クルドカーを撮影したら映画「激突!」の世界に追い込まれてしまった
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映画「激突!」の世界
川口市内の、クルド人が多く働いている地域に寄った時のことだ。 コンビニの駐車場に、いまにも積み荷が落ちそうな巨大なクルドカーが停まっていた。 その車を荷台の側から撮影していると、背後から大声で叫ばれた。 ふり向くと作業着を着たクルド人だった。そのコンビニの駐車場は暗く、彼の存在に気づかなかった。 何を叫んでいるのかはわからない。でも、怒っていることは間違いない。 トラックの運転席から、別のクルド人も降りてきて怒鳴り始めた。 怖かった。ただただ頭を下げ、手を合わせてごめんなさいの意志を伝え、車でその場を去った。 しかし、甘かった。交差点で、過積載のトラックが接近しているのがミラー越しにわかった。さっき撮影した車だ。 車間距離はほぼない。青信号になりアクセルを踏むと、ぴたっとついてくる。“ケツピタ”というあおり運転だ。 次の交差点で右折してみた。トラックも右折してついてくる。次を左折した。トラックも左折する。間違いなく追われている。嫌な汗が出てきた。調子に乗ってクルドカーを撮影したことを反省し後悔した。 ただ、コンビニの駐車場というオープンな場所で車(それも過積載としか思えないトラック)を撮影することでこんな目に遭うのはおかしいとも思った。
公道での撮影が問題だというのはおかしい
冒頭で触れた番組の出演者たちは、筆者を責めるのかもしれない。 「トラックを勝手に撮影したあなたにも問題があるじゃないか」 しかし、そんなことを言えばテレビのニュース番組での街での撮影の多くは無断ではないか。路上を歩いている人の顔を平気で映している。 個人の居宅などならともかく、公道やオープンな場での撮影がきっかけで、カーチェイスに巻き込まれるのを許容することは、報道機関として異常ではないか。 番組では「撮影していない」と言う県議や市議らに対して、「たとえそうであっても、誤解を招いたことには問題がある」と、タレントたちが批判していた。その理屈でいえば今後、テレビ局はあらゆる人たちにカーチェイスやらストリートファイトやらを挑まれても仕方がないのではないか。 そもそも多くの車はドライブレコーダーで勝手に他者を撮影している。それを理由に恐怖体験をさせられるのではたまったものではない。 トラックに追われながら、中学生のときに観たスティーヴン・スピルバーグ監督の映画「激突!」を思い出した。主人公のセールスマンは巨大なタンクローリーに追われて戦慄する。トラックに追われる映画の主人公、デニス・ウィーバーの気分になった。ただ、トラックよりも普通乗用車のほうが小回りはきく。信号の度に右へ左へと曲がり、かろうじて振り切った。 この体験をもって、クルド人は悪いとか、凶暴だとか言うつもりは一切ない。いろいろな人がいるのは当たり前だ。 ただ、車で追われて恐怖を感じた県議たちが警察に駆け込んだ、という話を聞いて、自分の経験を思い出したのである。 関連記事(「お前、いじめられっ子やったやろ」発言で批判集中 「千原せいじ」が理解できない「クルド人問題」)では、この問題に関する現地住民とそれ以外の人たちとの「温度差」について詳しく解説している。
石神賢介(いしがみ・けんすけ) ライター。1962年生まれ。大学卒業後、雑誌・書籍の編集者を経てライターに。人物ルポルタージュからスポーツ、音楽、文学まで幅広いジャンルを手がける。著書に『57歳で婚活したらすごかった』(新潮新書)など。 デイリー新潮編集部
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