不当と不満
世間一般において最も能力者のイメージとして結びついているのは、発現系統そして転移系統などである
物語などで最も扱いやすく、それでいて単純で力強く、よく登場キャラクターの能力として取り上げられることからこの二つが最も能力者のイメージに近いものになっている
確かに念動力、発火、転移などは能力の中に確かにある、陽太の能力も発火に近いが実際どのような能力なのか全容まではつかめていない
そして、単純に単一の能力だけを持っている能力者というのは実は本当にごくまれなのだ
多くの系統がある能力の中で、単一能力のみを持っている能力者は数少ない
例えば静希は収納系統だが、トランプを創り出すというところで発現系統の力も部分的に存在しているし、最近では物体を最善の状態にするという付与に近い力があることも分かっている
明利は同調に加え、強化の能力も入っているし、鏡花は変換の能力にわずかだが同調などの力も加わっている
陽太も炎の発現と身体能力の強化という力が加わっているが、それだけでは説明のつかない現象がいくつか起こっている、透過状態のメフィに触れられたりだとか、身に着けているものが燃えなかったりだとか、炎が固体に近い状態になったりだとか
ただの能力の特性というには少々度が過ぎた特異性がある陽太の能力、こういったどの系統なのか未だに不明瞭なものもある
発現系統の中でもいくつか能力が混じっているようなものは多々存在する、だがもっとも混ざり気の少ないのが発現系統だ、だからこそ世間一般での能力者のイメージが発現系統などに偏るのかもしれない
わかりやすい能力程攻略されやすいという欠点もあるが、その分強力だったり、操作性が優れていたりするのだ
そしてわかりにくかったり、攻略されにくい複雑な能力程制限が多く、同時に弱く扱いにくいものが多い
「ポピュラーっていっても、無能力者の方でだろ?俺らの方だと強化能力とか、変換とかの方がよく見る気がするぞ」
「まぁ、そこは私たちと無能力者の人たちの意識の違いってところかしら、映画とかだとよくいるんだけどね」
「あれって能力なのか?どっちかっていうと演出じゃねえの?」
陽太の疑問ももっともだが、実際にその場に行ったことも製作の裏側なども見たことが無いため静希達は首をかしげてしまう
能力者が映像などに残るようなことをするとはどうしても思えない、なにせ自分の能力を残すことはそれだけ情報を与えるということにもつながるからである
以前静希はメフィの能力を映像に残したが、それもしっかりと処分させた、しかもあれは数あるメフィの能力のうちのひとつでしかない
一つの能力しか持っていないという相手の勘違いを誘発させるにはちょうどいいのだ
「ちょっと前だとさ、漫画でもあったじゃない?超能力のサイコメトリーのやつ、あれなんか面白かったけど」
「あぁ、物体の記憶を読むってやつか・・・能力で言うなら同調系統・・・経験同調だよな、探偵とかがあれ使ったら事件も一発で解決だけどな」
同調系統の中にはいくつか種類があり、大まかに分けると物質的な同調と思考的な同調の二つに分かれる
物体がどのような状況になっているかを把握する物質的同調
触れた物体がどのような経験を積んだか、あるいはどのようなことを考えているか、その深くまでを探ることのできる思考的同調
明利の場合、物質的同調と思考的同調が八対二ほどの割合で含まれている、本格的な通訳まではできないまでもある程度のニュアンスまでは伝えられる程度のものである
「瞬間移動とかの映画とかもあったよな、実際はあんなに連続で飛べないけど」
「あぁあれな、もしできたら相当上位の能力者だよ」
転移系統の能力者は静希も何度か世話になったが、映画などで見られるほど連続で長距離を転移できる能力者は少ない
できたとしても数十秒に一回、それもその距離は数百メートルが限度だろう
無条件で地球の反対側まで一回のテレポートで行けるなどと言う転移能力者は今のところ確認できていない
遠くに行こうとすればするほどに高い集中力を必要とし、同時に疲労も溜まるのがテレポートだ、その手法や種類は多くあるがそれだけはどれでも一緒である
「物語とかだとすっごく便利で簡単に使えるって印象あるけどね、あんな風に使ってみたいわよ」
「あんな風に使えたらいいなって言う理想だろ?現実は違いますよって話だけどな」
「便利なだけなら苦労しないってのになぁ」
「ほ・・・本当・・・そう・・・だよね・・・」
能力というのは便利なだけではない、それだけ日常を侵食し、生活を脅かす
他人だけではなくそれは自分にも襲い掛かり、日常に歪を作る
何でもできる能力などない、欠点のない能力などない
物語に記される奇跡のように見える、奇跡に限りなく近い何かも、可能と不可能を抱えた奇跡の出来損ないに過ぎない
幻想的な魔術や魔法などない、世界にあるのは現実的な能力だけ
それを理解しているのは、その力を扱い、その力に振り回される能力者
それを理解できないのは、その力を羨み、その力に魅せられる無能力者
どちらが幸せなのだか、今の静希達には判断できなかった
訓練を終え、疲れた体を引きずりながら授業を受け、その日の授業はすべて終了する
