主を失った狼、透き通る世界に行き着く   作:けんどーさん

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研がれた楔

〜エンジニア部、空き部屋〜

 

「狼さん!こちらです!」「……」

 

コトリに連れてこられた部屋は予想以上に広く、刀を研ぐとはいえ広すぎるぐらいである

 

「狼さん、刀を研ぐための道具は…まぁ、ないですよね。少々お待ちを!」「…ああ」

 

コトリが部屋から退出し、狼がポツリと残される

 

「……」

 

狼はどさりと座り込み、待つことにした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜シャーレオフィス〜

 

“あ、ありがとうユウカ、助かったよ”「当然です、当番ですし、あの様子をみて放っておけるわけないじゃないですか」

 

シャーレのオフィスで先生と共に書類の束をなんとか崩し終えたユウカ

 

今回、ユウカは先生、もといシャーレの当番であり、シャーレへと行った結果…書類に埋もれている先生を発見

 

そして先生を一回引っ張り出した後、先生の業務のお手伝いをしていた

 

“今日はユウカのおかげで早く終わったよ、ありがとう”

 

その時、プルルルルと電話が鳴る

 

 

“あ、ユウカ、ちょっと失礼…お電話ありがとうございます。連邦生徒会所属、連邦捜査部シャーレです”

 

「やあ先生、エンジニア部のウタハだ」”あれ?ウタハ?どうしたの?”

 

先生が電話に出ると聞こえて来たのはウタハの声であった

 

「今、狼がこっちに来て義手の解析とかが終わって、今は刀を研いでるはず」”ちょっと待ってあの義手の解析はともかく刀研ぐって??”

 

「ああ、どうやら彼が持ってる刀、随分と刃こぼれしているらしいから研ぎたいと言ってきてね、砥石と部屋を貸してたんだが…」

 

 

“なるほど、ありがとう、ウタハ。狼もすごい助かってると思う”「それで、刀を研ぐとなるとかなり時間がかかるだろうからね、連絡しておいた方が無難かと思ってね」

 

“わかった、改めてありがとう。狼の使った道具とか消耗品とか、何か渡したりしてたらはシャーレに請求しておいて”「いいのかい?ならお言葉に甘えさせてもらおう。じゃあね、先生」

 

プツ、と電話が切れた

 

「先生…最後に言ってた事って…」”ん?もちろん自腹…あ”

 

「せ〜ん〜せ〜い〜!」”あっちょっまってアーーーー!”

 

いくら生徒のためとはいえ経費で落とせる話を、自分のお金を使って解決するのはどうなのかとユウカは先生の足が痺れるまで正座させ、説教した

 

 

なお、その後こっそり先生が自腹で払っていたのは秘密とする

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜エンジニア部、空き部屋〜

 

待つこと十分、部屋のドアが開くとコトリが入室する

 

「お待たせしました!狼さん!」

 

コトリがゴト…と持っているものを床に下ろした

 

「お水は今持ってくるのでもう少しお待ちください!」「…ああ」

 

コトリがまた部屋から退出すると狼は持って来た道具を珍味する

 

布は二つあり、どちらも同じもの。おそらく油を塗る時にも使えるだろう

 

これはおそらく油だが、字が読めない

 

「……」

 

試しに嗅ぐと、油の匂い

 

「……」

 

狼としては、椿油であれば良かったのだが

 

まぁ、時代が違うのだ。仕方ないと狼は割り切った

 

また別の道具をみると、今度は青色の箱のような物を持ち上げ、見る

 

「…砥ぎ桶か?」

 

狼のよく知る物と材料が違うのか、とても軽い

 

「………」

 

改めて狼は考える。既に狼の、戦国時代の世の常識は通用しない

 

少女達がお互いを撃ち合っていたと思ったら少しすれば仲良く甘味を味わっている世界

 

誰も、死ぬことはない世界

 

「……」

 

少女達が争っている、そのことを考えると、少し眉間の皺が増えた気がするが

 

 

少なくとも、葦名よりは良い場所だろう

 

そう考え、狼は研ぎ桶を置き、座り込んだ

 

 

 

 

またしばらく待つと、ガチャ、とドアが開く

 

「お、狼さん!お待たせしました!お水です!」「……かたじけない」

 

コトリがペットボトルに入っている水を研ぎ桶に入れる

 

「これで一通り準備はできましたね、では私は退出します!」「…ああ」

 

コトリがそのままからのペットボトルを持って退出し、狼は砥石を水につける

 

「………」

 

コポコポコポ…と砥石から気泡が漏れ、狼はじっと待つ

 

 

しばらくすると、砥石から気泡が出なくなった。これで準備はできた

 

 

床の上に敷かれた砥石台の上に砥石を置く

 

