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【こころ #94】優秀なデータサイエンス人材を埋もれさせない


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吉見祐次さん、吉井智紀さん


 「データサイエンス人材の育成に特化した就労移行支援事業所」
 そう紹介されるだけでワクワクする。しかし、事業所を立ち上げた吉見さんと支援者として活躍する吉井さんのお話も、面白い。


 まず、吉見さんのバックグラウンドは福祉ではない。国内大手電機メーカーのエンジニアとしてキャリアをスタートし、30歳で自らの会社を始めた起業家でもある。
 そんな本業が落ち着いて手伝うことになったのは、初めての福祉。娘さんが運営する就労移行支援事業所『シャイニー』だった。


 一般的に、事務職で障害者雇用を目指す場合、就労移行支援事業所ではワード・エクセル・パワーポイントといった基礎的なスキルを身に着けるイメージがある。
 もちろんそれも大事なのだが、そこには、コミュニケーションが苦手でも、理数系のレベルが非常に高く、聞けば「有名国立大の修士を出ています」という利用者さえいた。
 超高学歴にもかかわらず、一度挫折すると、優秀さを再び活かす場所がない。吉見さんは「そんな人もいるのか」と純粋に驚くと同時に、「日本社会全体としてもったいない」と強く思うようになる。


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 吉井さんも、そんな利用者の一人だった。
 もともと日本の大学に進学するも、「面白くない」とマレーシアの大学に通い直した熱血漢。しかし、大きな環境の変化や「日本語を決して使わない」といった真面目さが裏目に出て、うつ病になってしまう。
 帰国すると、「図書館で勉強するニート」を経て、職業訓練校に通う。パソコンやプログラミングの世界に触れ始めて、病状も安定していくが、就職のタイミングという大きな環境の変化を再び前にして、うつ病の症状が再燃した。
 そこから就労移行支援事業所『シャイニー』に通っていたのだ。


 こうして、エンジニアのバックグラウンドをもつ吉見さんのもとに、吉井さんのような「プログラミングを勉強したい」という利用者たちが集い始め、事業所内でAIやデータサイエンスを学ぶ勉強会『チームシャイニー』が立ち上がった。


 しかし、それは単なる勉強会で終わらなかった。利用者の優秀さをもっと活かせる場を作りたい。そう感じた吉見さんは、NPO法人『発達障がい者を支援する会』を設立するとともに、その下に、「利用者が独立して支援者側に回った、先端ITが学べる就労移行支援事業所」を新たにつくることを決意する。
 もとの事業所を運営する娘さんにも、申請先の東京都の担当者にも反対された。就労移行支援事業所の利用者は、企業に就労し、その後も企業に定着するための支援を事業所から受けるのが一般的だ。障害のある当事者がそのまま支援者側に回ることは前代未聞だった。
 しかし、それも乗り越え、支援スタッフが全員当事者であり、かつ高い理系スキルをもつ先端IT特化型就労移行支援事業所『チームシャイニー』が立ち上がった。


 現在支援スタッフを務める吉井さんは、「(かつて通った)職業訓練校は、カリキュラムが構造化され、学校ぽかった」と振り返る。それに対して、現在の事業所は「大学の研究室っぽくて、それぞれが自由に学べて、1対1の指導も柔軟にできる」と表現した。
 「自分には、こういった自由な環境が合っていたのだと思う」と話す吉井さんは、『チームシャイニー』に参画後、上位2%のIQ(知能指数)を持つ人たちが参加する国際グループとして有名な『MENSA』にも所属し、世界を旅して、各国で能力が高い人材が奨学金や学費免除の恩恵を受けられる環境も目にしてきた。
 「能力が存分に発揮される環境を、日本でもやってみたい」と笑顔で話す吉井さんからは、かつてうつ症状があったことは全く感じ取れない。


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 話はここで終わらない。
 実は、『チームシャイニー』を通じてデータサイエンスの能力を身に着けた人材の次のステップも用意されている。実際の事業としてデータサイエンスに取り組む『シャイニーラボ』だ。障害のある人が就労じて活躍する場として、前述のNPO法人として東京都のソーシャルファーム認証も受けている。


 さらに、そんな事業の拡大に向けた手も打っていると吉見さんが教えてくれた。
 現在、厚生労働省は、個々の中小企業が障害者雇用を進める際に十分な仕事量を確保できない場合でも、事業協同組合等として共同事業を行うことで、それぞれの実雇用率として算定することを認めている。
 そうした共同事業として『シャイニーラボ』がデータサイエンス業務を受けることで、経営的に自立することはもちろん、将来的には「仕事を受けるだけではなく、業務への信頼感が得られることで、その中小企業に就職する道も拓けていく」と考えている。


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 お二人にお話をお聞きした日にも、有名国立大においてAI関連の研究で博士課程1年まで進んで障害を発症してしまった方が見学に来ていたと聞いた。現在30歳で、やっと合う薬が見つかり、これから就職活動をしようとしている方だそう。
 こうした優秀な人材が埋もれてしまっているケースは、「比率は少なくても、絶対数としてはかなりいる印象。それほど社会に出ていくチャンスがない」と吉見さんは話す。


 こうした人材がもう一度輝ける場を立ち上げた吉見さんと、支援する吉井さんの願いは、事業拡大よりも人材育成だ。
 「今の世の中には、多様性を認めないといけない風潮が出てきた。企業としても協調性は必要だと思うが、個性がある人こそ世の中を引っ張っていく面もある。そんな人材を輩出できて、世界で活躍してくれれば嬉しい。自社の人材が財産というより、自分たちには人材を育成すること自体が財産ですね」


 埋もれている優秀な人材が「絶対数としてはかなりいる印象」という言葉が心に残る。そういった人材が福祉から活躍できる場所を得て、欲を言えば世の中を引っ張っていってくれると、社会側はもっと変わらざるを得ない。だからこそ、お二人の取り組みを応援したい。





ここまで読んでくださった皆さまに‥


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