訓練があるのは何時ものことなのだが、ここまで体を酷使する内容は久しぶりだったために少しだけ体が悲鳴を上げているのがわかった
「いやぁ・・・疲れたわね」
「・・・本当・・・疲れた・・・」
鏡花と明利のこの言葉、同じ言葉のはずなのに重さが違うのはこの二人の状態の違いが原因だろう
鏡花は大きく伸びをして授業の終わりを喜び、明利は机に突っ伏して今にもそのまま眠ってしまいそうである
普通の訓練と違って体力と同時に筋力を摩耗するものだったためにその疲労度は普段のそれとは比べ物にならなかったらしい
同じ訓練をしたはずの陽太たちはけろりとしているが
そんな中、すでに終わったはずの学校なのにスピーカーからノイズ音が走り放送が始まる
『一年B組五十嵐静希、至急職員室まで来なさい、繰り返します、一年B組五十嵐静希、至急職員室まで来なさい』
その放送にその場に残っていた生徒の視線が静希に集まる
もちろん陽太たちも同じように静希を見て首を傾げた
「今度は何したんだ?先生からならまだしも放送で呼び出しって珍しいな」
「面倒事じゃないことを祈るな・・・とりあえず行ってくるか・・・」
陽太の言うように城島からHR後に呼び出されることは多々あるが、わざわざ放送まで使って呼び出すというのは珍しかった
とりあえず帰り支度をした後でそのままカバンを持って職員室に向かうことにする
失礼しますと言ってから職員室の中に入るとそこにはスーツ姿の男性二人と、彼らと話している城島の姿がある
今まで見たことのない顔つきで、城島は明らかに不快な表情をしながら食って掛かっている
「お待たせしました、五十嵐静希です・・・何か用ですか?先日の空き巣の件ですか?」
静希が近づくとスーツ姿の二人は警察手帳を見せて静希に自分たちが警察であることを告げる
片方は三十過ぎくらいだろうか、僅かに髪に白髪が混じっていて、もう片方は二十代後半と言ったところだろう、若々しく、もう片方の後輩であることが覗えた
警察の中の人間で知り合いなど数える程度しかいないために仕方のないことだが、少なくとも最近静希と会ったことはないはずである
静希を確認すると警官二名は目を合わせて静希の前に立つ
「待て、話はまだ終わっていないぞ」
「話は彼から聞きます、あなたは少し下がっていてください」
城島が食って掛かるのを無視して警官二名は静希の眼前に立つ、妙に近く、圧迫感のある表情をしているのが印象的だった
「確認するが、五十嵐静希君で間違いないね?」
「・・・?はい、五十嵐静希です・・・えと・・・何の用ですか?」
この二人の態度、というより視線からはあまり友好的なものが含まれていないことがわかる、一体自分に何の用なのだろうかと静希は訝しむ
「君は先日の十四時から夕方まで、何をしていたかね?」
「昨日・・・ですか?普通に学校で授業受けて、学校が終わった後は警察に行ってました」
「警察に何しに?」
「先日空き巣に入られたので、その話をしに、被害だとか捜査状況だとかを聞きに」
静希は聞かれたことに素直に返し、特に嘘をつくようなことはしなかった
だが警官二名からの嫌疑の目は変わらない
一体何が目的なのか、何を聞こうとしているのか判断できない
「あの・・・俺に何の用ですか?」
未だに状況がつかめていない静希はわずかに不安になりながら警察二名と近くにいる城島に視線を向ける
城島はくだらないと一言吐き捨てて静希の横に立つ、その表情はお世辞にも機嫌が良いとは言えないものだった
「五十嵐、先日議員が殺害された事件は知っているか?」
「・・・えっと・・・ニュースでやってたやつですか?」
先日ニュースを見た時にほんの少しだけ報道されていたある事件
東京にある仕事場で書類整理をしていた国会議員が一人殺害されたという事件だ
細かいところまでは静希も把握しておらず、最低限の情報しか頭の中には入っていない
だがその事件と今の状況と何のかかわりがあるのだろうか
「その事件の容疑者に、お前の名前が挙がっている」
「・・・はぁ!?・・・え?はぁ!?何で俺?」
静希はあまりのことに一瞬何を言われたのかわからず、開いた口がふさがらなかった
事件が起こったのがいつなのかもわからないようなものの犯人に自分の名前が挙がっている
しかも殺された議員の名前さえ静希は知らない、さらに言えばどこに住んでいるのかもどこで仕事をしているのかも知らない
「話は分かってもらえたか?君を重要参考人として連行する、抵抗してくれるなよ?」
「えっと・・・アリバイとかあるんですけど・・・先生とか学校の友達とか・・・」
「話は署で聞く、とにかくついてきてもらおう」
聞く耳持たないとはこのことだろうか
任意同行などとは全く違う強引さに静希はあきれ返ってしまう
何故そんな話が来たのか、何故自分なのか、最近碌なことが無いなとか考えながら静希は城島に口を開けたまま視線を向けると、自分の担任教師はため息をついて呆れながら首を横に振って見せた
日曜日なので二回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです