表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
J/53  作者: 池金啓太
十七話「追い追われる先に」
651/1032

一矢報いるために

静希が行ったのは至極単純な策だった、それは人外たちを用いての事故に扮した脱出


邪薙の障壁を進行方向の片方の車輪だけに引っかかるように、ほんのわずかに傾斜をつけて配置し、運転が乱れた際にもう一度障壁を作らせ完全な事故を引き起こさせる


タイミングは後続の車との距離が十分離れた時、連鎖的に事故が起こらないように配慮したためでもあるが、その結果、速度はほかの車両よりだいぶ早かったために車体が随分と傾く結果となった


そこから先はメフィの仕事、彼女の所有する発現系統の中でもばれにくい念動力に近い能力を使い、静希の体を確保し、後部の扉を破壊、そのまま静希の体を高速の壁の向こうまで投げ、大事故にならないように車の安全を可能な限り確保するというものである


トランプの内部からの操作ということで多少荒い動きになったが、十分事故に見せかけられた


空中から落下し始めている中、静希は安堵の息を吐きながらトランプの中からフィアを取り出して能力を発動させる


瞬時に大きな獣の姿へと形を変えたフィアへとまたがり、高速で移動を開始した


ここからは時間の勝負だ、メフィを一時的にトランプの外に出して自分の両腕を縛っている手錠を破壊してもらう


「さて、上手くいったな、助かったよ」


「ご褒美は全部終わったらにしておいてあげるわ、今回ばかりはちょっと頑張っちゃう」


そりゃありがたいよと告げて静希は再びメフィをトランプの中にしまい込む

あれほどの事故になってしまったのは申し訳ないが、静希がやったという証拠はどこにもなく、死者も恐らくいないだろう、少なくともオルビアが最後に確認した際は流血している人間はいなかったそうだ


破壊した手錠も全て回収し、フィアに乗ったまま高速で移動していく、早朝であったこともあり、道路には大量の車が走っていたが、建物の影から影、屋上から屋上へと移動することでできる限り視界に入らないように数キロを一気に移動していく


そしてかなり東京への距離が近づいたところで近くに見えた公園の公衆トイレの個室の中に入って大きく息をついた


『さて・・・まずは準備を整えないとな・・・オルビアにも途中から参加してもらうからそのつもりでな』


『かしこまりました、今すぐでなくともよいのですか?』


『お前を外に出すと剣まで出すことになるからな、さすがに抜き身で持つわけにもいかないだろ』


ある程度距離が離れていても体は出しておけるとはいえ、さすがに能力によって収納されてしまうと強制的に体は一緒に収納されてしまう


オルビアの本体は剣だ、隠すために何かケースを用意するべきだろう、それこそ楽器などを入れるようなものが好ましい


だが今最初にするべきなのは、まず服装を変えることと変装をすることだった


服装はすぐ変えられるが、顔を変えるには少し時間がかかる、移動しながらでもできればよかったのだがさすがにフィアの背の上に乗りながら変装できるほど静希の腕は高くない


これから都心に近づけば近づくほどに人の目は多くなる、恐らくここから先数時間ほどで都心や周囲警察官への厳戒態勢が敷かれることになるだろう、その前に変装をして堂々と歩いて東京へと向かう


途中で用事も済ませておきたいところだが、今はまず顔を変えることを最優先にするべきだ


「・・・こんなところか・・・」


服を変え、顔を変え、静希は堂々と公衆トイレから外に出る


その姿からはもう静希の外見はほとんど消えている、髪型もワックスで変え、服も顔も変えたせいで知り合いが見てもこれが静希であるとは気づけないだろう


唯一共通しているところを挙げるとすれば身長くらいのものだ、後は声を出さなければ全くの別人である


万が一のため携帯の電源は切り、看板などで記される方角を頼りに移動を始めた


『マスター、軍資金はどれほどあるのですか?』


『ん・・・五万くらいは何時もトランプに入ってるけど・・・あまり無駄遣いはしたくないな、お前を隠せるケースと食事・・・できる限り切り詰めるか』


静希の財布には基本小銭というものがあまり入っていない


理由として小銭が入っていると重くなるからというのもある、さらに言えば財布以外にも万が一の時のために金はトランプの中に入れてあるのだ、こんなところで役に立つと思わなかったが備えあればというものである


『でさ、実際のところこれからどうするの?』


『まずは情報収集だな・・・携帯は使えないから公衆電話からちょっと連絡することになるけど・・・』


静希がまず欲しいのは情報だ、今回の面倒事は力で何とかなる問題ではない、どこかの誰かが意図的に静希をはめたのだ、こうなっては相手と同等以上の情報を得て警察相手に立ち回るしかない


相手がどれほどの人間を抱き込んでいるかはまだわからないが、少なくとも警察という組織全体を掌握しているわけではないということは竹中の情報からわかっている


となれば後は必要な情報を集め、静希は犯人ではなく、犯人にはめられた側の人間であると知らしめればいい、そうすれば静希の容疑は晴れ、無事一般市民に戻れるというものだ


問題はその情報収集だ、今静希は犯罪者一歩手前の状態になってしまっている、事故を起こしたとはいえ、あれは静希の罪にはならない、なにせ静希が起こしたという証拠はどこにもないのだから


