単刀直入に言うわ。どうすりゃ俺っちの青輝石だけでも助かるんや?
やや遅くなりましたが...誤字報告・感想ありがとうございます。
UAも1000を達成致しました。皆様のお陰です。
当初は辻褄合わせの為に細かい場面まで描写するつもりでしたが、小説全体のテンポが悪くなるために本編キャラクターとの絡みを優先することにしました。
細かい部分については余裕ができ次第、「はじまり」の章に追加していきます。
1:技術者のロマン
扉を開け、広大な部屋へと踏み込む。
中では多くの生徒が、機械や工具、設計図と向き合っている。
その中でも、入口の正面では...藤色の髪の生徒が、さながら金床の形状をしたロボットの整備をしていた。
「やぁ、マックスさん。部長の白石ウタハだ。
こうして直接顔を合わせられて光栄に思うよ。」
「今日はよろしく。身体拡張部の紹介で来たんだが、ここはハードウェア全般を扱うみたいだな?」
「我が部の活動はミレニアムに留まらず、他の自治区にも事業を展開している...私を含め「マイスター」が多数所属していることもあり、ミレニアムでも有数の影響力を誇ると自負しているよ。
分野を身体拡張ギアに限定するなら、神経工学部は私達のさらに上を行く技術力を持っているという事実は認めざるを得ないけどね。」
神経工学部の発明は、最先端中の最先端を行く集団のリーダーをも唸らせるようだ。
専門性よりも汎用性が強みで、なおかつキヴォトス全域に影響力を持つ
エンジニア部も大概だが。
「あの部もポテンシャルは一線級だな。
与太話もなんだし、早速見学させて貰うよ。」
「コイツは?見た所ライターのようだが...」
「おぉ、新作の『粘燃くん』に目をつけられましたね!
こちらについては私、豊見コトリが説明しましょう!」
フレームが涙型に垂れた眼鏡の生徒が、食いつくように割り込んできた。
「丁度良い。説明を頼むよ。」
「はい!この『粘燃くん』、最大の強みはその燃費!
何と22時間もの間、点火したままでも炎が持続します!
名前通り粘り強く燃やせるんですよ!
その秘密は...ズバリ!独自の機構による緻密な温度調整にあります!
燃焼温度について触れるとなれば、まずはそちらから解説しなければなりませんね!不完全燃焼はご存知ですか──」
「...オーケィ、とりあえず基礎知識の部分は省いてくれるか?
俺とて技術者の端くれだからな、そこら辺は把握してるつも──
「燃焼されない物質は燃焼の妨げになるだけではありません。人体に有害な──」
...聞いてるか?もしも〜し。」
...これ、1から10まで延々と説明されるパターンだな。
ライターを見つけたあたりからこちらを見つめていた別の生徒がいたので、右マイクで一応は解説を拾いつつ彼女と向かい合う。
「ごめんなさい。うちのコトリ、解説し出すと止まらなくて...」
「情熱があるってのは良いことだ。
それより、さっきから解説役を代わりたくてウズウズしてた様子だな。君がこのライターの製作者ってとこだろ?」
「...!」
「それなら、君には核心の部分で解説を頼もうか。二人くらいなら同時に話してくれても聞き取れるからな。」
「ありがとう。それなら横から解説させて貰うね。」
犬耳の生徒の目に宝珠の如く光が差した。
「つまり、燃料等の外力に頼らず温度を適切に保つ機構が必要になる訳です!そこで我が部は新素材開発部と──」
「妙な位置にレバーがあるな...ヒビキ、ここ引くとどうなる?」
「それが『粘燃くん』の目玉機能。
付近に?こちらを3秒間かけて押し込んだ上でレバーを引くと、ノズルの部分が...
スライム発射モードに変化するんだ。」
「先程、スライムが吸熱材となると解説しましたね?こちら、消火剤としても優秀な性質を持っているんです──」
「...ん?
何の為にライターに仕込んだ?」
「万一燃え広がってしまっても、これなら消火に使える。
何より、物体を燃やし削る炎と、物体に貼り付き覆うスライム...」
「ライターと消火器との融合...。何と言っても...」
「「相反する要素の共演はロマン
よく言えば柔軟な発想が生かされているのだが...だとしても遊び心が過ぎる。
手の届きにくい位置にあったり、トリガー同様安全装置が取り付けてあったりと…
変な所に良心が残っているから余計にタチが悪い。
「...部活内で作ったモンだし、ライターとして体裁を保ってんならいいんじゃないか?
他の発明品だって、誰かに依頼されて発明してる訳じゃないんだろ?」
「偶に学園からの要望がありますが、大体は。」
「要望を受けて作る方は、もちろん真っ当なものだろ?」
念の為投げかけた言葉に、部員達が一斉に目線を逸らした。
「ハァ〜〜。あのだな?
