完組ホイールの変化
話題の輪郭をやっと契約した。まあいまのところなので、切るかも知れないし、続けるかも知れない。今は動画の時代なので、できれば動画でやってほしかったという思いは強い。有料で、かつテクストを読むのはマニアだけだと思う。それで良いからこの形なのだろうけど、ぼくらお店の多くの人が望むのは違う形だと思う。
その中で完組ホイールについて、特にカーボンスポークを採用したホイールについての記事が連なっており、読んでみた。
大まかに言えば、事前の印象とさほど大きな違いはなかった。それは記事に対してではなく、製品に対して。ぼくが中華系ホイールにあまり興味を持っていないのは、ぼくを知る人にはご存知の通りだと思う。ぼくは競技者ではないけれど、高岡氏の話したことに近い。
そもそも完組とは、完成された状態で販売される車輪のことだ。ぼくは歴史に弱いし、記憶も曖昧で、よく「それは違う」と注意される笑。しかし気にせず書く。ぼくらが完組ホイールとして認識したり、使う人が増えたのはコスミックやヘリウムの頃だったと思う。だから、完組といえばマヴィックというイメージが強かった。MTBでは右を見ても左を見てももクロスマックスだった。あの頃のマヴィックはその時代時代の新しい扉を開けるメーカーだった。今ではフリーハブが原因となり評価しない人もいるらしいが、そんなことは以前からである笑。それと引き換えに修理のしやすさがあり、みんなが大好きなマヴィックカーはそれがあるから存在している。
それから完組は、単体では売っていない専用リム、専用ハブ、専用スポークを組み合わせた製品になった。だから、各製品とも見た目にも性能にもたいへん個性があり、性能もたいへん良くなったので、完全に完組ホイールの時代になった。
しかし、いまやどうか。ぼくもまったく同じことを店頭で言うのだけど、どこも同じようなハブ、同じようなスポーク、同じようなリムで、まったく個性がない。もはや、完組で買う意味は「どの人が組んだか」ということだけだと思う。「使用感は似たようなものだろうな」と思っていたのだけど、今回のインプレを拝読し、やはりそうかという印象を受けた。正直、ヘリウムの頃から見ている人間にとっては、「これを買う意味あるのかな?」「だから、SNSで見かけるような一般の人が副業で組むホイールが横に並ぶわけか」とある意味納得しつつ、今のホイール市場に対して大変がっかりした気持ちを深めることになった。
カーボンスポーク以外ではよくサピムが使われるようになった。ぼくは手組みでサピムを使ったことはほぼない。記憶している限りではあるけれど、たぶんない。「使って欲しい」「どうなのか」と問われたことはあるし、サピムで組んだホイールを使ったこともあるが、はっきり言っていいと思えなかった。理由は硬すぎるからだ。今回の話と同じく、ぼくはホイールをスペックに終止して語るのはナンセンスだと思っている人だし、それは以前から言っている通りだ。それは、そうした経験があるからだろう。サピムにすると軽いとか、硬いとか、剛性が云々とはいうものの、ホイールとして組むと意外と使いにくい。DTの方がよほど良いホイールができあがる。ぼくの中のいいホイールは使いやすく、長持ちして、色々なニーズを賄えるもの。スポークが強い場合、リムにも強さが必要になる。ホイールはバランスが大切だ。柔らかいリムを一生懸命張ろうとしても無理だ。その点、それは完組ホイールからも感じることとして、DT SWISSの塩梅の加減というのはほんとうにちょうどよくて、「よく回るホイール」だと言われるのもわかるし、つくづく一貫性が合って良いメーカーだなと感じる。
先日、エリートホイールズのドライブ2が修理で持ち込まれた。第一印象はスポークの細さと脆さだった。あまりに細く、あまりの脆そうだった。細さの部分は「これでも十分なんだ」というメーカー側の意見があるのだろうけれど、過去にライトウェイトやコスミックカーボンアルティメイトを見てきた人間には、あまりに細すぎるので驚いた。そして、いかにも脆そうだった。実際、修理に当たってはカーボンスポークの欠けがあるからということだったが、原因はチェーンとの接触だったらしい。「そんなことで走行中に欠けてしまうなんて、実際に使えるのか?…」と感じたので、修理の際に所有者の方に「ぼくはこれは怖いと思う」と伝えた。「メーカーがこれで出しているんだから大丈夫だろう」という人もいそうだけれど、こういう予感はたいてい的中するものだ。
