イスラエル人はホロコーストを経験したのに、なぜ戦争を続けてきたのかーー世界を覆う“暴力的過激主義”
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「誰かがおまえを殺そうとしているなら、先にその者を殺しなさい」
――ユダヤ教には命の尊さを強調する教示もありますよね。人命尊重です。その教えが戦争の歯止めになることはないのでしょうか。 先日、来日した「エルサレム戦略・安全保障研究所」主任研究員のエマニュエル・ナボン氏にインタビューしたときのことです。彼も確かに「ユダヤ教の大きな価値観の一つは人命尊重だ」と話していました。でも、もう一つ、他者を守るのと同様に自分を守るための重要な教えがある、と。それが「誰かがおまえを殺そうとしているなら、先にその者を殺しなさい」です。先制攻撃につながる考え方であり、ナボン氏も「自衛のためには必要だ」と話していました。
――そうは言っても、もはやハマスには大きな戦闘能力が残っているようには見えません。イスラエルの攻撃は「自衛」ではなく「過剰な攻撃」ではないでしょうか。 イスラエルはそうは捉えていないようです。この8月末に来日したイスラエル国会のアミール・オハナ議長へのインタビューで私も確信しました。彼はこう話していました。「ハマスは2023年10月7日の攻撃(以下、10・7事件)後、間もなく、『(今回の大規模攻撃は)始まりに過ぎず、2度目も3度目も4度目もあるだろう』と宣言した。私たちは虐殺の脅威を見逃すことの代償を(歴史的に経験して)知っている。同じ失敗を繰り返すわけにはいかない」と。 注)10・7事件 2023年10月7日早朝、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスがロケット弾による攻撃を行うとともに、戦闘員ら数千人がイスラエルとの境界にあるフェンスなどを破壊して侵入。近くで開催中の音楽祭に集まっていた人々や住民らを虐殺するなどした。イスラエル人ら約1200人が殺害され、251人がガザへと連れ去られた。ガザ保健当局によると、イスラエルによる攻撃でこれまでにガザ市民約6万7000人が死亡した。イスラエルは国民の約73%はユダヤ系で、約21%がアラブ系。この記事ではユダヤ系イスラエル人を「イスラエル人」と表記している。 ――何度でも攻撃すると宣言するハマスに対し、イスラエルは徹底的に戦うというわけですね? オハナ議長の考えは、つまり、ハマスはいずれまたユダヤ人を虐殺すると宣言しているのだから、この「未来の脅威」をなくすため、今のうちに息の根を止めるしかない、という論理です。可能性を根拠に現在の攻撃を肯定するわけです。 イスラエル軍は、敵対勢力の軍事能力が危険水域に近づいたら先制攻撃を仕掛けてその脅威を排除する、という軍事戦略を続けてきました。敵の攻撃力を「モチベーション(意志)×ケイパビリティ(能力)」という数式で予測します。そして、ハマスのような組織の「意志」、つまり攻撃意欲が「ゼロ」になることはない、と考える。だから軍事の「能力」が危険水域を超えないように定期的にそいでおけば、脅威は一定程度に抑え込むことができるという発想です。イスラエルはそれを「草刈り」と呼んでいます。
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