なぜウクライナ戦争は終わりそうにないのか…「絶対に引かない」プーチンとヒトラーの"最悪すぎる"共通点
■世にも珍しい“真面目”な権力者 【小泉】FSB報告書を提出したのが、FSB第5局長のセルゲイ・べセダです。FSBは本来は国内治安機関なのですが、旧ソ連は「国内」扱いでFSBも管轄しています。彼はその後、失脚したと言われていたのですが、ウクライナとの交渉の場にFSB顧問として出てきている。プーチンは、自分が任命した男を切るのは沽券に関わると考えているのでしょうね。 【黒井】ベセダの間違った報告を真に受けて自分が判断ミスをしたという論理は絶対に認めないです。なので、そもそものベセダの報告自体をなかったことにしたのでしょう。プーチンは、自ら公開の場に出てきて、自分の言葉で自分の決断の正しさを語る。その几帳面(きちょうめん)さは大きな特徴です。ソ連共産党の文化で育った原点みたいなものかと思います。 【小泉】変な方向の几帳面さは、ロシア人全体から感じますよね。 【黒井】そこはアラブにはないですね。アラブの独裁者もいちおう自己正当化を語りますが、雑ですし、誰も気にしません。「親分は好き勝手に決めて動くのが当然」「親分の考え? それは利益でしょ」くらいにみんな思っています。 【小泉】ただ、プーチンはけっこう、表向きには人情味があるようなことも言うのですね。ソ連時代の指導者にはなかったことです。2000年代のロシア人からすると、ソ連時代とは違うという印象になったでしょうね。 【黒井】褒めるわけではないのですが、プーチンは悪い意味で真面目です。自ら公の場に出てきて自分の言葉で話す。世界を見渡しても、人々を散々弾圧し、殺傷している権力者としては珍しいです。自分が出てきて、欺瞞と詭弁ではありますが、それなりに自分の選択、行動の辻褄(つじつま)を合わせようとします。 ■プーチンとヒトラーの共通点 【小泉】本心っぽい面が垣間見えることもよくありますね。国民対話(編注:プーチン大統領が国民の質問に直接答えるイベント)も、8時間とかかけてカメラの前でやります。けっこうアドリブの質問もあって、プーチンもアドリブで対応しています。 【黒井】やっぱり悪い意味で、真面目で自分の言葉に責任を持つ。そういうところもヒトラーに似ていると思うのですよね。ヒトラーもきわめて悪い意味で、真面目ではありました。 でも、そういう性格ならなおのこと、自分で自分の非を認めませんから、戦争を自分からやめることは考えにくいです。ヒトラーもそうでしたが、そこが今回の“プーチンが始めた侵略戦争”が終わらない最大の原因だと思います。 【小泉】軍事的に見ても、ロシアは戦場では優位なんだけどウクライナという国を滅ぼせるような勝ち方はしていない。この点はそう変わらないでしょう。とすると、やはり双方の継戦能力が尽きて、より膠着の様相が強まるまで、なかなか戦闘は収束しないだろうという気がします。 変化を持たせられるとすれば政治の力ですが、トランプ政権はロシアに強力な制裁をかけてでも停戦を強要することを避けている。長期化の見通しがこの点からも予想されてしまうように思います。 ---------- 小泉 悠(こいずみ・ゆう) 東京大学先端科学技術研究センター准教授 1982年、千葉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究員、未来工学研究所客員研究員などを経て、2022年1月より現職。ロシアの軍事・安全保障政策が専門。著書に『「帝国」ロシアの地政学』(東京堂出版、サントリー文芸賞)、『現代ロシアの軍事戦略』(ちくま新書)、『ロシア点描』(PHP研究所)などがある。 ---------- ---------- 黒井 文太郎(くろい・ぶんたろう) 軍事ジャーナリスト 1963年生まれ。横浜市立大学卒業。週刊誌編集者、フォトジャーナリスト(紛争地域専門)、『軍事研究』特約記者、『ワールド・インテリジェンス』編集長などを経て、軍事ジャーナリスト。専門は各国情報機関の最新動向、国際テロ(特にイスラム過激派)、日本の防衛・安全保障、中東情勢、北朝鮮情勢、その他の国際紛争、旧軍特務機関など。著書に『イスラム国の正体』(KKベストセラーズ)、『イスラムのテロリスト』『日本の情報機関』(以上、講談社)、『インテリジェンスの極意!』(宝島社)、『本当はすごかった大日本帝国の諜報機関』(扶桑社)他多数。近著に『プーチンの正体』(宝島社新書)がある。 ----------
東京大学先端科学技術研究センター准教授 小泉 悠、軍事ジャーナリスト 黒井 文太郎