それぞれの考え
「・・・と、ところで幹原・・・一ついいか?」
「ん?なに?」
静希に聞こえないように声を小さくし明利に顔を近づけてこそこそと耳打ちする石動に、明利はわずかに小首を傾げる
石動は聞こうか聞くまいか迷っているようで、静希と明利の方をしきりに確認しながら咳払いを一つつく
仮面の上からでも口元に手を当てるというのは意味があるのだろうかと疑問に思いながらも明利はとりあえず石動が何か言うのを待つことにした
「その・・・なんだ、お前と五十嵐は恋仲になった・・・それは間違いないのだな?」
「・・・?うん、前々回の実習が終わった時からだけど・・・」
確認するようにそうかそうかと呟きながら石動は頷いてそのあとすぐに明利の肩を抱き寄せて顔をさらに接近させる
「そ、それで・・・五十嵐とはもう・・・その・・・したのか?」
石動の言っていることが一瞬理解できずにあっけにとられるが、その数瞬後にはその言葉の意味を正しく理解し明利は顔を真っ赤にする
「な・・・え!?あ、あの!?」
「わかっている、言いにくいことだというのは重々承知だ、だが気になってな・・・」
エルフとはいえ石動もただの女の子だ、色恋沙汰に興味がないと言えばうそになる
特に彼女は身近に年の近い男子がいなかった、そんな中で親しい男子と女子の友人が付き合いだしたとなれば気になるのも当然と言えるだろう
だからと言って本人がいる前でする話題だとは思えないが
「な・・・ななな、何でそんなことを・・・!?」
「いや、私が言うのもなんだが、お前はいろいろと小さいだろう?そういう事に耐えられるのか少し心配になってな」
心配だというのはもちろん建前でもあるが、半分くらいは本音でもある
明利の体は小さい、平均的な身長で見るなら小学五年か六年の身長に相当するほどに小さい
そして明利の恋人である静希との身長差は三十センチ、これほどの差がついていながら問題なく行為に移行できるのか、石動が気になっていたのはそこだった
「わ、私はまだ・・・そういう事は・・・」
「むぅ・・・そうか、すまない、さすがに気を急きすぎたかもしれないな、忘れてくれ」
「あ・・・でも鏡花ちゃんにも、急いだ方がいいってアドバイス貰ったよ?」
明利の言葉にほほうと笑いながら視線を演習場の中心部にいる鏡花に向ける
あんな挙動不審な動作をしていても肝は座っているという事かと意味深に呟きながら口元に手を当てている
仮面の上からでも妙な笑みを浮かべているのがありありとわかるような声だった
「だがその助言は間違いではないと思うぞ、我々は常に危険の中に身を置く立場だ、可能な限り悔いは残さないほうがいい」
「うん、鏡花ちゃんにもそう言われた・・・頑張るつもりなんだけど・・・」
そう言って項垂れてしまう明利を見て石動はその頭をなでながらため息をつく
「こういう時は男からアピールしてほしいものだが、五十嵐は一体何をやっているのだか・・・据え膳くわぬはという言葉を知らんのか・・・いや五十嵐に限ってそれはないか」
「わ、私が逃げちゃってるから悪いんだよ・・・静希君も我慢してるだろうし・・・」
明利と静希の実情をあまりよく知らない石動からしたら、静希がふがいないからこういう状態になっているのだと思えるようだが、実際は明利が静希からするすると逃げ続けているからでもある
何かしらの覚悟は決めたようなのだが、最後の一歩を踏み出せるのは一体いつの日になることやら
「まぁ確かに女にとって初めての経験だ、大事にしたいというのはわかるが、大事だからこそ意中の人に捧げたいというのもあるだろう、自分の中で踏ん切りがついたら誘うといい、五十嵐も拒むようなことはしないだろう」
「・・・うん、頑張る」
石動の言葉に少し勇気づけられたのか明利は力強くうなずいて笑みを作って見せる
女子同士の話で多少思うところがあったのか、得るものがあったのか明利の表情は明るい
同世代の同性と話せるというのはよいものなのだろう
「・・・お前らさ、ガールズトークもいいけどせめて俺に聞こえないようにやってくれないか?」
