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J/53  作者: 池金啓太
十六話「示した道と差し出された手」
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祈りの先にいる神へ

「愚かな・・・神は存在します・・・私に常に声を届けてくださいます・・・」


巫女の発する声はわずかに掠れており、抑揚がない、どこかおかしいのは明らかだが周りの信者は巫女が声を出し始めた途端に敵意を収めて頭を低くして拝み始めた


恐らくこの巫女はこの宗教において象徴的な存在なのだろう


声を届けるなどと言っているが、薬物の中毒症状が出ている今の状態では幻聴が聞こえていてもおかしくない、そんな状態の人間が何を言っても説得力などなかった


「じゃああんたは神様にあったことがあるってか?なら会わせてくれよ、お前たちの神様に」


「・・・神は天上より我らを見下ろしておられます、我らの前に姿を現せなどと不敬も甚だしい」


「会ったこともない神様に信仰をささげるか、たかが知れてるな」


明確な挑発の言葉に反応したのはまたも信者たちだ、だが今回の静希の言葉には神父も巫女も僅かに苛立ちを覚えたのか、先程までの笑みは完全に消えていた


「我が神を侮辱するとは、裁きが下りますよ」


どうやら巫女の方はあまり煽り耐性がないのか、簡単に挑発に乗ってくれているようだった


対して神父の方は静希達を値踏みするように観察している、唐突に表れた静希達の目的が何なのかを把握しようとしているようだった


「下せるもんなら下してみろよ、天上から見下ろしてるんだろ?俺の暴言も当然聞こえてるわけだ?人一人も裁けない神なら人以下決定だ」


「我らが神はあらゆるものを裁き、あらゆるものを救う・・・今悔い改め先の言葉を撤回するというのなら、神もお許しに」


「御託はいいんだよ、お前らに都合の良い神様だ、お前らの都合の悪いことは裁いて都合の良いことは救うってことだろ?いいからとっとと裁いて見せろ、俺は逃げも隠れもしないぞ?」


巫女の言葉を遮って更なる挑発をかけると僅かに歯噛みしながら巫女は大きく手を広げる


祈るような歌のような声を出しながら上を向いて体を大きくそらせる


「神よ・・・この愚かな子羊に教えの片鱗を下したまえ」


巫女の言葉に同調するように、神父史桐が手を組み静希を注視した


同時に教壇の上に設置されているT字架が僅かに光を帯び、稲光となって静希の元へと放射された


それは雷のようだった


空気の炸裂する音を轟かせながらいびつに湾曲し静希の元へまっすぐと伸びる雷


神父史桐が笑みを浮かべたのを見逃さず静希はため息をつき、手を前に差し出す


雷が静希に届くことはなかった


雷は静希の眼前に現れた障壁によって完全に防がれ、完全に消滅してしまった


あらかじめ相手が挑発に乗って来た時のために邪薙に障壁の展開を依頼しておいて正解だった、初撃は静希が防いでその能力の性質を見る


それが今回静希達が考えた策でもある


相手の能力の性質がわかれば静希も陽太も戦いやすい、万が一の場合は戦闘方法を変えなくてはいけないことも選択肢の中に入れていた


「はっはっは・・・お前たちの神様は人一人も裁くことのできない出来損ないみたいだな・・・?なぁ神父様?」


静希は邪笑を浮かべながら神父史桐を強く睨む


能力を発動したのが神父であることを見抜いていたのだ


「神の・・・裁きを・・・」


「覚えとけよ巫女様とやら、この世界の神様はお前が思ってるほど俺らの都合を考えてなんかくれないんだよ、勝手に反省して、こっちが感謝してるってのに罰を欲しがったり、欲しくもないものを押し付けようとするような身勝手な奴ばっかりだ」


驚愕を隠せない巫女を前に静希は言葉を綴る


日々人外と共に生活し、困難を超えてきた静希の言葉は重い


今まで静希が出会った神格は二人、どちらも絵にかいたような神とは程遠い存在だった


毎日のように静希と共にいて、日々彼を気遣うそんな神がそばにいる


あの霊装の中で静希の望むものを静希の望まぬ形で授けようとしたそんな神がいた


その二つにあったからこそ、その存在に触れたからこそ静希は胸を張って言える


「すべてを裁けてすべてを救える、そんな都合の良い神はこの世にはいないんだよ」


静希がゆっくりと歩を進め合図をすると鏡花が足で地面をたたく


瞬間、信者の座っていた両脇の椅子を囲うように巨大な壁が出来上がる


さらに変換の能力を使ってその囲った空間ごと外へと移動させていき、同時に巫女の足元の地面を変換して簡単に拘束してしまう


「お、お前たちは・・・一体!?」


「史桐正敏、お前には逮捕状が出ている、拘束させてもらうぞ」


静希の合図とともに陽太の体が炎に包まれ炎の鬼の姿となる


それを見た瞬間、静希達が能力者だと気づいたのか史桐は奥の扉へと全力で逃走を始める


「あ!?逃げんのかよ!」


戦闘をするどころか初手から逃走というのはさすがに意外だったが、想定外というわけでもない


まともな訓練をしたことが無いということはまともに戦闘をしたこともないということでもある


つまり今までは無抵抗な敵か、自分を敵として認識していないような相手に対してのみ能力を使ってきたのだ、能力者としては最低な能力の使い方である


「陽太、お前はこっから直進しろ、壁は壊していいけどあまり怪我はさせるなよ、鏡花はもう一仕事頼むぞ」


「「了解」」


静希の中で高速で情報が処理されていく中で、相手の動きもほぼ理解しつつあった


どう動くのか、これからどうするのか、先程の問答の中で静希は逐一神父への注意を向けていた


その表情の変化と先程の逃走ですでに相手の行動原理は理解しつつある


邪笑を浮かべながらまな板の上に乗った魚を捌くかのように静希は一手一手相手を追い詰めていく





史桐はとにかく逃げていた


相手が能力者だというのは即座に理解できた


唐突に現れた障壁、あれが自分の能力である雷を防いだのだから当然ともいえる


そして信者たちを囲ったあの壁、あれも能力だと考えるのが妥当だ


さらには体の形さえ変えて見せたあの炎の鬼のような姿、禍々しいとしか言いようがない


とにかく身元がばれそうなものだけでも回収しなくてはと金庫のある彼の寝室の扉を開けると同時に部屋の壁が吹き飛んでその奥から炎を纏った鬼の姿をした陽太がやってくる


「あぁ?こんなとこに寄れるだけの余裕があるのか、案外神経太いんだな?」


陽太を見た瞬間に史桐は金庫をあきらめて外へと逃走を始める


外に逃げ、信者の誰かの家に入ればまだ何とかなる、相手が信者を閉じ込めたのは危害を与えないためだ、信者を盾にすればまだ何とかなる


そう思っていた


裏口を開けた瞬間、先程と同じように轟音が響き、教会の壁が破壊され陽太が姿を現した


壁を壊して直進している、走っているこちらよりも明らかに速い、ただ走るだけでは確実に追いつかれる


そう思った史桐は集中して能力を発動する


史桐の上空に光がほとばしると同時に陽太めがけて雷が落下していくが、光が放たれると同時に陽太は後方へと跳躍し容易に回避して見せた


「なんだぁ?遅すぎんぞ・・・こいつ本当に素人かよ・・・」


陽太が回避するのを見るより早く史桐は全力疾走し教会側面まで移動しておいてあった車へと走る


鍵を開けすぐにエンジンをかけようとキーを回すが上手くかからない


後からはゆっくりと炎鬼がやってきている


急がなければ殺される


そんな強迫観念にとりつかれる中ようやくエンジンがかかると同時に車のタイヤが前後共に音を立ててパンクしてしまう


一体何が起こったのかもわからずに窓の外を見ようと身を乗り出そうとしたが、その前にバックミラーにある影が映った


「ヘイヘイファーザー・・・いったいどこに行くつもりだ?」


それは後部座席、自分が乗った車の後ろに、すぐ後ろに、先程自分の能力を防いで見せた仮面の男五十嵐静希


鏡花に頼んで教会の壁に穴をあけてもらい車へと先回りしていつものように人外の手を借りて車の鍵を開けて後部座席で待機していたのだ


相手が自分よりも足が速いとわかれば車に乗って逃走する、そこまで読み切ったうえでの行動だった


「お・・・お前たちは・・・いったい何なんだ・・・!?」


怯えて声が裏返りながら史桐は後部座席にいる静希を見ようとする


だが彼が向けている、彼がその手に持っている物にばかり目が行ってしまう

それは素人目に見ても拳銃にしか見えなかった


本物かどうかまではわからないが、どう見ても銃にしか見えなかった


「何と言われてもな、ただの能力者だよ・・・お前みたいなのがいると正直迷惑なんだよ、無駄に能力者の風当たりが強くなるからな」


能力者が犯罪を犯せば、その分能力者は危険だという風潮が広がる


一部の人間のせいで能力者全体が迷惑するのだ、普通の能力者である静希からすればたまったものではない


「わ・・・私は・・・!ただ頼まれて」


「あー、そういうのいいから、俺らには関係ない」


相手の弁など聞く耳持たず、静希はトランプを史桐の顔面の前に展開しその顔に向けて催涙ガスを噴射する


叫び声とともに顔を押さえてもがく史桐が暴れると同時に陽太の腕が窓を突き破って史桐を掴み車の外へと引きずり出す


地面へと叩き付け能力を部分的に発動して必要以上にやけどを負わせないようにしてから関節を決めて完全に拘束する


咳を繰り返し涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を見て陽太はため息をつく


「どうする?こいつもう能力使えないんじゃないのか?」


能力者は訓練によって体の状況が悪くても能力が使えるようにするが、史桐はその訓練を行ってこなかった


高い集中を保たなければ能力が使えないような未熟者であれば呼吸と感情を少し乱すだけで能力は使用不能になる、今の史桐なら間違いなく能力は使えないだろう


「万が一があるからな、一応万全を尽くす、先生の忠告はさすがに無視できないからな」


静希はスタンバトンを取り出して史桐の首元に当てて気絶するだけの電流を彼に流す


「せいぜい祈れ、祈った先に神がいればの話だけどな」


雷を使う能力者であれば多少の耐性があるかと思ったが、何の問題もなく史桐は気絶してしまう


土曜日なので二回分投稿


神様の数え方は『柱』ですが、まぁ細かいことはいいかなぁと思いました


今までもずっと人外たちも『人』でカウントしてますし、ご容赦ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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