透き通った世界観にElinの民をひとつまみ   作:無名さん

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ベアトリーチェ殺害カウントダウン入ります

「さて、そろそろ君達も落ち着いてきた頃だろう。降ろすぞ」

 

「あ、あぁ……」

 

サオリ達を順番に絞首台から降ろしていく。分かっていた事だが降ろした後も特に私に抵抗するような素振りはない。ここまでやってダメなら最早天晴れだ。

 

「これからどうするの?アリウスに向かうの?」

 

「いや、今日は一旦君たちを連れて戻る。トリニティの方でもやらなければならない事が残っているからな」

 

「戻るのか?なら聞いておいて欲しい事がある。カタコンベの道順なのだが」

 

サオリ達が帰り道が分かるのは今日の日付が変わるまで。つまりカタコンベの内部は日付が変われば変化してしまうそうだ。――タイミング悪くないか?後一時間も無いぞ。

 

――いや、ある意味これで良かったかもしれないと思い直す。カタコンベの道順が今日中に変わらなければ、情報漏洩を避ける為にベアトリーチェはサオリ達に対して口封じの為の追手を向かわせていたはずだ。だが今日中に変わってまた迷宮に戻るのなら、サオリ達に対する優先順位はそれほど高くなくなる。サオリの現状を確かめる為の偵察くらいは送るだろうが、精々が数人派遣される程度だろう。向こうにも計画がある以上、少なくともナギサの襲撃を行うまでは派手な動きは出来ないはずだ。

 

「という訳だ。カタコンベの情報が結局手に入らなかったのは残念だが、どうとでもなる範疇だから問題ない」

 

アリウスよりも先にティーパーティーの地盤を固める事を優先させる。ミカに関しては明日だな。その後ナギサ達とアリウスの処遇に関しての話をした後にベアトリーチェを始末する。カタコンベ君には犠牲になってもらうとしよう。

 

「じゃあ結局私達があんな目に遭った意味は無かったって事?」

 

「――そうなるな。人生たまには上手くいかない時もある。実に虚しいな」

 

うーん、これはばにたす。

 

「はぁ……。まぁもういいけどね」

 

「私達は貴方の判断に従う。――アツコは大丈夫だろうか」

 

問題無いと思うがな。姫と呼ばれる所以が分からないから何とも言えないが、もしベアトリーチェにとっても特別な存在ならばすぐに殺すような真似はしないはず。一週間以上サオリが音信不通となれば流石に人質としての価値は失われるのでそうなった場合は命の保証はしかねるが、そこまで悠長に事を進める気は無いし、このまま問題なく事が運べば明日ミカを含めた前準備を終わらせ、明後日にアリウスに対して攻勢をかける事になるんじゃなかろうか。なので二日もあれば終わる。

 

「……そうか。だが、姫には特別な役目があるんだ。聞いて欲しい」

 

サオリがそう切り出してからアツコの事を教えてくれた。アツコはアリウスの生徒会長の血筋らしく、ロイヤルブラッドとして姫と呼ばれている。そしてアツコの特別な血筋を利用して調印式の日にはユスティナ聖徒会なるものを複製し、それらを使いゲヘナとトリニティを制圧する予定だったらしい。そしてアツコは儀式とやらの生贄でもあったと。――いや気になる事が多すぎるな。

 

「いくつか質問する。アリウスは世襲制なのか?」

 

「そうだ。だからアツコは生徒会長になれる資格を持っている。今は彼女――ベアトリーチェが生徒会長を務めているが……」

 

「ベアトリーチェは生徒会長、引いてはアツコと同じ血を引いているのか?」

 

「――すまない。分からない」

 

まぁ引いてないだろうな。引いてるならアツコを必要とはしないだろう。だがこれは良い情報だ。後々使えるかもしれない。

 

「二つ目。ユスティナ聖徒会の名前はナギサから聞いた事がある。シスターフッドの前身の組織としか知らないが、とっくに無くなっている組織のはずだ。それを複製とはどういう意味だ?」

 

ユスティナ聖徒会の有精卵でも残してあるのだろうか?

 

「「「……」」」

 

私が質問をすると、サオリ達は何か考え込むように黙りこくる。何か気にかかる事でもあったか?

