鏡花の考え
鏡花の言葉に、陽太はようやく静希が何をしようとしているのかに気づいたのかなるほどと手を叩いて納得する
「つまりあれか、マンガみたいに真犯人を探してるのか」
「・・・そこまで露骨じゃないでしょうね、自分じゃないってのがわかればいいんだから・・・とりあえずこのことを先生に報告しに行ったほうがよさそうね・・・」
情報を得るためにも、このことを伝えるためにも城島に接触するのは第一条件だ、鏡花は携帯で城島にメールを送り、捜査本部のある警察署で落ち合うことに決めた
メールを確認してその場所に向かうと明らかに不機嫌そうな城島を見つけることができる
話しかけたくないなと思いながらも鏡花たちは城島に近づいていく
「・・・一応聞いておくと、成果は上がったか?」
「まぁ、あいつが何をしたいのかってことくらいはわかりました、今どこにいるのかまでは・・・わかりませんけど」
一瞬明利の方に目を向けてそう言うと、城島は目を伏せた状態でそうかと呟いた
恐らく城島も明利の心情を理解できるからこそ何も言わないのだろう、周囲にはこちらの様子を少し遠くから観察している警察官が何人か、迂闊な行動や発言はできない、それを理解している故に城島は意図的に視線を地面に向けているようだった
「先生の方は何かわかりましたか?例えば、今回の事件の発端だとか、静希が逮捕された理由だとか」
「・・・一応な」
城島はそういって携帯を操作して鏡花たちに見せる、小さな文字なので読むのに少し時間がかかったが、これならば少し遠くにいる職員からは見ることはできない、考えたものだなと思いながら携帯の中の文面を読んでいくと、そこには現場に静希ともう二種類の毛髪が見つかったこと、そして目撃者が五十嵐静希を見たと証言していること、そして五十嵐静希が犯人であるとほぼ断定されていることが記されていた
それを見て陽太は訳がわからなかったのか首を傾げ、明利は一瞬考えた後に状況を把握し、鏡花は大きくため息をついて見せた
「前の空き巣が関わってるって考えたほうがよさそうですかね」
「可能性としては高い・・・そしてこの証言・・・お前ならどうする?」
城島の問いに鏡花は少し視線を落とす、自分が静希ならばまず間違いなくこの証言をした人間の元へ向かう、静希のアリバイは堅い、何人もの生徒や教員が静希の姿を見ているのだ、なのにたった一人の証言で静希を犯人と断定しているというのは異常な状態であることがわかる
自分が静希なら
そう思考を広げ鏡花は眉をひそめる
「もう静希は第一目標を達成してるかもしれませんね、そしたら今度は次の目的に向かうはずです」
周りに監視がいるために明言は避け、少し濁した表現で伝えると、城島もそれを察したのか、携帯の中に入っている情報を眺めてなるほどと呟き、同時に眉間にしわを寄せた
「なら私は目撃者の方を当たってみよう・・・お前たちは・・・好きに動け」
「了解です」
城島が去っていくのを確認して鏡花は額に手を当てながら今の状況を確認していた
証言自体が怪しいとなれば、目撃者の背後関係を洗うのは定石、だがそういう事は鏡花たちは不慣れだ、城島に任せるのが妥当だろう
「・・・なぁ、俺らは結局何するんだ?」
状況がつかめていない陽太はこれから何をすればいいのかわかっていないようだった、それも無理のないことだ、明利でさえ静希が何をしようとしているのかはわかってもこれから何をすべきかはわかっていないのだから
「簡単に言えば、目撃者はうそをついている、じゃあなんで嘘をついたのか、それを確認するのよ」
「・・・確認って、どうやって?」
鏡花は陽太への返答を先送りにしてこちらを見ていた警官に話しかける
「すいません、今回の事件で目撃者に事情聴取を行った刑事さんたちにお話を伺いたいのですが、お忙しいようであれば名前だけでも教えていただければ自分たちで探します」
鏡花の言葉に警官は少し迷っていたようだが、特に問題はないと思ったのか、デスクに置いてあった資料から名前だけを書き写して鏡花たちに渡してくれる
警官に礼を言ってから鏡花は陽太にその紙を見せる
「嘘をつく理由として、一つは目撃者自身に静希を陥れることによる利益があったか、あるいは彼個人の背後に何かがあるか、一つは目撃者ではなく警察の方が情報を改竄しているか」
「・・・情報の改竄って・・・そんなことできるの?」
「やろうと思えばできるわよ、後で大問題になるけどね」
相手は警察だ、しかも今鏡花たちがいるのは今回の事件の捜査本部のある警察署、事件に関する資料などがほとんど置いてあるところだ、もし警察官の中に犯人側の人間がいればいくらでも改ざんすることができるだろう
「じゃあ、俺らはその情報を変えたやつを見つけるのか?」
「それは可能性の一つよ、城島先生は目撃者を、私たちは警察をそれぞれ調べて、静希がこれから何をしようとしているのかを洗い出す、情報が入ればあいつの行動の先を読むこともできるはずよ」
名目上は静希の捕縛を命じられてるってこと忘れないでねと付け足して鏡花はメモに書かれた名前を見てみる、その中には五人の名前が書かれていた、この五人が目撃者である赤城元也に対して事情聴取を行った警官であるということがわかる
この五人に話を聞くことが鏡花たちの現在の目的となっているのだ
