今回の「ケイバラプソディー ~楽しい競馬~」はご存知、フジテレビの競馬実況に携わってきた青嶋達也アナウンサー(60)の登場です。実は今年8月いっぱいで同局を定年退職されました。単刀直入に今はどんな生活をしているのか、そして思い出の競馬実況などについて話をうかがいました。【取材=高橋悟史】

- 2025年9月からフリーで活動する元フジテレビの青嶋達也アナウンサー
フジテレビで数々の競馬実況をした青嶋さんは、8月に定年退職を迎えました。9月からは悠々自適に過ごして…、いません。「子供が中学生なので70歳までは働かなければなりません」と笑います。
火曜から木曜までは山形の「NEWSイット!やまがた」、日曜は「BSスーパーKEIBA」。それ以外にもナレーション撮り、DAZNでのサッカー実況。実況がなくてもJリーグやWEリーグ、Bリーグ、土曜の競馬場での現場取材など、多忙でした。「おかげさまでまあまあ忙しくさせてもらっています。ありがたいことにこれまでの仕事を継続させてもらっているので。取材に行くのは『あいつ腕落ちたね』ってならないように」。
青嶋さんは、学生時代から競馬はかじっていました。シンボリルドルフ、ミスターシービー、そしてタマモクロス、オグリキャップ。88年に入社した時にも「手に職をつける」という思いもあり競馬を希望したそうです。3年上に三宅(正治)さん、1年上に塩原(恒夫)さんと年次が近い先輩がいたため難しいかと思ったそうですが、当時のチーフの方に競馬アナチームに入れてもらえたそうです。
定年を迎えた8月31日は日曜日でした。BSスーパーKEIBAの後に、社内のスタジオで「今夜はナゾトレ」のナレーションを録音。ぎりぎりまで目いっぱい働いたそうです。「8月29日に社内手続きやあいさつ回りをして荷物を撤収して、働いたのは31日まで。こんな幸せなことはないです」と振り返ります。
この機会なので、ご自身で選ぶ実況ベスト3の選出を依頼したのですが「納得できたものはないです。聞き返せば返すほど、これはこうすれば良かった、大事なところを追えていなかったと反省ばかり」。それならば、個人的に印象に残る青嶋実況3選を振り返ってもらいました。
<1>1998年毎日王冠 勝ち馬:サイレンススズカ 「どこまで行っても逃げてやる」
ありがたくて光栄なのですが、今考えると力みすぎですよね(笑い)。あの時の自分に言ってやりたいことはありますが、当時としては精いっぱいやったつもりです。「どこまで行っても逃げてやる」というフレーズは多分、準備していなかったと思います。どんなレースになるか分からない面もありましたから。G2なのに13万人が入ったレースで、あの時の空気は忘れられません。

- 1998年毎日王冠 1番人気に応え逃げ切り勝ちを決めた武豊とサイレンススズカ
<2>2008年天皇賞・秋 勝ち馬:ウオッカ 「大接戦ドゴォーン」
よくしゃべってたなって感じです。のどがカラッカラになって、なんでしゃべれていたのか分かりません。ウマ娘方面では「ドゴォーン」と言われているゴールになっているみたいですね。ゲームをやらないのでどんな遊ばれ方をしているのか分からないのですが。そうやって取り上げて頂いてうれしいですよ。無我夢中であり、必死であり、いっぱいいっぱいでした。私の原体験はテスコガビーのオークスと、カブラヤオーのダービーで、逃げ馬が好きでした。でも実は、差し返す馬も好きというのが心の片隅にあったので、ダイワスカーレットも(実況中に)追うことができました。一瞬一瞬で流れが変わり、実況で発する言葉の正解か不正解かが0・01秒で変わる世界。あれはその究極でしたね。あの時の私はどうだったのでしょうかね。んー、答えになってないですね。

- 2008年天皇賞(秋) 逃げたダイワスカーレット(右上)を直線追い込んだウオッカがハナ差で抑え制した
<3>2025年安田記念 勝ち馬:ジャンタルマンタル 在職中最後のG1実況
「BS-」担当になって以降、日曜の現場実況は限定的になりました。近年は、年間の最初のG1フェブラリーSと、最後の日曜G1有馬記念の担当に。定年前ラストG1だからと、久々の安田記念でした。その日は非番の後輩アナたちも駆けつけてくれました。あとは地上波の中継を一緒に長くやってきたディレクターが、泣かせるビデオを作ってくれました。レース前、実況席から切り替わる直前、短い盛り上げ映像を流すのですが、私が最初に担当した安田記念(96年トロットサンダー)をはじめ、ウオッカが苦しいところから抜けた09年とか担当したレースをまとめたものを私に内緒で流したもので。ラスト実況だとは一切触れていなくても、私には(作り手の気持ちが)伝わり、マイクのスイッチを上げてもぐっときて一瞬話せなくなるくらい危なかったです。

- 2025年安田記念 ジャンタルマンタルとガッツポーズする川田騎手
逆に悔いが残る実況は? 「悔いだらけです。言葉が出なくなったり、肝心なところを見失ったり、生中継ではないですが、勝ち馬を間違えそうになったこともあります。言い出すときりがないです」。
それでも1つ挙げるとすれば?「とあるG1のゴールしたところで声がひっくり返って、言い直そうとしたらもう1回ひっくり返ったことがあります。あんまり言って特定されてもあれなので、これくらいで勘弁してください(苦笑)」。
「競馬の現場実況機会は、基本もうありません。ただBS競馬の担当者には『先々、関西のG1を青嶋さんのスタジオ実況で、というのも試してみましょうか』と言われています。すぐにというわけではないですが、その日のためにも勉強は欠かせないです」。いつの日か再び、青嶋実況が復活する日がありそう。その日を楽しみにしたいと思います。
◆青嶋達也(あおしま・たつや)1965年(昭40)8月12日、静岡県生まれ。早大卒業後、88年フジテレビ入社。同期アナウンサーは、有賀さつき、河野景子、八木亜希子。在職中、ダービーは6回、有馬記念は10回実況した。今年8月いっぱいで同社を定年退職し9月からフリーに。現在は、BSフジの「BSスーパーKEIBA」、山形県のフジテレビ系列局さくらんぼテレビの「Newsイット!やまがた」の火~木曜のキャスターも務める。
(ニッカンスポーツ・コム/競馬コラム「ケイバ・ラプソディー~楽しい競馬~」)

- 2025年9月からフリーで活動する元フジテレビの青嶋達也アナウンサー