 

「いや、そういう訳じゃない。ただ――」

 

「今まで自分でも疑問に思わなかった事に驚いてた」

 

「で、ですね。今言われてみると複製ってどういう意味なんでしょうか?」

 

今までサオリ達は調印式での作戦を聞かされてはいたが特に疑問を浮かべる事も無くそういうものだと認識していたらしい。作戦内容を要約すると、調印式でゲヘナとトリニティが条約を結ぶ事で条件を満たされ、複製が可能となるとの事だったが確かに訳が分からない。

そうして複製されたユスティナ聖徒会は死なず、倒れずの不死身の体を持つ人形が生まれるという事らしいが……。

 

 

 

マジかよ。調印式までアリウスは放置しておくべきだったんじゃないのか?そんな面白そうな玩具が出てくるなら是非とも有精卵を確保したり本体の方も捕まえたかったぞ……。絞首台を使う必要のないサンドバッグとか貴重すぎる。ベアトリーチェ、見直したぞ。私の為にそんな玩具を用意しようとしてくれていたのか……。はぁ、今からでも時を戻せたりしないだろうか……。

 

「ど、どうした?何故そんな残念そうな顔をしている?」

 

「いや、時の流れは残酷だなと思っただけさ」

 

「???」

 

話は続き、サオリ達はヘイローを破壊する爆弾や巡航ミサイルの事もそういうものだと認識して受け入れていたとの事。推測ではあるが、サオリ達はベアトリーチェの教育により思想を捻じ曲げられ、反抗する事も出来ない程に心を折られていた。いつしかベアトリーチェのやる事に疑問を受かべる事すらも出来なくなったのだろう。あるがままに恭順する事しか許されていなかったのだから、私にこうして調教されるまで気付けなかったのは仕方ない事だ。――あるいは生徒の認識を変える洗脳のような力を持っている。という可能性もあるが、それならば思想教育をする必要などない。洗脳能力を使って私兵にすればいいだけなのだから、その可能性は低そうだ。

 

「最後の質問だ。アツコは生贄と言っていたが、儀式の内容は分かるか?」

 

サオリ達は儀式の具体的な内容は知らないらしい。そこに関しては予想通りなので特に思う事はない。生贄だったと過去形の表現だが、今は不要になったという事か?

 

「――アツコは少し前まで私達スクワッドと共に行動していたんだ。だがある日を境に一緒に行動する事は無くなった……」

 

「少なくともこうやって外に出る任務で一緒に行動する事は許されなくなったね」

 

「それ以外でも最近は姫ちゃんと話す機会も少なくなっちゃいましたし……」

 

ベアトリーチェは自分に服従すればアリウスの仲間やアツコの命は助けてやるとサオリと約束していたらしい。調印式の日にユスティナ聖徒会の複製を行い、トリニティとゲヘナを手中に収める事が出来れば、アツコを生贄にせずに済むと言われ、それに従ってきたとの事だった。

 

なるほど、その約束こそがサオリの原動力だったわけか。――しかし気になる事がある。ベアトリーチェの性根はあまりに浅すぎて話を聞くだけで既に底が見えている。そんな奴がまともに約束を守るとは到底思えない。用済みとなれば平気で殺しそうだ。癪ではあるがその点に関しては私と同類だろう。自分さえ良ければ他は二の次という意味で。

 

「ベアトリーチェはエデン条約の日までアツコを休めるという名目で私達と切り離していた。だが……今思えば貴方を警戒していたんじゃないかと思う」

 

「あぁ……そういえばこの人の存在を知らされたのも、姫が私達と行動しなくなってしばらくしてからだったね」

 

なるほど。つまり今アツコとサオリ達が離れ離れになっているのは、私のせいか。いや本当に私のせいかこれ……?いや違うな。ベアトリーチェが私にビビり散らしているせいだ。そういう事にしておこう。だがベアトリーチェがそこまで私を警戒しているならサオリ達が居なくなった事も過剰に反応してサオリに必要以上の追手を送る可能性があるな。

 

「一度君たちをアリウスに戻す必要があるか……?」

 

「……貴方の命令であれば従おう」

 

「まぁ、そうだね。どうせ私達は情報を手に入れる為だけに手を出した都合の良い存在なんだろうし。カタコンベももうすぐ変わるし、用済みってことでしょ」

 

「そ、そうですよね……私達なんて居ても迷惑ですよね……うわぁぁぁああん!もうおしまいです!結局あの辛くて苦しい生活に戻るんですぅぅうううう!」

 

………………。

いや、まぁ、うん。そうだな。ここまでやっておいてアリウスに戻すのは見捨てられると考えても仕方ないな……。やっぱりやめておこう。マコトにスパイさせるのと同じ感覚でアリウスに戻す事を考えたが、彼女達にとって今のアリウスはとてもじゃないが良い環境とは言えない。それに、ペットとなった彼女達を先生ならばまだしも、ベアトリーチェに預けるのも嫌だしな。

 

「――すまない。考え直す事にした。君たちを今更ベアトリーチェの元へ戻すのは却下だ」

 

「ほ、ほんとですか……?」

 

「あぁ。すまなかったな三人共」

 

「……そう。ならいい」

 

「だが、ベアトリーチェは私達に対して追手を遣わせるはずだ。それはどうする?」

 

サオリ達は私がトリニティ入りしている事を知らなかった。という事はベアトリーチェもまだ私の存在に気付いていないと考えて良い。気付いていたならサオリにその情報を共有しているはず。私と行動を共にしている間はサオリの行方を掴む事は出来ないだろう。どちらかと言えばアズサの方が心配かもしれない。

 

「え?私?」

 

「あぁ、定期連絡の時に行方不明になっているからな。アズサには疑いの目がいくだろう」

 

そうなるとアリウスがアズサに対して尋問をしに接触を図る可能性がある。――まぁ適当にはぐらかしておけばいいのだが、早めに決着をつけるに越した事はなさそうだ。

 

「ア、アズサちゃん、気を付けてくださいね?」

 

「ありがとうヒヨリ。私は大丈夫。それに師匠もいるから」

 

こんな事をしてしまった手前こう言うのもあれだが、スクワッドに接触するのはタイミングが早すぎたな。おかげで時間に追われるスケジュールとなりそうだ。

 

「そろそろ先生の元へ戻ろうか。首を長くして君たちを待っている」

 

「先生とは、シャーレの先生か?……なんというか、複雑だ。どんな顔をして会えばいいのか分からない」

 

「ん?普通に会えば良いと思うが」

 

「私達は調印式の日には先生の処分の命令が下されていたから。――まぁ、貴方の情報を聞かされてからは貴方が第一優先目標だったけど」

 

そうだったのか。ゲマトリアは先生に対して一方的ではあるが友好的な印象だったのだが、ベアトリーチェはそうでもないのだな。そして生徒程度で私を殺せると思っているのか?それともユスティナ聖徒会とやらがそれほど強大なのか。――アツコの生贄を取り下げる条件を出す程なのだから弱くはないのかもしれないな……。時を戻せる力が私にあれば……!

 

「どうせ未遂だ。そこまで気にする必要はないさ」

 

「先生はそれで良いかもしれないが、トリニティはそうもいかない。私達は既にティーパーティーを……」

 

顔を暗くしながらサオリがそう言うとミサキとヒヨリも顔を伏せる。その光景を見たアズサと私は顔を見合わせる。――そういえば情報を聞いたばかりでこちらの現状は全く伝えていなかったな。

 

「あー……幸いと言うべきか、セイアは生きているぞ。というよりアズサが裏切ったのがセイア襲撃のタイミングだ」

 

「なに?そうだったのか……そんな前から……」

 

「その、ごめん。みんな」

 

「いいよ。私達も今やアズサと同じ立場だし」

 

「えへへ、同じ裏切り者同士これからも仲良くしましょうね……アズサちゃん」

 

「う、うん。その言い方はちょっと嫌だけど」

 

確かに嫌だな。ネガティブ表現が過ぎる。状況としてはその通りなのでなんとも言えないが。

 

「――アズサ」

 

「なんだ?サオリ」

 

「トリニティでの生活は――楽しいか?」

 

「うん。みんなにも早くああいう生活をして欲しいと思ってる」

 

「……そうか」

 

サオリにもなにか思うところがあるのだろう。会話を終えると考え込むように自分の世界に沈んでいった。アリウスが普通の生活を送れるようになるのは時間がかかるだろうが、先生のフォローがあればなんとかなるだろう。

 

「そもそも私がこうしてトリニティで動いているのも先生の要請があったからだ。アリウスをテロの襲撃犯にしたくはないとな。ベアトリーチェに支配された君たちの現状を嘆いていたよ」

 

だから先生に会うのに変に気を負う必要は無いし、セイアもアリウスに対して隔意があるわけではないから恐れる必要は無い。私や先生からすればサオリ達もまた被害者なのだから。

