証グロース市場は売上が少なく損失が大きくても、将来性があれば上場できます(創薬・バイオベンチャーなどが該当するが年々基準は厳しくなっている)。もっともこの方法で上場しても永遠にパーソナルAIが完成せずに、社名ロンダリング(繰り返し社名を変えて悪い印象を払拭する)、本業が株券印刷に転換(資金調達のため株式の新規発行と希薄化を繰り返す)、ハコ企業化(人為的な株価操縦を行う仕手筋や反社会的勢力によって経営権を握られて悪用の受け皿となる)と展開になって、遅かれ早かれ上場廃止や逮捕という運命からは逃れられないでしょうが。
余談ですが不正調査を行った第三者委員会では、議事録作成のために「AI GIJIROKU」は使われたのでしょうか。報告書には「AI GIJIROKUのアカウント付与されて、主要機能(リアルタイム翻訳・AI 要約機能・清書機能・内部音声収録機能)の動作を閲覧」という説明はありました。製品として確認はしたものの、調査委員の打ち合わせにおける議事録作成に使われたかは微妙なところです。
100億円と株式上場益はどこに消えた?
ところでオルツが集めた100億円はどこに消えたのでしょうか。循環取引は資金の移動を繰り返すため、実際に使う金額は一部です。循環させるために一定の金額は残さなければいけません。実際に使われた広告費や研究開発費や外注費など、決算資料を見る限りは数億円程度と想定されます。人件費もオルツは社員数が20名程度なので、そこまで経営を圧迫しません。オフィスの家賃は創業当初がお台場のthe SOHOというコワーキングスペース、JR浅草橋駅から徒歩5分にある普通のオフィスビル、地下鉄六本木駅から徒歩1分のオフィスビル、2020年1月からは六本木のコワーキングスペースと変遷しており、従業員はフルリモートで作業しています。スタートアップにありがちな、都内の一等地で無駄に豪華なオフィスを構えるというムダ遣いはしていません。残るは社長や経営幹部への役員報酬ですが、有価証券報告書には取締役2名で4600万円とあります。現在の状況はさておき、これも極端に高い金額ではありません。では100億円の一部が残っているのでしょうか。実際は負債総額は約24億円で民事再生となっています。
もう一つ気になる点として、株式上場における売却益の行方です。株式上場によって、創業者や役員、投資家は証券市場を通じて保有する株を売却して利益を得ます(契約や条件などありますが)。では、株式上場で儲けたお金はどこにあるのでしょう。もしも何らかの形で保管されており、裁判で有罪になっても粉飾決算の刑期は4〜5年なので、刑務所で過ごした期間を年収換算すれば結構な金額かもしれません。もっとも訴訟によって財産が没収される可能性もありますが。
オルツを通じてわかることは、新しくて複雑なものは正しく理解する人が少なく、注目とお金を集めることができて、法律で規制されていなければ儲かるということです。合法でも違法でもグレーゾーンでも、AIブームに便乗して儲けた人はしっかり存在しているのです。
米倉氏は「捕まってない詐欺師」から「捕まった詐欺師」になったのか
米倉氏とオルツについては、ここまで述べた通りです。しかし実体として、不明瞭な部分も多いです。これ以上調べようにも、既に上場廃止と主犯格が逮捕された現状では、元社員や取引先や提携先や投資家は関わらなりたくないでしょう。しかしながら本記事の執筆中に、複数名の方が私のTwitterアカウントを通じて情報提供いただきました。その内容も含めて、本記事は制作されています。
未来少年の米倉氏は人間性の評価されずとも、起業家としては未来少年を成長させた実績があります。しかしオルツにおいてパーソナルAIの実現という大言壮語と実現性のない多数の新規事業の発表を繰り返して多額の資金調達する姿勢は、「捕まってない詐欺師」という印象が個人的にはありました(詐欺の立証は難しく、有罪にならなければ詐欺師とは言えませんが)。そして数々の不正が発覚して逮捕された現在においては、「捕まった詐欺師」という印象です(罪状は金融商品取引法違反なので有罪になっても詐欺師とは言えませんが)。
米倉氏の経歴はアルバイト時代のメディアドゥでコンテンツ制作、個人会社のSTARBUGでは企画・プロデュース、未来少年では電子書籍の受託業務を行ってきました。これらは取引先に要望や依頼に応じて制作するものです。対してした オルツでは0からの研究開発を行い、議事録ソフトも1から開発したとされています。このような経営体制の違いを意識していたのでしょうか。そもそも米倉氏が未来少年において1から作ったゲームやマンガはまったく話題になっていません。それでも組織の方向性を定めて社員を動かしながら、広告塔としてメディア露出しながら知名度を上げる能力は実績があります。むしろスピーカー付きの軽い神輿として担がれる方が向いているでしょう。起業の経緯や資金調達の実績から見るに、時流を読んで他人を説得する能力には長けているので、他社が開発したAIツールを目利きしながら販売代行を手掛けたり、自身の人や注目を引き付ける能力だけを利用しながら、パワハラをせずにAI系の受託開発など手堅い事業を行っていれば、不正行為に頼らずとも株式上場できたのではないでしょうか。それなのにパーソナルAIの実現という荒唐無稽な妄想に取り憑かれて身の程をわきまえない連続起業を行い、先行して多額の研究開発費を求めて資金調達に走ったことが、不幸の始まりだったかもしれません。
過去の社会現象やIT業界を振り返ってみます。2010年代前半において、第三次AIブームでディープラーニングが話題になりました。並行してデータサイエンティストやビッグデータやWeb3やNFTやメタバースやDX(デジタル・トランスフォーメーション)が流行して、2022年11月にChatGPTが登場してからは生成AIブームが続いています。今やNVIDIAやOpenAIなどによる兆単位の金額で投資が発表されており、経済規模は異常なまでに拡大しています。このような過熱したAIブームに便乗したのが、米倉氏とオルツです。前述の通り米倉氏はオルツ創業の理由について、2014年頃に「自分が行っていた面接の対応をチャットボットに置き換えたが、誰もAIだと気付かなかったのでAIに関心を持った(別のインタビューでは「社員から同じ問い合わせがあったのでチャットボットに切り替えたら気づかれなかった」)と答えています。不正発覚で逮捕された今となっては、セルフ・ブランディングを目的とした作り話にも思えます。スタートアップにおいて、こうした「起業のきっかけ」となるエピソードがまことしやかに語られるからです(例:Netflixはレンタルビデオの延長料金がきっかけ)。当時の技術でチャットボットを人間だと認識させることは難しく、そもそも面接はオンラインであってもお互いに顔を映して行うものです(従業員の問い合わせがきっかけでも、社内Wikiを作れば済む話)。AIに関心を持ったエピソードは、投資家の注目と資金を集めるために考え出された後付けのエピソードでは疑ってしまいます。
調査報告書において、気になる指摘があります。「米倉氏による売上優先主義」です。米倉氏は売上の拡大と株式上場を強く志向しており、全社会議でも売上優先主義である旨を強調しており、「売上未達になれば株式上場ができないと強調」「従業員に対して数字の実績のみが唯一の評価軸であると明言していた」という記載があります。株式上場に、強いこだわりがあったことは明らかです。結局のところオルツを創業する理由となったパーソナルAIの研究開発も、株式上場のために利用する踏み台になったのではないでしょうか。
あるいは未来少年において従業員を増やしても売上が増えなかったことから、従業員を含めた他人に対する不信感もあったと推測されます。そこでAIによる自分自身のデジタルクローンを開発すれば、自身が夢想する「自分1人で売上3億円なので、自分のデジタルクローンが100人いれば売上300億円になる」を実現したいと考えたかもしれません。実際にオルツでは従業員のデジタルクローンが業務時間外も含めて稼働しており、他の従業員からの質問や簡単な依頼に対応する実証実験を行っており、米倉氏のデジタルクローンも月に180時間稼働しています。さらにプレスリリースの担当が週2本プレスリリースを発表するために、デジタルクローンが担当者の仕事を学習して業務を支援しています。(デジタルクローンにおいても、「ChatGPTに出身地や趣味を覚えさせただけの劣化版」「存在するが反応が遅すぎて使いものにならない」などの指摘があります)。こうして信頼できない他人ではなく、自分と信頼できる人間のデジタルクローンによって、少人数で大きな売上を出せる組織を目指したのでしょう。
結局のところ米倉氏は「株式上場する」という目的と、「自分以外の人間は兄を含めて信用できない」という不信感があり、AIブームに便乗してオルツを起業して、実現性のないパーソナルAIを題材にしたハッタリとコミュ力で投資家から100億円の資金を集めつつ、自分が理想を実現する天才クリエイターだと思い込みながら、好きなようにやりたかっただけではないでしょうか。米倉氏にとっては議事録ソフトが売れなった2020年頃から、会社を経営する目的が「パーソナルAIで素晴らしい未来を実現する」から「どんな手段を使っても株式上場する」に切り替わったかもしれません。そして自分の身勝手な欲望のために、従業員や投資家や取引先や証券会社や監査法人や株式市場や個人投資家を踏み台に、罪悪感はあったのでしょうか。逮捕された今となっては、知る由もありません。
もっともCFOの日置氏は不正行為が発覚しても、逮捕される前の株主総会における態度を見る限り、反省の色が見えません。以下が該当する発言です。
「今回の事象が4月にあって、世の中のオルツへの視点がかなり変わった」
「結果として不正があった事業をやっていた会社としてマスコミに取り上げられ、それ以外の技術基盤や事業も数多く強いものがあったが、なぜか今回の部分でオルツ全部がダメだとマスコミも含めてなってしまった」
「苦しい状況にみなが追い込まれた」
そもそも不正行為は事実であり、会社の印象が悪くなるのは当然です。さらに事業で売上につながるな製品やサービスは議事録ソフトだけで、他の30種類ほどある事業や製品のほとんどは試作品か発表止まりで売上につながりません。研究開発においても信憑性が怪しく、成果は乏しいです。こうしたオルツ自身に起因する問題をマスコミのせいにして、苦しい状況に追い込まれたと主張しています。ナメてんのか。裁判でも同じ主張を繰り返すのか、楽しみです。
参考として、CFOの日置氏に関する言動も紹介しておきます。
こうしてオルツは株式上場後に不正発覚して、10ヶ月で上場廃止になり、1年で社長が逮捕されました。一体オルツとは何だったのでしょう。ふと、オルツが投資家から集めた100億円があれば、何ができたのかを考えてしまいます。そしてAIやスタートアップに対する信頼も失われました。ただでさえ「怪しい」「虚業」という印象を持たれやすい業種ですが、オルツは言い訳できない怪しい虚業です。残されたのは株式上場から10ヶ月で上場廃止という不名誉な記録、社長の逮捕、売れない議事録ソフトでした。民事再生の手続きを取った会社は、再建するパートナーがいなければ精算されて消滅します。今後オルツが話題になるのは、裁判の判決が下った時ぐらいでしょう。10年と100億円と多くの関係者を巻き込んだ結果がこれでは、何の救いもありません。かつて米倉氏はパーソナルAIで人間の仕事を無くす理想を目指しましたが、無くなったのは自分の会社と社会的地位でした。
第2第3のオルツとなる「驚き屋」
こうしてオルツは消え去りましたが、まだまだ生成AI界隈やIT業界には怪しい企業や人物が跋扈しています。特に生成AIブームにおいて登場した「驚き屋」です(「プロ驚き屋」「AI驚き屋」とも呼ばれます)。
「驚き屋」はSNSや動画サイトで生成AIにおいて、「生成AIの最新バージョンで世界が変わる!」「生成AIで人類は失業決定!」「生成AI副業で〇〇万円儲かる!」などの大げさな表現を繰り返す存在です。生成AIは進化のスピードが非常に早く、短期間で大量の情報が出てきます。新たにできることが増えて、人間と同等またはそれ以上の成果を出せるようになりました。こうした現象を大げさに表現して注目を集めるのが特徴で、やっていることはオルツのプレスリリースにおける誇大表現と同レベルです。実際に驚き屋による情報発信は前提条件や背景を無視して、特定部分を過度に強調しています。例えば「人間なら3時間かかる作業が、生成AIツールの最新機能なら10秒で完了!」という内容なら、比較結果の根拠や実現条件などは伏せています。このように驚き屋や数字をごまかすヤツが多く、この点もオルツと同様です。そして驚き屋の投稿は海外のSNSアカウントや企業などが発表したものをコピペ(あるいは翻訳)しただけなので、詳しい内容はまったく理解していません。この点も米倉氏と同様です。
このように驚き屋は話と数字を盛りながら生成AIを大げさに紹介して、注目を集める行為を繰り返しながら、SNSや動画投稿サイトのフォロワー数を増やします。とはいえ大半の人々は生成AIに詳しくないので、派手な情報をそのまま信じてしまい、他人の情報をパクっているのにフォロワー数が多いだけの驚き屋を、「生成AIの専門家」と誤認します(米倉氏と同じ手法です)。さらにメディア関係者は目立っているだけの驚き屋にメディア出演を依頼して、さらに知名度を向上させます(オルツも同様です)。話題性があって視聴率や閲覧数を稼げれば良いからです(この点もオルツと同じです)。そして驚き屋はパクリの専門家であって生成AIの専門家ではありませんが、口先だけは回るのでそれっぽい未来を語ることで視聴者や出演者や関係者を騙せます(やはりオルツと同じです)。こうして驚き屋や知名度を利用してイベント登壇、セミナー・研修の展開、書籍の出版、起業、新規事業の立ち上げ、顧問業などを始めます。とはいえ内容と品質は酷いものです。もっとも生成AIのド素人が相手なので、低品質高価格でも騙し通せるのですが。
過去に別分野で不祥事や悪徳商法を起こした人物もおり、生成AIに商材を変更して同じ手口で被害を増やしている人物もいます。以前にはWeb3や仮想通貨や暗号資産やNFTやSNS運用や動画編集などをテーマに高額な情報商材(ノウハウなどをまとめた電子書籍や解説動画)の販売や怪しいセミナーを手掛けていた人物も、今は生成AIにターゲットを変更しています。自分に都合の良い情報ばかりのポジショントークをSNSや動画サイトで発信しながら、LINEなどの第三者が干渉できない閉鎖的な環境や無料の案内セミナーに参加させて入会を迫る行為を煽りながら、高額な情報商材やコミュニティに何も知らないド素人を誘導して、契約書もなしに50万円の入会金を支払わせます(クーリング・オフ適用外)。言うまでもなく、これらの情報商材を購入したりコミュニティに参加しても、まったく稼げません。
このように驚き屋には生成AIに詳しくないド素人の不安につけこんだり、儲け話を持ち込んで金を騙しとる者がいます。「口先だけで他人から金を巻き上げる」「過去に問題を起こした人物が更生していない」という点は、オルツ並びに米倉氏と同じ構造です。捕まってない詐欺師は更生も反省もせず、驚き屋として同じ悪事を繰り返します。一方で、まだ被害は表立って出ていません。被害者が個人なので金額が数十万円程度であり、警察や消費庁の対応も後手に回っており、顧問弁護士による合法的な契約を盾に支払いを渋ったり、SNSによる告発を行っても訴訟をチラつかせて削除させる言論封殺などにより、被害者が泣き寝入りに追い込まれて表面かしにくい状況です。
同様に問題のある企業として、怪しいAIスタートアップも存在しています。あくまでオルツが発覚した理由は株式上場しており、他の企業よりも監査が厳しく、内部告発があったため発覚しました。一方で株式上場しなければ、悪徳商法や法律違反を堂々と行っても話題になりません。それでも明確な証拠を残さないようにしたり、驚き屋と同様にSNSなどで被害者が声を上げると訴訟をちらつかせて顧問弁護士を通して発言を削除させます。警察や消費者庁でも対応が追いつかず、対応は後手に回っています。これは私の実体験ですが、明らかな違法行為を繰り返す生成AIスタートアップを所轄の警察署に相談したものの、「海外にサーバがある」「シェアオフィスである」という理由で、日本の企業で日本人が経営する会社であっても対応を見送られました。業界団体に報告したものの、「調査を行う」という返答から動きはありません。被害者の会が結成されていますが、こちらも活動には限界があるので表立った動きはありません。こうして生成AIのような新しい分野は法規制がないので、違法ではありません。その結果抜け道を探すのが得意な倫理観の無いカスによって、荒稼ぎする道具に成り下がります。
そもそも生成AIに関わる人間が信用できるか見極めましょう。「有名だから」「テレビに出演したから」「インタビュー記事を読んだから」「著名人と知り合いだから」「実名顔出しでSNSやってるから」「フォロワー数が多いから」「有益な情報を無料で発信してるから」「大企業と提携してるから」「本が話題だから」「主催するセミナーの受講者が◯万人だから」「『日本を生成AIで世界一にする』のような立派な志を持っているから」「業加団体に所属しているから」「有名大学の出身だから」「有名企業の元社員だから」「外国(特にシリコンバレーや深セン)の勤務経験があるから」「外資系IT企業出身だから」「スタートアップの社長だから」「◯億円の資金調達してるから」「苦労した過去から成功してるから」「ブレイキングダウンで人気だから」「マネーの虎やリアルバリューに出演して話題だから」など、一切根拠になりません。オルツのCFOである米倉氏も人柄を知る人物が「彼はスポーツマンだから不正はしない」と擁護しましたが、実際は社長と同じく主犯格でした。怪しい人物と企業にあなたの大事な金を渡してはいけません。真っ当な会社なら自社の信用のために驚き屋が経営する怪しいスタートアップと取引してはいけません。本当は怪しい驚き屋の名前と悪徳商法を行う会社名を出したいものの、事実陳列罪でも名誉毀損と言い張って訴訟や開示請求で脅迫してくるので、ここまでにしておきます。きっと驚き屋はオルツをすっかり忘れた2027年に、大きな問題を起こすでしょう。
