岡田はゾーヤの手を握ったまま、2階の廊下を走る。
鬼は足音に反応して音の鳴る方へ走り出した。
岡田達は奥の部屋へと駆け込んだ。
この鬼ごっこの攻略法を段々と理解してきた...!
鬼は音に敏感だから、音の鳴る方向に行く習性がある...
俺がゲーム終了まで鬼を引きつけていればいいだけの話だ...!
...
人間は単純で、わかりやすい。
目の前の巨大な壁を越えようとしても、結局は無意味。
いくら努力しても、いくら足掻いても無駄だってね。
...でもそれはただの人間が考えること。
冷静的な判断力を持ち合わせた人間は目の前の壁を普通には越えようとしない。
そう、別の道を探り出す。
例えるなら...目の前に扉があって、その扉を通れば脱出できる。
でも目の前の扉を、障害物や妨害する人のせいで通ることができない。
普通の人なら根性論で押し切ろうとするけど、結局どうすることもできずに終わる。
でも、冷静な人間は目の前の扉を通らず、もう一つの扉「裏口」を探ろうとする。
裏口さえあれば、脱出することはできる。
そう考える人もいる。
...でもそれはあくまでも「可能性」の話。
たとえそう考えたとしても、裏口自体が無ければただの無駄な考えになるし、たとえあったとしても、その裏口も対策済みなら意味がない。
...鬼を引きつけていればいいと思ってたら大間違い。
だって、鬼はありとあらゆる音に感知する。
なら、そんなつまらない作戦も無駄にできる。
...彼は、冷静に見せかけた単純な人間なんだね。
...
ピピーッ!
その時、先程も聞いた覚えのあるホイッスルの音がどこかからかした。
まさか...一体誰が...
岡田は慌てて部屋から出たが、もう既に手遅れだった。
2階の廊下には、鬼の姿が見当たらない。
岡田は己の不甲斐なさに打ちひしがれていたが、ゾーヤの言う通り、みんなが危ないと感じ走り出す。
...
その時、大きな足音と共に、威嚇をするような唸り声が聞こえた。
[グルルルル...!]
[グルァァァッ!!!!!!]
カナタは床にあった石につまずき、転んでしまった。
ダイヤは咄嗟にカナタの手を掴んで走る。
...
...
ピピーッ!
突然、アキのいる部屋からホイッスルの音が鳴った。
[グルァァァァ!!!!!!]
ダイヤは突然部屋を飛び出していった。
「ガッシャーンッ!!!」と、建物の壊れる音がした。
...アキのいた部屋に鬼が入ってしまった。
先程までアキの声は聞こえていたのに、今は鬼の唸り声しか聞こえていない。
...やがて、鬼は別の階へと去っていった。
カナタはダイヤが入っていった部屋に様子を見に行くと...
そこには、ぐちゃぐちゃになった部屋の残骸と、縮こまって震えたダイヤの姿しかなかった。
いくら部屋を探っても、アキの姿は見当たらない。
コイツのいう、お友達がなんなのかは知らないけど...
この感じだと、アキは...
もう...いない...
ユリは手に持っていた白く純白なユリの花をカナタに見せた。
そのユリの花はだんだんと黒く染まっていった。
ユリはそのまま消えていった。
その部屋には、とても濃く恐ろしい恐怖と、微かに香る血のような匂いだけが残っていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。