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J/53  作者: 池金啓太
十六話「示した道と差し出された手」
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理解する症状

昼食を終えてバスに乗り、とりあえず目的地である押野町までやってきた静希達は以前のように二手に分かれる


今度は男女で別れ、変装状態の明利と鏡花は教会へ、静希と陽太は二人に何かあった際はすぐに向かえるようにバス停近くで待機することになった


「それじゃ気を付けてな、あんまり露骨にやりすぎるなよ?お母さん」


「うっさいわね、わかってるわよ、さぁ行くわよエイリ!」


「う、うん、いってきまーす」


また新しい偽名を作ったところで二人はゆっくりと移動し始める


心配そうにその背中を見つめる静希と陽太だが、あの二人で平気だっただろうかと今さらながら少し不安になっているのだった


「あ、あの、お母さん、結局どうやって傷つくるの・・・?」


実際に痛い思いをするのは明利であるために少し怖いのか、明利は不安そうな顔をしている


任せろと自信満々に言っていたがどのような方法をとるかは聞いていないのだ


「そうね・・・教会にも近づいてきたし、そろそろかな」


鏡花はそういって自分の服の一部に能力を使う


すると服の一部が硬質化し、おろし金のように鋭くなっていく


「さぁここに手を素早く当てるのよ!そうすれば手をすりむいたっていう感じに傷ができるわ!」


「・・・い・・・痛そうだよ・・・!?痛そうだよこれ・・・!」


雑菌だらけの地面よりはいくらかましかもしれないが、それにしたっておろし金状のものに手を擦り付けようなどと誰が思うだろうか


だがそれでも自分がやろうと言い出したことだ、今さらできませんなどと言うことができないのは明利自身わかっていた


意を決して思い切り早く鏡花の服に手を擦り付けると、鏡花の言う通りまるで擦り剥けたかのように血をにじませる傷が出来上がった


想像以上にいたかったらしく明利はこれだけで涙目になってしまっている


これはこれで演技をする手間が省けたなと思いながら鏡花は明利の手を引いて教会の中へと入っていった


すると中ではミサか何かを行っていたのだろうか、深くフードをかぶった巫女と、そのそばにいる神父が祈りをささげている最中だった


周りに信者は数人いて巫女や神父と同じように祈りをささげている、深く首を垂れて手を組んだ本格的な祈りの様相だった


「・・・おや?見慣れない方ですね」


「あ・・・お忙しいところ申し訳ありません、水道を貸していただきたいのですが・・・娘が転んで怪我をしてしまって」


神父が話しかけてくるのを確認して鏡花は申し訳なさそうな顔をする


明利が泣きそうな顔をしているのが幸いしたのか、神父はその掌を見ると慈愛に満ちた顔をして見せた


「これは痛いでしょう・・・お任せください、我らが神は如何なるものにも救いをお与えくださいます、どうぞこちらへ」


神父が二人を連れてきたのは祈りをささげ続けている巫女の前だった


「あ、あの?」


「あぁすいません、あなたたちはとても運がいい、丁度今神の御力を示す時間だったのですよ」


本来の目的であるとはいえこんなに簡単に能力を見せるようなことをしていいのだろうかと鏡花はわずかにこの二人を注視した


先程の会話で水辺に素直に連れて行かれた場合は明利に子供の演技をしてもらい少し強引にでも巫女に触れさせようかと考えていたのだが、こうも簡単に行くと相手が何か企んでいるのではないかと思えてしまう


「ではお嬢さん、手を差し出してください」


明利が手を差し出すと巫女がゆっくりとその手に触れる


瞬間、明利は巫女に対してマーキングを行った


彼女の手を通して彼女の体調や身体の情報などを一気に読み込んでいく


全てを理解したとき、明利は今にも泣きそうな顔になってしまった


眼前にいる巫女の体の状態を理解してしまったのだ


「・・・エイリ・・・大丈夫?」


鏡花が後ろから支える中で、明利は頷いて答えるが、少なくともその様子は大丈夫とはいえそうにもなかった


巫女が大きく手を振りかざした瞬間、明利の手のひらにあった傷は跡形もなく消えていた


「神の御力、確かにここに顕現しました・・・ここにこそ神がおられるのです!」


神父の言葉に近くにいた信者は歓喜の声を上げながらも祈りを続けている


狂信的だと聞いていたが、まさかここまでとは思わなかった鏡花は、僅かに眉をひそめてしまう


「お嬢さん、今のが神の御力です、あなたに神のご加護があらんことを」


「あ、ありがとうございま・・・す」


明利は鏡花の後ろに隠れながら僅かに震えている、そしてその服の裾を掴みながら僅かに唇をかみしめていた


「ごめんなさい、人見知りな子で・・・」


「いいえ、唐突なことですから仕方ないのも分かります、ところでお二人は」


史桐が話を続けようとする瞬間に明利のポケットに入っていた携帯が鳴りだす


一度明利がとってその後で鏡花に渡すと通話先は陽太だった


恐らく会話を聞いていた二人が早めに切り上げられるように気を回したのだろう


「申し訳ありません、主人が呼んでおりますのでこれで、ありがとうございました」


「そうですか、それは残念です、いつでもおいでください」


返答を待つ暇もなく頭を下げる鏡花に史桐は少し残念そうにしながら微笑む

教会から出る瞬間、明利はわずかに巫女の方に視線を向け、つらそうな顔をしていた


教会から出てすぐにバス停近くにいた静希達と合流すると、静希達はまず明利の顔色に驚いていた


化粧と変装をしているのにもかかわらずその顔は蒼白というわけではないが、恐ろしいほどに血の気が無くなっているのだ


「・・・一応聞いておくけど・・・どうだった?」


この顔を見ればもう答えは聞かずともわかるが、確認しなくてはならない


顔色の悪い明利は眉を顰め、歯噛みしながら鏡花の服の裾を握りしめていた


「・・・もうかなりの中毒症状が出てる・・・腕には注射痕がいくつもあったよ・・・栄養失調も・・・凄くて・・・ぼろぼろで・・・」


その言葉を聞くと静希はわかったと言って明利を抱きしめる


体の隅々まで調べ、その体の状態のひどさを細部に至るまで理解してしまったのだろう、今すぐにでも病院に搬送したい、そんな気持ちを抑えて戻ってきた明利の心境を察したのか、静希はそれ以上明利に巫女について聞くことはなかった


「とりあえず城島先生に報告だな、かなりやばい状態らしいことを伝えて・・・その旨を警察の人に上手いこと伝達してくれるように頼んでおこう・・・」


「そうね、私たちが伝えるよりずっとうまく話を持っていってくれるでしょうし」


静希達がこのことを警察の人に伝えても、きっとそうなのかの一言で済ませられてしまうかもしれない


だが城島であれば上手く妥協点を見つけたうえで説得と言いくるめができるだろう


鏡花は城島に向けて電話し始め、状況を報告し始めた


次のバスが来るまであと数十分ある、この場所で待機していてもいいが、さすがにまとまっているところを見られるのはまずい


今のうちにフィアを出しておいて雑木林の中を移動できるように準備を始めておくことにする


「オッケーよ、先生が伝えてくれるって、私たちは一度戻りましょう」


「オーライだ、俺今回やること全然ないのな・・・」


「そういうな、今日はあれだけど、明日あたりやることができるだろうよ」


明利を抱き上げながら能力を発動したフィアの上に乗り、陽太たちが乗ったのを確認すると木々の間をすり抜けるように移動を開始する


警察署に戻ってこれたのは十数分後、中は相変わらず慌ただしい雰囲気を保っており、静希達が宛がわれた第三会議室に戻る前に廊下で城島と鉢合わせする


「あ、先生、向こうはどうでしたか?」


「ん・・・まぁ先程よりは危機感が出た顔をしていたな、本庁と掛け合ってすぐにでも逮捕するという意見が多く出始めた・・・明日までにはどうするかまとまるだろうさ」


「明日ってことは・・・ギリギリ俺たちもやることある感じっすか?」


「そうなるだろうな」


今までほとんどやることのなかった陽太がよっしゃと嬉しそうに手を叩いているが、本来こういったことには関わらないほうがいいのだ


特に薬物などと言うどこにでもあるような悪の芽に関しては、潰しても潰してもどこかしらからまた生えてくる


潰すだけ無駄とまで言うつもりはないが、関わっていい結果をもたらすようなものでもない


「せ、先生・・・あの、巫女の人の体調についてなんですけど・・・」


「あぁ、清水から聞いているが、そこまでひどいのか?」


明利の声音と表情を見て聞いていた以上にひどい状態であることを察知したのか、城島は大きくため息をつく


「飯の種になっている輩をそこまで雑な扱いをするとは思えんがな・・・簡単にでいい、報告しろ」


明利は頷いて簡単に巫女の身体状況を教え始めた


重度の薬物中毒により睡眠の不定期化、そして依存症状、感覚の鋭敏化とその逆、感覚の一部欠損、そして栄養失調の症状も出ており、骨や内臓器にも異常が出ている


そしてところどころにではあるが大きな打撲痕があったことを告げる


明利の話を聞き終えると、城島は大きく息をついて眉間にしわを寄せる


「明らかに身内に対する扱いではないな・・・どんな関係なんだか・・・歳などがわかれば調べようもあるんだが・・・」


「ご、ごめんなさい・・・歳までは・・・」


肉体の年齢というのは人によって微妙に誤差が出てしまう、それこそ早産で生まれた子と予定通りの出産をされた子ではそれだけの差が出るように、明利の能力ではその人間の年齢まで調べることはできないのだ


しかも今回の場合相手は重度の薬物中毒に加え、栄養失調に外傷まで受けている、そんな状態を見て年齢までを詳しく見ていられる余裕は明利にはなかった


「もしあの巫女が被害者だった場合、どうするんですか?」


「・・・話を聞く限り、住民たちの怪我を癒すなど、地域に対する貢献度も高い、そこまでひどい扱いはされないだろうが、きちんと治療は受けさせることになる・・・中毒症状は厄介になるがな・・・」


薬物などに侵され、禁断症状が出てしまう患者の治療は長期にわたる、それこそ何年何十年と苦しみが付きまとうのだ


薬物がただ苦しむだけの薬であるならその対策も簡単だっただろう、だが不幸にも薬物には強い快楽を生み出す作用もある


その作用に打ち勝てるだけの強い意志と環境が無ければ、また同じ過ちを繰り返してしまう


彼女が本当に被害者だった場合、一刻も早く助けて適切な処置をしなければ危険なのだ


誤字報告が五件たまったので二回分投稿


気を付けていても出てくる誤字、仕方ないとは思いますが最近チェックを厳重にしています・・・それでもやっぱり出てくるんですがそれは・・・


これからもお楽しみいただければ幸いです

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