報道だけでははっきりわからないのですが、一連の犯行のいずれかについて、検察は「不同意わいせつ罪」(旧・強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪を統合・再構成した条文)で起訴したようですね。
他人の所持品に体液を付けたとしたら非常に悪質な犯罪ですし、どう考えても行為の性質としては性暴力だと感じます。ただ、それだけで性犯罪、具体的には不同意わいせつ罪として扱われることは、実務ではかなり少ないと思います。現にこの教員は、駅のホームで当時15歳の少女のリュックに体液を付着させたとして起訴されていますが、罪名は「器物損壊罪」です。
なぜ性加害が「器物損壊罪」に?
──なぜ器物損壊罪になるのでしょう?
基本的な前提からお話しますと、ある行為について法律等で刑事罰を科すということは、その規定を定めることによって守ろうとしている何らかの利益があるわけです。その利益を「保護法益」といいます。例えば殺人罪が守ろうとしているのは人の命ですから、人の命が保護法益です。器物損壊罪なら人の財産、物の効用(使用価値)が保護法益になります。
不同意わいせつ罪の保護法益は「個人の性的自由」、他者からの性的な接触や行為を自分の意思に反して受けない自由です。そもそもわいせつ行為とは、被害者の性的羞恥(しゅうち)心を著しく害し、その性的自由を侵害するような行為であれば、身体接触の有無を問わないとされています。行為の態様、被害者の受けた被害感情、社会通念などを総合的に判断すべきとされているのです。
そのため、所持品に精液をかける行為も、意に反して性的接触をされたという意味で、不同意わいせつ罪の保護法益が侵害されている、不同意わいせつ罪に当たってよいのではないかと感じる人もいるかと思います。
しかし、今の実務では、精液を所持品にかけられたら、もうその所持品は使いたくなくなる、物を使えなくさせられた、効用を失わされたとして器物損壊罪として処理するのが通常です。他方、他人の手や髪に精液をかけたら、不同意わいせつ罪で処理されると思います。直接他人の体に精液をかけたかどうかが分かれ目になっているのではないでしょうか。
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