結局、ぼざろの脚本家はなぜ批判されたのか?(みんな言ってることがバラバラな件)

 アニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」(以下ぼざろ)の話の続き。
filinion.hatenablog.com

 
 なんか、もう一ヶ月前の話であることに加え、公明党の連立離脱騒ぎやらで、ぼざろの話なんてどこかへ行ってしまった感もありますが。

 ともあれ、脚本家の吉田恵里香氏を批判している(いた?)人たちが複数の派閥に分類できる(分裂している)な、と思ったので、まとめておきたいと思います。(一人で複数兼ねてる人もいるけど)
 抜けている派閥があれば加筆するかも知れません。
 
 さて1つ目。

「ノイズ」というのはあんまりだよ派(知念派)

https://x.com/MIKITO_777/status/1967529258131374508


 小説家の知念実希人氏のポストを起点に炎上の火が回ったのであろう人たちです。
 たぶん最大派閥。
 
 当該ポストは現時点で1.8万リポスト、2488万回表示されており、影響力の大きさがうかがえます。
 知念氏はそのポストに自著の宣伝をぶら下げています。
 
 一連の炎上を指すのに「ノイズ発言」とか呼ぶ人も多いですね。
 
 しかし、「ノイズ」という表現自体は、文脈を踏まえると問題はないのでは……という指摘も繰り返しなされています。
 
 例えば以下の記事。
note.com
 朱夏論氏は吉田氏を批判する立場です(後に取り上げるつもりですが記事を改めます)。

 知念氏らはこの部分(「ノイズ」発言。引用者註)を問題視しているようだが、脚本家がマルチメディア展開の中で、メディアに応じた内容の取捨選択をすることそのものはなんの問題もない。
 ノイズという表現も、「そぎ落としたほうがより良くなる部分」という意味では、編集者や脚本家といった人々が職業的に使用する言葉としてやや穏当さに欠けるきらいはあるものの、さして問題視すべきものとは思われない。

 批判する立場だけどこう言ってるわけです。

 まことに。
「きらら四コマからTVアニメに移るに際して、媒体や想定ターゲット層を考慮して表現を調整する必要がありました」
 というだけの話で、決して
若い女の裸は私からするとノイズ」
 とか言ったわけではありません。
 
 そもそも、ご本人が記事の中で
「過激な作品やR18まで振り切ったものがあってもいい」
「そういう描写が売りの作品ならいいけどぼざろはそうでないので」
 と言っているのです。
 
 憶測ながら、
「ノイズだなんて原作者に失礼だ!」
 って騒ぐ人、知念氏のツイートをリポストした人の9割は記事を読んでないと思います。
 ことによると、アニメぼざろも見ていない人が過半数なのではないでしょうか。
 
 なお、同じく特定の単語を問題視する派閥として、
「制作者側が覇権とか言うのは下品だよ派」
 がいますが、はるかに少数です。
 
 たぶん、その派閥に入るにはちゃんと記事を読む必要があるからだと思います。
 
 ……ところで、先ほど「最大派閥」という言葉を使いましたがこれは嘘です。
 
 本件で本当の最大派閥は、
「ぼざろのアニメ、面白かったよねえ。炎上? 脚本家? いや、脚本家が誰とかあんまり詳しくないけど、2期あるのかな。あるなら成功するといいよね」
 って人たちだと思います。

吉田のせいで駄作になったよ派(change.org派)

 一期が大成功に終わったにもかかわらず、二期で吉田氏を降板させるべきだ、吉田は謝罪せよ、というネット署名があります。
www.change.org
 この署名は、「ノイズ」を問題にしたり思想を問題にしたりと、複数の派閥の主張を含んでいますが、ひとまず特徴的な部分。

 吉田恵里香氏は、自らが参加したアニメ「ぼっち・ざ・ろっく」において、原作に描かれている主人公の氷風呂入浴シーンを「作品に不要なノイズである」と判断し、原作者であるはまじあき氏の表現を軽視して検閲・変更し、それをアニメ制作側の立場から圧力をかけることによりはまじあき氏へなし崩し的な実質的変更の強要を行いました。これにより、原作の精神や意図が損なわれ、原作ファンの期待を裏切る結果となりました。

 個人的な好き嫌いはあるでしょうが、全体としてみた場合、本作は原作ファンからも高い評価を得ており、
「原作の精神や意図が損なわれ、原作ファンの期待を裏切る結果」
 というのはおよそ事実に反します。
 
 もちろん個人的な好き嫌いはあるでしょうが(大事なことなので2回)。
 
 このような、吉田氏の意図を知ってから事後的に作品の評価を下げるのは、ある種の歴史修正主義です。
 
 アニメの話で「歴史修正主義」などとは大げさかも知れませんが、この署名を含め、「修正」しようとする側が、「政治的意図」を問題にしているのを見るとそうも言っていられません。
 
 なお、「吉田氏の意図を知って、事後的に作品の評価を変える」と言えば、かの暇空氏もその一種です。


 放映当初は「きらら漫画はアニメで見るべき」と肯定的に評価していたにもかかわらず、吉田氏のフェミニズム的意図が判明するや「見ていなかった」ことになってしまいました。
 
