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J/53  作者: 池金啓太
十六話「示した道と差し出された手」
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育まれた偽り

「なんかあっさりしすぎてないか・・・?あっけなさすぎるぞこれ・・・」


「相手は素人だ、このくらいがせいぜいだろ・・・問題はこの後だよ」


史桐を引きずりながら教会の表へと向かうとそこには大勢の信者と警察が争っているところだった


正確に言えば信者たちが一方的に警察に罵詈雑言をぶつけている、そしてその先には完全に拘束された巫女と彼女の様子を見ている明利と鏡花がいた


どうやら神父と巫女が拘束されているところを見て騒いでいるのだろう、今は複数人の警官たちが押さえているがこの先どうなるかはわかったものではない


静希達は間違いなく元凶である神父を逮捕した、後は信者である町民がどのようにこの事態を受け取るかである


事実を目の当たりにしてもなお神父達を信じ続けるか、それとも事実を前に愕然とするか、それは静希達の仕事ではなくこの町に住む警察や住民たちの仕事だ


警察に史桐の身柄を引き渡しパトカーに乗せ、静希達は巫女の元へとむかう

どうやらまだ意識を失っていないようだった


「お疲れ姉さん、まだ眠らないか?」


「えぇ、どうやらもう少しかかりそうよ」


静希を目の当たりにするとフードを外された巫女はその隈のできた目で静希を睨む


その眼にはわずかながらにも怒りのようなものが含まれていた


「貴様ら・・・いったい何が目的だ・・・神父様に何をした!?」


先程までの荘厳な雰囲気ではなく、敵意を丸出しにし、強い口調で放たれる言葉に静希はわずかに眉をひそめた


先程までの口調は恐らく演技だったのだろう、意図的にそうしていたのかまではわからないがこちらの方が話しやすくて良かった


「あの神父は犯罪を犯した、だから捕まえた、ただそれだけだ、何が目的かと言えばあいつを捕まえるのが目的だな」


隠すこともなくただ淡々と事実だけを述べるが、目の前の巫女は納得していないようだった


周りへ向ける目というより、静希に対して強い敵意を抱いているようで近くにやってきた静希に睨み殺すほどの眼光を向けている


「神父様が法を犯すような真似をするわけがないだろう!悪魔の使いめ!貴様が貶めたのだろう!」


「ひどい言いがかりだけど、悪魔の使いっていうのは的を射てるんじゃない?」


「茶化すなよ、話がややこしくなる」


静希は確かに悪魔の契約者だが、恐らく彼女はそんなことも分からずにただ単に静希が何らかの能力を使ってそれが悪魔の物だと思っているのだろう


まともな知識もないのに微妙に確信をついているところがまた不思議なものだ


だがまさかここまで『教育』されているとは思わなかった


というよりこれはもはや洗脳に近い、幼いころから何年もかけて偏った考えを刷り込んでいったのだろう、でなければこんな風になるはずがない


「・・・お前、名前は?一体いくつだ?」


「名前?そんなもの私にはない、私は巫女だ、神に仕える身だ、人の持つものなどすべて捨てた」


覚えていないのか、それともただ単に名乗りたくないのか、そのどちらかによってことは大きく変わる


もしかしたらどこからか攫ってきた子供を洗脳した可能性まで出てくるのだ


「・・・もう一つ質問、お前、親のことは覚えてるか?」


「・・・私にそんなものはいない・・・物心ついたときには神父様と共にいた」


これは確定的かもしれないと静希がため息をつくと、恐らく鏡花と明利も静希の考えを理解したのか気の毒そうに息を吐いた


史桐には過去十年にわたって行方が分かっていなかった時期があるという、もしその時期にこの巫女を誘拐して教育を始めていたのだとしたら、その洗脳を解くのはかなり難しいだろう


常識というのは日々の生活によって培われるものだ、その常識を覆すのは容易ではない


正しい教育と、指導者に恵まれ、多くの人に囲まれて育てば必然的に常識とは人によって異なるものであり、自身の抱くそれが絶対的なものではないということを学ぶ


だがこの巫女は恐らく閉鎖的な環境で、壊れたラジカセのように同じことを何度も何度も繰り返して教え込まれてきただろう


布に少しずつ汚れを染みつけていくように、何度も何度も、その染みが二度と落ちなくなるほど徹底的に


「いつか・・・いつかお前たちに神の裁きが下るぞ・・・!」


「こいつずいぶん元気だな・・・ほんとに睡眠薬飲ませたのかよ?」


「飲ませたわよ・・・やっぱ薬の影響かしらね・・・」


薬物などには一種の興奮剤なども含まれており睡眠を阻害する作用を引き起こすことがある


たとえ薬による強制的な眠りにもかなり耐性のようなものができている可能性は十分にあった


「そうだな、いつか下るかもな・・・でも事実は受け止めろ、俺らは悪魔の使いなんかじゃないし、あいつが言っていた神の御力ってのは全部うそだ」


「・・・信じられるか・・・!私にとって神父様はすべてだった!あの人がそんなことをするはずがない!」


「なら今はそれでいい、お前には俺の知るすべてを話してやる、それを知って、その上で判断すればいい・・・だけど今は寝てろ」


静希は容赦の欠片もなく首筋にスタンロッドを当てて電流を流す


睡眠作用が働くより先に電流により巫女は鏡花の拘束具の中で完全に意識を喪失した


「・・・はぁ・・・ったく、こいつは病院が先だな・・・委員会にも連絡はしてあるんだろ?」


「えぇ、警察の人たちがもう連絡したみたい、でもこの子の場合・・・この近くの病院じゃまともに治療できないんじゃないの?」


かなり田舎のこの辺りでは病院など小児科くらいの物しかない、点滴や鎮静剤などの常備薬はあるだろうが、薬物中毒者に対して適切な治療をできるだけの設備が整っているとは思えなかった