そんな話を続けていた中で陽太たちの方に意識を向けていた静希が呆れながらため息をつく
「・・・聞こえていたのか・・・?」
「この距離で聞こえないわけがないだろうが」
静希と女子二人の距離は一メートルもない、こんな距離で声を小さくしてもほとんど聞こえてしまうのは半ば当然のことだ
しかも途中から小声で話すのもやめて普通に会話してしまっているのだから内緒話の内容は全く内緒にされず静希の耳にまで届く始末
「まったく盗み聞きとは趣味が悪いぞ、こういう時は聞こえていても聞き流せ」
「人の恋路に口出す奴も趣味が悪いと思うぞ?馬に蹴られてなんて言う言葉が残るくらいだ」
「・・・それだと今の私たち全員趣味悪いんじゃないかな・・・?陽太君と鏡花ちゃんのことに首突っ込んでるんだし・・・」
明利の言葉に静希は少し悩んだ後、見てるだけならセーフだなどと吐き捨てて再び陽太と鏡花の二人へと意識を向ける
静希の中では物陰から眺めるのはセーフらしい
「それにしても、清水はなぜ響に惚れたのだ?何かあったのか?」
「さぁな、なんかあったんだろうけど俺らは知らん、本人に聞け」
日も傾きかけている中、それでもなお二人の様子を眺めている三人、何度か鏡花が陽太に指導する様子は見られたがそれ以上のアクションを起こしたそぶりはない
炎の色を変えた状態で体を動かして見せたり長時間維持できるようにじっとしていたりと訓練にもいくつか項目分けでもされているのだろうか、やはり青い炎はまだ長時間は維持できないようでじっとしている状態でも一分維持できるかどうかという感じだった
「鏡花ちゃん曰く陽太君にもいいところがあるって言ってたよ、優しいところとかって言ってたかな」
「なるほどな、終わりに理由はあれど始まりに理由はないという事か・・・お前達から見て異性としてのあの二人の相性はどうなんだ?」
石動の質問に静希と明利は悩み始めてしまう
能力や性格の相性はさておき、恋人として相性が良いかどうかと言われると静希も明利もどう答えていいものかわからないのだ
特に陽太が誰かに惚れているというところが想像できない、陽太が誰かに惚れた時にどんな反応や行動をするかというのがまったくわからないのだ
「ならお前たちはあの二人をどう評価する?もちろん異性として」
相性がどうこうではなく静希達の主観で二人をどう感じているか、この情報はかなり有益である、なにせ毎日のように一緒に居るのだ、それなり以上の評価が下せるだろう
「鏡花はなぁ・・・頭はいいし気遣いもできるけど、如何せんきついんだよな、言葉とか態度とか」
「陽太君はなぁ・・・いざという時は頼りになるし、懐も大きいだろうけど・・・デリカシーがないし・・・」
鏡花の毒舌っぷりや態度の刺々しさは静希達も知るところである、初対面の時は敵意とさえ取れるような内容の言葉をぶつけていたほどだ
今は随分と丸くなったし静希達も鏡花に慣れてきたからそこまで気にするようなことではないのだが、やはり初対面の人間にはきついものがあるだろう
彼女からすれば思ったことをそのままきつい言葉に変換して伝えているだけなのだが、それが事実であるが故にさらに深く突き刺さる
一方陽太は持ち前の身体能力といざという時に迷わないその気性から、危険な時などは非常に頼りになる存在だ、男として頼りになるというのはかなり良い点だと言える
深くものを考えないから大抵のことは許容するし、そういう意味では懐が深いと言えなくもないだろう
だがそれを超えて余りあるほどにバカだ、しかもあまりものを考えないからデリカシーというものが基本皆無である、辞書で引いて赤線を引いても辞書ごと無くしてそのまま忘れるくらいにバカなのだ
ある意味二人とも思ったことをそのまま言うような人間だからもし恋人関係になってもデリカシーのなさとその毒舌さから喧嘩が絶えないのではないかと思えてしまうほどである
今は鏡花が上手く手綱を引いているがそれが将来どうなるかまではわからない、陽太が今のままバカを通すのか、それとも万が一、億が一の確率で奇跡が起こり姉である実月のように天才に覚醒するのか、どちらにせよあの二人が仲睦ましくしているところが想像できない