 しかし、幸いなことに、このような人々の数はそれほど多くありません。
 
 件の署名に賛同している人は、現時点で800人足らず。
 むしろ、ネット署名の方がネットまとめで晒されて炎上する事態になりました。
 
 やはり、「ぼざろは名作」という評価を事後的に覆すのは難しいのだと思います。
 
 ところで、こういう人々を念頭に、以下のコメントを書きました。
b.hatena.ne.jp
 そしたら、なんかこのコメント自体が「人気コメント」に入って注目を集めてしまってですね。 
 気を取り直して次。

吉田は貢献してないよ派(寄生論者)

 アニメぼざろが名作だったことは認めつつ、そこへの吉田氏の貢献、影響力は乏しかったと主張する人々です。


 しかし、よく考えると不可解な話です。
 
・ぼざろは名作。
・吉田氏の影響は(良くも悪くも)小さかった。
 
 ……じゃあ、あえて吉田氏をやり玉に挙げる必要は一体……? 
 
 表面上、この人々の主張は
「例のトークショーで吉田がさも自分の手柄のように言ってたのが気にくわない」
 という話です。
 
 なるほど、作品は脚本家だけで作るものではありません。
 監督や声優、アニメーターなど、無数のスタッフが関わっています。
 
 ただ、ぼざろのアニメ放映当時、原作から変更された点について、ひとつひとつまとめたブログがあります。(8話まで)
  
kc1game.hatenablog.com
 ネット署名にせよ後述する栗下議員にせよ、吉田批判を繰り広げる人たちの多くは、「氷風呂のシーンで水着を着せた」というのが唯一最大の改変ポイントであるかのように言っています。
 しかし、このまとめを見ればわかる通り、実際には大小無数の変更点があり、水着はむしろ些細な変更に過ぎないことがわかります。
 
 例えば、

・ぼっちちゃんの心の声追加(私、次も居ていいんだ…!)
・虹夏ちゃんの台詞が追加された(ぼっちちゃんにも良い箱だと思ってほしい)
・ぼっちちゃんがお客さんの目を見て接客するシーンがギャグシーンではなく真面目な形になった
・喜多ちゃんを引き留めるシーンが大幅に変更された
・原作では、アーティスト写真を撮る回と、ぼっちちゃんがリョウに歌詞を見せる話は完全に別な話となっているのだが、アニメ4話では見事な構成でそれらが関連付けられた

 等々。
 
 そして、それらの改変が作品をよりよくしている、と評価されています。
 
 もちろん、変更には監督や原作者などの意向もあったでしょうが、それにしても、ここで脚本家の関与から目を逸らす方が無理ではないでしょうか。
 
 アニメぼざろが名作で、原作からの改変が功を奏したのなら、脚本家にも賛辞を送るのが当然だと思うのですが。
 
 まあ……要するにフェミニストに功績があったことを認めたくない」ということなのだろうな、とは思います。
 

思想持ちは出て行け派(旧change.org派)

 さらに露骨な人々。
 
 例のネット署名、当初は
「“思想持ち”はアニメにいらない」これを合い言葉に、アニメを思想のプロパガンダメディアにさせないため、一緒にがんばりましょう!
 とか書いていたのですが、自分がネットで炎上すると、
「“過激な危険思想" “表現規制・表現の検閲”はアニメにいらない」
 に書き換えています。
 
 危険思想て。
 
 もうぼざろとかどうでもよくて、とにかく「フェミニストは出て行け」。
 
 このような、アンチフェミニズムが動機で吉田批判をしている、と公言する人は多くはありません。
 
 しかし、実際にはそれなりの数がいるのかも知れません。
 
 先ほど畳んだ部分の中で引用した
 
id:KIKERIKI17 炎上理由の「ぼざろ脚本家に作品に介入するレベルの強めのDEI思想が判明」を極論拾って「ぼざろは駄作とされた」と言い換えてまで、今回の件をズラしたいのかねぇ。こういうのこそ「曲解」ではないかね。
 
 というコメントも、吉田氏の炎上理由は「DEI思想」だとしていますね。「ノイズ」でも水着でも、自分の功績を述べたことでもなく。
 
 類例として、栗下善行氏(東京都議会議員)は、以下のように述べています。


 以下機械翻訳

人気アニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」の脚本家が、原作の一部を「ノイズ」として削除したと主張するインタビュー記事が日本で物議を醸しています。
また、キャラクターの性的搾取を避けるよう努力したと述べ、自身の思想が作品に取り込まれていると示唆しています。
これは、ローカライズ担当者が自らの思想を体現するために作品を改変するのと似ており、日本でも同様の問題が発生しています。
昨年、日本で、原作に望ましくない改変が加えられた漫画家が悲しみのあまり自殺するという痛ましい事件が発生しました。
原作者がこの事件をどう受け止めているかは定かではありませんが、これらの作品のファンは原作が忠実に再現されることを期待しており、それ以外の意図の混入は「ノイズ」とみなされるでしょう。
消費者として、原作者への敬意がより一層高まることを期待します。