スポーク供給の問題についても書かれているが、エリートホイールズというメーカーには問題があると感じる。通販で販売する場合、いかにして安心感を与えるかは大切だと思う。持ち込まれるホイールが当該メーカーであると知らされた際、スポークに関して検索すると付属していると知ったので「それを持ち込んで欲しい」と伝えた。しかし、持ち込まれたホイールのスポーク長は4つすべてが異なるという謎な仕様だった。そして、ホイールに補修用として付属するスポークは4本。つまり、1本ずつだ。信頼も安心も虚構なのでいくらでも作り出すことは可能だし、それはどの製品についても一定程度あることだが、ここで提供される安心はあまりに空虚だった。これならなくても一緒だろう。
加えて驚いたのはその構造だった。スポークの長さ方向に対して糸を重ねたようなシンプルさで、それを巻く外皮のようなものは見当たらなかった。樹脂もかなり少ない様子で、外的な衝突に対しての弱さは実際の損傷を見なくても想像するのは容易だったので、「そりゃ割れるだろうなあ…」と感じた。やはり、中国の企業や人のクオリティに対する価値観は、ぼくとは違いすぎる。高い安いの問題ではない。
以下の記事でも書かれているが、両端部分との接着もとても不安だった。テンションを掛けていくと、引っ張った状態でのホイールとしての剛性感というか、テンションのかかり方というか、それがあまりに金属スポークとは異なっているので、ここでもまた「これで大丈夫なのか…?」と感じた。取扱いに関しては腫れ物感が半端ではない。ホイールバッグに入れない状態での可搬は不可能だろうし、自転車に着脱する際ですら緊張感がただよう。ぼく個人の価値観で言えば、「ぼくはこんなことのためにサイクリングをしているわけではない」と思ったし、まったく使いたいという気持ちにはならなかったのが正直な気持ちだ。かつ、チャイナブランドのリセールバリューの低さを考えると、これに20数万を払う勇気はぼくには生まれそうにない。繰り返すが、これはカーボンだからではなく、素材の使い方と構造の問題であって、過去のライトウェイトなどではまったく問題にならなかった。それは記事に書かれているとおりだ。
ぼくがチャイナ系ブランドに対して積極的になれないのはこういう部分だ。まったく安心できない。気が抜けない。販売する際には”責任を持つ”のだけど、保険は欲しい。それがなさすぎる。技術はあるが、使い方と方向性が見当違いであることが定期的にあり、どの製品にもいくらかは入り込んでくるので、安心して使えないからだ。マッドサイエンティストは信用できない笑。安心は虚構だといったけれど、「何も知らなくても使える」のは良いことだと思うし、それが信頼を生み続けるのに関係していると思う。
今回のインプレでは個性の乏しさについて語られている。まあそうなるのもわかる。高岡氏の言うようにスペック優先だからというのは、以前から感じていたし、SNSにも書いてきたことだ。その意味では今のこれらのホイールは完組ホイールではなく、単に完成した状態で販売されているホイールに過ぎない。
今は軽くて安いものが評価され、「この値段なら許せる」と語られる。その物差しの上にあっては、完組である必要性は乏しく、コストとスペックのバランスが高いほうが売れるか、宣伝がうまいほうが売れるか、あるいはその両方かだろう。結果として実際の性能やクオリティの面でも優位性があれば「などほど時代も代わるのか」と思うところではあるけれど、今回のインプレによって予想の範疇を出ないことがわかってよかったと思う。
スポークにカーボンを利用すること自体は以前からあったし、それらの製品も見たり、触れたり、使ったことはある。しかし、それらと今回の製品群とはまったく別だと思った。前者がホイールをちゃんと作ろうとしているのに対して、後者は売ることが最初になっている。もちろん、売れないと残らないし、一方ではカンパ、フルクラム、マヴィックなどは苦戦している。しかし、「それが結果だ」というのは安易だと思う。似たようなものを安く作って安く売る先には何も無い。
レースで勝てるかどうかだけが製品の評価方法でないことは理解しているけれど、単純に売りまくった製品が残る世界をぼくは望まないし、むしろそれらのメーカーが残すものは何も無いと思っているので、引き続き”ちゃんと考えられたホイール”をおすすめしていこうと思った。
ぼく個人でいえば、機材価格が高騰している世の中において、ハイスペックロープライスを求めるといつか破綻すると思うし、持続性は期待できないと思う。ちゃんとしたホイールメーカーは、カーボンスポークをハイスペックレース機材をちゃんと作ってはチャイナブランドを追いやる一方、アルミホイールをちゃんと作るということを続けてほしい。それこそ、彼らは絶対にやろうとはしない仕事だし、多くの人が必要とする性能だからだ。


マカピーの写真をご利用いただきありがとうございます♪ 現在はフィリピンのイフガオ州に暮らしています。中古サイクルを買って乗るのですが、ちょっと急勾配の多い地形でへたってます😛