アビドスの住宅街
アスカ「あー……なんか、妙に疲れた……」
取引の後、俺とホシノさんは、学校に戻ろうとアビドスの住宅街を歩いていた。
あの大人、妙な緊張感がある。不気味というか、隙を見せたら漬け込んで来そうな……あいつは要注意だな。でもそれよりもホシノさんが怖すぎる!なんだあの威圧感……敬語使わなかっただけであんな変わるもん??こんなに可愛らしい女の子が、あんなヤクザみたいな人間になるなんて……前の世界じゃ想像もできないな。
ホシノ「……丁度良いですし、貴方の家に行きましょう。ユメ先輩への連絡は此方でしておきます。」
アスカ「おお!俺の家か!」
そういえば、色々重なって家に行けていなかったな……やっとマイホームとご対面ってわけだ!
家に向かうために、ホシノさんが方向を変えて歩き出した。
ホシノ「家事とかは大丈夫なんですか?」
アスカ「一通りできるよ。あんなクソみてえな家に居たら家事できなきゃ死ぬよ」
ホシノ「……そうですか」
そう聞いて、ホシノさんは少し複雑な顔をした。正直、そんなに気にしなくていいんだがなぁ……。
少し歩いて、ホシノさんの足が止まった。どうやらここが家らしい。見た目はごく普通の平屋の家だ。結構小さめの見た目だが、一人暮らしするなら全く問題ない大きさだろう。
ホシノ「ユメ先輩、来るのが遅れるそうなので先に入っておきましょう。」
アスカ「おー!初めてのマイホームだー!」
俺は初めてのマイホームに興奮して両手を挙げながら喜んだ。
ホシノ「五月蝿いですよ。静かにしてください」
アスカ「はい……」
が、流石にうるさすぎたのか、ホシノさんに突っ込みをもらってしまった。
ホシノさんが、ポケットから鍵を出し、それを家の扉の鍵穴に差し込んで回すとガチャ、と音が出る。そして取っ手を引っ張り、扉を開けた。中に入ると、やはりごく一般的な家庭の家という感じだ。入ってすぐ左にはリビング、右は個室、真っ直ぐ進んで突き当たりにはトイレがある。
アスカ「すっげえ……家だ……」
ホシノ「何故当たり前のことを然も凄いことの様に言ってるんですか……」
まずは左にあるリビングに入ってみた。大きめのソファが置いてあって、それと向かい合う様にテレビが鎮座している。……待て、なんで家具とか買ってないのに置いてあるんだ?!
アスカ「家具が置いてある!?なんで!?」
ホシノ「どうやら、この家は借金を踏み倒していた人が住んでいたらしく、ある日家に押し入られてそのまま連行。ある程度片付けられてはいますが、家具なども長い間そのままだった様ですね。噂によると、「借りた金を、何故返す必要がある…!」と言いながら連行されていったらしいです。面白すぎてアビドスで一時期話題になっていたとか」
アスカ「……なんか聞き覚えがある様な……まあいいか」
リビング内の右を見ると、玄関からでは分からなかったが台所があるようだ。これもごく普通で、水が出てくる蛇口とガス式のコンロ、下には調理器具や食器を入れる為の引き出しとthe・台所という感じの構造だ。
アスカ「こりゃあ料理が楽しみになってきますね」
ホシノ「その前に調理器具などを買う必要がありそうですね」
リビングと台所は見れたので、次は個室だ。リビングから出て、廊下を挟んで向こう側の扉に入った。
こちらもリビング同様、当たり前の様にベッドが置いてある。まあ……無料で使えるからお得……と思っておこう。他に置いてあるのは、個人用の机ぐらいだろうか。ベッドの近くと机の上には小さなライトがあり、暗くてもあれをつければ日記なども書けるだろう。
ベッドには、とてもフカフカであろうマットレスが置いてある。疲れた体をしっかり癒せるであろうそのフカフカのベッドに身を沈めた。
アスカ「このベッド……気持ち良い〜……」
やばい……急に眠気が……
ホシノ「家の内覧も終わりましたし、ユメ先輩が来るまで休憩していましょう」
そのホシノさんの声を最後に、意識は闇へと吸い込まれていった。
アスカ「zzzzzzz」
よっぽど疲れていたのか、アスカはベッドで寝そべってからものの数秒で寝始めた。
ホシノ「…………」
静かな部屋に、寝息の音だけが漂う。
アスカが持っていたマカロフを取り、動作確認をしてから小さな机の上で分解し始めた。先程の戦闘で、少し汚れていたので掃除しようと考えたのだ。寝息の音が漂っていた部屋に、鉄の音が加えられた。
マカロフの分解をしながら、ユメ先輩を待つ。家の内覧で時間が消費されていたので、もうすぐ来るだろう。と思いながら、マカロフの分解を終えると、次は筆を取り出して清掃を始めた。
分解した部品を一つ一つ丁寧に掃いていくと、黄金色をした砂が落ちてくる。私と戦闘した時に付いたアビドスの砂だろう。全てを掃き終えた頃には、机の上に小さな砂の山が出来ていた。塵も積もれば山となる、とは良く言ったものだ。
掃除した部品を全て組み立て、動作確認をすると、砂のせいで少し動かし難かった遊底が滑らかに動くようになった。
動作確認も終わり、アスカの近くにマカロフを置いてから時計を確認すると、家に入ってから30分が経過していた。ユメ先輩もそろそろ来る頃合いだろうか。
アスカの方を見る。私とほぼ同じぐらいの長さのウルフカットの髪型、中性的な顔。実に整った顔をしている。知らない人からしたら、女性に間違えることもあるかもしれない、それぐらい中性的な顔をしている。
…………酷い過去を持っている様には見えない位に、幸せそうな顔をしている。どんな夢を見ているのだろうか。少なくとも、外の世界の夢で無いことは確かだろう。
そんな事を考えていると、玄関から何やらガチャガチャと聞こえる。ユメ先輩が来たのだろうか。玄関のドアを開けると、ユメ先輩が肩で息をしていた。
ユメ「はあ……はあ……アビドスから急いで走ってきたから……疲れたよ〜……」
ホシノ「お疲れ様です。今アスカが寝ているので、静かにお願いします」
ユメ「え!?そうなの!?静かにしないとね……」
ホシノ「お願いしますよ……」
この先輩に、静かにすることなど出来るのだろうか……と、少し酷いことを思ってしまったが、まあ大丈夫だろう。
ユメ「お邪魔しまーす…………寝顔、可愛いね……」
ホシノ「……」
ユメ先輩に可愛いと言われたアスカに嫉妬していると、アスカの身体がむくっと起き上がった。
アスカ「…………おはようございます」
ユメ「うひゃあ?!アスカ君起きてたの!?」
アスカ「ええ、まあ……あはは……」
なんと、既に起きていたらしい。と言うことは、もしや………
ホシノ「……いつから起きてたんですか?」
アスカ「ホシノさんが部屋を出て行った時ぐらいかな」
ユメ「じゃあ、あの可愛いって言ったのも……」
アスカ「バッチリ聞こえましたね」
やはり、聞こえていたらしい。ユメ先輩の顔がみるみる赤くなって、湯気が出そうなほどになっていた。
ユメ「忘れて!!!////」
恥ずかしがったユメ先輩がそう言った瞬間
アスカ「オラァ!オラァ!」
なんと、アスカが急に頭を叩きつけ始めた。
ドン、ドンと、鈍い音を出して、額を壁に押し付ける様に叩きつけていて、とてつもなく痛そうで、見てられない。
ユメ「ちょ?!何してるの?!」
ホシノ「馬鹿じゃないですか?!」
アスカ「え、いや、忘れろって言うから……」
急いで止めると、額がとても赤くなって、皮膚に壁の模様がしっかりと刻まれていた。
(どんな勢いで叩きつけてるんですか……)
そんなことを思いながら、呆れながら、アスカを羽交締めにする。
ユメ「そこまでしなくていいよ?!……そ、それに、別に、本心……だし……」
アスカ「なんか言いました??」
ユメ「な、なんでもないよ!////」
アスカ「そうですか……」
なんと言ったのか分からなかったが、まあ良いだろう。にしても、忘れろって言われたから頭をぶつけるって……馬鹿すぎる……。
ホシノ「はあ……もう、やめてくださいよ。自分を傷つける行為なんて見たくありません」
アスカ「……明日は槍でも降るのかな。ホシノさんがそんなことを言うなんて……」
本当にこいつは……一度ぶん殴った方が良いかもしれない。顔の原型が見えない程に。
拳を握って、アスカに向けて構えた。
ホシノ「今から貴方を殴ります。異論は無いですね」
アスカ「ちょちょちょちょ待って!?落ち着いて!?止めろ!!こっちに来るなああああ!!!!!!」
ユメ「落ち着いてホシノちゃん!?アスカ君も本気で言った訳じゃ無いだろうから!」
ホシノ「……ユメ先輩がそう言うなら……」
ユメ先輩がそう言うのなら、仕方が無い。アスカはユメ先輩に感謝するべきですね。
アスカ「あー……ユメ先輩のお陰で命拾いしました……」
ユメ「アスカ君も、ホシノちゃんは優しいんだから!そういうことを言わないの!メッだよ!」
アスカ「はぁい」
腑抜けた返事をしたアスカに肘打ちをして、ユメ先輩の近くに移動した。
アスカ「イテッ」
ホシノ「ちゃんと返事をしてください」
アスカ「はい……」
ユメ「あはは……って?!今気づいたけど、外真っ暗だよ?!」
窓を見ると、空が紫とオレンジに染められていて、周囲はかなり暗くなっていた。
ホシノ「本当ですね。かなり遅くなってしまいました」
アスカ「今日から此処で1人暮らしかぁ」
ホシノ「そうですね、頑張ってください。困った時はいつでも連絡を……と言いたい所ですが、スマホがないのでまだ無理ですね」
アスカ「大丈夫ですよ。家事は一通り出来るんで、任せてください」
アスカは腕をまくり、ぶんぶんと振り回しながら答えた。余程自信がある事が分かる。
ユメ「そろそろ帰ろっか!このままだとお日様が落ちて真っ暗になっちゃう!」
ホシノ「そうですね。では、また明日」
そう言って、外に出ようとした時だった。
アスカ「あ、ホシノさん。銃のお手入れありがとうございます」
ホシノ「………良く気付きましたね」
メンテナンスをした事に気づいていたらしい。マカロフを持って、こちらに感謝の言葉を述べてきた。
アスカ「起きたら銃についていた砂が全部落ちていたんで、やってくれたんだなって」
ホシノ「暇だったのでやっただけです。そこまで恩義を感じる必要はありませんよ」
アスカ「でも、ありがとう」
ホシノ「……いえ、気にしないで下さい」
アスカは、妙に恩義を感じる性格らしい。どんな些細なことでも感謝の気持ちを忘れない。
……心の底から優しいのだろう。
ユメ「ホシノちゃんとアスカ君も、仲良くなっているみたいだね!じゃあ、明日は学校集合ね!バイバイ!」
アスカ「了解です。さよなら〜」
そうして、ユメ先輩と一緒に家に帰った。流石に心配だったので、ユメ先輩の家まで着いて行ってから、砂漠のパトロールを軽くして家に帰った。