・セクシー田中さん→ドラマ制作側が原作者との意思疎通を軽視した結果、最悪の事態に至った。
・ぼざろ→アニメ制作側と原作者が緊密かつ良好な関係を築いて大ヒットした。
 
 この2つを意図的に混同するのも悪質ですが、やはり栗下議員も「思想」を問題にしています。
 
 言動でも作品でもなく、「思想」それ自体を問題にする議員……。
 
 ともあれ、事実を歪曲して炎上を狙った栗下議員の行いもまた、例のネット署名と同様、自分が炎上する形になったのは幸いと言うべきでしょう。

いったんまとめ

 ここまで見てきてわかるように、吉田氏を批判する人々の主張は、

・「ノイズ」という言い方が問題だよ。
・いいや問題じゃないよ。
・吉田のせいで原作ファンを裏切る内容になったよ。
・いや吉田に影響力なんかなかったよ。
 
 ……と、相互に矛盾しています。
 
 これに加えて、後の記事で取り上げる予定のCDB氏の見解を加えると、

・検閲だよ。
・あんなの今の日本ではごく普通の自主規制だよ。それを殊更に言う吉田がおかしいんだよ。(CDB氏)
・吉田は性的表現を削ったよ。
・いやむしろ性的になったよ。(CDB氏)
 
 という軸も加わります。
 
 これだけ矛盾しているのにお互い対立せず、一貫して吉田氏に矛先が向いているのは、「後出しポリコレ」の衝撃がそれだけ大きかったのだろうと推察します。
 
 そして、これだけバラバラなことを言っている人たちが、それぞれに
「自分の意見こそ本質を突いており、これが炎上の本題だ」
 と信じています。
 
 前に取り上げた法華狼氏の記事。
hokke-ookami.hatenablog.com
 こちら、吉田氏への様々な批判をかなり網羅的に取り上げているのですが。(この記事を書くにあたってだいぶ参考にしました)
 
 ところが、その「網羅」に漏れた人からは

lshdagfljhsadfl 原作・原作者・原作ファンを性的搾取だのなんだの侮辱してるのが問題だって何度も言われてるのになんでそれについて反論しないんだ?
 
irukutukusan 頑張って長文書いてるけど、最初から批判されてる点を間違えてますよ
 
Yagokoro この件は表現の話ではなく、脚本家が表に出てきて原作物のアニメなのにも関わらず余計な政治的主張をカマしたから炎上しているだけ。フェミだろうが反ワクだろうが反韓だろうが一緒
 
cu6gane 権限のないトコロを自身の意見で通したかの様にトークイベで"後出しで"(ココ重要)宣ったのがアレ俺詐欺めいてんだろって話じゃろうに、ノイズ云々は除去とか言いつつ別のノイズ作ってる矛盾にツッコミされてるワケで
 
whichi 批判の的が何所にあるか分からないと擁護も的外れになる。吉野家の“シャブ漬け”の件を「牛丼は真っ当に作られている」だとか「これの発言者が牛丼を作っているわけではない」だとか擁護しだしたら噴飯ものだろう。

 ……というように、
「私の思う『批判の本質』に言及していないので的外れだ」
「話を逸らしている」
 みたいなことをそれぞれバラバラに言われてしまうわけです。
 
 ここで挙げた人たちも、互いに違うことを「本質」だと言っているのがおわかりと思います。
 法華狼氏にはご同情申し上げるしかない。
 
 そして網羅的だけに
「長すぎる」
 とか言い出す人もいます。まことにご同情申し上げます。
 
 この記事も、本当は前の記事で取り上げた朱夏論氏とCDB氏の記事にも言及したかったのですが、いい加減長すぎるので記事を分けたいと思います。
 
 もう誰も読んでないかも知れませんが、ではまた。
 

(続き書きました)
filinion.hatenablog.com
 
*追記
  ブコメでcolonoe氏に「『搾取』という要点を無視している」と指摘されてしまいました。
「搾取」云々については、朱夏論氏の記事が問題にしているので、それを取り上げる際に触れるつもりでした。
 
……と、オーナーコメントに書いたけど読まない人も多かった模様。
 スマホからの人が多いのかしら。
スマホから、あの長かったりURL貼り付けたりするブコメ書いてるのすごい)

*1:当初、ここにid:Shin-Fedor氏の
「これぞ藁人形。だから俺はいつも誰かを吊し上げ矛盾や欺瞞を指摘したいんなら実在する個人に話しかけろと言っている/filinionはおかしいが、吉田さんは別におかしな事言ってないし因縁付けられて大変だなと思ってる」
というブコメも含めていたのですが、氏から
「似たようなことを言っている人がいる、と示しただけでは、藁人形論法でないことの証明にはならない。藁人形論法の意味を誤解している」
という指摘をいただきました。(https://shin-fedor.hatenablog.com/entry/2025/10/16/093603 )おっしゃるとおりで、冷静さを欠いていました。今も欠いてるけど。お詫びして訂正します。