終わりに:100億円の打ち上げ花火
素晴らしい理想を目指すスタートアップが失敗することは、よくあることです。そして成功している起業家でも、成功の前には数多くの失敗があるものですた。失敗そのものを否定するつもりはありません。しかし、オルツは「失敗」ではなく「不正行為」であり、裁判の結果によっては犯罪となります。いまやAIスタートアップは無数に存在しますが、多くは真剣に事業に取り組みながら成功や社会貢献を目指しています。しかしながらオルツという存在によって、「AIスタートアップ=捕まってない詐欺師」という悪い印象につながるのは避けなければいけません。
オルツの不正発覚後、絶賛していたメディアや提携先は態度を180度変えて、過去の関係性をなかったことにしました。メディアは記事を削除して、提携先からはプレスリリースが見られなくなりました。合弁企業を設立した会社は100%子会社と改めて、「過去から現在に至るまでオルツとは検討のみで具体的な取引はありません」と発表する企業まで登場しました。しかし、都合の悪い過去を無かったことにするだけでは、前進できません。メディアや提携先は怪しい兆候を見抜けなかった原因を検証すべきです。
なぜオルツの不正は発覚しなかったのでしょうか。実はIT業界や投資家において「オルツが怪しい」という情報は水面下で流れていました。私も人づてに聞きましたが、「資金調達が話題になるだけで、何をやってるかわからない怪しいAIスタートアップ」という印象止まりでした。自分には関係がなく、詳しく調べるきっかけはなかったのです。そこで明確な根拠もなく上場企業(あるいは上場を目指す企業)を「怪しい」と証言すれば、確実に抗議がきます。そして、問題のある企業を指摘することは、百害あって一利なしです。そのため企業を相手に訴訟や裁判にまで持ち込まれるリスクを考慮すると黙っているのが一番得な選択となります。関係者が内部告発するにも告発者の保護には不備があり、黙って退職した方が良いと諦めるのも当然でしょう。そのため指摘できるのは批判に耐えられる暴露系インフルエンサーか、訴訟対策できる週刊文春ぐらいです。一方で上場前時点ではオルツの疑念に関する言及はほとんど無く、スタートアップメディアを運営するsuan氏が2024年9月の記事で広告費の違和感などを指摘(該当記事)しただけです。不正発覚後は、アクティビストの田端信太郎氏はオルツの元社員による告発(該当動画)や広告代理店のADKによる関与(該当動画)をYouTubeで言及しています。こうした活動もあり、私自身もITmediaの連載でオルツについて2本の記事(該当記事1・該当記事2)を公開しました。しかし、生成AIを含めたIT業界は社会全体において、まだまだ関心が低いです。芸能人の不倫の方がよほど大きな話題になるので、暴露系インフルエンサーや週刊文春にタレコミしても取り上げられません。我々自身が騙されないように自衛するしかないのです。
「AIは間違える」「AIが誤った答えを出して人間を騙す」「AIが人間の能力を盗んでいる」などの否定的な意見があります。こうした生成AIに反発する人は、AIを人間の敵と考えています。本当にそうでしょうか。結局AIを悪用して人間の敵になるのは、他の人間なのです。
こうしてオルツは伝説になりました。AIブームに乗って10年の時間と100億円の資金調達の結果、売れない議事録ソフトを不正行為でごまかして株式上場させたものの、1年で上場廃止から民事再生により社長が逮捕という結末に終わりました。まるで手間とお金をかけて一瞬だけ派手に散る打ち上げ花火です。そして一瞬だけ話題になり、すぐに忘れられます。そして季節がめぐり、次は第2第3のオルツが登場して同じことが繰り返されるのです。
完




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