「でもそれだったら別に電話番号とか教えてもらって聞くだけでもいいんじゃねえの?」
「実際に会ってみないとわからないことってあると思うのよ・・・それにね・・・」
陽太の言葉に対して一瞬言葉を濁してから明利と陽太を自分の近くに引き寄せると小さな声でつぶやき始める
「私たちは今静希と表面上は敵対関係にある、話を聞くだけじゃなくて探しに行くっていう非効率な方法で時間稼ぎを行うっていうのが一つ、もう一つは実際に動いて外に出るきっかけを作ることで、静希との接触を図るのよ」
鏡花の言葉に陽太と明利は一瞬目を見開く
確かに今自分たちは静希と敵対関係にあるし、何より静希を捕まえなくてはいけない立場だ、そうなると必ず外に出て行動することは必須となる、なにせわざわざ静希が警察の方に近づいてくれるはずがないからである
鏡花はある種確信のようなものがあった、いままで静希を見てきて感じたのは、彼は他人に力を借りることを厭わないのだ、無論借り続けるほど無遠慮ではないと思うが、緊急事態ともなれば必ず誰かしらに連絡を取ろうとするはず
その時、鏡花たちに連絡を取る何らかの手段を考えていて然るべきだと思ったのだ
「じゃあ、探してるふりして情報流すのか?」
「まぁ探すにしても物理的には無理でしょうね、あいつ変装できるし」
以前自分たちに施したように静希は変装をすることができる
服装も顔も髪型も、場合によっては目の色や皮膚の色さえも変えて行動している可能性がある、そうなると視覚での捜索はかなり難しくなる
方法がないわけではないが、少なくとも街中でできるようなものではないし、少々人道に反する
静希が自分たちに連絡を取ろうとしている、あるいはとる準備をしていると考えているのはあくまで鏡花の予想だ、向こうに戦闘の意志がなく、こちらにもなければ十分ことはうまく運べる
だがこれは陽太達には伝えない、伝えてはいけないのだ
陽太はバカだし明利は静希に依存しすぎている、少しでも静希の味方をしようとする動きがあると目に見えてわかりやすい動きをしてしまうのは想像に難くない
この三人が警察にマークされている状態ではそんなことをすれば自分たちまで犯罪者扱いされてしまうだろう
だからこそ、少し手荒な方法をとる必要がある
「そこで陽太、あんたには今回の行動中一つ指示を与えておくわ」
「おう、なんでも言ってくれ」
小声でしゃべるのをやめ、声を大きくして陽太に指さしすると、敬礼をしながら陽太は姿勢を正す
「もし移動中に静希を見つけたら、有無を言わさず捕まえなさい、全力で、ただし周囲の被害は最低限に抑えること」
「・・・え?」
先程までは静希に手を貸すようなことをほのめかす流れであったために、陽太もそして明利も目を丸くしてしまっている、捕まえてしまったら静希はそのまま監獄行きになってしまう可能性だってある
「あの、鏡花ちゃん・・・静希君と・・・戦うの?」
「やるのは陽太だけよ、あいつ相手にまともにやれるのってこいつだけだし・・・」
一回言葉を切って少しだけ迷っている陽太に目を合わせる、迷いなくまっすぐに陽太を見るその眼は陽太の目の中へと意志の強さを注ぎ込んでいるようでもあった
「いい?あんたは全力で静希を捕えなさい、戦闘になったらそれでもかまわない、全力で静希を倒して捕縛すること・・・その後は私に考えがあるから」
「・・・わかった、『全力』だな?」
陽太の確認に鏡花は頷く、覚悟を決めたのか、それとも納得したのか、いつものように考えることを放棄したのか、アイアイマムと答えてにやりと笑って見せる
陽太の全力、恐らく今まで静希と陽太が全力で戦ったことはないだろう
普段訓練などで対人格闘や能力を使っての模擬戦は行っているが、あれらは本当の全力とは言えない、いうなれば常に殺さないレベルで手加減を強いられているようなものだ
だが今静希の左腕には霊装があり、常にその傷を治し続ける、対して陽太はその能力の強さから手加減など不要であるかのような耐久力を有している
「きょ、鏡花ちゃん・・・二人の全力は・・・」
「大丈夫よ明利、二人の戦力は大体頭に入ってる、大事には至らないわ」
何度も脳内で二人を戦闘させても結果はいつも同じ、戦力だけでなく彼らの性格も加味した結果がそうなのだ
その中のシミュレーションにおいてもどちらも死亡していない、必ず勝者は出ており、決着もついている、だがいつも結果が同じになるのだ
どちらが勝者になるかなど鏡花にはわかりきっている、だからこそ陽太には先程のように言い含めたのだ、物事が自分の頭の中の通りに行くとは思っていないが、この結果に対してはかなり自信を持っていう事ができる
「あいつの調子も悪くないし、場所によっては怪我なく終われるかもしれないわよ?」
「そ・・・そんなのあり得るかな・・・?」
いくら静希が常に治癒の力が自動発動する霊装を身に着けているとはいえ、両者ともに無傷ということはあり得るのだろうかと、明利は不安になってしまう
普段から静希や陽太を見ている明利からしたら不安になるのも無理はない、あの二人が喧嘩をしているところなど数えるほどしかないのだから
「さぁ、とっとと行くわよ」
鏡花たちはとりあえず彼らに話を聞くために五人を探し始めた
日曜日なので二回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです