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J/53  作者: 池金啓太
十六話「示した道と差し出された手」
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縋る神のいない世界で

「取引先の人間も何人か検挙できたらしい、もしかしたらかなりの数の人間が逮捕されるかもしれないらしいな、詳しくは俺も知らされてないけど」


「・・・お前は・・・」


静希の言葉を受け止めてなお、彼女は静希を睨み続けていた


何が彼女をそうさせるのか、静希には理解できない


彼女の精神は静希の常識の外側にいるのだから


「お前は・・・あの時言ったな、すべてを裁け、全てを救えるような、そんな都合の良い神はいないと・・・」


「・・・あぁ、言った」


「なら・・・いったいどんな神がいるというんだ・・・この世界には・・・神はいるのか・・・?」


今まで信じてきたものが失われかけていることで、彼女の中ではわらにでも縋りたい気持ちなのだろう


神の存在を信じ、神の声を聞いていたと思っていた彼女にとって、その存在が無くなったことはその存在意義を失うことに等しかった


周りから求められた彼女は、神の声を聞き、その力を人々に見せる巫女


その神がいない今、彼女の中で自分自身の存在価値がなくなってしまっていたのだ


「神様はいるよ、けどお前が思うような都合の良いもんじゃない・・・身勝手で堅苦しくて、甘いものが好きで生真面目・・・できることよりできないことの方が多い、俺ら人間と同じような奴らだ」


「・・・まるであったことがあるような口ぶりだな・・・」


巫女の言葉に空笑いで返しながら、静希は一度ため息をついて持ってきた資料をすべてカバンの中にいれる


「話は終わりだ、あぁそうそう、近いうちに一度手術があるかもしれないから、神にでも祈っておけよ、成功率が上がるかもしれないぞ?」


「・・・よく言う・・・そんなこと心にも思っていないだろうに・・・」


「そういうなよ、捨てる神あれば拾う神ありってな」


静希はそう言って病室から出て行った


それと同時に携帯を開いてメールを確認する


本文には先日静希が頼んでいたことへの了解が取れたとのことだった


僅かに笑みを浮かべながら静希は病院を後にした





数日後、巫女鈴木瀬那はある場所へと搬送される


全身麻酔によるこん睡状態にしたうえでの移送によりその場所は本人にはわからなかった


その先は、能力者用の監獄の地下深く


彼女は治療のためにここにやってきていた


そう、静希はある取引をしたのだ


取引をした相手は『神の手』有篠晶


城島に頼んでわざわざもう一度会いに行って、彼はこう切り出した


治してやってほしい女の子がいる、と


もちろん有篠は鼻で笑ったが、同時に静希は一つの提案をした


もし治してくれるのであれば、収容されるある能力者をお前と同室にしてやると


もちろんこれは城島と何度か話し合って警察と委員会側にも話を通してあることだった


すでに情報をすべて抜き取った史桐にはもう価値はない、犯罪を犯した能力者が外に出られる可能性は限りなくゼロに近い、そこで有効活用することになったのだ


もちろん委員会や警察の上役としては少しでも有篠と静希に恩を売っておきたいというのがあったのだろう


早い話が、有篠の言う素材を提供することに他ならないのだから


結果的に有篠はその申し出を快諾した


病院で作られたカルテを見せると楽しそうに笑って簡単だと一言


そして、巫女鈴木瀬那は神の手によってその体の隅々まで健康体へと変えられる


治療というにはいささか乱暴な、どちらかというと作り替えると言ったほうが正しい方法だったが、彼女は苦しみ続けていた中毒症状から解放された、この後薬物への誘惑に勝てるかどうかは彼女次第だ


素材となる史桐を見た時、有篠は静希に伝えるようにこう言った


『お前はやっぱり俺と同類だ』


その言葉は確かに静希に伝えられ、静希はわずかに苦笑することになる


「・・・で、結局あの子は助かったわけ?」


「あぁ、無事中毒症状も後遺症もなく、数週間検査入院してから一応留置所を経由して刑務所の方へ移送だってさ、いろいろと常識とかが欠如してるから大変らしいぞ」


教室で実習のレポートを書きながら静希は簡単にではあるが班長に結果を報告する


途中までは全員でとりかかっていたが、最後の方はすべて静希と城島が片づけてしまったために、鏡花たちはその内容のほとんどを知らなかったのだ


「にしても、よく犯罪者と取引なんてする気になったわね・・・しかも何人も人を殺してるような相手に・・・」


「求めるものを与えればしっかりやることやってくれるってのは先生のお墨付きだったからな、ギブ&テイクってやつだよ」


城島から聞き、本人から聞いた有篠の行動から察するに、彼女はプロ気質なのだ


求めるものは深く重く、手の届かないような先にある、それを掴もうとしているのが有篠晶で、偶々その過程で法を犯したに過ぎない


「・・・ねぇ、何であの子を助けようって思ったの?」


「・・・まぁ、気の毒だったっていうのが二番で、一番の理由は史桐がムカついたっていうのがあるな」


自分と巫女の待遇の違い、静希が最初にあれを見た時に抱いたのは強い嫌悪感だった


「他人を食い物にしてたんだ、自分が食い物にされても文句は言えないだろ」


「そうやってすぐに割り切れるあたり、あんたいかれてるわ」


そんな褒めんなよと静希が言うと褒めてないわよと鏡花が返す


史桐に腹が立ったというのは本心だ、あの時他人をないがしろにしながら自分の私腹を肥やすあの姿を見て強い怒りを覚えた


そして同時に、搾取され続けた結果にあるあの巫女が哀れに思えたのだ


助けたいとまでは思わなかったが、少しでもましにしてやりたいという風には思った


だからこそ静希は彼女の体を治すように手配した


無論、彼女自身薬物に手を出していたし、何より彼女も能力者で犯罪の一端を担ってしまっていた以上罪は罪だ


だがそこから先は彼女が自分で決められるようにしたつもりだ


神に縋っていた少女は、信じていた神のいない世界に放り出された


この世界にいるのは、身勝手な神ばかり、それでも彼女は生きて行かなくてはならないだろう


そこから先どうなるかは、静希も知ったことではない


今回で十六話は終了です、誤字報告五件分入ってるのでもう一回投稿しますので少々お待ちください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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