【ドラマと歴史改竄】Nスペ「シミュレーション」問題の当事者・飯村氏が語ったこととNHKが進むべき道
2025年10月14日、NHKスペシャル「シミュレーション」問題を巡って当事者の飯村豊氏とメディア関係者がシンポジウムを開催しました。
私もこの問題には関心があり、現地で参加。飯村氏ご本人と「シミュレーション」の制作フローや今後の展開などについて意見交換する機会を得ることができました。
この日の会場はほぼ満席。
新聞社・出版社・TV・映画などメディア関係者に加えて、政治家や歴史・外交問題に詳しい専門家や作家の方も参加されていました。こうした硬い内容のシンポジウムとしては異例の盛り上がりを見せていたと思います。
ちなみに、受付で名簿を見たら少なくとも2名のNHK職員が参加していたようでした(3名という説も)。質疑応答でも発言はしていなかったので、NHK側から送り込まれたスパイかもしれません。健全な問題意識を持った職員だと期待したいところですが…
Nスペ「シミュレーション」飯村氏の問題意識
シンポジウムは、飯村氏による本件ドラマ制作の経緯についての解説からスタートしました。
飯村氏によると、今回のプロジェクトのスタートは2020年以前のこと。監督の石井裕也氏と俳優の池松壮亮氏の両名が戦争を題材にした映画制作を計画したことが事の始まりだったといいます。
両氏は2022年ごろ松竹へアプローチ。しかし、クランクインまで漕ぎ着けるも何らかのトラブルで撮影中止になったそうです。
NHKが本件に関与したのは、飯村氏によれば2023年。池松氏がNHKに協力要請をしたことで映像化企画がスタート。この時、NEPやポニーキャニオンなど5社が参加し、ドラマの放送と映画上映の合わせ技で進められる構想が定まったとみられます。
スキームとしては「アナウンサーたちの戦争」と同じ。素材を使い回して劇場版も制作し、収益を得る一挙両得を狙ったと考えられます(ちなみに、両作品とも新延明がCPを担当)。
ドラマとドキュメンタリーは別企画だった?
ここから先、通常ではあまり考えられない形でプロジェクトが進行していきます。
「シミュレーション」はドラマパートと短いドキュメンタリーパートが合わさった番組で、飯村氏もドキュメンタリーパートではロケに出演されていました。
普通ならドラマとドキュメンタリーの制作は同時に進行し、ドキュメンタリー取材で得た情報をドラマにフィードバックしながら進んでいきますが、今回は違ったのです。
飯村氏がNHKから初めて取材の打診を受けたのは2024年秋のこと。この時はドラマ「シミュレーション」とは別で、外部の制作会社が終戦80年企画として飯村中将を扱ったドキュメンタリー企画の提案を出すにあたって協力要請があったそうです。
が、その番組提案は不採択。
これで企画自体が立ち消えになったと思いきや、2025年明けに事態は一転。先の制作会社から「10分のドキュメンタリー2本分の制作をすることになった」と飯村氏宛に連絡がありました。
この流れで飯村氏のインタビューロケは7月に行われます。
一方、ドラマ「シミュレーション」のクランクインは2025年3月末に発表。
4月には事故が発生し報じられるなど、一部で話題にもなっていましたが、飯村氏はドラマ企画についてNHKから一切知らされていませんでした。そのため、報道はされていても目に留まらなかったものと思われます。
その飯村氏がドラマについて初めて知ったのは、ご本人のメモによれば2025年7月21日のこと。7月16日付でNHKから発表された告知文を目にして驚いたそうです。
この時点で飯村氏はNHKに対して問い合わせを行うわけですが、「すでに番組は完成していてセットも廃棄済のため撮り直しや大幅な修正は不可能。テロップで対応する」旨の連絡を受けます。
やや複雑なのですが、情報を整理すると恐らくこういうことです(NHKから公式の発表が無いため、以下は私の推理も含みます)。
2023年以降:
石井&池松が企画したTVドラマ&映画「シミュレーション」の企画が進行
↓
2024年秋〜冬:
Nスペ終戦80年特集提案募集、制作会社がドラマとは全く無関係の「ドキュメンタリー」企画提案するもボツ。
↓
2024年末〜2025年初頭:
ドラマの脚本とロケ内容が概ねフィックスしたタイミングで、Nスペ事務局が「歴史改竄」を問題視。ボツにした80年企画提案の中に飯村中将関連の企画があったことを発見し、制作会社に「シミュレーション」のドキュメンタリーパートとしてショートバージョンの制作を依頼。
↓
2025年7月上旬:
ドラマ映像の完成を待って、歴史を改竄した箇所を弁明するかのような構成でドキュメンタリーパートのロケ。この時点で飯村氏はボツになったドキュメンタリーが実質的には「復活」したものとして対応。
↓
2025年7月末〜8月上旬:
飯村氏が問題を把握。NHKに協議を申し入れ面談が7回実施。NHK側は根本的な修正はせず、テロップとナレーションによる最小限の処理と組織防衛のための論理を構築。
↓
2025年8月16日/17日:
オンエア
↓
2025年8月末〜10月:
飯村氏による抗議、記者会見。BPOへの申し立て等の実施で事態がハレーション。
制作経緯に私が抱いた違和感
私はまさか2つの別企画をガッチャンコしたとは思っていなかったので驚きました。
さらに、オンエアでは穏やかな様子で飯村氏はロケに応じているわけですが、この時点ではドラマ版のことを一切知らされてもいなかったことも俄かには信じられませんでした。
オンエアを見る限り、ドキュメンタリーパートの飯村氏出演部分は、ドラマ版の内容の大筋を把握した飯村氏の抗議を受けて緊急制作された映像のようにも見えたからです。ゆえに、「腑も煮えくりかえるだろうに、随分と紳士的な対応をなされてるなぁ」とさえ思っていました。
まさかドキュメンタリーパートのロケクルーがドラマ「シミュレーション」の存在を知らなかったとは考えられませんので、飯村氏を騙し討ちするような形で取材をしていたわけです。
こんなパターン、通常では考えられません。
すでに映画も完成していた?
