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J/53  作者: 池金啓太
十七話「追い追われる先に」
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尋問

『オルビア、どうだ?中の様子は確認できるか?』


トランプを配置した後、オルビアへと意識を飛ばすと、内部を確認しているのか少々お待ちくださいという言葉と共にオルビアの声が届く


『リビングの様子までは確認できます、内部には現在二人、どちらも資料にはなかった人物です、恐らく私服警官かと・・・あ、いま赤城元也がリビングに入ってきました、何やら話しているようですが、内容までは・・・』


流石のオルビアも完全に中の様子を見て取ることはできないのか、状況を事細かに伝えてくれているものの、やはり実際見ていない以上ほとんどが想像で補う事しかできない


現在時刻は二十二時を過ぎたところだ、人によってはそろそろ就寝の支度を始めるところだが、彼らはどうだろうか


『どうやら先程まで赤城元也は入浴していたようです、女性の姿が見られないところ彼の妻は不在の可能性もありますね』


『了解、このまま中の様子を伝えててくれ』


『シズキ、見回りが来たっぽいわよ』


メフィの言葉に静希は即座に反応し、扉からは見えないマンションの貯水タンクの裏に隠れた、そして数秒後メフィの言う通り屋上への扉が開き、懐中電灯を持った管理人らしき男が屋上の様子を見に来る


屋上の中心部辺りまで歩みを進めると右左と懐中電灯の光を照らしながら周囲を確認し、問題がないと感じたのかそのままマンションの中へと戻っていった


『・・・行ったわね』


『ふぅ、これであと数時間は平気かな・・・』


『・・・というか見回りとしてはあれでいいものか・・・ここに完全な不審者がいるというのに』


『まぁやる気のない奴の仕事なんてあんなもんだろ』


静希は貯水タンクから周囲を警戒しながら屋上の縁まで移動して再び部屋の様子を確認することに集中し始める


『オルビア、何か動きはあったか?』


『いえ、先程からずっと赤城元也と男性二人が話しています・・・ずいぶんと話し込んでいるようですね、男性二名の方はメモのようなものを取りながら話をしています』


オルビアの言葉にふむと静希は口元に手を当てた


もしオルビアの言うように彼らが私服警官だった場合、もしかしたらあの場で調書を取っているのかもしれない、と言っても公的なものではなく参考程度にとどめるような証言を得ようとしているのではないだろうか


あんな粗末な証言で動いているのだ、警察の中でも独自に動いてその不確かさを暴こうとする人間が数人いるかもしれない、いやいてほしいと願うばかりだ


これがただ単に明日の予定だとかを聞いていたのだったらとんだ肩すかしである、静希としては今の警察にがっかりせざるを得ない


『・・・マスター、目標が動きました、二人に一言告げて・・・リビングから移動します』


『方角はわかるか?』


『少々お待ちください・・・あ、寝室だろうと思われる部屋の明かりがつきました、数メートルほど動かしていただけますか』


オルビアの要望通り少し動かすと、どうやら静希達の目論見通り窓に面した少し大きな部屋が寝室だったらしく、その中の様子を確認することができたようだ


オルビアの説明によると、ベッドが二つ、だがそこに誰かが寝ているということは無いようで、先にオルビアが言ったように赤城の妻は恐らく今この家にいないのだろう、静希としては好都合だが、ここからどう動くかが問題だ


『邪薙、お前はリビングを、オルビアは引き続き寝室を見張ってくれ、もう少ししたら仕掛ける』


『心得た、可能な限り伝達しよう』


オルビアに続き邪薙もベランダに配置し、人外たちによる一時的な索敵網が完成する


メフィは屋上の出入り口、邪薙はリビング近くのベランダ、オルビアは寝室付近のベランダに配置し、中にいる人間の様子をつぶさに確認していった


どうやら赤城は寝室の方で少し仕事をしていたようだが、二十三時を過ぎると就寝するのか、部屋の明かりを消してベッドの中に入っていった


途中伝達事項でもあるのか、寝室に私服警官と思われる男が何度かやってきていたが、赤城が眠ったのを確認するとそれ以降寝室に入ってくる様子はなくなった


時刻は深夜零時三十分、リビングにいる二人のうち片方がソファに横になり眠り始め、もう一人は引き続き起きて見張りを続けているようだ、二人での護衛なら一人が休憩し一人が見張るのは定石だ、交代要員が来る気配もなく、恐らく今夜はこのまま彼らが護衛を務めるのだろう