 

「大人にも色々といるんだな……。私達を心配するような大人がいたのか」

 

「先生に関しては少しばかり特殊すぎるがな。彼は生徒であれば誰でも手を差し伸べるし平気で命を懸けるような人だ」

 

「なにそれ、物好きだね」

 

確かにそうかもしれない。少なくとも私が誰にでも優しくするなどという事は不可能だ。

 

「私は師匠も十分優しいと思う」

 

「それは少し違う。私は優しくする者を選んでいる。先生のように誰彼構わずというのは出来ないよ」

 

「それが普通でしょ。私もそうだし」

 

それもそうだな。やはり先生が変わり者という事なのだろう。それくらいでなければキヴォトスの先生は務まらないのだろうな。

 

「流石にそろそろ向かうとしよう。周囲の人間にバレない様に全員に透明化の魔法をかける。ここからはあまり喋らない様にな」

 

そして全員に魔法をかけて帰る準備が出来た。これで道中人に見られる事はない。

 

「これが魔法……話にだけは聞いていたが、まさか本当に……」

 

「でも半透明くらいにしかなってないけど、大丈夫なの?」

 

「術者が複数人に透明化をかけた時はこうしてお互いを認識出来る程度に見えるようになる。でなければ互いにどこにいるか分からなくなるからな」

 

他人からは全く見えないので気にする必要は無い。そうして無事に先生の元へ辿り着くと、そこにはセイア、ハナコ、ミネの三人も居た。先生と一緒に私の帰りを待ってくれていたようだった。

 

「戻ったぞ。少しばかりお客さんの数が増えてしまったが、問題なく目的は達した」

 

「おかえり。――それじゃあこの子達が」

 

「アリウススクワッドの錠前サオリだ。よろしく頼む」

 

「同じくスクワッドのミサキ」

 

「槌永ヒヨリです……」

 

「よろしくね、三人共。私がシャーレの先生だよ。その……突然こんな事を聞くのもなんだけど……彼に変な事はされてない?大丈夫?」

 

なんて事を聞くんだ先生は!そんなに私の信用は無いのか!

 

「ふふっ、先生。そんな事は聞かずとも分かる事だよ。――やぁ、私は百合園セイアだ」

 

「……本当に生きていたんだな」

 

「おかげさまでね。あぁ、私に対して負い目を感じているのかもしれないが、気にする必要はないよ。なにせ、私達は同士なのだからね」

 

「「「同士……?」」」

 

「君達も受けたのだろう?彼のアレを」

 

「――待って。貴女もアレを受けたの?なんで?」

 

いきなりセイア節吹かせるのやめてもらえないかな。それに何で見ただけで調教を受けたかどうか分かるんだ……。そしてこの会話を聞いて被害を察した先生は頭を抱え、いつになく真剣な表情でサオリ達を見ていたハナコは途端に良い笑顔へと変わっていた。楽しそうだね……。

 

「その辺りは今後ゆっくりと話そうじゃないか。だが気を付けたまえ。彼には女の影が多いからね」

 

「……ふーん、まぁそんな感じはしたけど」

 

「既にトリニティへ来て私だけでなくナギサの事も堕としている。それも、アレを行わずにね。まったく、彼の手管と気の多さには困ったものだよ」

 

「……そういえばリーダーが危うく言葉で堕とされかけてた。あんな事を他の女にもしてるの?」

 

そうしてミサキとセイアが私の話を続ける。隣で聞かされる私としては何とも居心地が悪い。サオリも自分の事を引き合いに出されて若干気まずそうにしている。ヒヨリも私の話には興味があるのか私の方をチラ見しながら会話を盗み聞きしている。どうしたものかな。

 

「もしかしたらとは思ったけど、まさか三人も居て容赦なくやるとはね……」

 

「私も最初は穏便に済ませる予定だったんだ……。だがベアトリーチェの思想教育が厄介でな。こうでもしなければ口を割りそうになかった」

 

一応弁明だけはしておく。そして責任転嫁も忘れずに行いベアトリーチェに全て擦り付ける姿勢を貫く。しかもこれだけやってカタコンベの情報は実質意味の無いものと化したのだから割と徒労に終わっている。情状酌量の余地有りだろう。

 

「そっか、カタコンベは今日で形を変えちゃうんだ。――よく一人で行かなかったね?君ならそんな情報が手に入ったらそうするかと思ったけど」

 

