(時時刻刻)維新案「丸のみ」タカ派色 自民、「ブレーキ役」公明離脱で転換 連立合意
自民党と日本維新の会が結んだ連立政権合意は、維新側の要求した政策を自民側がほぼ丸のみし、それぞれ実現の期限を示す内容となった。保守派の長年の悲願だったスパイ防止法制定を始め、憲法改正や皇室典範改正など保守理念に基づいた政策の行程表がずらりと並ぶ。これまで自民のタカ派政策の「ブレーキ役」となってきた公明党が連立を離脱した結果、誕生することになった自維連立政権。強い保守色が鮮明となった。▼1面参照
■防衛費増、3文書前倒し改定明記
防衛費増額、防衛装備品の輸出を規制する「5類型」の撤廃、原子力潜水艦を念頭にした潜水艦保有――。外交安保でハト派的傾向の公明党が離脱し、自民政権はタカ派色の強い政策に一気にかじを切った格好となった。
合意書では、2027年度に防衛費を国内総生産(GDP)比2%へ増額するとした安全保障関連3文書の「前倒し改定」を明記。24日で調整されている新首相の所信表明演説でも前倒し改定に言及する方針だ。トランプ米大統領との日米首脳会談を28日に控える中、2%以上への増額を進める意思を明確にする狙いがある。
武器輸出をめぐっては、輸出できる防衛装備品の使用目的を「救難・輸送・警戒・監視・掃海」に限定する「5類型」を、26年通常国会で「撤廃」すると踏み込んだ。撤廃は政府・自民が実現を目指してきたが、「平和の党」を掲げる公明が慎重だったため、自公協議で見送られてきた経緯がある。
また、敵基地攻撃能力(反撃能力)をもつミサイル垂直発射装置(VLS)搭載の潜水艦について、原潜導入も念頭にした「次世代の動力」を活用した潜水艦保有を推進するとした。
インテリジェンス政策の項目では、高市氏と維新がともに意欲を示すスパイ防止関連法制については「25年に検討を開始し、速やかに法案を策定し成立させる」と明記。かつて1985年に自民が国会に提出した国家秘密法(スパイ防止法)案は、個人の思想・信条の自由を侵害する恐れがあるとして廃案に追い込まれた経緯がある。また、維新がまとめた論点整理に沿う形で、26年通常国会で内閣情報調査室を「国家情報局」に格上げし、27年度末までに米中央情報局(CIA)などを念頭に置いた「対外情報庁」を創設することなどを盛り込んだ。ある防衛省幹部は「これまで自民は公明と連立を組むことで安保政策の正当性や透明性を確保できていた側面はある。自民よりタカ派色の強い政策に前のめりな維新と組めば、勢いだけで政策が前に進みかねない」と懸念する。
■改憲へ起草協議会/皇室、男系継承強調
維新の吉村洋文代表が自民の高市早苗総裁との会談で「国家観、日本を強くしたいという思いを一にしている」と語ったように、連立政権合意書の「皇室・憲法改正・家族制度」も保守色の強い内容となっている。
憲法については、非常時に政府に権限を集中させる緊急事態条項の創設に向け、21日召集の臨時国会中に両党の「条文起草協議会」を設置し、2026年度中の条文案の国会提出を目指すとした。ただ、同条項をめぐっては国民の権利が制限される恐れがあるとして賛否が割れ、意見集約には至っていない。
憲法9条の改正についても、両党間の条文起草協議会の臨時国会中の設置を明記。維新が9月に取りまとめた提言「21世紀の国防構想と憲法改正」を踏まえて議論するとした。提言では、戦力の不保持と交戦権の否認を定めた9条2項の削除による集団的自衛権行使の全面容認や、「国防軍」の保持を訴える。いずれも自民が野党時代の12年にまとめた改憲草案に盛り込んだが、世論の反発などを受けて暗礁に乗り上げている。
皇位継承をめぐっては、「古来例外なく男系継承が維持されてきた重み」を強調。戦後に皇籍離脱した旧11宮家の男系男子に限り養子縁組を可能とする案を「第1優先」とし、来年の通常国会での皇室典範改正を目指すとした。衆参議長の下で22年から行われた与野党協議の論点だが、意見集約には至っていない。もう一つの論点である女性皇族が結婚後も皇族の身分を保つことへの言及はない。
選択的夫婦別姓制度の導入には明確な反対姿勢を打ち出した。高市氏の持論で、維新の公約でもある「旧姓の通称使用」拡大のための法案を来年の通常国会に提出し、成立を目指すとした。
来年の通常国会での「日本国国章損壊罪」制定も掲げた。刑法に外国の国旗に対する損壊罪だけがある「矛盾を是正する」とした。
■企業献金廃止「総裁任期中に結論」
年内や年度内と期限を区切り、取りまとめや法案提出をめざす項目が並ぶ合意書の中で、異質な期限が書き込まれたのが、企業・団体献金の廃止だ。自民と維新で協議体を設けて「高市総裁の任期中に結論を得る」とした。総裁任期は残り2年だが、連立の枠組みが続く保証もなく、事実上の先送りとなる。
両党が合意を発表した20日の会見で、高市総裁は「とにかく経済対策」と述べ、政治とカネの問題は後回しにする姿勢を明確にした。