『邪薙、オルビア、後三十分して動きが無ければ行動開始する、相手の行動を見落とさないようにしてくれ、メフィは引き続き警戒を続けててくれ』


『了解、けどこっちは暇だわ』


『了解した、こちらは任せろ』


『かしこまりました、こちらは現在動きなし、問題ありません』


人外たちに指示を飛ばしながら静希は侵入するための準備を進めていく


部屋の構造から大きな音を少しでも立てたらアウトだ、扉が閉まっていることから最低限の物音くらいなら誤魔化せるだろうが、大声などをあげられたら即リビングにいる二人に気づかれるだろう


ここは少々強引で嫌な手を使うことになるかもしれないなと静希はため息をついて準備を進めた




三十分の時間が経過し、これと言って動きがなかったために静希は行動を開始することにした、邪薙の障壁を用いて一気に四階まで下りてきた静希は、一時的にメフィを手元まで戻し、窓を内側から開けさせて悠々と中へと侵入する


いつものように手袋、そして靴のどろは完全とは言わないまでも落とした状態、そして毛髪などが抜けないようにニット帽を被りマスクを着けて中に侵入していた


完全に不審者だなと思いながら静希は周囲を確認する


リビングにいる二人はまだ気づいていないらしい、これから先の迅速な行動が重要になる


静希とメフィで急いで眠っている赤城元也を担いで外に待機させておいたフィアの背に乗せて障壁を伝ってまた屋上へと移動する


窓もしっかりと鍵を閉めてその場に何の異常もなく見せかけた、唯一変わったところは赤城元也がベッドからいなくなったくらいである


そして屋上にたどり着いてから、静希は彼の体をロープで縛り、そして尋問の準備を始める


手と足を完全に拘束した状態で静希は背後から赤城の体を自分の足にもたれかかるように起こし、背中にあるツボを探ってからゆっくりと指先に力をかけていく


その力が一定以上に達すると赤城はうめき声をあげながら目を覚ました


先程眠りに入ったばかりだったためか未だ意識がもうろうとしているようで今自分がどこにいるのかも理解していないようなしぐさをしている、周囲を確認しようとしているのか、あたりを見渡そうとするが周りには何もない、ここが屋上だと気づくことができるかどうかも怪しいところだ


そんな中、静希が後ろから首に腕を回してゆっくりと締め上げ始める


意識の混濁した状態を継続させるためと、声を上げて周囲に異常を悟られないようにするためだ


ポケットに入れていたレコーダーのスイッチを入れ録音を開始する、ここからが重要だ


「動くな、お前に聞きたいことがある」


「・・・ぅ・・・あ?」


少し首を絞められているためか、若干苦しそうにしながらもようやく自分が何者かにさらわれているという状況に気づけたのか、赤城の体がわずかに抵抗を見せる、だがその瞬間静希は首を強く絞め抵抗が無意味であることを悟らせる


「質問に答えてくれれば危害は加えない、家に無事に返すことも約束しよう・・・質問に答える意思はあるか?イエスの場合は咳を二回しろ」


静希の言葉に何度も頷きながら、咳を二回する、さすがに完全に拘束され身動きもとれず生殺与奪の権利を握られているとあっては、断ることなどできようはずもない


寝起きということもあって記憶の混濁も見られるだろうが、かえってそれなら好都合だ、これが夢だと思わせることもできるのだから


「では質問する、お前は金子大輔殺害の現場を見たんだな?」


「・・・み、見た・・・見たよ」


「・・・その時に、お前以外に誰かいたか?真実を答えろ、嘘をついたら・・・」


そういって静希は赤城の目の前に鋭いナイフをかざして見せる、それが本物であると気づけたのか、赤城は震えながら嘘はつかないから助けてくれと懇願し始めた


体を震わせ、奥歯がかみ合わないのかガチガチと歯が独特の音を響かせているのがわかる、無能力者でこんな場面に出くわしたらこんな風になってしまうのも仕方がないだろう、自分でやっておいてなんだが少し赤城に同情してしまった


