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J/53  作者: 池金啓太
十七話「追い追われる先に」
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被害ゼロの憂鬱

そんな中オルビアが明利の近くによって顔を寄せる


「明利様、マスターは非常にお疲れなご様子、できるのでしたら今日はマスターに食事などを作っていただけないでしょうか?」


「え?・・・あぁ、そうだね、うん!そうするよ」


オルビアのちょっとした気遣いに明利は満面の笑みで答える


静希に駆け寄りすぐにその旨を伝えると静希は情けない顔になりながらありがとうよ明利と言いながら頭をなでていた


「そういえば被害はあんたのとこだけ?雪奈さんのとことかほかのところは?」


「まだ確認は取れてないな、雪姉にも帰ってきたら確認しとかないとだけど・・・」


「これでもし静希のところピンポイントだったらもう泣くしかないな」


「陽太君、それ冗談じゃすまないよ?」


陽太の言葉を嗜めながら明利は唇を尖らせている


事実結構シャレにならない、貴重品などの類はほとんどが静希のトランプの中、そして銃の弾丸も厳重に鍵をかけて保管してあるものの、静希の部屋の中には大量に武器が保管してある


それらすべてが小さく、簡単に持ち出しもできるようなものばかり、素人目にもこの部屋は危ないということがわかる


リビングは気体生成用の機材とパソコン、後はテレビやレコーダーの類程度しか目を引くものはない


こんな場所でいったい何を探そうとしていたのかはさすがに本人でない限りわかりようがないだろう


「とりあえず何も被害が無くて何よりね、初動が早かったおかげかしら?」


「それに関しては邪薙のお手柄だよ、知らせてくれなきゃ完全になんか盗られてたかもな」


邪薙が万一の備えとして結界を張っていてくれて本当によかったと思う、なにせ静希が家にいてもいなくてもこの家に入る存在は感知してくれるのだから


感知してもはじき出すほどのことができないのが難点だが、そこまでの性能を小神である邪薙に求めるのは酷というものだろう


「やっぱあれか?指紋とか調べてたりしたか?警察の人来たんだろ?」


「いろいろやってたけど、まだ結果はわからねえよ、確実に残ってたのは靴跡だけだ」


ほれよと静希は撮影しておいた靴跡を陽太に見せる


そこには確かに土足で部屋の中に入ったという証拠でもある靴跡が残されていた


窓を僅かに切断、あるいは破壊して鍵を開け中に侵入、リビングをうろつきながら各所を移動しているように足跡が断続的に残っているのがわかる


「警察のお世話になるとは思ってなかったからな・・・何度か警察署に顔出してもらうかもしれないとか言われてるんだよ」


「まぁ一応被害者だし、そこまで面倒はないでしょ、暇なときにでも行っときなさい」


あらかたの片づけを終えてほとんど元通りになった部屋を見て静希は大きくため息をつく


現代日本の家屋に対してのセキュリティは決して低くはないが、相手が能力者となると話は違う


それこそ転移系統の能力者なら施錠などほとんど意味なく侵入できる、鏡花のような変換能力者もまた然りだ


粗っぽい方法をとっても良いのであれば陽太のような物理的突破も使える、能力者に対して完全な施錠というのは今のところ存在しないのだ


以前一般人用の刑務所に施されていた電差処置も変換能力者のみに有効な策であって能力者全体に有効なものではない


事実陽太の物理的な突破を前になす術もなく破壊されていた


能力者への完全な対策ができない今、能力者用に拘束具などが開発されているという話を授業中に何度か聞いたが、それも実用には程遠いと聞く


魔素濃度を低下させ、能力を使えない状態にしても出力の小さい能力は問題なく使えてしまう


相手に能力を使わせないためには、至極単純な策だが相手の意識を断ち切るのが一番なのだ


もっとも能力者相手ではそれが一番難しいことでもある


散らかされた物の細部まで片づけをしているとさらに来客を告げるチャイムが鳴る


今度は明利が出るとその先にはいつものように部屋に入り浸るべく雪奈がやってきていた


「やっほー・・・ってあれ?みんなおそろいでどったの?」


「あ、雪奈さんこんにちは」


明利がいるのは何時ものことだが鏡花と陽太がいるのは珍しいと感じたのか、雪奈は目を白黒させながらいつもと様子の違う静希と人外たちを眺めてあたりを見渡す


すると鼻をぴくぴく動かして部屋の中の空気の匂いをかぎ取るような動作をする


「ん・・・?なんか知らない人の匂いがする・・・ひょっとしてお客さんでもいた?」


「あー・・・まぁそうだな、招いてはいないけど客だったのかな・・・」


静希が大まかに事情を説明すると雪奈は大急ぎで自分の家に戻り、部屋が荒らされていないかのチェックを始めた


静希の部屋も大概だが、雪奈の部屋はもっと酷い有り様である


なにせ静希の部屋のように携帯可能な小型武器ではなく、そのほとんどが剣や槍など本格的な武具なのだ、盗まれたらそれこそ大問題に発展する


普段武器の管理などはほとんど静希にやらせているものの、さすがにこの場では自分でチェックしなければいけないと感じたのか、以前静希が作った確認表を元に武器の無事を一つ一つチェックしていく