「なんというか、お前たちの中であの二人の評価は高いのか低いのかよくわからんな」
「ん・・・まぁ良いところもあり悪いところもあるってとこだな、んなこと言ったら俺や明利にだってそれぞれ良いところも悪いところもあるぞ?」
「え!?どこ?例えば!?」
話の流れで思わぬところから食いついてきた明利の頭を押さえながら静希はため息をつく
まさかここで明利が食いついてくるとは思わなかったのだ、日常的に一緒に居るから褒めたりすることが少ないせいか、自分に自信を持てていなかったのだろう、もう少しちゃんと褒めてやるべきだろうかと静希は気まずくなってしまった
「例えば明利は気配りができる、家事も完璧、普通に可愛いし基本的に何の不満もない」
静希の言葉に明利は緩ませた頬に手を当てながら嬉しそうにしている、その様子を見て石動はごちそうさまという心境だったが静希の言葉はさらに続く
「だけど異様に恥ずかしがり屋だからな自分のしたいことを言ってくれなかったりするんだ、大体態度とかで分かったつもりになってるけど、やっぱりしたいこととかしてほしいこととかは言葉にして欲しい、そのほうが楽だし、こっちも嬉しい」
「そこは男として察してやるべきではないのか?言葉にするというのはいろいろ憚られるだろう」
「それができればいいんだけどな、こいつ気を遣うのが上手すぎるんだよ、昔から一緒に居るけどまだ気づけないこと多いだろうし、やっぱちゃんと言ってほしい」
明利からしたら気を使っているというよりは欲よりも羞恥心が優先されるからこそ我慢にも似た状況に持っていくのだが、その切り替えと態度があまりに自然すぎて静希達でも見抜けないことが多いのだ
最近はある意味吹っ切れたのか自分のしたいことをして甘えているようにも見えるが、それでもまだ何か我慢しているように思えるのだ
静希としてはそこはきちんと言ってほしいという願望がある、もう片方の彼女である雪奈が欲望に正直な人間だからこそなおのことそう思ってしまうのだ
「幹原はどうだ?五十嵐の良いところと悪いところ、何かあるか?」
「え!?あ・・・えっと・・・優しいところと、大事にしてくれるところと、かっこいいところが好き・・・でも危ないことするところは直してほしい・・・あんまり心配させないでほしいよ・・・」
明利の言葉に静希は居心地が悪くなりながら、申し訳なさを含めて頭をなでる、静希としても危ない橋は渡りたくないのだが、実力がないのであれば仕方がないのだ
「お前たちのように互いに言い合える仲ならいいのだがな・・・あの二人は・・・」
「片方が見栄っ張りだからなぁ・・・客観的な事はぽんぽんいえる癖に自分のことはからっきしだし」
陽太の方は自分のことも含めて言いたいことをズバズバと考えなしに口に出しているが、鏡花は客観的な物事を口に出しているだけで、自分の感情をぶつけているというわけではない
そういう意味では鏡花がどこまで素直になれるかが今後の課題となりそうだった
そんな中陽太が訓練を一時中断して大の字になって地面に寝転がる、どうやら休憩にするようだった
そしてその近くに鏡花が近寄っていく、その動作さえも普段と違って挙動不審に見えるのが不思議だ、どれだけ緊張しているかがよくわかる構図である
「どうやら仕掛けるようだな、鏡花に盗聴器でもしかけとけばよかった」
「公然と犯罪行為を口にするな、読唇術でも心得ていればよかったのだが・・・」
「鏡花ちゃん、頑張って」
草葉の陰からならぬ物陰から見守る三人をよそに鏡花は陽太に話しかけている
訓練のことなのかそれとも関係のない世間話なのか、聞き耳を立てようにもここからでは距離がありすぎてまったくわからない
だがしばらくすると鏡花が遠目からでもわかるほどに笑顔になる
思えば鏡花の屈託のない笑顔というのは初めて見るかもしれないと静希をはじめとするのぞき見三人組は新鮮になりながらその様子を眺めていた
「あの表情から察するに、上手くいったのか?」
「少なくとも何か良い結果が得られたのは間違いないだろうな」