維新はこれまで企業・団体献金の禁止を主張し、「公開」を掲げて禁止に否定的な自民への対決姿勢を示してきた。今年3月には、政治団体を除き、企業・団体献金を禁止する内容の法案を、維新を含む野党5党派で国会に共同提出。国民民主党が、与党だった公明党と、企業・団体献金の存続を前提とした「規制強化策」で足並みをそろえると強く批判した。
だが、自民との連立交渉中は「歩み寄りをしようという姿勢が相当あった」(維新・藤田文武共同代表)などと、一転して自民に理解を示し、連立入りを優先した。
期限は「総裁任期中」で、「結論を得る」というあいまいな内容で合意した維新に、野党からは批判の声が強まる。国民民主党の玉木雄一郎代表は「このまま何も進まなければ、(維新は)改革の旗を掲げていたにも関わらず、結局自民党と同質化することになってしまう」と指摘した。
企業・団体献金の廃止を脇に押しやるように、代わりに維新が「絶対条件」に掲げた政治改革が、衆院議員定数の削減だ。合意書は、1割削減の目標を明記し「(21日からの)臨時国会に議員立法案を提出し、成立を目指す」とした。
ただ、選挙制度は民主主義の根幹に関わることもあり、国会で与野党が議論を積み上げて決めるのが基本で、自民内からも「いきなり定数削減は論外だ」(逢沢一郎・選挙制度調査会長)との声も上がる。
■医療費「年齢によらず公平な負担」議論
社会保障分野も、維新案の丸のみが相次いだ。
連立協議で維新が求めた柱の一つは、自民、公明、維新の3党が6月に合意した内容を確実に進めることだ。3党の合意文書には、医療費を削減するために市販薬と成分や効果が似た「OTC類似薬」を保険適用から外すことも含めて見直すこと、医療機関の病床削減、医療や介護の保険料負担に金融所得を反映させることなどが並ぶ。
維新は医療費の4兆円削減を公約に掲げ、保険料引き下げを政策の中心に据えてきた。
OTC類似薬の保険適用除外といった公的保険を用いる医療費の削減は、患者の大幅な自己負担の増加につながりうる。3党協議では、維新が積極的に改革を求める一方、自民と公明は慎重な立場だった。6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」では、3党協議の合意内容に触れられているが、どこまで見直すのか具体的な内容には言及しておらず、行方は今後の議論に委ねられている。
負担を求める制度改革に対する「ブレーキ役」とも見られていた公明が連立から離脱し、維新が加わることで、医療費負担をめぐる議論は活発になる可能性がある。
自民と維新の合意文書には、来年度中に具体的な制度設計を行う項目として、医療費窓口負担の「年齢によらない真に公平な応能負担の実現」や「『高齢者』の定義見直し」などが挙がる。年齢を問わず、負担できる人が負担し、働き続けられる人はそうできるようにする方向へ政策を進めたい考えをにじませる。
与党になった維新は今後より強い政策決定の責任が問われ、厚生労働省幹部は「野党の時とは同じように振る舞えないのではないか」とみる。一方、別の幹部は、医療費をめぐる高齢者の窓口負担を見直す議論が与党内で進まなかったことに触れ、「議論するにはよい機会ではないか」と話す。
■連立協議で合意した主な政策と目標時期
◆2025年
・ガソリンの旧暫定税率廃止法を25年臨時国会で成立
・電気ガス料金補助など物価高対策の補正予算を25年臨時国会で成立
・憲法9条改正の両党協議会を25年臨時国会中に設置
・スパイ防止関連法制について25年に検討を開始し、速やかに法案を策定し成立
・高校無償化の26年4月実施に向けて、残る課題について25年10月中に合意
・両党で企業・団体献金の協議体を25年臨時国会中に設置し、高市総裁の任期中に結論を得る
・衆院議員定数を1割削減するため、25年臨時国会で議員立法を成立
◆25年度中
・薬剤の自己負担見直しなど医療制度改革を25年度中に制度設計
◆26年
・男系男子の皇位継承を維持するため26年通常国会で皇室典範を改正
・同一氏の原則を維持。旧姓の通称使用の法律を26年通常国会で成立
・「日本国国章損壊罪」を26年通常国会で制定
・防衛装備品の輸出を限定する5類型を26年通常国会で廃止
・内閣情報調査室を26年通常国会で「国家情報局」に格上げ
・対日外国投資委員会を26年通常国会で創設
・副首都構想の実現に向け両党による協議体を設置し、26年通常国会で法律を成立
◆26年度中
・緊急事態条項の憲法改正に向け両党で条文起草協議会を設置し、26年度中に条文案を国会提出
・現在の自衛隊の「階級」「服制」「職種」などの国際標準化を26年度中に実行
・外国人受け入れの数値目標など「人口戦略」を26年度中に策定
◆27年度中
・独立した対外情報庁(仮称)を27年度末までに創設
◆その他
・安保関連3文書を前倒しで改定
・次世代の動力を活用したVLS搭載潜水艦の保有を推進
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