クライアントの要望にそのまま応えるのは基本中の基本だろ?その“要望通り”ってのも、それ以上の事はするなって意味なんだよ。例えばだな...老後の隠居生活を共にする壁掛け時計を作れって依頼が届いたとするぞ?要求されてもないアラーム機能とか着けたら老体に──」
技術者として流石に看過できない部分があったものだから、スピーカーの音圧を跳ね上げてしまった。
都市の工房において、顧客にオーダーメイドの発明品を作る機会は滅多にない。
品を売るにはトレス協会*1の審査が要るし、一生に一桁台作るか作らないかのモノは...いちいち登録しておくにはあまりにも多くの面倒事を生み出すから。
それでも依頼として多く報酬を受け取る以上、製造には最高の満足度を受け取る前提で取り組まねばなるまい。いずれプロを志す卵達には、何としてでも叩き込んでもらいたい精神だ。
「...ヒートアップしちまった。ここの自由な発明方針を貶すつもりはないが、発明に顧客が絡めば話は別だ。一介のエンジニアとして、ここだけは覚えてもらいたいものだね。」
「耳の痛い話ですが...ごもっともですね。」
「うん...できる限り気をつける...。」
根は純粋な子供達だ。
必要な灸を据えた筈なのに、余計な罪悪感が芽生えてくる。
エンジニア部の発明品を鑑賞していると──
突如、部室の入り口からノック音が聞こえた。
「お邪魔します!アリス、スーパーノヴァの点検に参りました!」
来客は、床に着くまでに長く伸ばされた黒髪が特徴的な生徒だった。
「こんにちは、アリス。すぐ点検に取り掛かろう。」
「あ、初めて合う人がいます。アリスは新たなNPCとエンカウントしました!
はじめまして、ゲーム開発部の天童アリスです。
アリスと同じ、光の剣に選ばれし者だと聞いています!」
ゲーム開発部。プライズでは審査員賞を獲っていたな。
「光の剣…腕の装備のことだな。
おそらく君の持つそれとは、性質からして別物だろうが。」
その小柄な体躯に見合わない重厚な兵器。
紐に括りつけて携帯しているのを見るに、固定せず己の腕で抱えて使用するようだ。
「こちらのレールガン、名を『光の剣:スーパーノヴァ』。元は我が部が総力を挙げて開発した、宇宙戦艦搭載用の兵器です!」
「まぁ、予算の都合上これしか作れなかったけど...。」
「形状から明らかに手持ちで扱うもんじゃねぇとは思ったが、まさか戦艦規模の砲台だったとは。それを個人の武器として扱うとか、只者じゃねぇな。」
「はい、アリスは剣に選ばれし“勇者”ですので!」
これを生身の一般人が扱うとなれば、どれほどの強化施術を重ねればよいだろうか。
生徒に宿る“神秘”とやら...底が見えないな。
「そうだ。...マックスさん、
スーパーノヴァを修理している間、我々にあなたの装備の研究をさせてくれないだろうか?
以前に処分し損ねた戦闘用ドローンを何機か用意する。あなたには模擬戦を行ってほしいんだ。」
「マックスさんの持つ光の剣...見てみたいです!」
模擬戦ねぇ...。
騒ぎを起こして目立たないよう、ブラックマーケットでは戦闘を控えていた。
肩慣らしには丁度よさそうだ。
「おうよ。設計を盗まれる訳でもない、分析だけならタダだ。」
前方には数十のドローン。いずれもタレット等による遠隔攻撃手段持ち。
物量を考えると、正面突破は賢明な戦術ではなさそうだ。
足元のブースターを起動し、遮蔽物から飛び出す。
数多の銃口が、姿を表した俺を一斉に捉える。
流石はエンジニア部のドローン。凄まじい反応速度だ。
跳躍前にあらかじめ生成しておいたブレードを後方に構える。
右半身のブースターを強めた勢いで全身をひねる。
こちらを捉えた数発の弾丸を躱しつつ...
虹に輝くブレードを、ドローンの一体へと投擲する。
「剣を投げた!?」
「投げナイフに似た形状...どうやら投擲による遠隔攻撃としての運用を前提にしているようだね。」
軌跡を残して推進するブレードは、獲物の外殻へと刺さり込むと...
バチチチッ!!
激しく放電させたのち、墜落させた。
「ドローンを破壊...いや、内側に破壊された跡がない?」
「あの剣が電気を吸い込むのを見ました!ドローンのMPを吸収しているようです!」
跳び出した勢いで、俺はそのまま次の遮蔽物へと隠れる。
敵の進軍は緩やか。
このままドローンを各個撃破していっても、処理が間に合わず追い詰められることはないだろうが...
一機ずつ相手にするのはキリがないし、何より華がない。
折角観察対象になった所だ。
ここはひとつ、パフォーマンスといこうか。
遮蔽物の横へ突っ立ち、電力を極限まで制限して虹漿を精製する。
遮蔽物へ牽制射撃を行なっていたドローン達が、再びこちらへ視線を向ける。
「マックスさん?そこに立っていれば集中砲火を...!」
「いや、彼はそれを狙ったみたい。」
「え?」
弾丸の雨が、横殴りに俺へ降りかかってくる。
鉄の肉体とはいえ、受ければひとたまりもない弾幕だが...
前方に虹漿の膜を広げ...
あえて全身で銃弾を浴び、受け止める。
表面を通して、のしかかる銃弾の衝撃が内部まで振動する。
夥しい鉛玉が機体を削るより先に...
全身に張り巡らせた虹漿は衝撃を吸収し、蓄える。
──頃合いだな。
ヴンッ
「突然マックスさんが消えました!?」
「上だ!既に跳躍している!」
天井へと舞い上がり、俺を見失ったドローンの群れを見下ろす。
未だ有り余るエネルギーを頬張った虹漿を手元に集め、両腕にブレードを形づくる。
投擲。生成。投擲。生成。
群れの中央に投げ込んだブレードの数々が、一際大きいドローンへと刺さっていく。
ドローンが襲撃を感知し頭上へカメラを傾けるが、もう遅い。
「チェックメイト。最後の仕上げだ。」
余ったエネルギーで天井を蹴り、光の剣山へとダイブする。
着地の衝撃に耐えかねたブレードは...
根本から破裂し、煌めく爆風を撒き散らす。
一機残らず、正確に吹き飛ばして。
ドオォォン
「ケホッ...あの一瞬でドローンが全滅!?」
「これが彼の実力か...想像以上の結果を観測させて貰ったよ。」
受け止めた爆風を肩替わりする役目を終えた虹漿を排出し、
俺は観客達へと振り向いた。
「一丁上がり。満足するデータは集められたか?」
「建物の損壊なし...あれだけの衝撃を分散させず、標的だけに与えたの...?」
「あくまでも客人の身だ。流石にそこに配慮せず暴れ回る訳にはいかねぇよ。」
「言い換えれば、あれでも手加減していたって事ですよね?マックスさん、こんな強かったんですね...。」
「RTA走者のような無駄のない動きでした!
肩書きを付けるとするなら、マックスさんのアバターは全身鎧みたいですし...『虹色の騎士』でしょうか!」
『虹色の騎士』...。特色フィクサーのような響きだな。
色を授かるのは、フィクサー稼業をする上で一つの大きな目標だった。
異国の住民から偶然出たワードとはいえ...こう称えられるのは少々こそばゆい。
「高評価を貰えて何よりだが、こんなんでも上には上がいるもんだ。
強いといえば、君らのドローンもかなり手強かったぞ。開けた屋外だと絶対相手にしたくねぇな。」
リウの4課、下手すれば3課くらいなら軽くあしらえそうな品質と物量だった。あれでも現在生産した分の一部にすぎないというのだから、恐ろしいものだ。
それにしても、先程から違和感を感じる。
目の前にいるアリスという少女…
言い回しは風変わりな所があるが、その他はごくありふれた生徒のはずなのだが…
部員がアリスを取り囲んでいる隙に、離れた所で光の剣の修理に取り掛かっていた生徒へ耳打ちした。
「…ウタハ、妙な質問かもしれねぇが…
キヴォトスに人間そっくりの機械を取り締まる法律はねぇよな?」
「聞いたことがないね。…なるほど、マックスさんも同じ結論に至ったみたいだね。」
彼女にも思うところがあったのだろう。質問の意図をなんとなく察した様子だ。
「…その反応を見るに、可能性は高そうだな。」
──明確に人間の思考を持った機械。
ここは都市ではないと分かっていてなお、魂に刷り込まれた恐怖は俺を安心させてくれないらしい。
「マックスさんの故郷で、人間以外の知性体が禁忌に指定されていた話だね。
しかし...マックスさんの言う“人間”以外の存在なら、市民の方々も該当するはず。今更彼女を警戒するほど、ここで過ごした時間は短くないのではないかい?」
「なまじ人間に寄せてあるからこそ、胸騒ぎが止まらねぇんだよ。
温もりのない機械の姿が嫌で、外装を人工肌に張り替えようとした知り合いがいたんだ。…どうなったかは聞かない方がいいぜ?」
「義体保持者すら人間の外見を纏うことが許されない…どうしても機械に人間らしさを与えたくないようだね。シンギュラリティから成る機械の反乱でも恐れたのだろうか?」
「さぁな?
何考えてっかイマイチ掴めねぇんだよな、あの連中。」
「どちらにせよ、規定には大人しく従う他ないという訳か。
私達エンジニア部は、予算の限界に度々悩まされているが…
その話を聞くと…法も同等かそれ以上に、技術者を束縛する枷であると実感させられるね。」
「俺もそう思うよ。
…これ以上は周囲の耳に入りそうだな。ここいらでこの話題は切り上げるか。」
アリスの事情は深く知らねぇが…こういった話が本人に届くのはよろしくない。
「さて...。一通り機能の異常がないことが確認できたことだし、アリスちゃんに動作確認をしてもらうとするよ。」
今度は俺も観察させてもらうとするか。
彼女が何者なのか、何の目的で造られたのか...その手掛かりが見つかるかもしれない。
都市要素が薄いですねぇ...
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他の都市民を転移させろ!
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翼の勢力をキヴォトスにも!
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L社由来のアレコレを放つのです
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市民をねじれさせればおk
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語録差し込む程度でええんちゃう?
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んなもん持ち込むなオイ。