いじめ調査負担、訴訟リスク…「重大事態認定に消極的な気持ちある」 自治体担当者明かす
いじめ防止対策推進法の「重大事態」に関する本紙の政令市調査では、横浜市などで対策強化により認定件数が増えていることが分かった。一方、政令市の中には認定を巡り、調査負担や被害者から訴訟を起こされるリスクを懸念し、法律に沿った対応をするのは難しいという声もある。現場や識者は、被害の早期発見や適切な対応を進めるため、国による支援と制度の改善を求めている。 (壇知里) ■重大事態の定義が記されているガイドライン【画像】 「法に従った対応を徹底して認定はかなり増えた。子どもの尊厳や命を守るために必要な対応だと、今は考えている」 2024年度の認定が59件だった横浜市の担当者はこう語る。23年度までは0~11件。急増のきっかけは、いじめ問題で犠牲者が出たことだった。 20年、生徒がいじめ被害を訴えて自殺。学校は相談を受けながらいじめと判断しなかった。後に重大事態に認定し、第三者委員会は24年3月の調査報告書で、学校や市教育委員会の対応を「法に反して不適切」と断じた。 24年度以降は、いじめが疑われる事案を積極的に重大事態とする対応に改めている。それに伴い、被害生徒の支援や第三者委とのやりとり、再発防止策の策定といった業務で人員が不足。今年4月から担当職員を倍増させて30人態勢とし、不登校支援といじめ対応に特化した部署も新設した。 神戸市もいじめ自殺を機に早期対応の独自プログラムを作り、対応を改善。1~3件だった件数は19年度以降増え、23年度は75件になった。
「現場に認定を少なくしたいという拒否感があるのでは」
いじめ防止法などは、心身に重大な被害が生じた疑いがあったり、不登校が計30日以上に及んだりした場合、速やかに重大事態とし、第三者委を設置するなどして調査するよう求める。ただ、対応が後手に回るケースは後を絶たない。 昨年4月に福岡県田川市の生徒が自殺した問題では、生徒が担任に相談し、欠席が計69日に達していたにもかかわらず、学校が重大事態に認定していなかった。北九州市でも今夏、中学校でのいじめ事案を、市教委が1年にわたり重大事態としていなかったことが発覚した。 こうした状況を、千葉大の藤川大祐教授(教育方法学)は「現場に、認定を少なくしたいという拒否感があるのではないか」とみる。 西日本地方の政令市教委の幹部は「法律通りに厳密に認定すれば、重大事態の件数は倍増どころではなくなる」と困惑する。「不登校が30日以上に上っていても、行為が軽微だったり、いじめが主要因ではなかったりすることは多い」とも打ち明け、現場の業務負担を考慮して重大事態の要件を絞るよう求めた。 別の政令市教委の担当者らも「学校や市を相手取った訴訟で、第三者委の調査報告書が証拠として利用されることもあり、重大事態とすることに消極的な気持ちはある」「いじめの調査費用や第三者委の委員の選定などは国に支援してほしい」などと明かした。 いじめ問題で被害者側の代理人を多く務める石田達也弁護士は「被害を深刻化させないために、現行の重大事態の要件は変えるべきではない」と主張。藤川教授は「早期に重大事態に認定し真摯(しんし)に調査を行うことが、結果として被害者側の信頼や安心につながる。自治体の負担が大きいのは事実なので、国は一定の制度改善を検討すべきだ」と述べた。
西日本新聞