何より彼女は能力者だ


本人の自覚あるなしに関わらず能力者である以上病院も一般の物では問題になる


きちんと能力者としても登録が必要になるし、これから忙しくなりそうだった


「お、警察がようやく中に入っていったな」


「みたいだな、鏡花、お前はとりあえずあの部屋に警察の人たちを誘導してやってくれ、ついでに陽太が壊した壁とか直しといてくれ」


「はいはい、いつも通り後始末ってわけね」


もはや恒例ともなりつつある鏡花の後始末、彼女自身もそこまで負担に思っていないのだろう、さっさと仕事を終わらせるべく教会の中へと小走りで走って行った


「明利は救急車が来たらこいつの体調を事細かに救急隊員に教えてやってくれ、今のうちにカルテを作るのもありだな」


「わかった、やっておくね」


明利は持ってきていた筆記用具に事細かに巫女の体調を書き込み始めた


やはりこういったことは明利に頼むに限る、静希と陽太ではまともに対応できない部分でもあるが故に有難いのだ


「よし、俺らは警察の人の手伝いするぞ、町の人には傷一つ付けるなよ?」


「あいあい、能力も使っちゃダメだろ?任せとけって」


静希と陽太は暴れ始めている街の人間たちへの対応へと向かい、その日夕方までかかってようやく騒動は落ち着きを見せていた


町の人間たちは神父が犯罪を犯していたという事実に驚き信じられない様子だったが、一部内部の写真を公開するとほとんどの人間がその事実を受け止めていたようだった


もちろん中には狂信的な信者もおり、信じられない者もいたようだったが、それもいつかは時間が解決することだろう


やるべきことは終わった、警察の人間からの感謝の言葉を受けながら静希達は帰路につくことになる


その中で静希は城島にある申し出をしていた


城島は少し怪訝な表情をしていたが、今回のことを聞く限り無理なことでもないだろうということで渋々ながら了承していた


彼女自身、多少なりとも思うところがあったのだろう


約一週間後、授業が終わった後に静希は巫女とあの事件に関する資料を城島から受け取り、ある場所に向かっていた


そこは巫女が入院することになった病院だった、過去静希が入院したのと同じ病院である


面会であることを告げ病室に案内されるとガラス張りになった向こう側に彼女は居た


白い部屋の中、ベッドに横になりゆっくり息をついている、そんな中やってきた静希に気が付いたのか、彼女は視線をこちらに向けた


「・・・お前は・・・」


「初めまして、顔を見せるのは初めてだったか?」


静希の声を聞いてようやく自分を気絶させた男と同一人物だとわかったのか、巫女は憎々しげに静希を睨む


「いったい何をしに来た?用がないなら・・・」


「言っただろ、俺の知ってる全てを話してやるって・・・そうじゃないとお前納得しなさそうだからな」


言ってしまった以上はそれをしっかりとこなさなければならない、少なくとも、今回目の前にいるこの巫女にはそれが必要だ


その考えは事件当時よりも、詳細な資料を受け取った今の方が強くなっていた


「知っていることなど・・・知りたくない・・・」


「事実を知ることが怖いか?もうさんざん事情聴取とかはされただろうに・・・」


病院にいてもあの事件に関しての重要参考人であることには違いない


意識を取り戻し、まともに会話できるようになってからは何度も警察の人間がやってきたのだという


薬物の中毒症状が起きていない僅かな時間はほとんど警察の聴取で終わっていたはずだ


「そんじゃ、まずお前のことからいこうか・・・名前は鈴木瀬那十七歳、年上だとは思わなかったよ・・・幼少時に誘拐され、今まで行方知れず・・・両親とも面会したんだろ?」


「・・・私に・・・親など・・・」


警察の調べによって彼女の血液から採取されたDNAや指紋などの個人データから、過去十数年にわたって行方知れずになった人間を捜索した結果、彼女の情報は数日で見つかった


彼女の両親も、自らの子供が見つかったということを喜びすぐに面会に来たと聞く


だが現実は物語のように感動的な再会は許してくれなかった


娘は自分達のことを覚えておらず、しかも重度の薬物中毒に陥っていた

だが彼女の両親はほぼ毎日のようにこの病室に足を運んでいるのだという


部屋の隅にある花瓶に生けられている花がその証拠でもある


「次・・・史桐・・・神父様についてだ・・・あの後、薬物の不正取引の証拠がどんどん出てきてな、しかも能力者であることも証明されて、今は監獄の中だ、もう二度と出てこられないだろうな」


静希が調べられなかったパソコンや、棚の中にあった本の中に幾つか重要な証拠ともなる記述とデータがいくつも見つかったのだという、能力者だということもあって能力者用の監獄に入れられ、恐らくもう二度と日の目を見ることはないだろう


事実を口にしてもなお、巫女鈴木瀬那はそれが信じられないのかわずかに唇をかみしめた


信じていたものから裏切られる、いや、信じていたものを否定される、これほど悔しいことはないだろう、だが彼女には何もできないのだ


否定することも、間違いだということを証明することも


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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