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国道沿いのラーメン屋

僕の中での勝手な区分けとして、ラーメン屋は2種類に分けることが出来る。
1つは駅前型。もう1つは国道型。

駅前型は雑居ビルの1階に居を構えていて、キャパシティは結構小さく、カウンター席が店の大半を占めている。店の前にはしわしわになった紙で営業時間が印字され、昼は11時半から14時半まで、夜は18時から22時まで、スープがなくなり次第終了と但し書きがされている。
食券制のお店が多く、メニューはその店が自信を持って開発した醤油ラーメンと、そのラーメンにチャーシューを1枚多く載せて煮卵のトッピングが加わった特製ラーメン(食券ボタンの左上に"1番人気!"と手書きのポップが貼られている)、あとはたまにつけ麺や汁なしなどの変わり種が1-2種類。
行列ができる人気店なら、軒先に並び方のルールが書かれている。店内待ちは4番目まで、5番目以降は食券を先に買って、こっちの方向に並んでください、お店の前に自転車は止めないでください、グループの全員が揃ってからお並びください、食べ終わった後に店の外に溜まらないでください、近隣の迷惑にならないようにご協力をお願いします。お店の方々の苦悩が見え隠れする張り紙の数々を眺め、建物の脇からせり出している排気ダクトの生暖かい風を浴びながら、食券を買うタイミングを伺うために神経をちょっとだけ尖らせる。スープがなくなるとやらの瞬間が訪れるまでひっきりなしにお客さんが回転し続けている。

国道型は、駅から遠く離れた別な経済圏の中に立地している。片側2車線のぶっとい道路が果てしなく続く中、ドラッグストア、自転車屋、ケーズデンキ、スーパーマーケット、ハードオフ、いずれも店の前には大きな駐車スペースがあり、ファミリータイプのワンボックスカーをひたすら吸いこんでいる。ラーメン屋も余裕たっぷりの駐車場を構えた平屋建てで、店の脇には藍色がかったサントリーの自動販売機とひしゃげたベンチ、時には灰皿も生き残っている。店内は4-6人掛けのテーブル席が多く、混んでいる時間帯でも行列ができていることはまずない。営業時間は11時から24時までぶっ通し。
各テーブルには、ラミネート加工されたメニューが複数枚、それぞれ左上にパンチで穴が開けられ、カードリングで一束にまとめられている。一番目立つ最初のページには、ラーメン・小チャーハン・ギョーザの組み合わせが「Aセット」とか「ラーメン満足セット」みたいな名前で推されている。ギョーザではなく唐揚げの場合もある。店によっては醤油・塩・味噌どれも選べて、レバニラ定食とか豚キムチ定食と一緒にメニューの中にごちゃ混ぜで配置されている。

無性に国道型のラーメン屋に行きたくなる瞬間がある。
小さい頃、家族でドライブに出かけた帰りの夜道に輝く、ヘトヘトになった両親にとって自宅で夕食を作ることを諦めさせるに十分な、魅力あるネオン。レジ横には子ども用と思しき白いプラスチックのフォークとアンパンマンが描かれた同じく白いお椀がうずたかく積まれ、小さい僕の顔を見るなり何も言わずともバイトの高校生がそれらをテーブルに置いてくれる。カウンターでラーメンをすするお兄さん、落ち着いて座っていられない子どもに手を焼く父親、ドンキの帰り道に違いないド派手なジャージ姿のカップルなど、色々な人生の風景がごった煮で広がっている。
車で通りがかったら最後、予定もしていなかったのにあてどなく入店して、誰にも気兼ねせず、ただ適当に注文して、適当に食って、適当にダラダラして、また車に乗って帰る。この原風景をなぜかまた浴びたくなって、でも車は持っていないので、今はわざわざ自転車で20分かけて近くの国道まで乗り込んだりしている。
店は違っても、そして父親が子どもを落ち着かせるための武器が絵本からYouTubeに変わっても、そこには僕の幼い頃と何も変わらないラーメン屋の情景が広がっている。国道沿いのラーメン屋を支配するたわみ切った時間の流れは、都会で意味の洪水におぼれている今の自分には非常に効く。ほとんど誰も座っていないカウンター席の隅に陣取り、一番お腹に溜まりそうだからというだけの理由でラーメンとギョーザとライスがくっつけられた何とかセットを選び、店内を走りまわる子どもを尻目に何の思想も感じないラーメンをすすり、ギョーザは余計だったなと思いながら980円を払って帰る休日が、たまらなく癒しになることだってある。

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