濡らされた砥石の表面には、すでに細かな水膜が広がっている。

 

狼は楔丸をそっと取り出し、膝の前に水平に置いた。

 

刃を目の高さに持ち上げ、光に透かす

 

 

数カ所、わずかに欠けた部分が光の筋を乱していた

 

刃こぼれは小さくとも、確実に鋼を乱している

 

狼は短く息を吐くと、荒砥石を水に浸す

 

砥石を載せ、楔丸を持ち上げ、欠けた部分を意識しながら砥石に当てる

 

通常よりわずかに刀を寝かせ、鋼の厚みを調整するように押し出す

 

刃が砥石をかすめ、低い音を立てる

 

鋼が削れる感触が、腕を伝って静かに響く

 

 

押して、引いて。一定のリズムで動作を繰り返す

 

刃こぼれの周囲をやや広く削り、全体の形状に自然に馴染ませていく

 

研ぐごとに砥泥が濃くなり、刃にまとわりついて光沢を奪っていく

 

少しした後、刀を持ち上げて確認する

 

 

欠けた箇所はまだ浅く残っていた

 

狼は角度をわずかに調整し、再び石に当てる。今度は往復の幅を少し狭め、局所的に集中して砥ぐ

 

細やかな動きで、刃を繊細になぞっていく

 

 

しばらくして、楔丸を布で水と泥を拭う。

 

刃を再び光に透かすと、かつての欠けは形を留めず、刃筋に自然に溶け込んでいた

 

 

研ぎ桶の中から砥石を拾い、表面を指で撫でて平らを確かめ、刀を拾い、先ほど荒砥で整えた面をなめらかに仕上げていく

 

摩擦音は軽くなり、鋼の感触がより繊細に伝わってくる

 

砥石を細名倉砥に替え、今度は滑るような手つきで刃を通す

 

砥泥が淡く、砥石の面に広がっていく。

 

 

研ぐたびに刃が明るさを取り戻し、細い光の筋が鋼の線に沿って伸びる

 

全てを終えたあと、狼は布で刃を拭い、油を布に軽く馴染ませ、刀を拭う

 

「……」

 

狼は研師ではないが、義父から刀の研ぎ方を叩き込まれた

 

楔丸は尋常じゃないほど硬く、研げるかどうか不安であったが、問題なく研げた

 

その事に安堵しつつ、刀を目の前に持つ

 

既に欠けた部分はなく、御子様から貰い受けたあの時と同じ見た目に戻っていた

 

「………」

 

楔丸を鞘へと納刀する

 

狼は砥石を全て水であらい、乾かす為に布の上に置く

 

さて、水はどこへ捨てれば…と考えるうち、ドアがガチャ、と開く

 

「狼、失礼するよ…ああ、ちょうど終わったとこらしいね」「…ああ」

 

入室したのはウタハではなくコトリであった

 

「…まぁ、後始末は任せてくれ、サービスさ」「……かたじけない」

 

「あと、また今度暇があったら来てくれ、何かしら手伝いをできるかもしれない」「…うむ」

 

「…一つ、気になる」「…ん?どうしたんだい?」

 

「……銭…いや、金は、払うべきだ…いくらだ」「ああ、そっち(料金)のことは大丈夫だよ」「…何?」

 

「シャーレに戻ればわかるさ」「…そうか」

 

「あと、義手忍具?だったかな、それもこっちで改造できるかもしれないから、なんか改造して欲しいものがあったら遠慮なく来てくれ、まぁその時は金を取らないといけないけど」「…承知した」

 

「…世話になった」「また遠慮なく来てくれ、服も修繕が終わったら届けておくよ」

 

狼はエンジニア部を抜け、帰路に着こうとすると…

 

 

「アレは…狼!モモイ、ミドリ!あっちに狼がいます!」

 

少し懐かしい声が聞こえた




ここまで読んでくれてありがとうございます!

今回から前書きは省略してあとがきに諸々書くことにしました。

雷雲の死神様!評価8ありがとうございます!あかなたあかなた様!評価9ありがとうございます!

そして南極出身のヤドカリ様!評価10まことにありがとうございます!

みんな読みたそうだからガッツリ描く事にしました。最初は調べて書いてたんですがなかなか納得いかず大変でした

あと1話で幕間を終わらすと言ったな、あれは嘘だ



皆、聞いてくれ…私のこの小説がきっかけで新たな御子の忍びが現れたぞ


歓迎しようじゃあないか




ようこそ、葦名へ

狼「銃…か…」

  • 新たに調達するべきか…
  • このまま使い続けるべきか…
  • 先生殿に聞いてみるか…
  • …エンジニア部…とやら…うむ…
  • イズナに聞くか……
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