思い入れのあるものからほとんど使わないようなものまでより取り見取り、女子の部屋とは思えないその部屋に以前鏡花が辟易したのが遠い昔のように思える今日この頃だった


「いやぁ、私のとこは大丈夫だったみたい、災難だったね静」


「まったくだよ、ご近所さんは大丈夫かな?警察の人が聞き込みくらいはしたと思うけど・・・」


自分の部屋のチェックを終えて戻ってきた雪奈はほっとしているのだが、同時にご近所さん、特に静希達より下の階に住んでいる住人たちが気がかりだ

もし静希の家の他にも侵入された家があるのであれば、それはそれで気の毒だがこれがただの空き巣だったということが判明する


だがもし静希の家をピンポイントで狙ったものだとしたら、少し話が変わってくる


もし静希の家を狙ったものだとしたら、盗られたものがないとはいえ今後少し警戒することが必要かもしれない


「明利、鏡花、一応変なものが仕掛けられてないかチェックしてくれないか?」


「変なものって、盗聴器とか?」


「あー・・・盗みが目的じゃないって考えね」


静希が考えたのは今回の盗みが静希の家を狙ったもので、盗みではなく静希の家に何かを仕掛けるための物だったというものだ


実際静希の肩書を考えればそこまで不思議なことではない、万が一を考えるならチェックはしておいて損はないだろう


能力を使い数分かけて部屋中を捜索する明利と鏡花、静希と陽太、人外たちももちろんそれを手伝ったが、それらしきものは発見されなかった


杞憂に済んだのは喜ぶべきだろうがそうなるとなおさら不安感は残る


「もし必要なら窓とか扉とかちょっと頑丈にしておくけど・・・やっとく?」


「・・・そうだな、一応頼む、銃弾くらいは余裕で防げる仕様にしてくれ」


はいはいと鏡花は気楽そうに静希の家のあらゆる部分を頑丈にしていった


具体的には窓、壁、扉、天井に床、ありとあらゆる部分の耐久力を今までと比べ物にならないほどに向上させる


静希の注文通り、外部からの攻撃で破壊するにはもはやただの銃では難しいであろう程に


「これで物理手段での侵入はちょっと時間がかかるはずよ、後は邪薙との連携で何とかしなさい」


「十分だよ、何から何まですまないなぁ鏡花姉さん・・・」


「・・・なに、今度はお爺さんの真似?それはいわない約束でしょ?とでも言ってほしいわけ?」


わかってんじゃねえかと静希は枯れた声とまがった腰をやめてソファに深く腰掛ける


ようやく元通りになり、少しは安心感の増した空間に大きく安堵の息を漏らしていた


その後鏡花たちは静希の家から帰っていき、夜になって食事を共にした明利と雪奈も遅くなる前に家に帰ることになり、静希は明利を送ってからその日は床に就いた



そして翌日、静希はまず職員室に呼び出されていた


内容は勿論空き巣についての報告である


「ふむ・・・じゃあとりあえず被害自体はなかったということでいいんだな?」


「えぇ、ガラスも鏡花に直してもらいましたし、実質無害でした、他の家にも盗みが入ったかどうかまではまだわかってません」


未だ警察からの連絡が来ない状態なので、情報自体が入ってきていないため、今日の放課後にでも警察署の方に行ってみるという旨を伝えると城島は大きくため息をついて見せた


「万が一・・・その盗みがお前の部屋にだけはいったのだとしたら、警戒しておけよ、何が起こるとも限らん、盗聴器や監視カメラの有無などは確認したか?」


「明利と鏡花に頼んでチェックしてもらいました、その類のものは仕掛けられてはいませんでした」


邪薙が侵入者に気づき静希が家に帰るまでの間の時間はせいぜい十分あるかないか程度の時間だ


その間に盗聴器の類を仕掛けるのだって不可能ではないが、全員掛りで探して見つからなかったのだ、とりあえずその類のものは仕掛けられていないと思ってまず間違いないだろう


「警察の方の情報は私もいくつか当たってみよう、ただの空き巣ということも考えられるが、能力者であるというのなら多少警戒しすぎても問題ないだろう」


静希の証言から城島は相手が能力者であると確信を持っているようだった

無論静希も同意見だ


あれほど高い場所から飛び降りて瞬時に視界から消えて見せた


ただ単に下の階のベランダに飛び移って部屋の中に隠れたというのも考えられるが、無能力者があそこまでの動きをするというのがまず信じられなかった


そして静希の住んでいるのがかなり上の階だというのも一つの判断基準になっている


ベランダには取っ手などはあるが、それを使って登攀できるほど各階の間隔は狭くない


特にそれを何度も繰り返して静希の部屋に侵入したというのがまず考えられないのだ


同じ階の部屋から侵入して横に移動したにせよ、あれほどの高さから飛び降りるなどという異常じみた判断を下せるような人間が無能力者のはずがないという理屈なのである


「ところで、一応聞いておくが、警察に同居人の存在は気取られなかっただろうな?」


「大丈夫ですよ、警察の人がいる間はずっと隠してましたから・・・」


静希の家に人外がいるということを知っているのは本当にごく一部の人間のみ


ばれないように細心の注意を払っているものの、赤の他人を自宅に入れる時はさすがに肝が冷えるというものである


「まぁ被害が無くて何よりだ、ただの空き巣ならそれに越したことはないんだがな」


「ただの空き巣でいいっていうのもまた妙な話ですけどね」


犯罪の被害に遭っておきながらまた別なところを心配するあたり、静希達は少し毒されているのかもしれない


面倒事に関わりすぎたと思える半面、こうやって面倒事を片付ける技術も上がってきているのがまた嫌なものだった


誤字報告が五件たまったので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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