「デートに誘えたのかな?今日の夜にメールして聞いてみるね」
こういう時に本人に直接聞くことのできる人間がいるというのは貴重だ、情報がすぐに回ってくるからやきもきする心配もない
その後訓練を再開する陽太だが、その近くにいる鏡花の挙動が明らかに先程とは違う
不安により挙動が不審だった先程とは打って変わり、歓喜からくる衝動に身を任せているのかリズミカルに体を動かしているように見える
案外鏡花は自分の感情を操作するのが下手なのかもしれない、歓喜が体の動きとして漏れ出てしまっているのだから
「これならもう見ていなくてもいいかもな、今日は引き上げるか」
「そうだね、問題なさそうでよかったよ」
「あの清水があんな顔をするとは、なかなか良いものを見せてもらえた・・・それでは二人とも、私は失礼する・・・後で経過を教えてくれ」
途中から様子を眺めていた石動としても有意義な時間だったのか、満足そうな声音を出しながら物陰から物陰へと移動しその場から去っていく
その後静希と明利も同じように物陰から去り、家に帰ることにした
「へぇ、あの鏡花ちゃんがねぇ」
家に帰ったのちに、いつも通り静希の家に入り浸る雪奈に何とはなしにそんな話をすると、静希に寄り掛かりながら雪奈は間延びした声を出していた
今日は明利は静希の家に寄らずに家に帰っていた
先日外泊をしてしまったためにさすがに今日は家に帰るとのことだった
さすがにほぼ徹夜でゲームはまずかったなと、静希も雪奈も反省していた
「あぁ!もう!何で旋回できないのよ!」
もっともゲームにはまってしまったこの悪魔は全く反省していないようで、コントローラーを握りながらコンピューター相手に悪戦苦闘している
メフィがどんどんニートとして完成していっている気がして静希は不安を隠せなかった
今まではテレビの前でのんびりしているだけだったのに、今ではニュースすら見る時間を惜しんでゲームに励んでいる
この姿を同じ悪魔であるヴァラファールに見せてみたいものである、どんな顔をするか、そしてどんな反応をするか楽しみである
「鏡花様が陽太様に想いを伝えられたら、陽太様はどのように返すでしょうか・・・?」
「そうだねぇ・・・陽が告白されたら・・・かぁ・・・なんかイメージできないなぁ」
静希と同じように陽太との付き合いが長い雪奈も陽太が誰かと付き合っているという状況が想像できないのか、オルビアの問いに困ったような表情を浮かべていた
実月がこの場に居たらどんな答えを返すだろうか、少し気になったがそれは自分が心配するような内容ではないなと静希はその考えを忘れることにする
「だがキョウカは女性として非常に魅力的だと言えるだろう、ヨウタもそこまで悪い顔はしないのではないか?」
「悪い顔はしないだろうけどさ、あいつが誰かを好きになるとかそういうのが想像できないんだよ、想像してみろよあいつが鏡花とイチャイチャしてるとこ」
自分で言っておきながら静希は想像できず、話を振った邪薙自身も上手くその状況をイメージできなかったのか小首をかしげてしまう
陽太自身女性への興味はあると公言していたというのになぜか誰かと付き合っているというところが想像できないのだ
「それってさ、つまりヨータがお子様だからなんじゃない?」
話を聞いていたのか、ゲームに熱中しながらもメフィが声を上げる
「お子様って、あんなでかいお子様居てたまるかよ」
「そうじゃなくて、ヨータって素直でしょ?普通恋愛って恥ずかしがったり気まずかったりするでしょ?それこそ今日のキョーカみたいに、でもヨータってそういうの無いじゃない、だからイメージできないんじゃない?」
まさかメフィからそんな具体的な指摘があると思わなかったのか、静希も雪奈も邪薙もオルビアも目を見開いていた
無駄にテレビを見て知識をため込んでいた訳では無いようで、案外的を射ている発言なのかもしれなかった
土曜日+誤字報告五件分なので三回分投稿
最近少し書く分量を少し増やそうかと画策中、これが習慣になるまで少しかかりそうですね
これからもお楽しみいただければ幸いです