「正直に真実を話せ、そうすれば危害は加えない」


「あ・・・あの時、部屋には誰もいなかった、金子さんの死体以外は誰も・・・!」


その証言に静希は眉をひそめた、警察にした証言とは異なる、この言葉が嘘なのか警察への発言が嘘なのか、問題はその一点に絞られる


「警察への証言では『五十嵐静希』を見たと言ったそうだが?」


「あ、あれは違う・・・!私を取り調べに来た最初の刑事が、そういう証言をしろと・・・でないとお前を殺人容疑で逮捕すると・・・!」


その言葉に静希はわずかに笑みを浮かべ、同時に苛立ちを覚える、ニュースなどで警察の不祥事というのはよく取り上げられるが、自白の強要は聞いたことがあっても証言の強要というのはさすがに静希もあまり聞いたことがない


日本の警察はこれから先大丈夫なのだろうかと将来が心配になるがそこはこの際無視することにした


「その言葉に嘘はないな?」


「ほ、本当だ、本当にあの時現場には誰もいなかった・・・!」


「なら、お前にそういう証言するように指示した警官の名前はわかるか?最初に来た刑事と言っていたな」


静希の言葉に、当時のことを必死に思い出そうとしているのか赤城は呼吸を荒くしながら頭を働かせているようだった


深呼吸しろと告げると、少しだけ平静を取り戻したのか、赤城は一つ一つ思い出すように当時のことを話しだした


「あの時・・・入ってきた刑事が書類を机に置いて・・・名前を・・・確か・・・和田、そう和田と言っていた・・・下の名前までは・・・」


確か赤城の証言の記された資料の中にその証言を聞いた警官の一覧も載っていた、そして和田という名前には見覚えがあった、恐らく店にある端末から見ることができるだろう


「・・・いや、十分だ、もう一度確認するが今までの話の中に嘘はないな?」


「な、ない、全部本当のことだ」


赤城の言葉に静希はそうかと答えて小さくため息をつく、調べることが増えたがそれでも一歩前に前進した、幸運と言えるかどうかは微妙なところだが、相手は警察、調べるのに苦労はしないだろう


「・・・き、君は一体何なんだ?一体なぜ私を・・・?」


「・・・この事件の真相を追っている者だ・・・話してくれて感謝する、約束通り貴方は無傷で家に帰す」


その言葉に赤城が安堵した瞬間にスタンロッドを使って赤城を気絶させる、無傷と言えるかは微妙だったが、顔を見られるわけにはいかない、こうするのが最善の方法だと言えるだろう


連れてきたのとは逆の手順で赤城をベッドに寝かせ、静希達はすぐにその場から撤退した


近くの裏路地に入ってフィアを回収してから何食わぬ顔で移動を開始する、周囲は完全に深夜、ほとんど明かりも落ち、道を照らしているのは街灯と信号の明かりくらいである


この時間に歩いているとなると職質もされかねない、可能ならフィアの協力を仰いで急いで帰りたいところだが、もう少し地形がわかる場所に行かないとこの真夜中ではほとんど現在位置がわからない


こういう時に土地勘がないというのは困る、とりあえず駅までたどり着き、チェックポイントに設定しておいた場所まで移動してからフィアと邪薙の協力により上空を高速で移動し始める


上空五十メートルから百メートルほどの高さであればほとんどの人間には見えない、高いビルに残っている人間もこの時間は帰宅しているか眠っている、こういう時に深夜の行動は本当に楽でいい


『それにしても、本当にドラマみたいになってきたわね、殺された政治家!偽りの証言!煽り文句は【それでも俺はやってない】ってところかしら?』


『それはまた別作品になるだろ・・・にしてもまさか警察の方から俺を犯人に仕立て上げようとしてたとはな・・・道理で動きがおかしいはずだよ』


『単独でマスターを陥れようとしているのか、それともさらに裏に何者かがいるのか・・・まだ判断できませんね』


『少なくとも、これでシズキが何者かにはめられたということははっきりした、ここから先はどう動く?』


邪薙の言葉通り、先程の赤城の話で何者かが静希に罪を擦り付けようとしているというのははっきりした、オルビアの言うようにその規模も気になるところだが、個人か、組織か、それとも警察の上層部すべてか、未だわからないことが多いためこれ以上の推察はできない