飯村氏のお話を伺う中で、さらにもうひとつ驚愕したことがありました。
それは、2025年7月末時点では映画化は公にはされていなかったものの、飯村氏がNHK側と面談する中で出た情報を総合する限り「映画もすでにほぼ完成していた」というのです。
尺を考えれば、ドラマの前後編とディレクターズカットを少し加えるだけで劇場版としては適尺ですから変なことはないのですが、あまりにも不誠実な制作過程です。
映画化をめぐる飯村氏のNHKへの要望
NHKスペシャル「シミュレーション」は放送されてしまったわけですが、飯村氏は今後の映画化に対して、NHKに対して次のような要望(抗議)をされています。
ドラマ内容をそのままにして映画化することは(飯村氏)としては受け入れ難い。仮に映画化するのであれば、当時の軍と政治とメディアの多角的分析などを盛り込むことで、史実に対して誠実な形で作り直すなどの要望を反映して欲しい。
もし決定権が石井監督にあるのなら、監督と飯村氏の面談機会を設けるほか、映画制作において制作陣との定期的な意見交換をするメカニズムを作って欲しい。
内容自体は至極真っ当です。
飯村氏はあくまで紳士的かつ理路整然とされていて、お話を伺っている限り、飯村氏がコミットした方がより重厚かつ意義深い内容になるように思われました。
シンポジウム参加者からは「もっと早くから対話していれば…」という趣旨の声も出ましたが、私も全く同意見でした。
今後予想されるNHKの対応
飯村氏は、NHKに対して他にも、理事との面談、謝罪・訂正なども求めているわけですがNHKとしてはどう出るのでしょうか?
実は、シンポジウム直前、飯村氏のもとに番組CPから対話を求める連絡があったことが明かされました。
普通に考えると、非公式の面談を通じて懐柔。仮にこじれた場合には、「平行線」になるように仕向けた上で、世間の関心が低下するのを待つ算段だと思われます。
NHKの認識の甘さ
ただ、今回の事案はそんなに簡単には済みません。新聞各紙やWikipediaにも「遺族反発」とありますが、それは事態を矮小化しています。
というのも、まずシンポジウムに参加された方々の顔ぶれを見るに、すでに政治や歴史に関わる重大課題として、各界のキーパーソンが認識しています。
参加して「なるほど」と思わされたのですが、お祖父様を卑劣漢に描かれた飯村氏ご本人の心情に関わる問題にとどまらず、「NHKが近現代史をどう捉えているか?」さらには、「日本という国家としての史実に対する向き合い方」が問われているわけです。
NHKが「フィクションだ!」といかに主張しようと、明らかに主題も登場人物も実在の人物であることが明白である以上、そのような弁明を社会が許容することはありません(そもそも、NHK自身が「史実に基づく」と喧伝してきた以上、その主張も矛盾しますが)。
敢えて汚い喩え方をしますが、「う○こ」と書いても、文脈から○の中が一意に定まるようなら意味が無いのと一緒です。
NHKは仮にも一国を代表する公共的メディアです。そこで報じられた内容は、「定説化」し、「日本国の総意」として対外的に看做されてしまうものです。
その観点からすると、戦後80年の節目にあたって、「日本は史実を捻じ曲げてエンタメ化し、誠実に向き合おうとはしない国だ」という認識が「シミュレーション」を契機に形成されてしまう恐れもあります。
となると、これはもはや個人の問題を超えた国レベルのイシューになってしまうわけで、NHK得意の「寝技」で解決するのは土台無理なのです。
【メンバーシップ】現実的な解決策は?
この問題がハレーションした背景には、様々な問題があります。
制作者側の気持ちに立ってみれば、「ドラマなんかよくわかんねーよ」、「原作者がOKならOKと思うじゃん」、「本を読んだ時点では手遅れだった」、「俺ごときが売れっ子監督と俳優に意見できるわけねーじゃん」、「受信料から損害賠償なんか払えないから強行するしかない」とか、色々言い訳はしたくなるでしょう。
Nスペは通常、20回以上は試写があります。ポスプロでの試写も合わせれば1番組あたり30回以上も管理職や幹部がチェックします。さらに、戦争関連の特集ドラマともなれば、放送センター本館4Fにある「オーディションルーム」という、映画館のような部屋での上級幹部試写会も行われます。
恐らく、数十回の立ち止まれるチャンスがありながらも、その時々、各々が違和感を抱きながらスルーしていったのでしょうね。
もしくは、NHKはリスクを未然に防いでも一切評価されない組織ゆえに、「鎮圧」の手柄欲しさに敢えて弾ける方向に誘導したのか…?
私からすれば「脇の甘い連中がイキリやがってざまあみろ!」って感じですが、そうして単にNHKを叩いても事態が建設的な方向に進むことはありません。
もし現実的な解決策があるとしたら?短時間とはいえ、飯村氏や関係者と対話した上での、私なりの考えを以下のメンバーシップ領域で記述します。
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