「それも考えた。――が、ナギサとも深く関わってしまったからな。彼女達の意向を無視するわけにはいかないだろう?政治的な意味でもな」

 

「そうだね……。でも安心したよ。君一人に任せっきりにならなくて」

 

そうしてミサキとセイアが親交(?)を深めている間に先生へここまでで得た情報を共有する。そしてアツコという存在を聞き、ベアトリーチェがアツコを人質にサオリ達に無理矢理言う事を聞かせており、尚且つ儀式の生贄であった事を知った先生の怒りは頂点に達した。

 

「なるほどね、話は分かったよ……。セイア、ミネ、ちょっと良いかい?」

 

「おや、なんだい先生?」

 

「みんなには悪いんだけど、今日はもう少しだけ夜更かしに付き合ってもらえないかな?」

 

「それは構いませんが……一体何を?」

 

「ミカを呼ぼう。ベアトリーチェにこれ以上好きにさせるわけにはいかない」

 

だからミカの事は今日中に解決させたい、と先生が続ける。

 

「同感です。アリウスには一刻も早い救護が必要です……!生徒を生贄にするなどと非人道的な事、決して許されません!」

 

「先生がそこまで言うとは、余程腹に据えかねているようだね。私も構わないよ」

 

セイアの言う通り、これは本気で怒っている。普段は生徒の意向に身を任せる先生が自発的に動くなど珍しい。私としても早めに決着をつけたいとは思っていたのでセイアさえ良ければ異論はない。

 

「でも流石に今日はもう夜も遅いし休息は必要だから――明日の午前。それまでにベアトリーチェを終わらせるよ」

 

「異論は無い。私としても早めに片付けられるなら越したことはない」

 

「カタコンベは君が攻略する手段があるんだよね?」

 

「力業だがな。問題はないだろう」

 

「君を信じるよ。――ナギサにも君から伝えておいてもらえる?明日の早朝にはここに来て欲しいって」

 

元からではあるが、この感じでは私を一人でアリウスに行かせる気は猶更無くなっているだろう。カタコンベをメテオで更地にするのは無しだな。私の魔力制御であれば、メテオ自体の巻き込みは防げるのだが、その後に広がる火の手に関しては私ではどうしようもない。であれば――電子レンジを拠点から持ってくるか。どうせ卵も余っている事だ。有効活用するとしよう。

 

そして先生に了承の意を示しナギサへモモトークを送る。ナギサもまだ起きていたようで、返事はすぐに来た。

 

「セイア。ナギサがミカの事で動くのなら自分も混ざりたいってさ。どうする?」

 

「確かにナギサにも参加する権利はあるからね。構わないとも。――ようやくこの時が来たという訳だ。わくわくしてきたよ」

 

「――その、少しいいだろうか」

 

セイアが楽しそうにシャドーボクシングをしていたところ、サオリが私達に話しかけてくる。何か気になる事でもあったか?

 

「ミカ、とは聖園ミカの事で合ってるか?」

 

「合っている。――あぁ、私達はミカの事も把握している。だが彼女の事はまだ解決していなくてな。だがサオリが気に病む必要は――」

 

「いや、違うんだ。その……ミカの事なら私も混ぜてもらえないだろうか……」

 

ん?そりゃまた何故?もしかしてミカと内通してたのはサオリだったのか?

 

「そうだ……。ミカが最初に、私にアリウスと和解したいと声をかけてきていた」

 

「和解?ミカはアリウスにそう言ったのかい?」

 

「――そうだ。そして……私達がミカを騙し、セイアを襲撃した」

 

ミカから和解の話を持ち出され、サオリはアズサを和解の使者とするべく声を掛けた。しかし、その後和解の提案が来たことをベアトリーチェに話すと、呆気なくその提案を一蹴しミカはトリニティの情報を得る為に利用される事になった。

 

「結局私はベアトリーチェの言いなりになり、私はアズサに余計な重荷を背負わせた」

 

そしてミカはセイアに対して嫌がらせ程度の感覚でアリウスに居場所を教えた結果、セイアの死亡報告を聞かされる事になった。そうしてミカはいつしかエデン条約を破談させる為に動くようになり、今に至ると。

 

「ミカの真意は私にも分からない……。本当に私達と和解したかったのか、エデン条約を破談させる為の方便だったのかも今となっては。だが私は……多分、アズサには和解の象徴になって欲しかったんだと思う」

 

