「ヘイトをあおる」 川口市議会の意見書への批判を当の市議会議員はどう受け止めたか
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東京新聞は「ヘイトをあおる」と批判
筆者は意見書の内容はどれももっともな要望だと思う。しかし、違う見方もあるようだ。 10月1日付の東京新聞は1面に「外国人排斥あおる恐れ」「非正規滞在の背景顧みず」という見出しで、意見書に批判的な記事を掲載した。 記事では、「入管行政や人権問題の専門家」のコメントとして「外国人へのヘイトをさらにあおることになる」と指摘している。 これに対して奥富氏は語る。 「私は意見書がヘイトをあおっているとはもちろん思いません。従って東京新聞の記事の主旨にも賛同していません。でも、言論の自由は理解しています。今回の議会の意見書について、東京新聞をはじめとするメディアがネガティヴな記述をしたとしても、結果としてこの問題がより関心を集めるのであれば、ありがたいとも思うようにしています。記事によって、在留資格をもたない外国人による川口市のトラブルや事件が広く伝わるからです。 外国人との共生が大切であることは、もちろん理解しています。でも、今は現実に起きているさまざまな問題を解決することが大切だということも理解していただきたいと考えます。市内には、在留資格のない外国人の行いによって困っている人がたくさんいるのです」 東京新聞の記事でよくわからないのは、意見書は国に向けてのものなのに、「ヘイトをあおる」と心配している点だ。この意見書を読んで、あらたに差別心を燃やす市民や国民がいるということなのだろうか? どういう人を想定しているのだろうか? 上に紹介した意見書で述べていることはかなり常識的であるうえ、わざわざ「5」として、「外国人全体への差別や偏見を助長しない」とまで書いている。これは「ヘイトをあおる」といった懸念への配慮だと言えるだろう。 また、この記事内には「日本の難民認定基準は国際的にみて極めて厳しく」ともあるが、日本での難民認定は世界基準。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の基準に則っている。 「人種、宗教、国籍、政治的意見または特定の社会集団に属するという理由で、自国にいると迫害を受けるおそれがあるために他国に逃れ、国際的保護を必要とする人々」(UNHCRホームページより) この定義に該当しない外国人は難民認定されない。そして、川口市のクルド人の多くは該当しないという見方は根強くある。 コルクット・ギュンゲン前駐日トルコ大使は以前、メディアの取材に対してクルド人の訪日が難民ではなく、出稼ぎであることを認めている。 「経済的な理由が多いことは、われわれも認識を共有している」 「違法な形で日本に滞在し、難民認定制度を悪用して滞在を引き延ばしている。これこそが問題だ。トルコ共和国としてこの現実は決して後押しできるものではない」(以上・2024年11月30日付産経新聞) 入管法の改正で、現在は難民申請不認定2度以上の外国人は強制送還の対象になった。奥富氏は少しずつでも事態が良いほうに進むことを期待する、と語る。 「市内で聞くところによると、入管庁は難民申請不認定で仮放免の手続きに来た外国人を順次送還しています。コツコツとやってくれているようです。 川口市民の代表としては、外国人問題が解決に向けて加速することを期待しています。今、クルド人は東海地方に移り始めているとも聞いています。つまり川口だけではなく、日本全体の問題になりつつあるのです。外国人問題は今こんなに深刻なのに、民放のテレビ局は避けるように報道しませんよね。こういう状況も改善されていくのではないでしょうか」 「不法滞在者ゼロプラン」や川口市の意見書のマイナス面に気をつけろ、というのは一つの考え方だろう。しかし、だからといって実際の市民らが抱えている不安や不満にフタをするだけでは何も変わらないのではないだろうか。
石神賢介(イシガミ・ケンスケ) ライター。1962年生まれ。大学卒業後、雑誌・書籍の編集者を経てライターに。人物ルポルタージュからスポーツ、音楽、文学まで幅広いジャンルを手がける。著書に『おどろきの「クルド人問題」』(新潮新書)など。
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