いわゆるポリコレ……「政治的妥当性」のため、マイノリティのために、積極的に戦う人たちがいます。
日本人男性である私は、日本ではおおむねマジョリティ側に属するように思いますが、それでもポリコレの恩恵を受けていると感じます。
例えば、私が
「結婚してるのにどうして子どもを作らないんだ」
とか無遠慮に言われることが少ないのも、飲み会で
「お酒が苦手で」
と言えば強要されずに済むのも、
「左利きは育ちが悪い証拠」
とか滅多に言われないのも、つまり多様性が認められるようになったおかげです。
私に限らず、人間、誰でも何かしらマイノリティの側面を持っているわけで、ポリコレの恩恵は誰もが受けていると思います。
しかし世間には、ポリコレを憎む人、多様性やフェミニズムを蛇蝎のように嫌う人もいます。
多様な少数者への配慮を求められるのは息苦しいとか、ポリコレに配慮すると面白いエンターテイメント作品が作れないとか。
まあ確かに、実写版白雪姫みたいな失敗事例もありますしね。
そんな中で、アニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」(以下「ぼざろ」)の脚本家、吉田恵里香氏のトークショー記事を読みました。
kai-you.net
色々な作品に言及していますが、特に「ぼざろ」に関して言うと、不自然な性的表現を避けた、という話でした。
女の子達がお互いの胸のサイズを話題にする場面とか、ギターを弾きながら妙に胸が揺れる表現とか。
主人公が風邪を引こうとして水風呂に入るシーン(2話)も、水着を着た描写にしたとか。
(「ぼっち・ざ・ろっく! #2 また明日」より)
そうだったのか……。
正直、私は、そんな配慮があったとは全然気付きませんでした。
ただ、私は本作を奥さんと一緒に見たのですが、
「これ女性から見てどうなのかしら」
とかハラハラする場面がなく、お互いに感想を言い合ったりしながら、最後まで楽しく見ることができました。
それは吉田氏の配慮のおかげだったんですね。
(実は11話のメイド喫茶だけちょっとハラハラしたけど、奥さんは楽しんでた)
私事はさておき、ぼざろは大ヒットを記録し、あまたの賞を受賞。
原作ファンからも新規のファンからも幅広い支持を獲得する、漫画原作アニメの成功事例となりました。
もちろん、これは脚本家一人の功績ではありません。
原作者や監督、声優、アニメーターなど、多数の人の技量と協力の賜物です。
本作では、アニメスタッフと原作者が緊密で良好な関係を築いていたとのことで、それも奏功したのでしょう。
ともあれ、これは素晴らしいことです。
ポリコレに配慮しつつ、しかもそれが押しつけがましくならないようにし、素晴らしいエンターテイメントを作り上げることはやはり可能だったのです。
……思うに、「白雪姫」は、いかにも
「ポリコレに配慮していますよ!!!!」
というのが間違いだったのでは。
なんでも、ハリウッドでは
「本作は人種的多様性に配慮しています!」
ということをわかりやすく示すために、ステロタイプな風貌の有色人種(背が低いアジア人とか、ドレッドヘアの黒人とか)が重用され、典型的な外見でないと敬遠されるという、本末転倒な現象が起きているとか。
posfie.com
多様性とは一体……。
白雪姫の盗賊団が不自然に多様(でもリーダーは白人男性で、他のメンバーは空気)なのとか、そういう「広告ポリコレ」の匂いを感じます。
これに対して、ぼざろのような、配慮していることを感じさせない作品は、ある種の理想型なのかも知れません。
もちろん、ぼざろだけが特別なのではないと思います。
もっとささやかな例ですが、2022年の日本マクドナルドのCM。
pandora11.com
これが
「多様性への配慮に毒されていない」
として海外で話題になったのだそうです。
一方、それを受けて、日本では、このCMは
「父親が育児に参加している」
「手作りの料理に過度にこだわる必要はない。時にはファーストフードのテイクアウトでもいい」
「部屋もちょっとくらい散らかっていていい」
といった現代的メッセージを含んでいる、という指摘がありました。
他ならぬディズニーにもそんな作品があります。
反ポリコレであるらしいXユーザーが「名作」として挙げている「ズートピア」ですが、しかし、同作こそ、ダイバーシティを重要なテーマにしているのは間違いないでしょう。
もちろん、目立つようにポリコレを訴える人々が拙劣だとは思いません。
戦う人たちが道を開いたからこそ、こういった「自然なポリコレ」が存在できるようになったのです。
「ダンジョン飯 ワールドガイド 冒険者バイブル」に載っている漫画。
ここで「短命種(人間などのこと)」の表現をネタにして笑っているのは、「カナリア隊」……エルフの囚人部隊の面々です。
ポリコレを真面目に受け取るような、お行儀の良い連中ではありません。
しかし、そんな彼らでも、隊長(名家の出身です)の「差別発言」にはドン引き。
つまり、カナリア隊も、実は世の中の価値観の変化に影響されていたのです。*1
現実社会でも、ネットでポリコレを揶揄している人々が、実際に過去の表現に触れると「昭和のテレビ番組ヤバすぎる」とかドン引き、ということはあるのではないでしょうか。
というか、「短命種」の話の方が現実のカリカチュアなのでしょうけれど。
(「エルフ」と言っても、設定上、ミスルン隊長が185歳なのに対して、「近頃じゃ差別語なんだぞ!」と言ってるフレキが130歳、「寿命の短い方々?」のリシオンが126歳、「生き急ぎ族?」のシスヒスが149歳。長命とはいえ、年齢差59歳は現実にもあり得る程度なのも興味深いですね。隊長の言う「昔」は、決して古代の話ではない)*2
ともあれ、吉田恵里香氏は、自分の「配慮」を後から明らかにしてしまったために、ポリコレに抵抗感を持つ人たちの怒りを買い、放映後3年近く経った今になってネットで大炎上してしまいました。
(以下、トークショー記事のブックマークから抜粋。https://b.hatena.ne.jp/entry/s/kai-you.net/article/93374)
gyik63bnu まさにクソフェミ。そんなにてめえの思想でオナニーしたいならオリジナルだけでやっとけ。原作を穢すな。
wakuwakuojisan ぼざろ、"原作がまず素晴らしく" と言いながら原作の描写を性的搾取だと文句つけて自分の思想に改変する脚本家、普通に頭おかしい。てめえの思想の開陳はオリジナル作品でやれや / ちなみに、ぼざろの原作者は女性
technocutzero 耳腐るわ もうお前みたいなんと丁々発止するのめんどくさいねん 何年同じこと言うてんねん 自分のふんどしを自分でカスタムしたらええやんけ なんで他人のふんどし切って貼ってして偉そうにしてんるんや
Wafer 脚本家が原作者を死に追いやったこと、もう忘れたんですか?
実のところ、はてなブックマークではこんなコメントばかりではなく、賛否両論といったところでしたが、比較的ポリコレに好意的なはてなでこの有様とも言えるわけで。
ともあれ、炎上はとても残念なことですが、多様な生き方、他者への配慮が「自然なもの」として受け入れられる傾向が、これからもさらに広まっていくことを願っています。
……あと、吉田恵里香氏は
「過激な作品やR18まで振り切ったものがあってもいいですし、やると決めれば私も思いっきりそうした作品に関わることもあると思います。でもその場合は、しっかりと未成年が見られないような配慮が必要です」
と言ってるので、別に全ての作品が「奥さんと一緒に見られる」ようなものであるべき、とは言ってないんですよね。
吉田氏の「R18まで振り切ったもの」も、それはそれで見てみたい気はします。
……もちろん一人で。
参考記事。
吉田氏のトークショー記事を起点とした炎上一般についても何か書こうかと思ったのですが、下に挙げる通り、すでに私より頭のいい人たちが記事を書いているので、あんまり付け加えることはないかも知れません。
炎上問題に触れるのはこの記事の趣旨とも逸れますので、いったん終わりたいと思います。(そのうちちょっと書く……つもりはある)
吉田氏に批判的な記事。
「ノイズ」というのは問題ではないけれど、「搾取」というのが良くないよ、先人の文化に対する敬意の欠如だよ、炎上の原因は「加害性クリエイト」だよ、というような話。
note.com
同じく批判的な……記事、だと思います。
吉田氏は特に間違ったことは言ってない(「加害性」とも言ってない)のだけれど、フェミニストとしての言動が首尾一貫しておらず不徹底だよ、みたいな……ことでしょうか。(私は読解力ないので誰か教えて欲しい)
さりとて「人よ徹底したフェミニストたれ!」という立場でも全然ないっぽい。
note.com
擁護的な立場の記事。
吉田氏への様々な批判が妥当かどうか、個別に取り上げて検証した記事。
これを読んで「そんな風に批判する人がいるのか……」と思いました。
hokke-ookami.hatenablog.com