取調室でのひと悶着
事を考える前に静希は情報を整理し始めた
まず事件が発生したのは昨日の十四時、被害者である国会議員の事務所、目撃者は不明、だがこの目撃者が『五十嵐静希を見た』という証言をし、現場にはその職場の人間の物ではない毛髪が発見されている、警察はそれが静希の物であると考え、現在検査を行っている
問題はその目撃者だ
目撃者が静希だと明言している以上、何か静希と関わりがあるか、または静希の秘密を知っている者か、どちらにせよなんとか確認しなくてはならないだろう
「あの・・・ひょっとして今日から拘束される感じですか?」
「その通りだ、少なくとも毛髪の鑑定が行われるまではここにいてもらうことになる」
仮にも容疑者になっている人物を簡単に逃がすはずがないだろうという事か、と静希はため息をつく
「だったらとりあえず友達とかに連絡していいですか?メールとかでいいんで、心配させたくないですから」
「・・・内容はこちらも確認するが、それくらいなら」
その言葉に静希はとりあえず一括で明利、陽太、鏡花、雪奈の四人にメールで現状の説明と、少しの間拘束されてしまうという内容を書いて目の前の警官に内容のチェックをしてもらう
特に何の暗号も組み入れていないただの文章だ、何の問題もなく送ることを許可されたが、メールを送信すると同時に取調室の向こうが騒がしくなってくる
一体何事だろうかと周りの警察の人間も外に注意が向く中、取調室の扉が勢いよく開く
その先には息を荒くしている城島が立っていた
「あ、先生」
「おい、入るな!今取り調べ中だ!」
入ってきた城島を取り押さえようと外で待機していたもう一人のよそ者警官が掴みかかるが、そんなものはないとでもいうかのようにお構いなしに部屋の中へと侵入する城島
手を出したら自分が不利だということがわかっているのだろう、自分から手を出すような真似はしないようだった
「五十嵐、どういう状況か簡単に説明しろ」
「おい!関係ない者は出ろ!」
警官がその服を掴んで外に引きずり出そうとしているが城島は動かない
その様子を見て少しだけ苦笑しながら、手に入れた情報をできる限り頭の中でまとめ上げる
「件の事件の目撃者が『五十嵐静希を見た』という証言をして、現場に関係者の者以外の毛髪が見つかり、警察はそれを俺のものだとして現在調査中、俺を容疑者として拘束するらしいです」
「・・・そうか、わかった」
少し強調した静希の台詞に城島は満足したのか、踵を返してその部屋から出ようとする
だが部屋の扉を閉める前に少し振り返って静希の方を向いた
「一つ聞く、お前はその事件に関与したか?」
「していません、する理由もない」
静希の言葉と視線を受け止めて今度こそ満足したか、城島はそのまま外へと出て行く
取調室の中にいた人間は全員大きく安堵のため息をついて見せた
恐らく城島はあの職員室の時点でほとんど何も情報を得ていなかったのだろう、ここまでやってきて静希に直接情報を聞きに来たというあたり彼女らしい
必要なことは伝えられた、後は彼女が静希の希望通りに動いてくれるのを願うばかりだ
「そういえば、俺に聞きたいことはもうないんですか?聞かれたことは答えますよ?」
先程から聞かれたことと言えば事件発生時刻のアリバイと、静希の身の周りのこと程度だ、まだまだ聞きたいことは山積みになっているはずである
「いいや、君から聞くべきことは以上だ」
その言葉に、静希は眉をひそめる
静希は今まで事件らしい事件に関わってきたことは少なかったが、殺人を犯したと思われる容疑者に対してここまで聞くことが少ないというのは明らかにおかしい
少なくとも以前関わったイギリスの事件では数時間にわたって何人もの人間が何回も同じような質問を繰り返していた
他の人間にも同じ話をさせてその話の内容に矛盾がないかを確かめるためにも、同じ話を何度もさせる、精神の疲弊というのも目的の一つだが、警察の事情聴取は長時間行われるのが常だ
なのに、静希に聞いたのは数えられる程度の物ばかり
これは静希の勘だが、目の前にいる人間は何かしら圧力でもかけられてここにいるのではないかと思われる
本来警察の中にはきちんと能力者に対応できるだけの専門家が配置されている
それは警察に就職した数少ない能力者であり、能力学を学んだ無能力者多数で構成される部署だ
この喜吉学園の近くにある警察署は近くに能力者の専門学校があるという事から、署内のほとんどの人間は能力について正しい理解と詳しい知識を有している
だがほかの地域の警察は全く違い、能力を魔法の類と勘違いする人間も多い
目撃者がたとえ『五十嵐静希を見た』という証言をしたところで、静希が能力者だとわかれば専門の人間を派遣するのが当然の反応だというのに、実際派遣された目の前の人間は明らかに専門家とは程遠いただの無能力者
何か裏があると感じながら静希は周りの様子をよく確認する
特に目の前にいるよそ者である警官に対して
まさか偽物の警官なのではないかと思い、よく観察してみても、スーツ姿、持っていたのは警察手帳のみ、少し不審だった
「あの、あなた本当に警察ですか?」
「・・・それはどういう事だ?」
「議員が殺害されて、その容疑者に対して明らかに聞くことが少なすぎる、その上に対応も不審、あなた本当に警察官ですか?」
その言葉に明らかな不快感を覚えたのか机を叩いて勢いよく立ち上がるが、周りの警官がすぐに対応しようとすると、渋々と懐から警察手帳を置く
「調べるなら好きにしろ、これは本物だがな」
「んなもん見せられたって本物かどうかなんて判断できませんよ、ただの高校生なんですから、んなこともわかんないんですか?」
「・・・このガキ!」
意図的に神経を逆なでする言葉を選んで話した結果、目の前の警官が握り拳を作って静希の胸ぐらをつかむ、だがそれと同時に周りの職員が取り押さえて取調室から強制的に退室させられる
煽りに対する耐性が少なすぎるのではないかと思えるが、静希はため息をついて頭の中で再度情報を整え始める