しかし今の状況を招いたのは他ならない自分だから、会って一言謝罪したい。そうサオリは締めくくった。――ハナコの推論がほぼほぼ当たっていた形になるか。自然とハナコと顔を合わせる事になり、お互いに気まずい顔をしてしまう。アズサも今の話を聞いて驚きを示している。

 

「――なるほど、話は分かった。君が混ざる事も許可しよう」

 

「……ありがとう。セイアも、すまなかった」

 

「勿論、赦そう。――様子を見るに、君とハナコは既に察していたようだね?」

 

「ごめんなさいセイアちゃん。お話ししたらセイアちゃんのやる気を削いじゃうかと思いまして、秘密にしていました」

 

私としてもペットであるセイアのやる気をわざわざ削ぎたくはなかったので秘密にすることに同意していた。

 

「気遣い感謝する。確かに、ミカの和解の話はもう少し聞いてあげるべきだったね。そこまでミカが本気だったとは。――だが、私にアリウスを仕向けたのは紛れもないミカ自身の意思だ。やはり一度殴らねば気が済まない」

 

「そうか、ならばいい。私も補助魔法でサポートするから安心してぶん殴れ。絞首台はいるか?殴り放題になるぞ」

 

「頼りにしているよ。それを用意してもらうかは少し悩みどころだね。ミカの態度次第では使う事になるかもしれない。――あまりに強硬な態度であればいっそ君に調教をお願いしようか」

 

「「えっ」」

 

ハナコとサオリが何やら驚いているが当然だ。セイアがやる気ならば私は全力でサポートするし、セイアの言う事は一理ある。今回の件は彼女の浅慮が招いた結果の一つではあるので禊は必要だろう。だが私が調教するのは出来れば回避したい。ティーパーティー三人を手籠めにしたなどという噂が万が一にでも出回れば厄介な事になる。――いや二人でも十分やばいか?全員じゃないからセーフな気もする。

 

「あのー、ここはもうちょっとミカさんに対して同情する場面では……」

 

「無論同情はしているさ。私にも落ち度はあった。だがそれは殴らない理由にならないというだけだね。謝罪など、事が終わった後にすればいい」

 

「そ、それはそうなんですけど……まぁ仕方ないですね、正直私もティーパーティーのトップ全員がこの方に手籠めにされている場面は見てみたいですし♡」

 

勘弁してくれ。

 

「サオリも、どうせ仲直りするのなら同士になった方が円滑だとは思わないかい?」

 

「それは、確かに……」

 

確かにじゃないが?またもセイア節が炸裂しそうなので私はナギサを迎えに行く事にしてさっさとこの場を離れよう。

 

「では私はそろそろナギサを迎えに行く。全力で向かえば往復で五分か十分程度で済むからミカへの対処は先に始めてくれていい」

 

そう言ってセイアには私の与えられる限りの補助魔法をかける。これで私の居ない間にミカとドンパチする事になったとしても問題ないだろう。ナギサが言うにはミカはかなり強いらしいので、元がひ弱なセイアではこれでも足りない可能性はあるが、そこは気合いでどうにかしてもらうしかない。

 

「では私もやっておきたい事がありますので――アズサちゃん、ヒヨリさん。それとミサキさんにも協力してもらいたい事があるのですが、よろしいですか?」

 

「もちろん構わない」

 

「私達も?」

 

どうやらハナコのやりたい事にミサキとヒヨリも必要らしい。ミサキが私に伺うようにこちらを見てくるので頷く形で了承を示す。

 

「許可は出たし、好きにして」

 

「ありがとうございます。調教された時のお話も聞かせて頂きますね♡」

 

「絶対いや。ていうか何で水着なの?」

 

「あ、あの……少し良いですか?」

 

「どうしたヒヨリ?」

 

「そ、その……ハンバーガー、頂いてもいいですか?お、お腹空いちゃって……」

 

 

 

――あぁ、好きに食え。……どうしてこうも雰囲気の締まらない子が多いんだ。




という訳で次回はミカ解決回です。
この感じで行くと後三話くらいでベアトリーチェを殺せそうかなぁ?
とはいえエデン条約編自体はまだまだ続く事になりそうです。ただ、今まではある程度原作に沿っていましたが(調教以外)ベアトリーチェを殺して以降の話はこれまで以上に独自展開が多くなる……というより、それしかないかもしれません。今の内に注意喚起しておきます。
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