巨額の貿易黒字を稼いでいた日本も、様変わり…円安が「サッパリ景気に効かなくなった」ワケ【経済評論家が解説】
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輸入物価上昇は消費者に転嫁される
以上、円安で輸出数量が増えるか、という話でしたが、数量の話は以上にして、ここでは価格のことを考えてみましょう。円安になると、輸出企業は持ち帰った輸出代金のドルを高く売ることができて儲かる一方で、輸入企業は輸入代金のドルを高く買わされるので利益が減る、ということです。 輸出企業は、利益が増えますが、それは景気にあまり影響しません。利益が増えたから設備投資を増やそう、という企業は多くありません。「円安だから生産を増やして輸出を増やそう」という企業ならば工場を建てたのでしょうが、最近ではそういう企業は少ないからです。利益が増えたことで配当が増えても、株主は増えた配当で飲みに行くよりは、増えた配当で別の株を買う場合も多いでしょう。 一方で、輸入企業はドルを高く買わされて輸入コストが上昇した分を売値に転嫁します。その結果、消費者物価が上昇し、消費者の懐が痛み、飲みに行く回数が減ります。結果として、輸出企業の儲けと輸入企業の利益減の影響を合計すると、景気が悪くなるのです。 こうした価格面での景気押し下げ効果は、以前から存在はしていましたが、円安の輸出数量拡大効果が大きかったため、その影に隠れて注目されてこなかったのです。最近、輸出数量拡大効果が薄れてきたため、隠れていた効果が注目されるようになってきた、というわけです。 いまでも輸出数量拡大効果は少しは残っているので、価格面でのマイナスの影響とどちらが大きいのかが気になるところです。複雑な話なので、簡単に計算で求めるわけには行きませんが、長年景気予想屋をやってきた筆者の勘では、プラスとマイナスが概ね同じ大きさで、結果として円安でも円高でも景気への影響は大きくない、といったところだと思っています。
労働力希少で成長に制約あり
少子高齢化による労働力希少も、円安の景気への影響を小さくしているかもしれません。円安で輸出企業が生産を増やそうとしても、労働者が集まらなければ生産は増えず、景気は良くならないからです。あるいは、輸出企業が労働者集めに成功したとしても、その分だけ居酒屋が人手不足になって店の営業時間が短くなれば、景気への影響はプラスマイナスゼロかもしれません。 バブル崩壊後の長期低迷期、日本経済は失業に悩んでいたので、労働者が集まらないという状況には筆者を含めて慣れていません。そこで、労働力希少の時代に需要増加が景気や経済成長などにどのように影響するのか、経験と勘が働きにくいのです。これからそうした状況が続いていけば、少しずつ景気予想屋たちも慣れてきて、精緻な予想ができるようになっていくと期待しましょう。 今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。 筆者への取材、講演、原稿等のご相談は「ゴールドオンライン事務局」までお願いします。「THE GOLD ONLINE」トップページの下にある「お問い合わせ」からご連絡ください。 塚崎 公義 経済評論家
塚崎 公義
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