だがようやく静希が敵意を向けるべき相手が、おぼろげながら見えてきた


何の手がかりも得られなかった頃を考えればかなりの前進である、自分に喧嘩を売ったことを心の底から後悔させてやると考えながら静希はわずかに邪笑を浮かべる


『とりあえずはその和田ってやつに話を聞こう、脅してまで俺に罪を擦り付けたかったみたいだし、それなりの理由が無きゃなぁ・・・』


これでもしくだらない理由で自分を犯人に仕立て上げたのであればそれなりの報いは受けてもらわなくてはならないだろう、今回のことで静希は相当頭にきていた


それこそ今回は完全に犯罪者扱い、しかも下手すれば本当に監獄の中に入れられてしまうかもしれないような状況だったのだ、間違いでしたですむような簡単な問題ではない


どのように報復するべきかと考える前に静希は一度頭を落ち着かせていた


『とりあえず、店に戻ったら情報の見直しだ、件の和田とかいうやつの資料をよく見なおしておこう』


『そうですね・・・場所は・・・そろそろでしょうか』


はるか上空に居ながらオルビアは周囲を確認して現在地点を大まかにではあるが把握する


周囲が暗い上にほとんど明かりがついていないためよくわからないが、少なくともカエデの店の付近までは戻ってきたようだ


人外たちの入ったトランプを地表まで落として周囲に誰もいないのを確認してから体に負担の無いレベルで急速落下し、悠々と着地すると同時にフィアをトランプの中に回収して何食わぬ顔で移動を開始する


オルビアの地形把握能力は大したものだ、この暗い中で誤差五百メートルほどしかない


これは僥倖と、静希は足早に水ノ香リへと戻ることにした


表はしまっていたので裏口に向かうとそこには鍵がかかっていなかった


東京なのにずいぶんと不用心なことだと呆れながらも、自分のために開けていてくれていたのだということを察して少しだけ申し訳なく思う


ゆっくりと中に入ると、すでに店は閉めているのにもかかわらずカウンターの向こう、つまりは客席側で一人ブランデーを傾けているカエデの姿がある


初見はさすがに驚いたが、慣れたのかカエデの姿にそこまで驚くことはなかった


「あら・・・帰ってきたのね・・・予想より少し早いわね・・・あと一時間くらいかかると思ってたけど」


「すいません、待っていてくれたんですか?」


「違うわよ、晩酌は何時ものことなの、一杯飲む?」


カエデの申し出に未成年なんでと言いながら断るとあら残念ねと笑いながらカエデはグラスの中に入っていた酒を一気に飲み干した


予想より早かった、恐らくカエデは行きも帰りも歩きであることを想定していたのだろう、だが静希の移動手段は歩きだけではない、そのことを知らないがための誤差だろうが、それにしても見事な時間予測だ、歩いていたら確かにあと一、二時間はかかっていたのは間違いない


「いい情報は手に入ったかしら?」


「えぇ、少なくとも俺がはめられたってことは間違いなさそうですね」


静希はそういって先程録音した音声を流す


するとカエデの顔色が変わり、その目つきがどんどん鋭くなっていく


気のいい一店長のする顔ではない、この表情はどちらかというなら城島や静希の方に近い、修羅場をくぐってきた人がするような、そんな顔だ


「ふぅん・・・面白くもあり、面倒でもあるわね・・・この後はどうするつもりなの?」


「名前は割れてるんで、調べてから今日と同じように接触するつもりです、そこから先があったらまた同じように」


静希の言葉にカエデは小さくため息をついて静希の額を指でつつく


「貴方ねぇ、警察相手に今日みたいにやっちゃだめよ、これ貴方の声がまんまのこっちゃってるじゃないの、変声器貸してあげるから、次からそれ使いなさい」


「す、すいません」


そういえば自分の声を偽装するのをすっかり忘れていたと思いながら、静希はわずかに委縮する、実月の師匠というだけあって細かいところに気が付く、というより考え方がまるで静希のそれに近い、いや静希のそれよりずっと巧妙だ


証拠を残さず、情報だけを収集する、カエデはそれに特化した考え方と技術を有しているのだろう


誤字報告が十件たまったので三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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