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J/53  作者: 池金啓太
十六話「示した道と差し出された手」
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今と昔の在り方

「あの先生、一つ疑問なんすけどいいっすか?」


「なんだ?」


「そういう薬とか使ってる状態で能力なんて使えるんすか?集中とかできないような気がするんすけど」


陽太の言葉に城島はどう答えたものかと思案し始める


薬物に興味を持つなどあまりいい傾向ではないが、少なくとも疑問を持った生徒の質問に対しては答えるのが教師としての義務、問題はどのように答えるかというものだ


「・・・薬物の中には高い集中を促す成分が含まれているものもある、もちろん時間限定ではあるし、効果が切れた後は副作用で苦しむことになるがな」


城島の答えに陽太はへぇと少し興味深そうにしていたが、鏡花が睨むとやらねえから大丈夫だよとあわてながら答えていた


集中力が増すというとあまりイメージができないだろうが、簡単に言えば各感覚器官が異常に鋭敏になったり、周りの物事を気にしなくて一つのことに集中できるようになったりするというのが作用の中で有名なものである


高速で移動しながらも周りの景色一つ一つを見ることができたり、十時間以上休まずに働き続けることができたりとその効果は高い


その高い効果の分だけ、大きな副作用が待っているが


「戦時中は栄養剤と称して軍人たちに薬物が支給されることが当たり前だったころもある、高度経済成長期には一般市民にもかなりの利用者がいたと聞く」


「え・・・?軍で認められてたんですか!?しかも普通の人にも?」


城島の言葉に静希達は信じられないと言った表情を作るが、城島の言う通り、過去日本では多くの薬物が充満していた


戦争中には高い集中力を維持するために、出撃する戦闘機のパイロットのほとんどが薬物を摂取していた


何人かの生き残りの兵士の後日談などが記された一文が存在し、その事実を明らかにしている


そして高度経済成長期には仕事の友として一般人にも多く薬物が出回るようになっていた


高い集中力を得られるということで、仕事に没頭していた社会人たちは多く薬物を摂取したが、その分副作用も大きな傷跡として残っている


薬物が蔓延しだして数年ほどすると、薬物中毒者が多く街を闊歩するようになり、国は公的に薬物を禁止する法案を創り出したのだ


逆に言えば、そんなことになるまで薬物の危険性に気づけなかったということでもある


「そこは時代というやつだ、昔はタバコを吸うのが体にいいなんてことも言われていたくらいだ、今ほど物事が明らかになっていなかったんだよ」


「・・・今の時代に生まれてよかったって実感しました」


鏡花の言葉に全員が大きくうなずく


当時は情報の速度も今ほど早くなく、言伝で伝わったり新聞や町の看板やポスターなどでしか情報が行き渡らない時代でもあった


実際の結果が起こってからでないと反応できないというのは確かに昔ならではかもしれない


「あの・・・ひょっとしてなんすけど、今も軍とかで薬を使ったりしてるところあるんすか?」


陽太の言葉に城島はわずかに眉をひそめた


どう答えるべきかと迷ったのも一瞬、ため息をついて口火を切る


「日本の軍では、今のところ薬物の所持、および受け渡しは法的に認められている、使用するかどうかまでは本人次第だが・・・私と私が所属していた部隊ではそういったものはなかったな」


城島の答えに陽太は、いや静希達全員は驚いていた


確かに軍などは命にかかわる仕事をしているだけに、緊急時に高い集中力を求められるというのも十分理解できる、だがだからと言って法律で認めているというのは予想外だった


もしかしたら日本だけではなく、多くの国の軍などで薬物を使用しているところはあるのかもしれない


「ねぇ明利、薬物治療って、能力者の関与で何とかできたりしないの?」


「え?んと・・・難しいと思う、薬物依存って要するに快楽が忘れられなくてもう一度っていう感じだから、ぬるま湯から出た時寒いって感じてまた浸かっていたくなるのと同じ、普通の治癒とかじゃ少なくとも改善はできないと思うよ」


少なくとも現段階で薬物依存に対する治療法は確立したものがない


強い精神力を持って家族の理解と協力があってもまた同じ過ちを犯す人間は多い


それだけ薬物が体と心に残す傷は大きいのだ


少なくとも明利が持つような身体能力強化による治癒などでは解決法にはならないのは確かである


「そういえばあの神父が薬をやってるっていう事は確認してなかったな・・・明利から見てあいつはどう見えた?」


「あの人の顔色はすごく良かったよ、少なくとも薬物をやってるような顔ではなかったと思う・・・」


「・・・なんか本当にあの神父がムカついてきたわ・・・」


鏡花は実際に不法侵入して巫女と神父の環境の違いを見ているためにその思いが強いのだろう


静希もあまりいい気はしない、あれだけの差をつけてなお巫女にだけ薬物を投与しているのだから


「落ち着け、お前らがどうこう言ったところで何か変わるわけじゃない、お偉いさん達の話し合いの結果を待っていろ」


城島の言う通り、今ここでこんなことを話していてもしょうがないというのは確かだ


静希達はとりあえず変装を解除して第三会議室で待機することにした


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