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J/53  作者: 池金啓太
十七話「追い追われる先に」
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開いた口が塞がらない

静希が移動を開始してから数時間、すでに時間は昼を過ぎ、一度コンビニで食事を購入してからも歩き続けていた


すでに東京都には入っているとはいえまだ目的の店までは距離がある、まだまだ先は長そうだとため息をつきながらも、静希の傍らにはもう一人女性がいた


「もう少しですよ、頑張りましょう」


「・・・そうだな、ようやくここまで来たんだしな」


隣にいるのは変装し、洋服を着て黒の鬘をかぶったオルビアだ


東京都に入る少し前、楽器店があったのを見つけそこでギターなどを入れるケースを入手し、静希と同じように変装を施しケースの中に本体である剣を入れて一緒に行動しているのだ


途中検問を行っているところもあったが、オルビアを出したり入れたりして上手く回避しながら東京都にたどり着いたのだ


こんなに面倒なことをする必要があるかと聞かれると首をかしげるが、目撃証言などがあってはいけない、多少警察官に話を聞かれたことはあるが、得意の口先から出る嘘で誤魔化した


昼過ぎとはいえ以前に比べると気温はだいぶ落ちてきた、今日寝泊りする場所も考えたほうがいいかもしれない、最もまともな宿泊施設には泊まれない、野宿も視野に入れながら静希は移動を続けていた


実月に言われた住所に近づいたあたりで静希は一度辺りを見渡す


彼女が言うには裏通りにあるとのことだったが、どの裏通りなのかなどわかるはずもない


住所を言われて即座にその場所をイメージできるほど静希はこの辺りの地理に詳しくもない


そこで静希は多少大胆な行動に出ることにした


「あのー、すんません、道聞きたいんすけど」


姿勢を悪くして、口調を変えて静希は近場の交番にやってきた


警察に追われている人間が交番にやってくるなど正気の沙汰などとは思えないだろうが、静希のことを知らない人間からすればただの一般市民でしかない、駐在していた警官はどうしましたかと僅かに笑顔を作ってこちらにやってくる


「この住所に行きたいんすけど、どこにあるかわかります?カフェがあるらしいんすけど」


「あー・・・ここだと・・・そうですね、この道を少し進んで三個目の信号を左に曲がって、少し進んでからでる通りにありますよ」


「あ、そっすか、あざーっす」


できる限り長く絡みたくないような人間を演じ、静希はすぐにその場から離れる


ただ人と話すだけなのにここまで神経をすり減らしたのは初めてかもしれない、だがお巡りさんの力を借りて悪いということはない、なにせ静希は善良なる一市民なのだから


案内の通りに進むと、そこは確かに表通りからは見つかりっこないような完全なる裏道に入っていた


道幅も狭く、車一つ通るのがせいぜいな広さ、通行人もほとんどおらず、たまに自転車が通り過ぎる程度、こんなところで店をやっていて儲かるのかと聞きたいくらいだ


そしてその通りを何度か見渡すと、実月の言っていた店を見つけることができた


看板には確かに『水ノ香リ』と書かれている、だがその近くにはスナックという文字もある


ここのどこが喫茶店なんだと言いたいほど、その外観はシックな感じがあった、少なくとも静希の想像する明るく開放感のあるような喫茶店とは程遠い、独特の味とでも言えばいいのか、モダンな雰囲気を醸し出している


面食らうと言っていたが、このことだったのだろうか、確かに喫茶店とは程遠いがそこまで驚くというほどのものではない


「ここ・・・ですかね」


「多分な、名前も一致してるし・・・未成年だけど入って平気かな・・・」


今までスナックなどと言うものには入ったことが無いため、システムがよくわかっていない静希はとりあえずオルビアと一緒に店内に入っていく


扉を開けると独特な鐘の音が響いて店内に来客を知らせる、店内は暖房が効いているらしく、生暖かい空気が静希を包み込んだ


喫茶店らしい紅茶とコーヒーの匂いが漂い、外にあったスナックの看板は一体なんだったのかと思える


店内にはテーブル席とカウンター席があり、今のところ客はいないようだった、店を開いている意味あるのかと聞きたくなるほどだ


「いらっしゃい、適当にかけててくれる?」


中から聞こえてきた少し太い声に、静希は若干怖気が走る、なんというか、人の神経を逆なでするような独特な声だ、男性のものであるということはわかるのだが、何かこう静希の脳裏に嫌な予感が走る


「あら、ずいぶんと可愛らしいお客さんじゃない」


声のする方向に目を向けると、カウンターのさらに奥、恐らく厨房だろう、そこから出てきた人物を視認することができた、できてしまった


十一月なのにもかかわらず上下チャイナドレスに身を包んでいるその人、それが年齢問わず女性であったのなら、まだ納得ができただろう


だがそれを着ているのは、その声を出しているのは、恐らく三十から四十代と思われる筋肉質な男性だった


髪は長髪で茶髪、眉は黒、顎髭は剃っているのだろうが、青髭が残ってしまっている、口紅をつけ、アイラインまで書いているその人


面食らうことは間違いない


実月の言葉に偽りはなかった、一目見ただけで、静希は唖然としてしまい、開いた口が塞がらない状態になってしまっていた


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