相手が情報収集に応じてくれるか、それが一番の懸念だった


最寄りの駅まで移動する事数十分、静希は駅の近くに設置されている公衆電話にやってきていた


携帯電話の普及した世の中でこれを使うことになるとは思っていなかっただけに、その感動はかなり大きい、未だに動くのだろうかとも不思議に思ってしまうのだが、とりあえず近くの店で崩しておいた小銭を入れ、記憶しておいた電話番号を押して通話を開始する


今はまだ早朝、時差を考えれば問題なく起きている時間帯のはず、問題はこの電話に出てくれるかどうかだ


『・・・もしもし・・・誰かな?』


数回のコールの後、静希のお目当ての人物の声がする、繋がってくれて何よりだと静希はわずかに安堵の息を吐く


「お久しぶりです、あなたの幼馴染ですよ、実月さん」


『・・・ほう?名を名乗らないということは・・・自分の立場がどういう状態か理解していながら電話してきているということだな?』


静希が電話している相手は響実月、陽太の実の姉だった


この世界で情報を集めるのに最も適している人間だと静希は思っている、それだけ彼女の能力は強力だ


今こうして電話をかけているのは、正直に言えば賭けだ、実月が静希の居場所を特定するなんてことは指先を動かすのと同じくらい容易、情報を得られるか、居場所を通報されるか、二つに一つだ


「理解してなお、貴女に電話しています・・・情報が欲しい・・・俺をはめたどこかの誰かに一矢報いるためにも」


『・・・少し待ちなさい』


実月が数秒間電話から離れると、次に聞こえてきたのは途方もなく大きなため息だった


どうやら静希の現状を把握したらしい、だがすべてを把握したわけではなさそうで、どうしたものかと迷っているようでもあった


『随分と不可解な状況になっているようだね・・・君は間違いなく事件発生時に学校にいたのに、犯人扱いか・・・』


恐らくは静希の住む街の監視カメラなどに残された映像をハッキングして見つけたのだろう、この状況になるだけの理由がわからないのか、実月は唸りだしてしまう


「えぇ、正直困ってます・・・俺の予想では殺害された議員と敵対関係にある人間の陰謀もどきだと思ってますけど・・・」


現状証拠が何一つない状態ではすべて静希の推論でしかない、殺された議員に対抗している人間がいるとも限らないのだ


雲をもつかむような話でも、静希は動くしかない、それしか手がないのだ


「警察に証言をした人間が何か知っているんじゃないかと思ってまずはそいつと接触するつもりです、調べていただけませんか?」


『ふむ・・・また妙な面倒事に巻き込まれたようだね・・・わかった、だがこうして電話をかけるのも面倒だ、君はこれから東京の方に行くのだろう?』


「えぇ、そのつもりですが」


確かに情報を受け取るにしろいちいちこちらから電話をかけることでしか得られないというのはかなり不便だ、何かしらの連絡手段を講じるべきかもしれない


そして、実月はその件に関して解決案がある様子だった


『東京に『水ノ香リ』というカフェがある、そこに行きなさい、私が話を通しておこう、情報の受け渡しなどは主にそこで行うことにしよう』


「水ノ香リ・・・ですか・・・そこってただのカフェなんですか?」


静希の質問に実月は言葉を詰まらせた、この反応を見るにどうやらただのカフェというわけではなさそうだ


だが実月がわざわざその店を指名したのだ、恐らく何かがあるのだろう


『とりあえず、普通とは違う・・・私も数える程度しか行ったことはないが・・・まず面食らうことは間違いない・・・いい人ではあるんだが・・・』


「面食らう・・・ですか・・・」


静希のイメージするカフェは落ち着いた雰囲気の物ばかりで、まず面食らうなどと言う言葉を最初に出すようなものではない


実月の言うように、普通とは違うようだ、だからこそ彼女が勧めているというのもあるだろう


『裏通りにあるから見つけにくいかもしれないが、頑張って探しなさい、そこの店主の帯広・・・いや、カエデという人に私からの紹介であることを告げなさい、事情を察してくれるだろう』


「・・・帯広カエデ・・・ですか?」


『いやカエデだ、カエデとだけ言いなさい、そうすれば特に何も言われることはないだろう・・・そうだな・・・店に行ったらこう言いなさい【こはいかに、かかるやうやはある】と』


「なんですかそれ」


『暗号のようなものだ、覚えておきなさい』


何故一度言い直したのかが気になるが、静希はとりあえずそれで納得することにして頭の中で何度か反芻する


実月がこういうのだ、何か意味があるのだろう、そこにどんな意味があるのかまでは静希はまだ理解できないが、いずれわかることだ


「ところでそのカエデさんって実月さんのお知合いですか?」


『ん、そうか、君たちは知らなかったな・・・あの人は私の師匠だ』


受話器の向こう側から聞こえてきた言葉に、静希は一瞬言葉を失った


実月は静希達より年上で、明利に同調のコツなどを教えた人物でもある、かなり能力を早い段階で使いこなし、学生時代もかなり活躍していたと聞く


その実月の師匠、まさかこんなところで巡り合うことになるとは思っていなかっただけにその衝撃は大きかった


土曜日なので二回分投稿


最近忙しくはないんですが考えることが多くて目が回りそうです


これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