前回(「「未来の壮絶な失敗」、リアルに想像できますか?」)に続いて、プレモータム・シンキングを駆使して、ずるずると課題を先延ばししてしまう「現在バイアス」の罠から逃れる方法を見ていこう。
前回は、下の4つのステップのうち、①の未来の失敗像をリアルにイメージするところまで進めた。
- 目標に対して大まかなプランを立てたら、未来の失敗をリアルにイメージする。
- 未来の失敗に至るプロセスを時系列で丹念にたどりながら、失敗の原因や問題点を抽出する。
- 失敗の原因や問題点を防ぐ新しいプランを立てる。
- 最後に、進捗状況をチェック(レビュー)しながら、確実に遂行していて成功のゴールに向かう。
ここからは次の、②失敗の原因や問題点を抽出するステップに入る。
これが、「未来の失敗」を未然に防ぐための対策になる。未来の失敗に至るプロセスを時系列に従って丹念にたどりながら、潜んでいる原因や問題点をあぶり出すのだ。
このケースで言えば、会議当日の「Xデー」に至る途中経過を時系列に従ってイメージすることで、潜んでいる原因や問題点が見えてくる。
Xデーの失敗までに、未来の失敗の原因や問題点が少しずつ積み上がっているはずだ。 これらはスタート時点(現在)には顕在化していなかったもので、プレモータム・シンキングの手法を使わなければ一般的には見逃されてしまうことが多い。
具体的には、会議に至るまでの2つの中間地点の情景を想像してみる。
ここでは、会議の半月前と1週間前といったところだろう。中間地点の数を増やしすぎるとイメージが散漫になるので、2つほどあれば十分だ。ここでも、独白スタイルを交えてイメージを膨らませていく。
次のページから、詳細にプレモータムしていこう。
未来の「失敗」を独白形式で洗い出す
【中間地点1 =半月前】
まずは、第一の中間地点、会議の半月前の情景をイメージしてみる。
「会議まであと半月だ。そろそろプレゼンで使う資料をまとめなくては……。今のところ、全然と言っていいほど進んでいない。先週末までにある程度のところまで仕上げるつもりだったけれど、毎日の仕事を優先してしまいほとんど何もできなかった。今週末もプライベートを優先してし まった」
「まあ、まだ半月ある。週末が2回もあるから、そこである程度まとめられるだろう」
【中間地点2=1週間前】
さらに第2の中間地点、会議の1週間前の情景を想像してみる。
「上司から準備は大丈夫かと聞かれたが、『大丈夫です!』と強く返してしまった。状況を見透かされたようで、つい頭に血が上った。そろそろ何とかしないと」
「どれ、資料を見直してみるか。うん、何とかなりそうな気がしてきた。この間の手書きの企画書を少しいじれば何とかなるだろう。あと1回、週末もあるしな。プレゼンは、資料ができれば、それを見ながら話せばいい」
これらの独白をワープロなどで文章化して、じっと眺めてみる。大事なことは、第三者の視線(例えば上司の視線)で客観的に眺めてみることだ。すると、おぼろげだった失敗の原因や問題点が明確に浮かび上がってくる。
2つの中間地点を客観的に眺めてみることで、浮かび上がる失敗の原因や問題点は、次のようなものになるだろう。
- 時間の見積もりが甘く、週末という不確定要素をあてにしている
- 何をどの時点で完成させるか、スケジュールが明確になっていない
- 目的を実現するための実行プランができていない
- 会議の重要性を軽く見ている
- 上司とのコミュニケーションがうまくできていない
さらに踏み込むと、次のような細かい問題点もあぶり出されてくる。
- 半月前の時点で資料作成に全く手が付いていない
- 1週間前の時点で手書き程度の資料しかできていない
- 1週間前の時点で、プレゼンのストーリーに全く手が付いていない
いずれも、“まだ起こっていない未来の問題点”であり、通常は事前に失敗のイメージをすることはあまりないため、ここでやったような手順を踏まないと、なかなかあぶり出されてこない。多くの人は、どうしても自分に都合がいい方に考えるものだからだ。
逆に、こうして未来の失敗の原因や問題点がクリアに見えてくると、あらかじめどの時点で、どんな手を打てばいいか分かってくる。要は、地雷がどこにあるかがあらかじめ見えているような状況だ。後はそれを踏まないように戦略を立てていけばいい。
原因や問題点をリスト化して整理するとさらに対策も立てやすくなる。
こういった“一人ブレーン・ストーミング”のような作業は、プレモータム・シンキングに慣れないうちは、なかなか難しい。何かをやる前から失敗のことばかり考えるのは気が進まないからだ。
誰しもバラ色の成功体験はイメージしやすいが、失敗を想像するとなると気が重くなるものだ。まして途中経過まで含めて丹念に失敗をイメージする作業など、楽しいものであるはずがない。
だが未来の失敗をせんじつめて、その原因を先回りして予防することでしか、確実な対策は打てない。そして“絶対に失敗できない”状況にいる人たちは、このようなプレモータム・シンキングの手法をフル活用している。
そうでない人たちもこの手法の手順を覚え、ある程度経験を積めば、未来の失敗を具体的にイメージする作業が苦にならずにできるようになる。
失敗が具体的にイメージできれば、次のステップに進んでいこう。
③対策と新しい実行プランの立案
未来の失敗の原因や問題点が抽出できたら、それを防ぐ対策と新しい実行プランを立てる。
具体的には、②のステップで設定した2つの中間地点で、失敗につながる要因を取り除く。つまり、そうならないよう、逆の行動を考えればいい。2つの中間地点にマイルストーンを設定して、確実にクリアするように計画を立案するのだ。
単にマイルストーンを定めただけでは、掛け声倒れになる懸念がある。そこで、計画は実現しやすいものにしていく。
1つ目のマイルストーンを少し実現しやすいものにする。最初のハードルが低ければ、心理的にも取りかかりやすくなる。マイルストーンを設定するということは、中間地点に何らかの締め切りを設定すること。期限が近い課題ほど、達成したくなる双曲割引を逆手に取って利用するわけだ。
2つのマイルストーンは、次のようなものになる。
【中間地点1=半月前】
資料を7割、作り終わる。その上で見直し、過不足を洗い出したら、1週間前までに何をするか決める。
【中間地点2=1週間前】
半月前(中間地点①)に洗い出した過不足を修正し、プレゼン資料と説明の文言を完成させる。同僚や上司に模擬プレゼンをして、スピーチ部分を洗練させると共に、気が付いていない問題点を洗い出す。
達成しやすいよう、最初のマイルストーンは比較的やさしいものにしている。ただ、達成しやすさだけを考えてマイルストーンを決めると、結局、最終目標にまでたどりつけない。無理しすぎず、簡単すぎず、という目標設定が重要になる。
マイルストーンは、ゴールに至るまでの中間目標でしかないので、この2つに加えて、 最終目標、つまり成功のゴールも設定しておく。
今回の場合、成功のゴールは「会議前日にすべての準備が終わる」ということ。実現すべき最低ラインは、会議前日までに資料が完成していて、スピーチの練習が終わり、 上司の承認を得ている、といったところだろうか。
質をどこまで高めるかは、目指す成功のゴールによって変わってくる。マイルストーンと同様に目指すゴールは簡単すぎるのは問題外としても、厳しすぎてもいけない。実現可能なギリギリのラインを目指したい。
④新プランにコミットして、レビューしながら遂行する
③ステップまで実践すれば、未来の失敗を未然に防ぐための新しいプランはほぼ完成する。後はこのプランを「何が何でも実現する」ことを自分自身に約束する。誰かほかの人、例えば同僚や上司、あるいは部署全体に伝えて退路を断つとなおいい。
米イエール大学のイアン・エアーズ教授は、著書『ヤル気の科学』の中でコミットの効果について次のように説明している。
「インセンティブ効果はアメより鞭のほうが大きいことがある」
「インセンティブに対する人の反応は、予想外で奇妙なこともある。それは人が『人にどう思われるか』に大きく影響されるから。これはコミットメントを考えるうえでとても重要だ」
鞭の方がたやすくイメージでき、あなたを動かす力が強い。上司や部署全体を巻き込んで公式なイベントにすれば、あなたはもう引っ込みがつかなくなり、しくじった時のダメージは手痛い鞭となるはずだ。
ここまでくれば、後は2つの中間地点に設定したマイルストーンに対して、実際の進捗度をその都度判断しながら、一つずつ実現するよう行動していく。
それぞれのマイルストーンに遅れが発生したり、不備が明らかになったりすれば、それを修正して最終目標に到達できるよう、どの時点で何を頑張ればいいのかが分かる。プレモータム・シンキングを実践したあなたならば、もう明確に分かるはずだ。
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